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1230 決着はついたけれど

 卵もどきの抵抗がなくなった。

 魔力も吸い上げることができない。


「ようやくか……」


 思わず声が漏れた。


 長かったからな。

 大きめの迷宮核であったことを考えれば、妥当な魔力保有量だとは思うが。


『あのままチマチマやってたら、どうなっていたことか……』


 考えるだけでゲンナリさせられる。


 いや、今の時点で充分にゲンナリ状態なんだけど。

 魔力の吸い上げは浄化を掛けて空間魔法で隔離しながらだったからな。


 ちなみに倉や倉庫には入れていない。

 魔法で一時的に確保した亜空間だ。

 中身を解放すれば消えてしまう。


 専用空間に格納して汚染されましたなんて事態は御免被るからな。


「あー、そっちの確認しなきゃな」


 隔離した魔力の状態を鑑定する。


[亜空間に確保した魔力は清浄な状態です]


「ふうっ」


 大きく一息ついた。

 肩の荷が下りた気分だ。


 結果だけを見れば、浄化したのが正解だったのかは分からない。

 ひょっとすると普通に隔離するだけでも充分であった可能性はある。


『まあ、正解だったことにしておこう』


 念には念を入れたからこそ、今の状態なんだし。

 このまま地脈に流すかと考えたが躊躇してしまう。


『ルディア様に振っておこう』


 チェックを依頼して処理も頼むことにする。

 エリーゼ様ばりの丸投げだ。


『ダブルチェックは大事だよな』


 とか自分に言い訳する。


 たぶん、ラソル様を罰する際の仕事に組み込まれるだろうし。

 こういう確認の意味合いが強い地味な仕事は嫌がらせになるはずだ。


 念のために依頼するメールの中に、その旨を記載しておく。


『これで良しっと』


 正直なところ、まだまだ物足りない気はするけどな。

 それを言い始めたら切りがない。


 その上、どれだけ罰を科しても応えた様子を見せるのは、その時だけだ。

 終わればケロッとしているのがラソル様である。


『実は応えてないとかじゃないだろうな』


 そんな風に勘繰ってしまうが、それは大丈夫なようだ。

 双子であるルディア様が言っていたのだから間違いあるまい。


『極端に切り替えが素早いのか』


 それはそれでラソル様らしいと思うけどね。


 受け入れがたいというのはある。

 あのふざけた態度が頭の中を駆け巡るからだろう。


 故にこの話はここまでだ。

 まだまだ仕事は残っているしな。


 卵もどきは魔力切れで動かなくなっただけだ。

 何かの切っ掛けで魔力を得れば再起動するだろう。


 コイツは生き物ではないからな。

 死んでいるなら扱いに気を遣う必要もないのだが。

 魔力を与えてしまわないように注意する必要があるのは面倒極まりない。


『停止状態でも魔力は自動でチャージするとかじゃないよな』


 ふと、不穏なことを考えてしまった。

 これを声に出して言っていたならフラグになったかもしれない。


『冗談じゃないぞ』


 こんな面倒くさい相手と連戦なんて、考えるだけでもウンザリだ。

 すぐに鑑定して確かめたのは言うまでもない。


[卵もどき:活動停止]


