1231 本当の狙いは何処にあったのか
思いの外、卵もどきが厄介だ。
『不燃物の処理より質が悪いな』
地中に埋めることもできやしない。
非接触型の充電器の上に置くようなものだ。
魔力供給されてしまうのは目に見えている。
これでは本末転倒である。
卵もどきを復活させないために処分方法を考えているのだからな。
捨てて終わりでは無責任以前の問題だ。
辟易させられるが、放置する訳にもいかない。
そんな訳で検討中が長く続いている。
ちなみに表面を薄く削りながら薄皮を燃やしていくのが現状における最善手だ。
処理完了までの時間が考えたくないほど長くなるのが難点だけどな。
物理耐性があるから削るのも一苦労なのだ。
時間がかかるとは思っていたが……
[作業完了まで数日かかります]
脳内シミュレーションの結果、こんな答えを返された。
想定外もいいところだ。
数時間なら許容範囲内ってことで納得もしていただろう。
きっと、即座に実行していたと思う。
しかしながら、数時間ではなく数日というのが現実だ。
単位が日って何だよってなるよな。
ウンザリするくらい長い。
いや、くらいじゃなくて実際にウンザリする。
確実にな。
覚えがあるからだ。
『あの時も酷かったっけ』
こんな気分になったのは、ローズや妖精組に出会う前以来だ。
万を超えるゴブリンどもの暴走。
森林保護という縛りがあるから一気に殲滅させられずにフラストレーションが溜まった。
最初はチマチマ作業的に倒していたけれど。
途中でキレたのが、今では懐かしく感じる。
まあ、二度と体験したくないけどな。
という訳で保留している。
『何か、こう……もっと短時間で終わらせる方法はないものか』
あれこれ考えているが、どれも却下だ。
破片が飛散するか。
やたらと時間がかかるか。
そんな方法しか思いつかない。
精神的に疲れているせいだろう。
発想が貧困さんいらっしゃいな状態である。
「いっそのこと宇宙空間に転送するか?」
自棄クソの発想だ。
が、そのまま放置する訳ではない。
重力魔法で惑星レーヌに引き寄せるのが目的だ。
『大気圏突入時の断熱圧縮で燃やしてしまえば……』
破片も燃えそうだ。
『意外に良いアイデアかもな』
そう思って脳内シミュレートしてみた。
が、結果は惨敗。
燃やし尽くすことはできないようだ。
それどころか、空中で大爆発する恐れがある。
今までの中で最悪のシミュレーション結果だ。
『地球でも、そういう事例があったな』
結果を見てから思い出したのは皮肉なものである。
だが、破片も燃やすという発想は悪くないかもしれない。
燃やすことに限らず、まとめて処分できればノープロブレムって訳だ。
例えば、強酸性の液体につけ込むとか。
「……………」
これなら破片を飛散させずに処理はできそうだ。
が、これも時間のかかる口である。
卵もどきの耐性の高さがネックとなった。
削って燃やすよりも時間がかかるのでは意味がない。
『まあ、方向性は悪くないはずだ』
まとめて燃やすのがダメで、溶かすのもダメ。
再度、浄化しても意味はないし。
凍らせても卵もどきに変化はないだろう。
『ないよな?』
念のために脳内シミュレートしてみた。
「へえ」
思わず感心してしまった。
1週間ほど超低温で冷やし続けると粉砕しやすい状態に変化するようだ。
耐性があるためギリギリまでは変化しないという結果が出た。
ある瞬間を境に粉々にできるような状態になる。
『凍らせた花みたいになるのかね』
何かのCMで見た覚えがある。
完全に凍った花が手袋をした手で簡単に握りつぶされていた。
ああいう状態になるなら衝撃の与え方しだいで飛散しにくくなるだろう。
結果は予想外に面白いものであった。
だが、しかし……
「やってられるかっ」
こんな物騒なものを1週間も持ち歩くなどできる訳がない。
現実的な破壊方法でなければ採用不可だ。
一気に最後の工程に持っていけるなら話は別なんだがな。
無い物ねだりをしてもしょうがない。
切り替えて別の方法を考える。
破片飛散を防ぎつつ破壊するしかないだろうか。
『あんまりやりたくないんだよなぁ』
例えば理力魔法で抑え込む場合、意外に消耗する。
思った以上の威力で破片が弾けるのだ。
その上、全方位だからな。
よほど集中していても、何処かに薄い部分があって突破されそうな気がするのだ。
戦う前なら、迷わずやる気になったのだが。
今は思った以上に集中力を欠くような状態だ。
戦闘が終了したことで気が抜けてしまったのが痛い。
この状態から気持ちを立て直すのは難しいものがある。
厳しい状況に追い込まれれば、すぐに切り替えられるとは思うのだが。
『甘えてるなぁ』
自分でそう思うが、理解していながらも立て直す気にはなれない。
ふと、ラソル様に笑われたような気がした。
「ダメだなぁ、ハルトくんは~」
お気楽な調子で言われるとムカッとくる。
たとえ、気のせいだとしてもね。
「せっかく修行のチャンスなのにぃ」
空想の中のラソル様がからかうような口振りで挑発してきた。
俺は反論しない。
何を言っても言い訳になるからだ。
こればかりは、ラソル様の言う通り。
俺が奮起すれば解決する問題なのだ。
『もしかして、これこそがラソル様の狙いだったのか?』
レベル以外でも成長する余地があると教えるために、こんなことをしたと?
