1244 丸投げと解析と
ミズキに仕事を丸投げした。
ゲールウエザー王国に来ているミズホ組総出でホロウアーマーに対処する。
スタートは偽りの支配者を破壊した直後。
それまでに各員の配置を完了させなければならない。
一言で終わらせてしまうと手間ではないように思えるが、そんなことはない。
まず、ダンジョン内にいるホロウアーマーの位置をある程度まで把握する必要がある。
何処に何体のホロウアーマーがいるかなんてのは意味はない。
奴らは勢力を拡大するべく移動しているし。
召喚により補充されていくからな。
どの方面に多めとか、その程度で充分だろう。
それが把握できるだけで戦力の配分がやりやすくなる。
何事も下準備が大事なのだ。
そして、結構な手間がかかってしまうのも下準備である。
『【遠見】のスキル持ちはいないからなぁ』
皆で連携して把握しなければならない。
古参組がフル回転すれば、なんとかなるだろう。
現に丸投げメールを送った直後に──
[まかせて! さっそく取り掛かるね]
というレスが帰ってきたからな。
普段なら丸投げに対する罪悪感が湧くところである。
が、今回はそういうこともなかった。
負担をかけたとか考える余裕がないのだ。
『思った以上に疲弊してるなぁ……』
ラソル様に仕掛けられたイタズラのダメージは根深く残っているようだ。
肉体的な疲労感はないのに気力が今ひとつといったところ。
早く終わらせて癒やされたいものである。
心は完全に飢えた状態だ。
今なら子供組の特撮ロボ的な合体抱きつき攻撃も癒やしになりそうな気がする。
『できれば人化している時じゃないのを所望する』
モフモフで当社比5倍の癒やし効果ですってな。
え? 当社比って何だよって?
俺も知らん。
とにかくモフモフが癒やし効果をアップさせるのは間違いない。
あるいは温泉だ。
城の風呂も広くて悪くないんだが、開放感は露天風呂には負けるからな。
『オオトリに行くのもありだな』
合宿とかじゃなくて保養目的で。
のんびり月見酒なんて悪くないだろ?
え? 爺くさい?
風流と言ってほしいな。
秋の紅葉と月を肴にミズホ酒をたしなむ。
俺としては雅だと思うんだけどね。
1人で静かに楽しむのも良し。
奥さんたちと少し賑やかにするのも良し。
トモさんとゆっくり語らうのも良し。
そうなった時のことを妄想していると──
『よしっ、頑張ろう』
ちょっとだけ気力が湧いてきた。
もう少しの辛抱だ。
【天眼・遠見】で皆の状況を確認していく。
ミズキの指揮の下、皆で分担してホロウアーマーの拡散状況を確認している。
ここで大活躍なのが我が相棒のローズだ。
霊体モードでホロウアーマーたちをスルーしながら一気に見て回っていた。
俺の【天眼・遠見】の次くらいに反則的だと思う。
ホロウアーマーたちには干渉できないからな。
『それ以前の問題か』
目の前にいても発見されない訳だし。
ローズもただ通り抜けるだけじゃ芸がないとばかりに挑発する始末だ。
両手まで使って変顔した時は「ブハッ」と吹き出してしまったさ。
他にもクネクネ変なダンスを踊りながら通り過ぎたり。
変顔より先だったら、こっちで吹いていただろう。
『せめてブレイクダンスくらいにしておいてくれ』
そう思ったものの、やりたい放題のローズにそんな願いは通じない。
真面目にやれと言いたいところだが、誰よりも報告を多く上げている。
やることはやっているのだ。
狼モードに変身したマリカが走るより速い。
『レベル差がそこまである訳じゃないんだがなぁ……』
ローズの霊体モード恐るべしといったところか。
もちろん、他の皆だって頑張っている。
脱出が遅れた冒険者たちを誘導しながらだから速さは望めないけどな。
その代わり、彼らから情報を得ている。
正確な情報を口頭で得るのは困難だがね。
それでも冒険者たちの数や状態から読み取れる情報もある。
怪我を負った冒険者たちに治癒魔法をかけながら、そのあたりを確認する面子も多い。
エリス、マリア、クリスの3姉妹がその行動を積極的にやっていた。
それをフォローするのがアンネとベリーの姉妹たち。
襲いかかってくるホロウアーマーたちを一蹴して冒険者たちを驚かせていた。
シヅカとツバキは魔力感知でホロウアーマーたちが多そうな場所へ向かっている。
避難誘導は同行したレオーネとリオンの姉妹に任せて吶喊。
冒険者たちをビビらせていたのは、少しでも早く逃がすためだろう。
