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124 大晦日の日につくってみた『ギターもどきのリュート』

改訂版です。

 重箱の作成は俺が先に手本を見せた上でツバキが指導を担当することになった。

 重ね塗りする漆の厚みを計算に入れないといけないので木工の技術が鍛えられるだろう。

 漆は単純に塗るだけじゃなく蒔絵を施すので工程が更に増える。

 普通なら年内完成などあり得ないのだけど、そこは魔法を使って急ピッチで仕上げていく。

 魔法の腕も鍛えられる訳だな。


 ちなみに蒔絵は側面の各面に四季折々の草花を、フタには家紋を入れてみた。


「これは?」


 見学していたノエルが無表情ながら小首をかしげながら聞いてくる。


「家紋といって一族の紋章だね」


「何かの植物?」


「そうだよ。八重桜という木に咲く花だ」


 この家紋は日本じゃ断絶となった飛賀家のものだ。

 異世界で再興するって言うと格好つけすぎかな。

 由来とかは伝わっていないけど代々八重桜を大事にしてきたからというのもある。

 家の庭にはカンザンもしくはセキヤマと言われる八重桜が植わっていたからね。


 ソメイヨシノが散ってから咲き始めるから色んな所で見かけることがあるんだけどマイナーだった。

 八分咲きぐらいまでのを塩漬けにした桜漬けなんかもあるんだけど。

 日本にいた頃、桜漬けを使った桜湯を約2名に振る舞ったら反応はイマイチだったんだよなぁ。

 和菓子の上に乗せて一緒に出したというのに──


「気にしたことなかった」


「見たことはあるかな」


 なんて具合で、食い気に勝る人間には添え物など眼中にないということを思い知らされたものである。

 とはいえ、もう会えないと思えばこそ気になってしまう。

 たとえ俺のことは忘れてしまっても元気にしてくれていればそれでいい。

 そういうこともあって俺だけは忘れずにいようという決意も込め、この八重桜の家紋を使っている。


 ちなみにミズホシティでもそれに近いであろう品種の桜を植えた。

 名前はミズホザクラになってしまったけどね。

 国旗が必要になったら白地に薄紅色の八重桜紋を採用するつもりである。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 そんなこんなで国民たちの作業を確認したり新国民組を案内して施設の説明をしたり。

