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1238 トラブル続きだけどね

 重症を負った兵士から得られた情報は強力な魔物がいるということくらいか。


 どんな魔物なのかさえ分からない。

 もちろん数も不明だ。


 肝心の情報を持っている兵は絶対安静の状態である。

 無理に起こす訳にもいかない。

 強力な治癒魔法で完全な状態にしてしまうという裏技的方法も無くはないが。


 まあ、裏技でもなんでもないんだけどな。

 マイカに限らず、ミズホ国民ならそう難しい魔法じゃないから。

 学校卒業レベルに達していれば、できて当たり前なくらいである。


 では、何故それをしないのか?

 手抜きと言うなかれ。

 ちゃんと救命を優先した。


 真っ先に傷口を塞いだのは、そのためだ。

 だから重症の兵士は生き残れた。

 あとは治癒魔法に時間がかかっていると見せていたのである。


『芝居半分、マジ半分ってとこだったけど』


 本気でMRIが分からなかったのは病院と無縁だったマイカらしい。

 漫画やドラマから間接的にアプローチしてようやくだったからな。


 なんにせよ、あの時のやり取りは充分に時間稼ぎとなった。

 身内の者以外には訳の分からない会話になったのも功を奏した。


 よく分からないものの何か大変な状況だったと思われたみたいだし。

 理想的な形に落ち着いたので助かった。


『ここはゲールウエザーの王城だからな』


 教会の関係者も多い。

 それも上位の者たちがね。


 そんな中で彼らでも不可能なレベルの治癒魔法を見せるのはマズいだろう。

 サクッと終わらせてしまっていたら反発されてもおかしくなかったのだ。


 うちとの国交を断絶すべしとか強硬論をぶち上げる輩が出る恐れもある。

 教会の中にはバカなのもいるみたいだし。

 そういうのに限って影響力のある上の地位にいたりするのが頭の痛いところだ。


 やり過ぎ厳禁だった訳だ。

 もちろん、今も厳禁である。

 やらかしてしまえばマイカの芝居が無駄になってしまうからな。


 そんな訳で、情報は非常に限られた状態である。

 あとは現場で掴むしかない。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 ただいまゲールウエザー王国の王都にあるダンジョンの入り口前へと向かっている。

