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1247 敵を侮ってはいけない?

 岩が飛んで来る。


「自爆で大砲にするのかよっ!」


 投石よりも勢いがあったのは爆発力を利用しているからだろう。

 色々と考えられた兵器だ。


 単に爆発させただけなら岩は粉々になってもおかしくない。

 だから爆発するのはホロウアーマーの上半身のみ。

 岩に触れている脚部はそのままだ。


 そして砲身がないのに俺の方へ向けて飛んで来るのは偶然ではない。

 残された脚部で調整しているのを見たからな。

 単体ではなく複数のホロウアーマーを使うのもそのためだろう。


 制御は銅像と一体化した魔道具、偽りの支配者。


『敵ながらやるな』


『感心している場合かよ』


『飛んできてるって』


「分かってる」


 引き付けてから光剣で縦横無尽に切り裂く。

 薄紅色の光がきらめいたかと思うと、拳大サイズでバラバラになった。


 切っただけで飛んできた勢いが消える訳ではないので理力魔法も併用している。

 そのまま倉へと回収した。


『『『『『おおーっ』』』』』


 感心した声と共に拍手の音が頭の中で響く。


「褒めても何も出ないぞ。

 それより仕事してくれ」


 特急でやるんじゃなかったのかと言いたい。


『すまん、あと少しだ』


『残りわずかだから、ついな』


「まったく……」


 敵が弱いからと油断しすぎだ。

 まあ、俺も人のことは言えないのだが。


「おーっ、投石はやめて砲撃に切り替えるか」


 今の攻撃は照準と射出の試し撃ちといったところだったようだ。

 次々とホロウアーマーたちが射出体勢に入っている。


 俺が岩を理力魔法で止めたり倉へ格納したりと複雑な対処を見せたからだろう。

 何をしたのか正確に把握はしていなくても使用した魔力に差があるのは分かるはず。

 もしかすると、俺が動揺したと踏んでいるかもしれない。


 それならそれで好都合だ。

 こちらの目的から奴の目をそらしやすくなる。

 俺への攻撃に注力すればするほど、もう1人の俺たちの仕事がしやすくなる。


 ただ、いくつか気になることがあった。


「1発につき何体も自爆してるんじゃ割に合わないぞ」


 戦力の減少が加速してしまうからな。

 このまま自爆による砲撃を繰り返せば、あっと言う間に兵隊がいなくなってしまう。


 適当に石を拾うだけで準備完了の投石とは訳が違うだろうに。

 そのことを偽りの支配者は理解しているのか。


 戦力を使い切る前に俺を倒しきる目算があるとでも?