 何だかんだで年末の慌ただしさを感じながらすごして1年最後の日を迎えた。

 やり残しなしとなったのは夕方になってからだったけどギリギリという感覚はあまりない。

 クリスマスの教訓を生かして全員で準備をしたのでね。

 大晦日の日に燃え尽きてグッタリとか可哀相だろ。


 もちろん、新国民組にも手伝ってもらったよ。

 特に蕎麦に関しては粉を挽くところから初めて蕎麦打ちまで全工程を担当してもらった。

 なかなか飲み込みが早くて思った以上に作業をこなしていたね。


「ルーリアはんのは、綺麗にそろとるなぁ」


 アニスの言うようにルーリアの仕上げた蕎麦は機械で切ったかと思うくらい均等な細さだ。


「そうかな? 皆のも綺麗に仕上がっていると思うんだが」


 確かに月狼の友の面々が仕上げた蕎麦も、よく見れば不揃いかなぐらいの出来だ。


 一方でノエルは納得できなかったようで悔しそうにしていた。

 俺としてはあれも手打ちの醍醐味だと思ったし、不機嫌になるほどの出来ではなかったんだけど……


「もう一度」


 何度、この台詞を繰り返したことだろうかというくらいリトライしていた。

 意外に負けず嫌いさんであることが判明した一幕であった。


 何にせよ晩御飯の時間までは全員でマッタリタイム。

 お茶を飲んで談笑したり動画を見たり。

 一部のケットシーは食堂のテーブルに突っ伏してゴロゴロ喉を鳴らしていた。

 まんま猫って感じでモフリスト垂涎ものの状況である。

 ルーリアなんかは微妙にウズウズしていたのでモフリストの素質がありそうだ。


「どうしたのよ?」


「いや、何でもない」


 レイナにそわそわした様子を指摘されて取り繕っていたけれど。

 そこで我慢せずにモフモフ作戦を遂行する人物を俺は知っている。

 昔馴染みの1人だ。


 ……また思い出してしまった。

 最近、こういうのが多くなってるんだよな。

 ホームシックとは実に情けない話だ。

 レベルが4桁超えてもメンタルは弱いってのが笑っちゃうだろ。


 あ、そうだ。ベリルママに連絡して来てもらおう。

 年末の除夜の鐘とか初詣とかイベントがあるし妖精たちも喜ぶはずだ。

 なんて思っていたんだけど──


『ただいま電話に出られません。御用の方は発信音の後にメッセージをどうぞ』


 という訳で無理でした。

 直前で声を掛けるとかダメダメすぎるという自覚はあります。

 しかも連絡入れてなかったから拗ねられた恐れもあるし。

 フォローしておかないと怖いな。

 そんな訳で、こちらも久々のルディアネーナ様に連絡を入れてみた。


『ベリル様は上司に呼び出されて留守だ』


「あ、そうだったんですね」


 仕事じゃしょうがないということでホッと一安心。


『私はバカ兄がくだらぬ事をしでかさぬように監視もせねばならん』


 受話器の向こうから『酷いよー』という声を拾ったが、気のせいということにしておいた。

 ラソル様は誘うどころか声を掛けただけで飛んで来そうだしスルー推奨だ。


『そっちに行きたいのは山々だが、ベリル様がいつ戻られるかも分からん状況でな』


「残念です」


『気にするな。これも管理神へ昇格するための修行だからな』


 そんな訳で、あまり長話をして邪魔をしても悪いので手短に挨拶して脳内スマホの電話を切った。


 サプライズゲストは呼べなかったけど、ションボリはしていられない。

 年越し蕎麦を食べてから除夜の鐘を鳴らすまでの間はカラオケ大会を予定しているから景気よく行かないとね。

 今から練習に余念がない面子がいるくらいだし。

 食堂の片隅で皆の邪魔にならないようにコソコソした感じでやってるけど。


「賢者殿、彼等は何をしているのだ?」


 ルーリアが目敏く発見したようだ。

 まあ、壁に向かって座り込んでうつむき加減になっていれば気にもなるか。

 自前のテレコーダーを使っての練習も、知らない者からすれば壁に向かってブツブツ呟く危ない人に見えかねないし。


「あれは専用の魔道具を使ってカラオケ大会の練習をしているんだよ」


「そういう歌の宴をするのだったな」


 今日の予定を説明したことを覚えていてくれたようだ。


「そうそう」


「私も歌った方が良いのだろうか?」


 戸惑いの色をのぞかせつつも皆の熱の入れように触発されたらしいルーリアが聞いてくる。


「そこは自由だ。強制はしない」


 その話を隣に座ってボーッと聞いていたノエルが反応した。

 何か言いたげに俺を見上げてくる。


「ん、どうした?」


「演奏したい」


「いいぞ」


 カラオケ大会とは言ったけど厳密に歌限定に縛るつもりはない。


「どんな楽器が必要だ?」


 ノエルが沈黙したまま首を傾げた。


「どうした?」


「たぶん無理」


「何故に?」


「賢者さんも見たことがない楽器だと思う」


「エルフ独自の楽器ということ?」


 こくりとノエルが頷いた。

 それだけでも情報があるなら【諸法の理】スキルの出番ですよ。

 エルフでレアな楽器を検索してみると幾つか候補が出た。


「笛かな?」


 フルフルと頭が振られる。


「じゃあ打楽器とか」


 またもフルフル。


「もしかして弦楽器でレアなのとか?」


「そう」


 ノエルが首肯した。

 竪琴なんかはエルフでイメージしやすいと思うので、あまりレアな感じはしないのだけど。

 検索結果でも下位の方にひとつあるだけだ。


 画像を見た限りではリュートの親戚って感じの印象を受けた。

 ネックは折れ曲がっていないのがリュートと大きく違う点かな。

 というよりネックが無いアコースティックギターみたいな感じに見える。


 これに似たなんとかリュートとかいうのをテレビのクイズ番組で見た覚えがあった。

 面白いと思ってネット検索したけど動画がほとんど見つからなくて逆に印象に残っていたのだ。

 名前までは覚えてなかったけど。


 似てるなら、これをコピーしてみるか。

 エルフ独自の文化のせいか【諸法の理】スキルの情報は不足気味だもんな。

 言うまでもなく倉庫内で錬成魔法を駆使しながらの作成だ。


「詳しく教えてもらえるかな」


 そう言いながら紙とペンを出して絵を描いていく。

 ああだこうだと修正しつつ、ちょっとゆっくり目で絵を完成させた。

 これを作業中の楽器に反映させるとノエルの理想とする楽器に近づけるという寸法だ。


 どうやら琵琶っぽい感じを融合させると、いい感じらしい。

 裏側全体が平らではなく下半分が丸みを帯びていた。


「凄いですねー。まるで実物を封じ込めたみたいな絵ですよー」


「「ホントだよね」」


 ダニエラが妙なことで感心し双子のリリーとメリーが追従する。


「これはエルフィンリュートじゃないのか?」


 ルーリアがノエルに問いかけると頷きが返されていた。

 ずっと旅をしてきただけあってエルフとも交流があったのだろう。

 そんな訳でルーリアにも話を聞いて熟練度がまだまだ低い【諸法の理】スキルを補完していく。


 とりあえず形はできたが、今のままではそれっぽい何かになるだけで理想の音色を紡ぎ出すことはないだろう。

 即席で作ったことがバレて変に思われる可能性も無いとは言えない。

 そんな訳で音の仕上がり具合を動画の情報と比較しながら神級スキルの【万象の匠】で最終的な形状を調整した。


「こんなのあるけど使ってみる?」


 すっとぼけて完成したばかりの品を引っ張り出してノエルに見せてみた。


「これ……」


 おー、驚いてる驚いてる。

 表情はあんまり変わらないんだけど。


 そっと手渡してみたが拒否される様子はない。

 良かった、ちょっと安心。

 ノエルは渡された楽器をジッと見入っている。


「ダメなら他の楽器もあるぞ」


 弦楽器ですぐに使えそうなのはギターと三味線だけだ。

 バイオリンなどは触ったことがないので音の調整に手間取るだろう。


「ううん。これがいい」


 暫く沈黙していたノエルだが、しっかりと返事をした。


読んでくれてありがとう。

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