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1228 考え事は油断の元

 卵もどきとの戦闘は続く。

 長引くほど面倒なことになりそうだ。


 単に耐久力が高いというだけなら、やりようもあるが。


『コイツは学習型だからな』


 自己流にアレンジしてくるような奴だ。

 そのせいで俺は裏をかかれた。


 油断はしていないつもりだったのだけれど。

 それほどまでとは思っていなかったのは事実。


 どう考えても慢心からくる油断であった。


『反省ものだな』


 戦うほどに卵もどきが強くなっていくのは見せられたばかり。

 耐久力も並大抵ではないだろう。

 そう簡単に終われそうにない。


『厄介どころの話じゃないぞ』


 この戦闘を終わらせる見通しが立てられないのだ。

 明確にこれというビジョンが湧いてこない。


 途方に暮れるほど状況が悪い訳ではないが。

 この先、そうならないという保証もない。


 卵もどきの弱点をどうにか見つけたいところである。

 もちろん、今のところは見当たらない。


『面倒だな』


 二重の意味でそう思う。

 単純に面倒くさいのがひとつ。

 もうひとつは、敵として手強いという意味の面倒。


 下手に学習されると、どんどん強くなっていく。

 純粋な意味でパワーアップすることはないのだけれど。

 が、それに匹敵するだけのものを得るのが厄介だ。


 手数が増えたり。

 こちらの攻撃を封じてきたり。

 やり方は様々だろう。


 それだけに対処に手間がかかる。

 長期戦になればなるほど完封は困難になっていく訳だ。


『まあ、完封はもうないか』


 既に一度してやられているからな。

 ダメージこそ受けなかったが。

 奴の動きを読み切れなかった時点で負けたも同然。


 向こうは、そう思ったりはしていないだろうけどね。

 最初に裏をかいたのは俺の方だし。


 その際に多少とはいえダメージを与えた。

 卵もどきにしてみれば、そこに不満を感じているはず。


 やりかえしたまでは計画通りだったろう。

 が、それに対応されダメージを与えられなかった。


 その違いは大きいと感じて当然。

 そこから先をどう考えるか感じるかは当人しだい。


『まあ、落ち込むような玉じゃないよな』


 どの程度かまでは分からないが、怒りがあるはずだ。

 それが強いものであるなら……


「来たっ!」


 卵もどきが積極的に攻撃してきた。


 体表面を幾つか突起させたかと思うと、その部分を槍状に伸ばしてくる。

 連撃連撃連撃連撃連撃連撃連撃連撃連撃連撃連撃連撃連撃連撃連撃連撃!


 突進時の勢いよりも更にスピードがある。

 足を止めているにもかかわらずだ。

 回避回避回避回避回避回避回避回避回避回避回避回避回避回避回避回避!


 ただ、ひたすらに打ち込んでくる。

 上下左右の出鱈目な連続突き。


 それはジャブで距離を測ろうとするような生易しいものではない。

 どれもが殺意を丸出しにした殺気まみれの攻撃だ。

 先程の氷壁ならば、一撃で爆散するであろう破壊力を秘めている。


 そこから導き出される答えはひとつ。


『魔法で強化するかよ』


 人間で言えば身体強化の魔法である。


 が、魔力の消費は桁違い。

 セーブする気など毛頭ないとばかりに魔力を注ぎ込んでいるのが見て取れた。

 溜め込んだ魔力を使い切るならここだと言わんばかりだ。


 その結果、スピードもパワーも著しく強化されている。

 並みの冒険者に同じことをさせたら確実に体を壊すだろう。


 いかに筋肉や関節を保護しようとも、細胞レベルで耐えられない。

 強化した直後に全身の毛細血管が破裂することだって考えられる。


 生き物ではない迷宮核だからこそ可能な芸当ってことだな。

 そこまでするくらいの憤りがあると見た。


『なり振り構わずかっ』


 そう思わせる暴風を想起させる攻撃。

 回避しながら内心で舌打ちする俺。


『これくらいで逆ギレしてんじゃねえっての』


 悪意にまみれた存在だと思っていたが、ここまで酷いとは思っていなかった。

 万が一、これが外で暴れたら国のひとつやふたつは軽く滅亡するだろう。

 コイツは何がなんでも結界の外に出す訳にはいかない。


『絶対にここで仕留めきる!』


 決意を新たにした。


 が、しかし……


『何時になったら止まるんだよ、この連続突きはっ!』


 迂闊に手出しすると、卵もどきの体が千切れ飛びかねない。

 これだけの勢いだ。

 明後日の方向へ飛んで行ってしまうだろう。


 悠長に追いかけていって消滅させるなんて真似はできない。

 奴に背中を晒すことになるしな。


 え? 破片くらい放置して先にトドメを刺せ?

