1241 久しぶりに使ってみることにした
ドワーフ3人組にようやくエンジンがかかったようだ。
ボルトがまず気合いの入ったショルダータックルを見せてくれた。
ガンフォールやハマーも警戒態勢を取っている。
先程までとは緊張感が明らかに違う。
『緩みきってたもんなぁ』
なんにせよ、これで俺が別行動を取っても心配はいらないだろう。
ホロウアーマーに後れを取るようでは話にならないしな。
たとえ今の何倍もの数で押し寄せてきたとしてもだ。
数が力だというなら、それを圧倒すればいいまでのこと。
既に古参組に数えられる3人ならば不可能ではない。
むしろ、できてくれないと困る。
俺やローズが【教導】や【指導】のスキルのアシスト付きで鍛えた面子だからな。
レベルだって300を超えているし。
現状ならベル婆たちにも対処は可能だ。
彼女らの場合、連戦になるとスタミナに不安は出てくるけどね。
『連れて来なくて正解だったかもしれないな』
次々に押し寄せてくるカラクリも何となく分かってきたし。
推測通りなら古参組でないと対応しきれる保証がない。
『ここのダンジョンすべての魔物を相手にするようなものだからな』
それを成し得ている場所が深い層ではなく浅い場所にあるというのがチグハグだが。
まあ、これは犯人が人であることを示唆しているようなものだ。
それもレベルはそんなに高くない。
お陰で主犯と思しき輩の居場所は特定できた。
『魔道具を使っているようだな』
でなきゃホロウアーマーだらけの場所で無事にいられるはずもない。
【天眼・遠見】で見る限り、死なないで済んでいるってだけのようだけど。
『取扱説明書のない代物をよく使う気になれるもんだ』
いくら強力な魔道具でも、使い方を間違えれば危険極まりない。
発掘品は特にそうだ。
まともなものも出てきてはいるようだけど。
どちらかというと試作品的な代物の方が多い気がする。
まともじゃないから使わず仕舞い込まれたりして状態が維持されるのかもな。
どうも古代の正規品の多くは一定の年数を使うと自壊するようだ。
『保証年限みたいなものか』
一種の安全装置なんだろう。
中には例外的なものもあるようだけど。
その代表例が鑑定の魔道具である。
滅多なことでは出回らないから一般には劣化型のレプリカしか出てこないがね。
それよりマシなのが魔法の武具とか。
『使ってる途中で壊れられると困るよな』
当然の話だ。
武器なら予備を使うことも考えられる。
が、防具はヤバすぎる。
勝手に壊れるとか納得できるものではないからな。
敵の攻撃で破壊されたなら部分的に壊れただけということも大いにあり得る。
壊れる前兆も感じ取れるだろうから心構えをする猶予もあるはずだ。
自壊はそうではない。
何の予告もなく、いきなり全損だ。
あるいは予告くらいはあるのかもしれないが、大した差ではないと思う。
戦っている最中に防御力がゼロになるんだからな。
生存確率が一気に下がってしまう。
シャレにならないどころの話ではない。
『まあ、コイツには関係のない話か』
目的がなんなのかは分からんが、消えてもらうしかなさそうである。
魔道具に取り込まれて変質してしまっちゃあ、どうにもならない。
飲食不要で生かされるみたいだが。
裏を返せば、死ぬまで魔道具の部品として扱われるのみってことだ。
もちろん簡単には死ねない。
まず、自殺が封じられている。
体の自由が奪われているからな。
舌を噛むということさえできないだろう。
自我意識を保てているのかも怪しいくらいである。
『たぶん無理だろうなぁ』
以前、カーターを暗殺するために使われた魔道具なんかもそうだ。
死人をアンデッドにして操る死者の聖杯。
使ってた奴の末路は悲惨なものだった。
骸骨野郎が使った不死の邪眼もそうだ。
使用者を不完全な人造ヴァンパイアに変えてしまった。
いずれも使っている者の安全性など完全に無視されている。
無茶な効果を発揮する発掘品は、ほぼそういう傾向にありそうだ。
今回のもそういう口であるのは疑う余地がない。
『気持ち悪いことになってるもんなぁ』
グロ全開ではないが、正視に耐えない。
古代人は何を考えていたのやらとなるのは確実だ。
「とにかく行ってくる」
俺は倉庫から弁当箱大のアイテムを引っ張り出し左手で持ちながら構えた。
続いて緑がかった半透明な玉石を右手に持つ。
玉石のイメージとしてはフローライトか。
浄化と癒やしの効果を持つと言われるパワーストーンだ。
今回は風を意識しているので、イメージにピッタリと言える。
その名も仮面ワイザー・ゲール。
ストームにしなかったのはイメージを優先したからだ。
嵐だと癒やしって感じじゃないしな。
ただ、ゲールも充分に強風である。
確か気象学的には台風並みだったような気がするのだが。
