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1233 隠し球?

 ジュディ様のお墨付きはあっさり貰えた。


『大丈夫だよ~』


『そうですか』


 ようやくホッと一息つけた。


『アハハ、心配性だなぁ』


 屈託なくジュディ様が笑う。

 とてもじゃないが、俺はそういう心境になれない。


『何処かの誰かさんのお陰で疑り深くなってますから』


 未だに頭の何処かで信じ切れていないしな。

 お陰で俺のライフはもうゼロよ的なヘロヘロぶりである。


『心配いらないよー。

 この程度の相手に君が誤魔化されることなんてないからさっ』


『だといいんですけどね』


『慎重なのは悪いことじゃないけど、度が過ぎるのは考え物だよ』


『分かっちゃいるんですがね』


 そう簡単に落ち着けるものではないのだ。

 自分のメンタルの弱さには嫌気が差すがね。

 簡単に鍛えられるなら、今頃は克服できているさ。


『そういう風に仕向けた人に言ってください』


『そりゃ、ごもっとも。

 確かにラソルくんはやりすぎだよね』


 仕方ないなぁという感じの溜め息が漏れ聞こえてきた。

 今回のは特に酷いと思っているのは俺だけじゃないらしい。

 それだけで少し安心できた。


『珍しいなぁ。

 こういう調整をミスることはないはずなんだけど』


 不思議そうに呟くジュディ様。


『それは自分もそう思いましたけどね』


『だよねー』


 どうやらジュディ様にも思い当たる節がないらしい。


 そうなると、俺には見当もつかない訳で。

 ちゃんと責任を取ってもらうしか納得することはできそうにない。


 たぶん、お仕置きの追加で落ち着くだろう。

 正直なところ納得できるかは微妙なんだが。


 少なくともフルコース3倍だけで終わるんじゃ、モヤッとしたものが残ると思う。


『理由もなく、そこまでするとは思えないんだよねー』


『自分は修行のために厳しめにしたんじゃないかと解釈したんですが』


『あー、そういう考え方もあるかー』


 ジュディ様には意外だったらしく、感心したような口振りの返事だった。


『僕たちが相手の時とは、そのあたりが違うよねー』


『では、あり得るんですね?』


『どうかなぁ?』


 ジュディ様は懐疑的な目で見ているようだ。

 可能性はなくはないけど、確率的には高くないといったところか。


『そういうのが含まれるとしても、メインじゃないと思うな』


 どうやら俺の想像の埒外で何かあると踏んでいる様子。


『そのメインに心当たりは……?』


『あると思う?』


 諦観を感じさせる声音でジュディ様が聞いてきた。


『ですよねー』


 まったくもって同感だ。

 同意しつつ溜め息が漏れてしまったさ。


 ラソル様は突拍子もないことをして皆を驚かせるのが好きだからな。

 それがイタズラという形になっている訳で。


『まだ、何かあると……』


 あってほしいと頼んだ覚えはないのだけれど。

 頼まなくても押し付けてくるのがラソル様である。

 きっとあるのだろう。


『僕はそう思うけどな』


 ジュディ様も嫌そうな感じだが、確信を持っている様子。


『気を抜いてると度肝を抜かれるかもねー』


『勘弁してくださいよー』


『それはラソルくんに言ってもらわないと』


『無茶を言わないでくださいよ。

 言ったら、きっと追加してきますって』


 未だに想像のつかない何かを。

 何であるかも考えたくはないというのに、プレッシャーをかけてくる。


『ハハッ、違いない』


 力なく笑うジュディ様。

 俺と同じように辟易させられているようだ。


『『はあーっ……』』


 2人で同時に溜め息をついてしまった。


『ラソルくんは、しょうがないなぁ。

 最後の最後でこんな仕込みをしてくるなんて』


 溜め息交じりにジュディ様がそんなことを言った。

 その言葉に何か引っ掛かるものがあったのだが。


 そこから膨らむ想像が俺の中でせめぎ合う。

 思いついたことがラソル様らしくないせいだ。


 らしくはないが、このタイミングならあるかもしれない。

 普段なら完全に否定するのだけれど。


 そのせいか、しばし考え込んでしまったようだ。


『どうしたのかな、ハルトくん?

