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1224 石壁へGO

 新たな街道の敷設が終わると、頭の中からチビラソル様たちが消えた。

 試練は終わりってことなんだろう。


『ようやくか……』


 だが、油断する訳にはいかない。

 卵もどきがまだ残っている。


 つまりはラソル様のイタズラも続いているということだ。


『ウンザリどころかゲンナリだ』


 早く帰って癒やされたいところである。

 奥さんたちとか幼女組とかに囲まれたい。

 そうは思うが、まだまだ終わりそうにないのが現実だ。


『…………………………………………………………………』


 気を取り直すのに、やたらと時間がかかる気がしたさ。

 実際には数秒程度なんだけどね。

 体感では何十倍にも感じたさ。


 どうにか切り替えて準備を整えていく。


「まずは身代わりだな」


 自動人形を用意して外見が俺に見えるよう変身させる。

 もう1人の俺に制御させて後のことは任せた。

 俺自身は石壁の元へと向かわねばならない。


『行きたくないけどっ。

 すっごく行きたくないけど!』


 行っても石壁をぶっ壊す訳にはいかなくなったからな。

 まずは卵もどきの扱いをどうにかする必要がある。


『どうにかってどうすりゃいいんだよ』


 とりあえず見当をつけている正体が正しいか確認しないといけない。

 問題はその後だ。


『俺が保管しろとか言われても断固拒否するからなっ』


 その前に卵もどきの方が動き出しそうな気はするけど。

 とにかく、俺が行かないと始まらない。


 というより何も分からないのだ。

 選択肢すら思いつかんからな。


 ある意味、これもラソル様の試練だろう。

 試練と書いてるけど[イタズラ]と強引に読まされてしまう。

 そんな気がする今日この頃だ。


『現実逃避はこのくらいにしておこう』


 気持ちを切り替えて引き継ぎだ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「そういう訳で、後はこっちの俺にバトンタッチするから」