 ダンジョンの浅い層に強力な魔物が出たということで急行中だ。


 とはいえ、余所の国の街中で爆走する訳にもいかない。

 程々のスピードで急行中である。


 まあ、邪魔する奴がいないだけマシとは言えるが。


『王城から出る前のアレはなぁ……』


 俺たちが行こうとしたら騎士の1人が──


「とにかく調査をっ」


 とか言い出したのだ。

 妨害行為じゃなくて慎重になっているだけなのは分かったけど。

 正直なところ、今それを言うのかと呆れたさ。


『訓練に向かった兵士たちの数を把握しているだろうに』


 にもかかわらず撤退を余儀なくされたのだ。


「冒険者ギルドに依頼して、斥候に長けたものを派遣すべきかと」


『そういう状況じゃないぞ』


 報告に来た兵が重症なのを無理して駆け込んできたのだ。

 残りの兵士がどうなったかは推して知るべしというもの。

 全滅は免れたとしても壊滅的な状況であることだけは疑う余地もない。


「バカ者がっ!」


 宰相のダニエルから叱責の声が飛んだのも当たり前と言えるだろう。


「そんな猶予があると思うかっ!」


「ですが被害が拡大する恐れもあるかと……」


「ならば迅速に最大戦力を投入するのが最善であろう」


 焦れったいと言わんばかりに俺たちの方を見た。

 誰のことを最大戦力と言ったのかは明らかである。


「先に行くわね」


 マイカが言った。


「かたじけない」


 言いながら目礼するダニエル。


「ノープロブレムよ。

 冒険者として依頼を受ける形にしといてちょうだい」


『ほう、そうきたか』


 騎士の言ったプランを採用しようというのだろう。

 偵察に出たついでに魔物を倒せばいいじゃない的なことを考えているに違いない。

 依頼は偵察の形になるので報酬は、そう高くはならないのだが。


『ゲールウエザー王国は懐具合が寂しい訳じゃないんだけどな』


 安請け合いしたとは思わない。

 この状況でアホなことを言い出す奴が出てこないとも限らんし。

 そういう懸念を潰しておくことで行動を制限されずに済む。


『そのためのお友達価格ってことだな』


 他にも今後の付き合いが良好に維持できると考えているものと思われる。

 総合的に見れば悪い提案じゃないと思う。

 報酬という得は少ないがね。


 が、そんなものより価値のあるものが多く得られるはずだ。

 マイカとしては行動を制限されないから好都合とか考えていそうだがな。

 暴れ放題みたいな妄想はしていると思う。


「っ!?」


 反射的にダニエルがギョッとした顔で見返してきた。

 マイカの表向きの意図を見抜いたのだろう。

 暴れ放題なんてことを計算に入れていることまで読んでいるかは不明だが。


「いけません!」


 血相を変えて提案を受け入れまいとするダニエル。


「どのような相手かも分かっておらんのですぞっ」


「だから、強行偵察に行くって言ってるんじゃない」


「しかしっ!」


「しかしも駄菓子もないわよ。

 少しは落ち着きなさい。

 こうしている間の時間も勿体ないでしょうに」


「─────っ!!」


 声もなく歯噛みするダニエル。

 絵に描いたような「ぐぬぬ」状態だ。


「じゃあ、了承されたってことで」


「仕方ありませんな」


 受け入れはしたものの、ダニエルの表情は実に渋いものだ。


『こういうところはクラウドを見習った方がいいと思うけどな』


 一切の口出しをしてこなかったのは話がこじれると踏んだからだろう。

 話の間に小さく頷いたりはしていたので承認しているのは明白だったのだが。

 頭に血が上ったダニエルは気付いていなかったようだ。


「ついでに仕留めてきた時は追加報酬でも弾んで頂戴」


 ハッとして顔を上げるダニエル。


「それは、もちろんですともっ!」


 そんな訳で王都でお仕事をした面々が再び出撃することとなった。


「陛下、我々はいかがいたしましょうか」


 マイカたちが動き出した直後にベル婆が聞いてきた。

 女子組を代表しての発言のようだ。

 エーベネラント王国へ行ってきた面々が整列して俺の方を見ている。


『行く気、満々じゃないか』


 連れて行けって意思表示にしか見えない。

 いかがなんて聞いちゃいるけどね。


 ベル婆は何やら細かなことを考えたみたいだけど。

 俺が待機を命じることもできるようにという配慮がされたのは間違いないと思う。


 そんなことを考えられるのも古参組に対する信頼があればこそなんだが。

 でなきゃ、ベル婆の発言は出動要請になっていただろう。


「あれこれ考えるより行動だな」


 そうしないと調査を提案した騎士と変わらないことになる。


「行くべきではないと考える者はいるか?」


 全員が強く頭を振る。


「じゃあ、ダンジョンの入り口前に急行する」


「「「「「はっ!」」」」」


 という訳で、マイカたちに遅れることになりはしたものの全員で出撃となったのである。


『どうしてこうなった』


 内心では、ぼやいちゃいたのだ。

 卵もどきにラソル様のイタズラと辟易させられた後だったし。

 まだ、あれから半日と経っちゃいない。


 まるで仕組まれていたかのようだ。

 そういうことはないと思うけどね。


 これがもしラソル様の仕業なら、あまりに雑だ。

 タイミング云々よりも最初に犠牲者が出すぎである。

 そういう状況を利用している風でもない。


『まあ、さすがに仕掛けてこないか』


 だとしたら[トラブルサモナー]の称号の方が仕事しているってことになりそうだ。

 できれば両者共に休んでいてほしいものだが。


 可能なら半永久的に。

 まあ、いずれも無理だと分かっちゃいるけどさ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 ダンジョンの入り口前に到着。

 王都の人混みの中を抜けてきたので何人かは遅れているようだ。


 それよりも気になるのは、入り口前の様子である。


「酷いものだな……」


 思わず呟きが漏れてしまう。


「ええ、まるで前線に設置された野戦病院のようです」


 ベル婆が俺の独り言に返事をした。


「野戦病院か……」


 確かに血塗れの兵士や冒険者たちが何人も地面に寝かされた状態だ。


「呼吸が安定している者がほとんどなのが幸いだな」


 ダンジョンから出てきたばかりの者は、そうはいかないが。


「古参の人たちがいなかったら、どうなっていたことか」


 ナタリーの言う通りである。

 これでもマシになった方だというのは、すぐに分かった。

 先行したミズホ組が対処していたからである。


 あれこれと指示を出していたガンフォールが寄って来た。


「ハルトか、遅いぞ」


「スマンな」


「お嬢たちは既に中じゃ」


 確かにローズやマイカたちの姿が見えない。

 他にも何人か。


「そのようだな」


 見渡してみれば人数的には半数ほどがいなかった。


『戦力の分散は褒められたものじゃないんだがな』


 いや、半数が残らざるを得なかった状況であるというのは分かる。

 それだけダンジョンから脱出してきた者たちの状態が酷いのだ。


 いずれにせよ、全員が一塊となってダンジョンに入るという訳にもいかない。

 さほど心配はしていないがね。

 突入した面子のレベルも300を超えている者たちばかりだからな。


 とはいえ、レベルの高い面子をこの場に残すのは下策だろう。


「ベル、ここを任せる」


「はい」


「負傷者の治癒に務めつつ可能な限り情報を集めてくれ」


「了解しました」


「済まないが、皆も頼むぞ」


「「「「「はっ!」」」」」


 突入がおあずけになっても士気が高いままとは、ありがたい。

 心置きなくダンジョンに入れそうだ。


読んでくれてありがとう。

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