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1242 偽りの支配者

遅くなりました。

申し訳ありません。

 久々の仮面ワイザーである。


 変身する気になったのはラソル様にイタズラされたから。

 それ以上でも、それ以下でもない。

 変身するには情けない理由だ。


 が、念には念を入れておくと決めた。

 変身セットを引っ張り出した時にな。

 慎重になって損はない。


 まあ、慎重になりすぎるのも考え物だとは思うが。

 石橋を叩いて渡らずじゃないので良しとしよう。


 龍の頭部を模したバックルを体に押し当てるとベルトが瞬時に装着された。

 龍が顎を開いてスタンバイ完了。


「じゃあ、行ってくる」


 もう一方の変身アイテムである半透明な緑の宝玉を飲み込ませて──


「変身っ」


 気合いを入れて変身した。

 変身の完了を待たずに転送魔法で跳ぶ。


 瞬時に到着。

 タイミングは見計らっているので転送先の相手に顔を見られてはいない。

 まあ、見られて困る相手はいなかったが。


 そこはいくつかの通路がつながった広間のような場所だった。

 洞窟タイプの階層なので単に広いスペースがあるというだけだが。


 その場所は多くの魔物で埋め尽くされようとしていた。

 足の踏み場もないとまでは言えないが、あの中に踏み込みたいとは思わない。


 満員電車の気分を味わいたいなら話は別だが。


 俺はやたら高い天井近くに跳んできたので揉みくちゃにされることはなかった。


 理力魔法で宙に浮いて下の様子を見ている訳だ。

 光学迷彩やらなんやらと発見されないように留意している。


 せっかく変身しているので仮面ワイザー・ゲールの機能も使ってみた。

 このタイプは風系に特化しているので気流のコントロールは自動でしてくれる。


 気体の温度も調整できるので、熱迷彩なんかはお手の物だ。

 お陰で山ほど魔物がいる空間に飛び込んだのに攻撃される気配はない。


『まあ、殺気を振りまけば気付かれるだろうけど』


 そう思ったのだが、もしかすると微妙なところかもしれない。

 上から観察していて違和感を感じたのだ。


 広間の中心部にポッカリと空いた空間があった。

 ここに大きな魔方陣が展開されている。


 魔物たちはここを目指して続々と押し寄せてきていた。

 ありとあらゆる魔物が整列して中央を目指す。

 ダンジョン中から集結しようとしているかのようだ。


 それくらい通路から入ってくる魔物の列は途切れることがない。

 操り人形のようにゆっくりと魔方陣へと向かっている。

 どの通路からも同じように真っ直ぐ行列が吐き出されていた。


 これが違和感の元だ。

 どの魔物も互いを認識していないかのように整然とした列を成している。

 これだけの数がいるのに存在感がまるで感じられない。


 自我を奪われたかのように見える。

 俺の印象としては亡霊の群れを見ている感じだったが。

 別の言い方をするなら、やる気のない人形劇あたりか。


『いや、ここまで来るとベルトコンベアに乗ってる廃棄品って感じだろ』


 魔方陣に踏み入れると姿を消してしまうのに反応がないくらいだからな。

 ただし、入ったすぐ脇からホロウアーマーが出てくるのだが。


『魔物を廃物利用して召喚しているのか?』


 そうとしか思えない光景なのだ。

 魔方陣に入った魔物と入れ替わるようにホロウアーマーが出てくる。

 魔物1体につきホロウアーマー1体が召喚されていた。


 ホロウアーマーの列が魔物どもの脇を逆方向へと進んでいく。

 魔物と同じように列を成して。

 そして、そのまま通路から出て行く訳だ。


 その様子は工場での生産物が出荷されていくかのようであった。

 さながらリサイクル工場といったところか。


 原材料である魔物は引っ切りなしに入ってくる。

 何かに吸い寄せられるように。


 これこそ魔道具の効果なのだろう。

 そして原材料から製品が作られるのは一瞬だ。

 製造工程も何もあったもんじゃない。


『まあ、生け贄を元に召喚されるだけだからな』


 このあたりは工場などより遥かにスピーディだ。

 そして、ここにつながる通路は両手では一度に数え切れない。

 インプットもアウトプットも大量にこなせる訳だ。


 次から次へと押し寄せてくるのも納得である。

 ここほど大量召喚に向いた場所もないだろう。


「まるで、このためだけに作られた空間だな」


 偶然だとは思うけどね。

 ただ、この魔方陣を展開させた実行犯は意図的に利用しているはずだ。


『事前にリサーチしていたか』


 王都のダンジョンは大きいが故に冒険者のルーキーたちも集まってくる。

 そういう者たち向けに浅い層の地図が販売されたりしているからな。

 中に入って自分で調べなくても、ある程度の目星はつけられる。


『ある程度っていうか、ここしかないだろ』


 広さだけで見れば候補は他にもあったかもしれない。

 が、これだけ多くの通路の接続がある広間は他にないのではないだろうか。


 少なくとも地図が出回るような浅い層では見当たらない。

 ここほど最適な場所は他にはない訳だ。


 その割に誰かが管理しているようには見えない。

 まるでフルオートメーション化された工場である。


 それよりも気になったのは……


『等価交換じゃないんだな』


 ということだ。


 ゴブリンがホロウアーマーと釣り合いが取れるとは思えないからな。

 鬼面狼なんかもそうだろう。


 にもかかわらず、ホロウアーマーの召喚に必要とされる代償は魔物1体。