それにしては、あまりにもリスキーだ。
卵もどきは欠片の灰に匹敵するヤバさがあると思う。
にもかかわらず俺1人を鍛えるためにこんな真似をするとか、常識を疑ってしまう。
『……ラソル様に常識を問うのが間違いか』
毎回、上手く解決するように調整するから根っこは常識人なのかと思ったこともあった。
常識人がここまで人を振り回すイタズラはしないさ。
国の存亡に関わるようなイタズラもな。
いくらフォローすると言っても限度がある。
相手の利益になるように根回ししたって意味がない。
度を超せば常識外れだ。
そこだけは譲れるものではない。
まあ、ラソル様の目的が何処にあるのかは正直どうでもいい。
今はグダグダのメンタルの現状で、どう卵もどきを処分するかの方が重要だ。
力押しはラソル様が推奨してるっぽいけど。
とにかく、戦っていた時の抑え込みの方が楽だったと言える。
「活動停止した後の方が扱いが厄介になるとか、どうなんだよ」
つい愚痴が漏れてしまったが、こればかりはどうにもならない。
映画とかに出てきそうなハイテクで守られた金庫みたいだ。
こういう代物はセキュリティレベルの高さが売りなのは言うまでもない。
映画の中だと不法侵入者には容赦しない攻撃性を持っていたりするんだよな。
この超攻撃的な状態が活動停止前の卵もどきに重なる。
もちろん停止後もね。
ひとことで言い表すなら超防御的状態だろうか。
映画の中のハイテク金庫だと電源が確保できなくなった場合に該当することが多い。
非常用電源を使って何重もある頑丈な扉をすべてロックしてしまう。
再び金庫を開くためには複数の手順を踏まねばならないのが、お約束。
卵もどきもそんな感じの状態になっていると言うべきだろう。
何としても復活するという執念を感じたからだ。
生き物ではないのに生きているような泥臭い意志がある。
したたかというか、実にしぶとい。
『休眠状態なら黙ってやられとけよ』
沸々と煮えたぎってきた。
ちょっとキレそうだ。
いや、既にキレている。
暴走しないだけの理性は残っているがね。
向こうだって必死なのは分かる。
誰だって自らの存在のピンチともなれば、どうにかしようとするはず。
俺も例外ではない。
立場が同じなら何だってしただろう。
が、いい加減にしろという気持ちの方がずっと上だ。
「そうそう、その調子だよぉ~」
「っ!?」
不意に声を掛けられた気がした。
もちろん、気のせいである。
この場には俺しかいないのだ。
ログにも音声データはない。
ないのだが……
『こんな仕込みをしてくるのはラソル様だけだよな』
可能か不可能かで考えれば、他にも候補はいる。
だが、誰もこんな真似はしない。
だからこそ、怒りのギアが1段上がった。
これすらも掌の上で遊ばれている。
そうと分かっていても抗えない。
反抗心か反発心か。
とにかく、そういうものに突き動かされる衝動があった。
『やってやろうじゃないか!』
俺がそう思うことこそラソル様の待ち望んだことだったのかもしれない。
もはや、それも気にはならないがな。
考えるのはやめだ。
魔法の制御が不安定?
知ったことじゃない。
「案ずるより産むが易しってな」
要するに破片を飛び散らさなければいいのだ。
「あるぜ、取って置きの方法が」
【多重思考】でもう1人の俺を幾人も呼び出す。
1人で不安があるなら皆でやればいい。
理力魔法で何重にも抑え込む。
それだけじゃない。
もう1人の俺はまだまだいる。
「フォルトスラッシュ、多重展開!」
空間に断層を起こして切り裂くフォルトスラッシュなら卵もどきも抗えない。
『『『『『了ぉ解っ!』』』』』
向こうが透けて見えるほどの薄切りレベルで一気に切り刻む。
「チマチマなんぞ、やってられるか!」
『『『『『その通りっ!』』』』』
「ラーヴァフロウ、トルネードバージョン!」
周辺への影響は理力魔法でカットしつつ、溶岩流の竜巻で卵もどきを包み込んだ。
「消え失せろ、黒卵野郎!」
読んでくれてありがとう。