 それは俺も考えたさ。

 その瞬間に嫌な予感がしたから、そうしなかったのだ。


『何となくだけど、破片も悪さをしそうな気がしたんだよね』


 分裂しても記憶や意志を持ってたりするパターン。

 こういう時のお約束みたいなものと言うべきか。


 それを考えるとチマチマ削って破片を削る手もヤバい気がする。

 卵もどきが、それをヒントに意図的な分裂をする恐れがあるのだ。

 多方向から偏差攻撃を仕掛けつつ、何体かは別行動なんてことも考えられるからな。


 逃走を試みるとか。

 罠を仕掛けるとか。

 魔力供給に専念するとか。

 破壊力のある魔法を準備するとか。


 どれかひとつでも試みられたら回避に専念する訳にもいかなくなる。

 八方ふさがりとは言わないが、厳しい展開になるだろう。


 もし、それらの行動すら囮だったらと思うとゾッとする。

 一番の懸念は分裂した後に隙を突いて再分裂した上で隠れてしまうことだ。

 すべて消滅させたつもりだったのに生き残られました、なんてことになりかねない。


 俺が結界を解除し去ってから逃走。

 何処か別の場所で力を蓄える。


 その間は擬態や隠蔽を駆使して隠れ続けることだろう。

 充分だと奴が判断した時点で暴れ出す。


 今度は最初から学習済みの状態だ。

 倒すのも骨が折れるはず。


 ただし、質が悪いのはここからだ。

 卵もどきは負けても生き残る術を知っているからだ。

 今度は最初から分体を何処かに隠して保険をかけておくくらいはするだろう。


『そんなの悪夢の無限ループだろ』


 考え得る最悪のシナリオだ。

 シャレにもならん。


 そして、杞憂と言うなかれ。

 学習型である卵もどきであれば、いつかは考えつくだろう。

 今はブチ切れているから考える余裕などないかもしれないが。


『そういう意味じゃ、助かっているのか』


 皮肉なものだ。

 迂闊に手を出せぬと回避しまくっている状況こそが俺にとって時間稼ぎになるとは。


 とはいえ、悠長に考えてもいられない。

 卵もどきが次の瞬間にも冷静さを取り戻すかもしれないのだ。

 怒りの熱が冷めなくても違和感を感じることはあるだろうからな。


 脳筋ならそういう感覚は邪魔だとばかりに無視するかもしれない。

 が、コイツは違う。

 それを切っ掛けに考え始めることは充分にあり得る話だ。


 あるいは攻撃が擦りもしないことに苛立ちを募らせ更にキレてしまうかもしれない。

 単純に攻撃の手数を増やそうとするだけならいいのだが。

 手札を変えようと考えを巡らせられると、俺の時間稼ぎに気付く恐れもある。


 考えれば考えるほど、卵もどきの思考力の厄介さが身に沁みる。


『もっとバカな奴だったら簡単に対応できたんだがな』


 目には目を歯には歯を。

 脳筋には脳筋をってね。


『ん?』


 ふと、違和感ではない何かを感じた。

 自分の考えに何かヒントが隠されていたような感覚だ。


『何だ? 何処に引っ掛かった?』


 自問するものの答えは出ない。

 簡単に分かるなら、こんな感覚にはならないだろう。


 俺はもどかしさを感じつつ、卵もどきの連続突きを次々に躱していく。

 奴のスピードに合わせて回避するとなると、そうそう余裕はない。


 躱しづらいのは手数の多さよりも攻撃の巧みさにある。

 確かに手数の多さを利用している部分はあるのだが。


 連撃から追い込む意図を感じ取っても読み切れなかったりするのだ。

 無駄打ちというか、ランダムの出鱈目な突きを織り交ぜてくるせいでな。


『そっちに誘導してたんじゃなかったのかよ』


 それまでの布石を台無しにするような攻撃をしてきたり。

 その上で別方向へ誘導し始めたり。


 かと思えば、やっぱり当初の方向へと持って行く。

 あるいは誘導をいきなりリセットしたり。


『訳が分からん』


 向こうはそれが狙いだろう。

 攻撃パターンを読まれないように工夫しているのだ。


 故に気の抜けない状態が続いている。

 慣れてしまえば、考えながら動くことは難しいことではないが。


 それが油断だったのだろう。

 急に死角を利用した時間差攻撃が来た。


「ちっ!」


 思わず舌打ちしてしまう。

 当てられた訳ではない。


 が、今までにない攻撃パターンだ。


『マズいな』


 攻撃パターンに嫌らしいのが混じり始めている。


 螺旋状に変形しながら突いて来たり。

 大きく曲げてきたり。


 だが、こんなのは序の口だ。

 つい今し方のように死角を自ら作り出した攻撃。

 これを何回かに1回はランダムで入れてくるようになった。


 あるいは後方へ流した後で先端を変形させてから引き戻したり。

 ギリギリを突き抜けていったのが、大きな返しをつけて戻ってきた。

 まるで死に神の鎌だ。


 俺の首をはねるべく引き戻されてくるが……


『生憎だったな!』


 今の俺に死角はないのだ。

 【多重思考】と【天眼・遠見】を用いれば回避は難しいことではない。

 体の軸をぶらした状態で踊るようにクルリと回れば紙一重で先端が戻っていく。


『背後から攻撃された時点で後方どころか、全方位に対処済みだよ』


 だが、次も同じ手は通用するかどうか。

 途中で一度は変形したのだ。

 何度でも変形するようになるだろう。


 ギリギリでの回避は致命的な隙となりかねない。


『やっぱり面倒だ』


読んでくれてありがとう。

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