1232 ホントに大丈夫?
卵もどきが消滅したことを確認する。
「……………」
鑑定した。
「……………」
もう1人の俺の手も借りて鑑定した。
「……………」
色々と魔法を使って観測もした。
何もない。
間違いなく何もないはず。
大事なことなので2回と言わず、何度も確認。
卵もどきが存在したはずの空間には塵ひとつ存在しなかった。
そのことが逆に疑いを抱かせる。
本当に大丈夫なのか、と。
『ラソル様には色々と隠蔽とかされたしなぁ』
さすがに、もうしてこないとは思うがね。
ここで情報を確認できないよう隠蔽する意味がないし。
え? 修行のため?
いくらなんでも修行名目ではやらないさ。
意味がないどころか、それは絶対にやっちゃいけないことだ。
卵もどきに復活でもされたらシャレにもならないからね。
あれを逃すことになったら、並みのお仕置きでは済まないと思う。
『まあ、ラソル様なら耐えきるか』
途中で泣き言は言うかもしれないが。
それでも終わったらケロッととしてるのがお約束ってね。
お仕置きがあったことなど忘却の彼方としてしまうのだろう。
それ以前に、そういうことにはならないとは思うけどね。
やっちゃいけないことはラソル様も理解しているはずだ。
ラソル様が変な真似をしてこないのは間違いない。
確かにギリギリまで攻め込みはしてくる。
だけど、引き際もちゃんと心得ているのだ。
え? 信用しすぎると手酷い目にあわされるって?
大丈夫。
ラソル様は、もう仕掛けてこない。
でないと次のイタズラができなくなってしまうからね。
引き際を間違えないからこそ、イタズラを繰り返せるのだ。
取り返しのつかないことをしていれば、きっと幽閉されたりしてると思う。
ルディア様が言ってた脱出不可能な反省房へ放り込まれる可能性だって充分にある。
しかしながら、過去にそういうことがあったとは聞いていない。
俺が聞いているのはお仕置きがあったことだけ。
『それだって相当なものがあると思うけどな』
反省房は更に上ってことなんだろう。
どう凄いのかは入ったことのない俺には分からないが。
まあ、入りたいとも思わない。
ラソル様もそれは同じみたいだ。
つまり、引き際を間違えたことがないってことになる。
『そういうところは、ちゃんと見極めてくるのな』
チャッカリしている。
あるいは要領がいいと言うべきか。
能力の無駄遣いをしているとしか思えないがね。
する必要のないことに全力を尽くすってのが理解不能だ。
『まあ、理解したいとも思わないけど』
かわりと言ってはなんだが、ひとつ気になることがあった。
反省房の話を聞いた時のことを思い出したのだ。
確か教習中にラソル様がイタズラをすれば、放り込まれるのではなかったか。
まあ、ラソル様専用の罰って訳じゃないとは思うが。
要するに不真面目な真似をすれば誰でも反省房行きになるのだろう。
今回の一件は間違いなく該当するけどな。
「……………」
確実に放り込まれるはずだ。
現状がどうなっているかは不明だけどね。
ラソル様なら悪足掻きで逃走することは考えられるけどさ。
いずれは捕まるだろうに無駄なことをするのだ。
ラソル様はイタズラのオプションとか様式美なんて言いそうだけど。
「逃げて捕まるまでがイタズラの範疇なんだよ」
実に楽しげな感じで言うところまで想像がついた。
俺にはまったく理解不能だが。
とにかく、その場合は逃げた時点で俺にも連絡が入るだろう。
今のところ連絡はない。
『変だな?』
もしかして教習が終わってからイタズラしたとかだろうか。
それなら反省房行きだけは免れられるだろう。
『反省房行きだけは、ね』
ただし、それは統轄神様に捕まることがないってだけ。
ルディア様たちが捕縛にかかるのは確実だ。
そうなればフルコース3倍くらいは当たり前にあるだろう。
『年内に終わらないだろうなぁ』
年末年始の行事に参加できないことになるし。
そう考えると憐れではある。
自業自得だから同情まではできないけど。
『ホント、後先ってものを考えないよな』
呆れるばかりで溜め息も出ない。
毎回、思うことなのに慣れるってことがない。
それだけインパクトのあることをされているってことか。
スイッチのオンオフをするように切り替えがハッキリしてるのもあるとは思う。
だからこそ、ラソル様がこれ以上は何か仕掛けてくることがないと確信するのだ。
え? それなら懸念することないだろって?