『……………』


 別の意味で「おいおい……」とツッコミを入れたくなったさ。

 状態が活動停止なのには安堵したけど。


 名前が[変質した迷宮核]ではなくなっている。

 俺があまりにも卵もどきと呼称し続けたからか。

 別に声に出した訳ではないんだが。


 相変わらず神のシステムはよく分からん。

 俺のダサいネーミングを採用した根拠は何なのか。

 呼びやすくはなっているが、名前だけ聞いても何のことなのか分からんと思うのだが。


『二度と出てこなくなるからとか言わないよな?』


 だとしたら、投げ遣りにも程があるだろう。

 この適当さはエリーゼ様に通じるものがあると思ったほどだ。


「……………」


 嫌な予感がしたのでログを確認してみた。


『マジかー』


 ガックリきた。

 比較的初期の段階で名前が採用されていたからだ。

 そういうことなら、もっと真面目に考えたんだが。


「……………」


 結局、卵もどきになった気はするな。

 ネーミングのセンスに自信はない。


 しかも戦闘中だ。

 考える暇などなかったろう。

 そもそも、そんな時に考えることでもない。


 どうしても必要というのであれば、きっと安直に決めていただろう。

 その最たる候補は、やはり[卵もどき]しかないように思える。


 仮にゆっくりと考える時間のある状況だったら、どうだろうか。


『候補のひとつになったかな』


 最有力ではないとは思うが。

 少し怪しい気はする。

 どうでも言い相手の名前なんてこんなものとか考えてしまいそうだし。


 自分のことだけに分かってしまうというか。

 とにかく、いい加減な決め方をしてしまいそうだ。


『俺も人のことは言えないな』


 だが、神のシステムがそんなことで良いのかとは思う。

 自分のことは棚に上げて、あえて物申したい。


「仕事しろよぉ」


 言ったところで返事など貰えるとは思えないがね。

 相手は神のシステムなんだし。


 簡単に会話が成立してしまうのは問題があるだろう。

 どんな情報を引き出せるか分かったもんじゃないからな。

 それ以前に公平性が無くなるし。


 まあ、ベリルママやルディア様たちと普通に連絡を取っている俺が言うことじゃない。

 お前が言うな的お叱りを受けてしまいそうだ。


『気にしたら負けだな』


 そんなことよりログの内容の方が気になる。

 見ていてガックリくるようなのがあったし。


[新たな称号を得ました]


 称号が増えたばかりだから簡単には増えないだろうと思っていたら、これだ。

 油断も隙もあったものじゃない。


 嫌だけど、どんな称号なのかをチェックする。


[命名の達人]


 見た瞬間に──


「嫌みかよっ!!」


 吠えていた。


 まさか、卵もどきの命名でそんな称号を貰うとは思わなかったし。

 呼びやすくはあるがダサいからな。

 そんなネーミングが切っ掛けで貰う称号にしてはカッコ悪すぎだろう。


 説明を読んでみたが、今回だけで決まる訳ではないらしい。

 名前を決めた時点での相手のレベルが関係するようだ。


「……………」


 それを累計したものと言われるとね。

 矛を収めるしかないだろう。

 ローズやマリカも含まれるならしょうがない。


 ラストを飾るのが、卵もどきというのには納得がいかないが。

 そのあたりは卵もどきに直接ぶつけて発散するとしよう。

 どうせ破壊しなきゃならんのだし。


「……………」


 そう、仕事はまだ終わりではない。

 あくまで卵もどきを活動停止に追い込んだだけだ。


「もう一仕事かー」


 色々とガックリきた後で、その事実を突き付けられると更にガックリくる。

 一瞬で終わらせられるなら楽なんだが。

 破片を飛び散らせる訳にはいかない相手だ。


『生き物ではないからなぁ』


 飛散した破片が魔力を吸い込みでもしたら復活される恐れがある。


 浄化はしてあるが、コイツの本質は変わらない。

 魔力を吸った途端に汚染物質に逆戻りだ。

 故に周辺環境が汚染されることは充分に考えられる。


『活動停止に追い込んでも面倒くさい奴だな』


 いきなりの破壊は何が起きるか分からない。

 戦闘中とは違って時間的猶予はある。


 ならば鑑定結果を用いて脳内シミュレートするのが吉だ。

 さっそく無難な方法でシミュレーション開始。


 まずは聖炎だ。

 浄化しながら燃やせば大丈夫だと考えたのだが……


「ダメかー」


 火力を上げると、ひび割れて破片が散るのだ。

 しかも、浄化しきる前に飛び散る破片がある。


 ひび割れないように火力を下げてもアウトだった。

 ヒビが入るまでの時間が変わるだけなのだ。

 この方法は使えない。


「デカすぎるんだよ」


 思わず愚痴ってしまったさ。

 つい、卵もどきが槍のように変形して攻撃してきた時のことを思い返していた。

 あの時はミズホ刀で端を切り落として消滅させたからな。


『あそこで決められなかったのは痛い』


 今の卵もどきに分解の魔法を使おうとすると、聖炎の二の舞である。

 念のためにシミュレートしてみたが……


「やっぱ、ダメだよな」


 分解中に飛散する恐れがあるのは同じだった。

 聖炎より少しマシという程度だ。


『せめて変形させられればなぁ』


 変形させると言えば、錬成魔法だ。


 が、この手は使えない。

 錬成魔法で変形させるには内部に魔力を浸透させる必要があるからだ。


 卵もどきを復活させるだけである。

 ならばミズホ刀で切り刻んで……


「これもアウトかぁ」


 卵形の形状と大きさがネックになるようだ。

 絶対という訳ではないが、飛散の恐れありと出た。


 今のグダグダな精神状態ならヤバい。

 圧力をかけて押し潰すのなんて論外だし。


「厄介な奴めっ」


 あれもダメ、これもダメ。

 まるで泣きじゃくる駄々っ子をあやすかのようだ。


『コイツにそんな可愛げはないがな』


 思わず嘆息する。

 無理もない。

 途方に暮れるしかないような状況だ。


「さて、どうしたものかね」


読んでくれてありがとう。

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