 急に黙り込んじゃって。

 何か思い出したことでもあるのかい?』


『いえ、思い出したんじゃなくて』


『なくて?』


『ふと思ったことがあるんですよね。

 ただ、ラソル様らしからぬ発想なので……』


 できれば言いたくない。

 あまりにギャップがありすぎる。


 何の前置きもせずに、この思いつきを披露すればどうなるか。

 失笑されるのがオチだと思う。

 あるいは呆れて絶句されるか。


『ふむふむ、それで考え込んでしまったと』


『そういうことになります』


『とりあえず聞かせてもらえるかな。

 もしかしたらビンゴかもしれないし。

 外れたとしても、それで条件を絞り込む材料にはなるよ』


 そう言われると躊躇している訳にはいかない。

 俺は重い溜め息を漏らして腹に力を込めた。


『ラソル様がこれを最後のイタズラにしようとしているのかなと』


『……………』


 ジュディ様の返事がない。

 予想通りの結果である。

 だから、言うのは嫌だったのだ。


『もしもーし』


 どうにも我慢しきれずに呼びかけてしまったさ。


『いや、済まないね。

 普段なら腹を抱えて笑っているところだよ』


 俺に気を遣って笑うのを我慢してくれていたのか。

 それは悪いことをした。


『すみません。

 気を遣わせてしまったみたいですね』


『ああ、そうじゃないんだ』


 困ったような声音でジュディ様が否定してきた。


『どういうことです?』


『僕は普段ならと言ったよ』


 言われてみれば確かにそうだ。


『では、笑いそうになっていた訳ではないと?』


『そうだね。

 僕にも予想外だったんだけどさ』


 その言葉から軽い驚きを感じた。


『だって、ラソルくんらしくないよね。

 そのくせ無視できない何かがあるし。

 ハルトくんが言いたくない気持ちも分かるよ』


『それはどうも』


 素っ気なく答えてしまったが、理解してもらえたのは素直に嬉しい。

 下手すりゃ大笑いされて終わっていたからな。


『やっぱりラストにしようとしてるのかな』


『どうでしょうね』


 仮にラソル様がそのつもりだったとしても、思惑通りに事が運ぶとは限らない。


『予定は未定なんて言ってしまう人ですから』


 そんなことを言って急に予定を変えてくるのがラソル様だ。


『あー、言いそうだね』


 ジュディ様が苦笑するのが分かった。


『問題は、これがラストゲームかってことだ』


 そういう言い方をすると格好いい。

 だけど、イタズラはイタズラだ。

 ハッキリ言って迷惑行為でしかない訳で。


『嫌なラストゲームですね』


 つい口を挟んでしまった。


『まったくだよ』


 ジュディ様も同意する。


『とにかく、最後になるかだけど』


 ここでジュディ様が間を取った。

 普通なら勿体ぶっていると思うところだろう。


 だが、そうは思わない。

 俺も未だに結論が出せずにいるからな。


 それだけ難しい問題ってことだ。


『この世界からいなくなることを考えると、無いとは言えない』


 ジュディ様が結論を出した。

 スマートな答えとは言い難いが。


 だが、それを笑うことはできない。

 俺も同じことを考えていたからだ。


『自分で言っておいて、物凄く疑わしいんだけどねー』


 どうにも信じ切れないようだ。

 それも同感である。


 付き合いが俺よりずっと長いはずのジュディ様が、こうであるなら仕方あるまい。

 きっと最後の瞬間まで分からないのだろう。

 ラソル様が余所の世界の管理神となった後で、そうだったのかもと思うくらいか。


『行っちゃうんですよね』


 しみじみした感じになってしまった。

 イタズラで引っかき回され続けたのに、これである。


 世話になったのは事実だしな。

 イタズラの結果はどれも悪いことにならなかったし。


 いま思えば、懐かしくも感じる。


『おいおい』


 ジュディ様からツッコミが入るようだ。


『そういう言い方だと不治の病に冒された末期患者のように聞こえるよ』


『ぶはっ!』


 ジュディ様のツッコミに思わず吹き出していた。

 行くが逝くになってしまったようだ。

 しみじみした雰囲気が一気に壊れてしまったさ。


 湿っぽい空気になるのを嫌がるラソル様には、お似合いかもしれない。

 そう思ったところで、ふと気になった。


『話は変わりますが』


『ん、何かな?』


『ジュディ様はラソル様が捕まると忙しくなるんですよね』


『そうだよ。

 僕が裁きを言い渡してお仕置きに強制力を持たせる仕事があるんだ』


『強制力ですか?』


 何か特殊効果でもありそうだ。


読んでくれてありがとう。

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