俺が疑心暗鬼になっているのは、ラソル様を疑っているからじゃないんだよ。
ラソル様に小細工されたことで情報が確認できなかったのは事実だけどな。
むしろ、俺の方の問題だ。
隠蔽や偽装により情報が確認できなかったことが響いている。
どう足掻いても突破できなかったし。
ラソル様と同じような真似のできる奴がいた場合なんてことを考えてしまうのだ。
そうそうあることではないが、欠片の灰なんかがそういうのを覚えたらと思うとね。
今回は、絡んではいないようだけど。
それでも卵もどきが隠蔽していなかったと言えるだろうか。
ラソル様ほど高度ではないかもしれない。
だが、俺が見破れない程度の能力を持っていた恐れはある。
魔力を吸い上げきるまでに、そういうことを何もしていなかった保証はないのだ。
確かに俺は奴に勝った。
だが、それは戦闘能力においての話だ。
もしかすると、情報戦では負けていたかもしれないのである。
敵を侮ることなかれ。
そう思えばこそ、自分が信用できなくなってしまう。
「難儀なものだね」
思わず苦笑が漏れる。
戦闘が終わったというのに結界を解くことができない。
身動きも取れやしないしな。
「勝った気がしないな」
脳筋が相手だったなら、こんなに悩むこともなかった。
相性が悪過ぎだ。
もし、卵もどきが生まれたてでなく数々の経験を積んだ後だったなら……
考える前から頭痛がしそうになったさ。
「さて、どうしたものか」
どうにか太鼓判を押せるようになりたいものである。
少なくとも今の俺では難しい。
ほぼ大丈夫だと思っても何処かに疑念が残ってしまうからだ。
「お墨付きでも貰えれば、苦労は……」
最後まで言い切らずに止まってしまった。
自分の言った単語に引っ掛かったからだ。
「お墨付き……」
俺じゃなくて誰かに保証してもらう。
俺よりも見破ることに長けた誰かに。
真っ先に思い浮かんだのはラソル様だ。
俺を完璧にやり込めてくれたからな。
間違いなく見切ることができるだろう。
「ただなぁ……」
今、ラソル様と話をしたくない。
絶対にからかわれるからだ。
イタズラ大成功で大喜びだろうしな。
見事に引っ掛かった俺で遊ばない訳がない。
それを思うだけで、こめかみに青筋が浮き上がるのが分かる。
お墨付きを貰い終わる頃には爆発寸前の状態になっているだろう。
どう考えても却下だ。
他にも相手はいるからな。
ラソル様と同等の能力を持っているルディア様なら間違いはない訳だし。
ただし、今は無理だと思う。
ラソル様の件で多忙を極めるような状態になっているはずだ。
おそらくベリルママもな。
そうなると、大中小の亜神トリオな人たちかエヴェさんかということになる。
「忙しいかな」
やはりラソル様の対応でベリルママたちのフォローに奔走していそうな気がする。
そういう状況下で、自信がないからチェックしてくださいと言うのはね。
それなりに勇気がいる。
「困った……」
迷惑をかけるのは本意ではないからな。
せめて貸しを作っている状態なら、返してもらうという名目で頼めそうなんだけど。
生憎とエヴェさんたち相手にそういう覚えはない。
「ん?」
そうでもないかもしれない。
ある意味、貸しを作っているも同然の相手が1人いる。
「貸しとは言えないかもしれないが……」
そこは交渉次第だろう。
俺は脳内スマホで登録したアドレスに電話してみた。
『はいはーい、出ます出ますぅ、電話に出ますー』
つながるなり、こんなお気楽な感じで話されるとは思わなかった。
『もう、出てますが?』
思わずツッコミを入れていた。
『おやぁ?』
『どうもジュディ様、ハルトです』
『おー、君かー』
名乗ってから気付いたようだ。
着信画面を見ずに通話ボタンを押したのかってツッコミを入れたくなったさ。
『で、何の用なのかなぁ?
ワクワク、ワクワク』
前はドキドキで、今度はワクワク。
こういう喋り方をするのがジュディ様の癖のようだ。
『僕は留守番で退屈しててさー。
ラソルくんが捕まったら忙しくなるんだけどねー』
聞いてもいないことをペラペラと喋ってくる。
本当に暇らしい。
ラソル様が捕まった後がどうなるかは気になるところだ。
が、話が終わらなくなりそうなので我慢する。
『今なら暇だから、いくらでも話を聞いちゃうぞぉ』
『それは好都合ですね』
『おー、何かな何かなっ?』
前のめりになっていそうな勢いで聞いてくるジュディ様。
俺は事情を斯く斯く然々と話した。
『オーケー、オーケー、僕に任せたまえ!』
嬉々とした様子で引き受けてくれた。
交渉するまでもなかった訳だ。
案ずるより産むが易しとは、よく言ったものである。
読んでくれてありがとう。