 色々な面で総合的に評価して考えているが、レートが無茶苦茶だ。

 オークでも釣り合いが取れるか怪しいくらいだからな。


 リザードマンならトントンくらいか。

 耐久力的な面からすると、やや割に合わない気もするが。


 それでもゴブリンどもと比べれば大きな差ではない。

 トロールなどは個体で考えれば損をすると思われる。

 そのあたりはホロウアーマーの稼働時間にもよるかもしれないが。


 だが、それだとゴブリンなどを用いて召喚した場合は即停止するはず。

 もちろん、そういう状況にはなっていない。


『もしかして平均値なのか?』


 そういう考えが頭を過ぎったが、すぐにそれはないと判断した。

 全体で見渡しても交換レートは釣り合いが取れていない。

 言うまでもなく、入力の方が不足する形である。


 俺がここに来るまでに地竜クラスの魔物が吸収されているなら話は別だが。

 とはいえ、そういうことは考えづらい。

 このフロアはボスクラスがホイホイ出てくるほど深い層ではないからだ。


 オークあたりがたまに出てくる程度。

 そう考えると、矛盾が際立ってくる。


『根本的に考え方が間違えているのか?』


 もしかすると見た目の印象で思い込んでしまっていたのかもしれない。

 魔物たちは召喚のための代償ではないのだとしたら。


 ふと、ある考えが頭を過ぎった。


『ヤバいぞ』


 この場を単純に吹き飛ばそうと考えていたが……


「やらなくて正解だったかもな」


 魔物どもが消滅した瞬間に同数のホロウアーマーが一気に召喚。

 俺の考え通りなら、そういうこともあり得た。


 代償ではなく交代要員だとしたら。

 ダンジョンが管理する魔物の数だけで帳尻を合わせているのだとしたら。


 普通は考えられないことだ。

 ダンジョンの管理能力を著しく超えてしまうことになりかねない。


『特にこういう浅い層だとな』


 交換レートの差が広がりすぎてしまう。

 だが、もしもそれを補うものがあるとしたら。

 その存在が自前で召喚コストを賄っているのであれば。


「ないとは言い切れないな」


 召喚魔方陣の中心に、それと思しきものがあるのだ。

 パッと見は銅像であった。

 両膝をついて宝玉が連なったネックレスを掲げている。


「コイツが主犯か」


 銅像のような状態に変えられてしまったのは分かっていたが……


「捻くれた面構えだな」


 共犯者は見当たらない。

 逃げたか殺されて召喚コストとして供されてしまったか。

 それとも主犯がぼっちなだけか。


 後者のような気がする。

 人を見た目で判断するのは良くないとは思うけどね。


「このネックレスのような魔道具で銅像にされてしまったと……」


 そしてホロウアーマーを召喚し続けている。

 これだけのことをしている割には普通のサイズだ。


 犯人を銅像にするだけなら納得もするのだが。

 宝玉はどれもそこそこ大きいとはいえ。

 全部を集めて一塊にしても漬け物石より小さいだろう。


 今回の一件をなし得るにしては貧弱に見えてしまう。


『ダンジョンへ怪しまれずに持ち込むなら限界のサイズか』


 そういったことも考慮してコンパクトにしたとも考えられる。

 ネックレスにしたのも同様の理由かもしれない。

 これが作られた当時のダンジョンがどういう風に管理されていたかにもよるが。


 耳目を集めず持ち込むには最適な形であるのは間違いないと思う。


「で、密かに持ち込んだ結果がこれか」


 何がしたかったのかは、魔道具の名前が教えてくれた。


[偽りの支配者]


 なんとなく何をするものなのか想像できてしまいそうな名前だ。

 それだけに、結果がどうなるかも考慮せず使ってしまう者も出てくる訳だ。


『コイツのようにな』


 鑑定結果の説明文を読む。


[疑似迷宮核とでも言うべき存在]


「……………」


 やはり、碌でもない代物だった。

 最初の一文で頭を抱えたくなったさ。


[人工的に迷宮核を作り出すために試作された]


 ここまでは理解できなくもない。

 無謀ではあるものの、ダンジョンが思い通りに管理できるなら利用価値があるからな。


[当初は起動もままならず、使用者を演算装置として利用することで解決]


 この時点で真っ当じゃないと分かるが。


[このため使用者を銅像に変え自我の大半を乗っ取る]


『ほう』


 不可逆だと思っていたのだが。

 魔道具の術式を解体すれば元に戻せるかもしれない。

 奴隷に落として賠償させるという手も考えるべきか。


[使用者の発狂と凶暴化を避けられなかったための措置]


『無理でしたー』


[使用者を犠牲にするも迷宮核の制御系を模倣できず]


『だろうな』


 どちらかというと迷宮核はコンピューターのような制御をしている。

 そこを理解していない限り模倣することはできない。


『まあ、何もない状態からスパコンを作れと言われても無理だろ』


 人をシステムとして組み込む以前の問題だ。


[ダンジョンの迷宮核から支配権の大半を奪う形で一応の解決とされた]


「その結果がこれか」


 一応というだけあって中途半端なものだ。

 だからといって放置できるものでもないがな。


[ただし、制御系は持たないため迷宮核が破壊されると暴走する]


「おいいいぃぃぃぃぃっ!!」


 何処までも無責任な制作者だ。

 こっちに来て正解だった。


読んでくれてありがとう。

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