 ポカーンとしているミズホ組。

 ベル婆だけが面白いものを見たと言いたげに笑顔だけどな。


「まるで双子のようですね」


 クスクスと笑いながらベル婆が言った。


「どっちが本物の陛下なんだか……」


 ナタリーが唖然としている。


「幻影魔法は使ってない」


 神官ちゃんは、そのあたりを疑って魔法を見破ろうとしていたようだ。


「感触も人形とは思えません」


 ペタペタとシャーリーが俺の頬を触ってくる。

 ただし、何を思ったのか本物の俺の方だ。

 人形は俺の隣である。


「おいおい、俺は人形の方の俺じゃないぞ」


「えっ!? あっ、失礼しましたっ」


 焦った表情でガバッと離れるシャーリーさん。


「人形の方は確認しないのか?」


「えっ? あっ、あの、えっと……」


 ポンコツモードに入ってしまったらしく、即応は無理っぽい。

 どうやら、わざとではなかったようだ。


「大丈夫。

 感触は人間そのもの」


 しゃがみ込んで忍び寄っていたウィスが太もものあたりを触っていた。


「ウィスさんや」


「なに?」


 俺が呼びかけてもウィスは立ち上がらない。

 首を捻るようにして見上げてくる。


「しゃがみ込む必要があるのか?」


「目立たない」


 ボソッと返事をするウィス。


「まあ、姿勢が低い方が目立たないとは思うがな」


「ん」


 頷くウィスはドヤ顔だ。

 ただし、ウィスのことを知らぬ者たちには無表情にしか見えないが。


「至近距離だと逆に目立ってるぞ」


「っ!?」


 俺の指摘を受けたウィスは目を見開いたかと思うと、シュバッと飛び退いた。

 3人娘の後ろに隠れる。

 ベル婆たちから死角になるような形だ。


 女子組なら問題ないようなのにダメらしい。


「ここにいるのは全員が身内なんだから、いいだろ」


 フルフルと頭を振るウィス。

 女子組以外の面子にはまだ慣れていないからダメということらしい。


『ラフィーポで作戦行動していた時は平気そうにしていたのになぁ』


 どういう基準で人見知りを発動するのかがよく分からない。


「陛下、ウィスっちは目立つ行動をした後だから恥ずかしいみたいっすよ」


 3人娘のローヌが教えてくれた。

 言いたいことは分からなくもないが、他人がいる訳じゃない。


 どうにも腑に落ちず眉間に皺が寄ってしまう。

 それを見たナーエが──


「陛下の指摘も影響してると思うっす」


 ツッコミを入れてきた。


「人形とはいえ男の人に触ってたっすからねえ」


 ライネがフォローの説明を入れてくれた。

 要するに俺の発言がデリカシーがなかったということのようだ。


「……何というか、スマン」


 俺が謝るとウィスはフルフルと頭を振る。

 どうやら許してくれるらしい。


「とにかく自動人形の見た目も感触も人間そっくりなんですね」


 ここでベル婆が強引に入ってきた。

 空気を読んでいないように見えるが少し違う。


 これはベル婆の助け船である。

 多少の強引さがあるからこそ自分に皆の耳目を集められると踏んだようだ。


 その分だけウィスから注目がそれていく。

 ならば俺も乗っておくのが吉だろう。


「斥候型の自動人形は何者にもなれるようにしてあるからな」


 今更の説明であるように思えるが……

 斥候型は俺しか使わないから皆にスペックを公開していなかったのだ。


 古参組は知っているが、この面子は知らない。

 結果として、こんなことになった訳だ。

 反省せねばなるまい。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 どうにか引き継ぎを済ませて別行動となった。

 3号車での説明は比較的すぐに終わったようだ。


 もう1人の俺は1号車に操っている自動人形を乗り込ませて出発している。

 ボロを出す訳にはいかないので3号車には同乗はしていない。

 フェーダ姫あたりは下手をすると違和感を持っている恐れがあるのだ。


『勘がいいからなぁ』


 まさか俺が自動人形と入れ替わっているとは思わないだろうけど。

 それでも分からないなりに追求しようなどと考えられると厄介だ。


『とっとと終わらせて、また入れ替わるとしよう』


 石壁を目標にして飛んで行く。

 転送魔法は使わない。


 周辺の変化を自分の目で確かめるためだ。

 そういうこともあって、かっ飛ばす訳にもいかない。


『まあ、森のすぐ上を音速で飛ぶのもどうかと思うけど』


 衝撃波でとんでもないことになりそうだ。

 もちろん、そのあたりも配慮した速度で飛んでいる。


 が、今のところ何も見つからない。

 この速度に合わせて周辺をくまなく調べてみた結果だから見落としはないだろう。


 それ以前に、女子組が調査した範囲に入っている。

 ある方がおかしい。


 え? 地中深くの卵もどきは見つけられなかったって?

 それについては仕方がないだろう。

 地下レーダーなんてマイナーな魔法は教えてないはずだし。


 俺はむしろ皆が使わなくて正解だったと思っている。

 あれはアクティブソナーのようなものだからな。


 相手に対してノックしているに等しい。

 大勢で同時に使うと、どうなるかは言わずもがな。


 俺も今は使っていない。

 たとえ1人でも、ノックが繰り返されれば結果は似たようなもの。

 鬱陶しく感じるのは誰しも同じだろう。


 単独行動中であるが、卵もどきに余計な刺激は与えたくない。


『到着前に覚醒されたら敵わん』


 ということだ。

 そうこうするうちに石壁が見えてきた。


 減速降下して更に近づく。

 周囲の様子を探りつつ少し距離を取って街道部分へ着地した。


 遮蔽物のない所に降り立つのは無警戒と言われても仕方のないところだ。

 が、あまり慎重すぎてもラソル様の仕掛けが発動しない恐れがある。


 現に石壁から距離を取っただけで無反応だ。

 数歩だけ歩み寄ってみる。


「……………」


 特に変化は見られない。

 更に数歩。


「……………」


 まだだ。

 再び数歩。

 そんな具合に警戒しつつ近寄っていく。


 結局、目の前に来ても変化は起こらなかった。


「くっ」


 俺の慎重すぎる姿勢を見て笑われているのが目に浮かぶようだ。


「おちゃらけ亜神め、ムカつく」


 イラッとしながらも用心しつつ石壁に触れてみる。

 こういうタイミングで気を抜くと隙を突いてくるのがラソル様だからな。


『やあやあ、よく来たね』


 念話に近い感覚で頭の中に人懐こさを感じさせるラソル様の声が届いてきた。


『もう分かっていると思うけど、これはあらかじめ登録したものだ。

 よって君からの問いに答えることはできないことは先に了承しておいてくれたまえ』


 フハハハハという笑い声が頭の中に響き渡る。

 癇に障る笑いっぷりにイライラが積み増していくんですがね?


『そう怒らないでよ』


 相変わらず、どこまでもふざけた亜神である。


『教習所で缶詰にされているからね。

 ちょっとした息抜きくらいはあってもいいだろう?』


「良くない」


 思わず声に出してツッコミを入れていた。


『まあまあ、これでも役に立つことをしてるんだからさ~』


「……………」


 どの口がそれを言うのかと言いたくなったさ。

 言わなかったのは俺の考えることが完全に読まれてしまっているからだ。


 ギリギリと歯噛みすることさえ、ラソル様の掌の上だと思うと余計に腹が立つけどな。


読んでくれてありがとう。

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