その意図に反するように冒険者たちは立ち止まっていたけど。
大声を出して敵を圧倒すれば確かにビビりもするだろうが……
完全に足を止めて立ち止まっていた。
呆気にとられるだけなら、まだいい方だ。
『やりすぎだっての』
シヅカの龍らしさあふれる咆哮とツバキの鋭い殺気に怯えてしまっていたからな。
おまけにホロウアーマーたちには通用しない。
ゴーレムに怯える心などあるはずもない訳で。
レオーネとリオンが、冒険者たちにバフをかけてどうにか復帰させていた。
『シヅカとツバキはまったく……』
大方、俺に活躍したと報告するつもりだったのだろう。
失敗して落ち込む羽目になるとは思っていなかったようだが。
レオーネにくどくどと叱られている。
ダンジョン内で正座させられている姿はシュールであった。
それはどうにかリオンになだめられるまで続いた。
あまり時間がないという言葉がなければ、レオーネが止まっていたか怪しいところだ。
何にせよ後で俺が叱るのは避けた方が良さそうである。
月影の面々はバランス型と言えた。
ノエルが上手くペース配分していたからだ。
冒険者のいない場所にいるホロウアーマーは駆け抜けて無視。
もちろんカウントはしていたが。
冒険者がいた時はホロウアーマーから引き離しつつ治療と避難誘導。
誘導が終われば次へと向かう。
完了前にホロウアーマーが全滅する場合もあったのは御愛嬌。
アニスとレイナが張り切った証拠とも言える。
『このお調子者ちゃんたちめっ』
ルーリアとリーシャが上手くブレーキをかけて、これである。
ここもやりすぎていたのは確実だ。
ダニエラとメリーとリリーが絶妙な動きで視線誘導していたから大丈夫だと思うが。
冒険者がいなくなってからノエルにたしなめられていた。
『まあ、当然だな』
他にも皆で頑張っていた。
特筆すべき事項はないので以下略だ。
そうして皆の状況を一通り確認し終えた時のことである。
『俺よ』
【多重思考】で呼び出したもう1人の俺が呼びかけてきた。
『どうした、トラブルか?』
『『『『『そんな訳あるかっ』』』』』
一斉にツッコミを入れられてしまったさ。
ボケたつもりはないんだがな。
解析が完了するには、まだ時間がかかるはず。
『おお、スマン』
条件反射的に謝っていた。
悪いことをした訳ではないのにな。
『謝る必要はない』
『そうだな』
『単なるツッコミだ』
「……………」
俺がツッコミを入れ返したかったが、我慢した。
何があったのか気になる。
『で、どうしたんだよ』
『解析が完了した』
思ったより早く終わったようだ。
それとも俺が妄想したり確認に時間を使ったせいだろうか。
いずれにせよ──
『ありがたい』
そう思うことに代わりはない。
『『『『『いいってことよ』』』』』
人海戦術で当たった甲斐があったというものだ。
『術式のバグは?』
『そこらじゅうにな』
『うへぇ……』
想定以上にあったものと思われる。
『よくそれで動作するな』
『同感だ』
『俺もそう思う』
『ミートゥー』
次々に同意の声が上がった。
本当にバグが山ほどありそうだ。
『……………』
『そんな俺に朗報だ』
『朗報だって?』
期待したいが、そう簡単にできるものではない。
ぬか喜びになりかねないからな。
『そうとも。
あまりに酷い術式だったから最適化したものを用意してある』
そうせざるを得ないほどだった訳だ。
背筋が凍りそうになったさ。
同時にウンザリもさせられたけど。
『そんな代物を使うとかバカだろう』
『だろうなぁ』
『それ以外に考えられんな』
『欲ボケと書いてバカと読むってところかもよ』
『上手いですな』
『座布団1枚』
『係のオジさんはいないぞ』
もう1人の俺たちが妙なテンションで話し始めてしまった。
どうやら俺は余計なことを言ってしまったようだ。
やぶ蛇である。
『ボケてる場合じゃねえだろ』
まだ解析が終わっただけだ。
『『『『『いや、スマンスマン』』』』』
『デバッグ&シミュレートにウンザリさせられてな』
『まったくだ』
『勘弁してほしいぜ』
『ありゃ、ゴミだな』
そこまで言わせるなら相当だ。
単に面倒だったでは済まないだろう。
『……道理で疲弊する訳だ』
『『『『『しゃーない』』』』』
『同じ俺だからな』
『思考は増やせても他はそうじゃないし』
『そうそう』
『体と心はひとつのみ』
皆の言う通りだと思った。
読んでくれてありがとう。