 だとしたら舐められたものだ。

 奴の攻撃は命中すらしていないというのに。


 投石が集中する直前に大声を出してしまったことが奴の計算を狂わせているのか。

 それと、今の倉への格納もそうかもしれない。


 俺が驚異と感じたから驚いた。

 必死になったから岩を消し去った。

 そういう風に判断しているのだとしたら。


 断定するのは早計だとは思うがね。

 この敵も卵もどきのように脳筋とは違う戦い方をしてくるみたいだし。


 相手の行動を読んで次の行動指針を決めている節があるからな。

 投石から砲撃にサクッと切り替えたのも、その証拠と言える。


 普通の脳筋ならより強い勢いで石を投げようとするだけだろう。

 相手の弱点を突こうだとかは微塵も考えまい。

 結果的に相手から嫌がられる攻撃になることはあるかもしれないが。


 なんにせよ、脳筋の力押しが今は好ましいものに感じる。

 そう思っていたら、敵がそれに近いことをし始めた。


 何体かのホロウアーマーが魔物を抱えて魔方陣へと放り込んでいくのだ。


「そう来たか」


 今までより速いペースでホロウアーマーたちが魔方陣から出てくる。


「強制的に召喚を加速させるとはな」


 さすがにそれは思いつかなかった。

 が、余力があるなら一時的に召喚数を増やすことは可能である。

 これで自爆する分の補充は問題なくなった。


 ここで言う余力とは魔物の数のことだ。

 充分に余裕がある。

 いや、ウンザリするほどと言うべきだろう。


 当面は気にせず砲撃を連発させることができる。


「限度というものを知らんのか」


 慎重さが薄いと言わざるを得ない。

 こんな強引な手を使ってくるとは予想外だった。


 偽りの支配者に対して俺が抱いていた印象にズレが出始めたとでもいうのか。

 今までとは何かが違う。


「随分と攻撃的な策士がいたものだな」


 そこが決定的に違うと感じた点だ。


 必要と認めたならパワープレイも普通にこなす。

 想像していた敵とはひと味違っていた。


 もしかすると、銅像に変えられた男の記憶や経験を取り込んでいるのかもしれない。


「なるほど……

 融合したのはそのためか」


 強引にもなる訳だ。

 偽りの支配者を手に入れて行動を起こすような奴だからな。


 男の短絡的な部分が魔道具の動作に影響を及ぼしたことだけは間違いないようだ。


 とにかく、その強引さの甲斐あって発射装置が不足することだけはなくなった。

 こちらとしては冷や汗ものだ。

 次に何をしでかすか分かったものではないからな。


 もうひとつの気になることと合わさって不安を煽ってくれる。


「弾の用意がないぞ」


 先程のように岩を使うのかと思ったが、そういう様子がないのだ。

 そのくせ発射態勢はドンドン整っていく。

 続々と準備が完了していくのだが……


「撃つ気配がまるで感じられないな」


 かといって、現状のまま撃ったのでは意味がない。

 空砲にしかならないからな。


 が、そんなことは向こうだって分かっているだろう。

 何か予想だにしない隠し球があるというのか。


 最初は奴らが手にしている武器を使うのかとも考えた。

 すぐに否定したけれども。


 剣では軽すぎて安定感がない。

 明後日の方向へ飛んで行ってしまうのは想像に難くない訳だ。


 たとえ槍でも、それは同じだろう。

 それなりに質量があるものでないと、まともに飛ぶのかすら怪しい。

 長柄の武器なら重りをくくりつけるという手もあるかもしれないがね。


 が、それは縄や紐などがあってできることである。

 ここにそんなものはない。


 ならば武器以外の何かが砲弾として利用されるはず。


 が、候補が岩くらいしかないのだ。

 そこに俺の思い込みがあった。


「マジかっ!?」


 ホロウアーマーが乗ったのだ。

 すぐにあれを思い出した。


 某サッカー漫画に出てくる双子の技。

 初めて使ったのは確か中学生編だった。


「あれの動いているところを見るなんて……」


 いや、アニメで見たな。

 リアルで見るとは思わなかったと訂正すべきだろう。


 いずれにせよ、最初の砲撃で気付くべきだった。

 あの技の発射態勢に酷似していたのだから。


 下側の数の多さに惑わされてしまったのかもしれない。

 逆の状態であったならすぐに気付いたとは思うが。


 ただ、それだと大して飛ぶことはできなかっただろう。

 今度はそうはいかない。


 下だけでなく上も自爆を使える。

 軌道修正をした直後に上が脚だけを自爆すれば更に勢いを増す。


「無茶苦茶だろ」


 思わず呟いていた。

 次々と発射態勢に入っていく光景に圧倒されてしまったからかもな。


『いや、夢の実現だ』


『ロマンだ』


『感動だ』


 不意に、もう1人の俺たちからツッコミが入った。


「なんで向こうを応援するんだよっ」


 これはツッコミ返しするしかないだろう。


『応援はしていない』


 直ぐさま反論される。


『先を越されたのが悔しいんだよ』


 誰が真似するというのか。

 使いどころが狭すぎるだろうに。


 まあ、気持ちは分からんでもないが。


『敵の発想に感服したというのもある』


 あの技を知らないのに思いついたのは確かに分からんではないが。


『こっちの世界なら人にも可能だからな』


 ローズとか喜んで真似しそうである。

 妖精組も。

 何処か忍者的な印象があるからだろう。


『レベルが低いと飛ばんけど』


 そりゃ、そうだ。

 地球じゃ真似しても大して飛べんからな。


 やってみた系の動画で再現しようとしていたが、そんな感じだった。

 バランスを崩しやすいからだろう。


『あの銅像野郎、転生者じゃないのか?』


『いやいや、ルーリアの御先祖様のように転移者ということもあり得るぞ』


「どっちでもいいよ」


 しばらく静かだったと思ったら、急に賑やかになったからな。


「仕事は終わったんだろうな」


『魔物は動かなくなっただろ』


 確かに、もう1人の俺が言う通りになっている。

 魔物たちは動きを止めていた。

 魔物たちは、な。


『ホロウアーマーの支配権は奪えなかったが』


 そのせいで結果はあまり変わっていない。

 召喚の魔方陣に自発的に入ろうとするか放り込まれるかの差でしかないからだ。


 が、それは仕方あるまい。


『奴の手足みたいなもんだからな』


 そこだけは強固に死守したはずだ。

 あと、迷宮核との繋がりも。

 偽りの支配者の無尽蔵とも言える魔力の供給源でもあるからな。


 とりあえず、それはどうでもいい。


『どうするよ?』


 もう1人の俺が聞いてきた。


『奴ら武器を持っているぞ』


「分かってるさ」


 上半身は残るのだから攻撃もしてくるだろう。

 空中じゃ足場もないから踏み込むことはできないが、勢いはある。


 むしろ攻撃力は増しているはずだ。

 飛んで来る方向に限っての話だがな。


 単体で見れば躱すのは楽な方だと言える。

 それを補うのが、一斉砲撃なんだろう。


 俺の躱す方向を潰すべくピンポイントでなく面制圧してくるつもりだ。

 それは完全に発射態勢が整うまで1発も撃ってこないことからも明白だろう。


「だが、これくらいはしてもらわないとな」


 待たされた挙げ句に一瞬で終わりましたの結末は呆気なさすぎるだろ?


読んでくれてありがとう。

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