そこは浄化のイメージも合わせ持つということでバランスを取ったつもりである。
「ほう、久々じゃな」
ガンフォールがちょっと感心したような面持ちで言った。
「どうして変身する必要があるんだ?」
怪訝な表情を浮かべるハマー。
「目撃者を想定してのことではないでしょうか?」
とボルトが控えめな声で言った。
「その通りだ」
俺が肯定してもハマーは納得した様子を見せない。
この返答事態は予想できていたようだ。
「必要ないんじゃないか」
呆れたように嘆息していることから、これが言いたかったのだろう。
「そうとも限らんぞ」
「何っ!?」
ギョッとした表情を浮かべて俺の方を見てくる。
一方でガンフォールは落ち着いていた。
「騒ぐでない。
ハルトには相応の考えがあるんじゃろう」
「考えという程のこともないがな。
単に念には念を入れたってだけだ」
「ミズホ国民以外に見られるかもしれんということか?」
まさかという表情でハマーが聞いてきた。
ボルトも同じような表情をしている。
ガンフォールも同意見のように見える。
『そんなに、あり得ないことなのか?』
可能性としては低くないと思ったのだがな。
俺の方が神経質になっているのだろうか。
そんなことはないと思う。
これだけ広いダンジョンだとすべての冒険者が脱出するのにも時間がかかる。
中には部屋になっている所で立てこもっている者たちもいるくらいだ。
【多重思考】と【天眼・遠見】のコンボで確認したから間違いない。
ちなみにホロウアーマーの召喚拠点には、まだ誰も到達できずにいる。
王都を拠点にしているベテラン冒険者なんかも必死に戦っているんだけどね。
どうにか撤退しつつ他の冒険者を逃がすので精一杯な様子だが。
うちの面子も避難誘導を優先しているために拠点への接近は果たせていない。
それを考えると、ガンフォールたちの方が正しいように思えるが。
「何事も偶然ってことがあり得るからなぁ……」
「いやいや、いくら何でもそれはないだろう」
ハマーが否定してきた。
「思い込みは危険だぞ」
俺はそれで手酷い目にあわされてきたからな。
何処かのおちゃらけ亜神に。
だが、その件の報告に目を通したのか疑わしいハマーは胡乱な目を向けてきた。
「召喚拠点は浅い層だ」
「なんとっ!?」
にわかには信じられないと言わんばかりの驚きようを見せるハマー。
ボルトはさほどでもないようだ。
軽く驚きの表情を見せたが、すぐに何かに気付いたようにハッとしていた。
「どうやら発掘品の魔道具を使うておる愚か者がおるようじゃな」
ガンフォールだけは、そのことにすぐ気付いたようだ。
呆れた様子で嘆息していた。
ボルトが気付いたのもこのことだろう。
「そういうことだな。
それだと避難しているつもりが拠点にってこともあると思わないか?」
「ううむ……」
ハマーが唸った。
が、悔しげな感じには見えない。
どちらかというと想定外のことに混乱しているようである。
「それならば確かにあり得ると言わざるを得んじゃろうな」
渋い表情となったガンフォールが言った。
「運の悪い者はどうしてもでてくるものじゃ」
「そうだとしても変身はやりすぎではないか?」
ハマーはどうにも納得できないようだ。
まあ、納得するしないにかかわらず変身はするがな。
でないと、転送魔法で跳んでいくことができない。
向こうに行った瞬間、同時に拠点へ誰かが到着しないとも限らないのだ。
それで敵を圧倒するところを見せたりしたら、シャレにならん。
迂闊な真似はできない。
「その様子だと、俺の上げた報告に目を通していないな」
「うっ……」
ビクンと体を震わせるハマー。
どうやら図星のようだ。
「どうせ、他の報告関連と一緒に目を通すつもりだったんだろう」
「あぅっ……」
後回しにすると、こういうツケが回ってくるのだ。
「ザッとでいいから目を通しておけば良かったんだよ」
「いや、帰ってから読もうと思っていたんだ」
力なく言い訳をするハマー。
気持ちは分からなくもないんだがな。
せっかく時間はあったのに──
「面倒くさがると、こういう目にあうんだよ」
ということだ。
「ぐはっ」
ハマー、撃沈。
俺も少なからず自分の言葉でダメージを受けた気分になってしまったがな。
日頃の行いというやつは怖いものである。
『ラソル様はそこまで見越していたのか?』
こういう事態になることを読んでいないと不可能な話だが。
ラソル様なら無いとは言い切れないのが怖いところである。
まさかと思いつつも、つい考えてしまったさ。
「帰ってくる途中でラソル様にイタズラされたせいでナーバスになっているだけだ」
俺がそう言うと──
「「「……………」」」
3人そろって諦観を感じさせつつも納得するしかないと言いたげな表情になった。
読んでくれてありがとう。




