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1221 調査結果で確信する

 ベリルママへも報告しておいた。


[ルディアちゃんも、しょうがないわねー。任せておいて、ハルトくん]


 シンプルなショートメッセージで返ってきた。


[すみません。お願いします]


 とだけ返信しておいた。

 文面は普通だったが、寸暇を惜しんでいるように見受けられたからだ。


『これ以上、邪魔すると怖いよな』


 ベリルママまで暴走されたら堪ったものじゃない。

 もはや俺にはどうしようもなくなってしまう。


 触らぬ神に祟りなしとはよく言ったものである。

 いや、言葉の綾だから祟られることはないけどね。


 なんにせよ、いつもなら続くはずのベリルママからの返信がない。

 それだけ忙しいってことだ。

 年末年始の休暇を捻出するために頑張っているのがよく分かる。


『あー、ヤバい……』


 どう考えてもラソル様が酷いことになるのは確定だ。

 ベリルママの仕事を増やした元凶みたいなものだからな。


 そして、今回はルディア様もお叱りを受けることになるだろう。


『暴走気味になったのがマズかったよな』


 メールの文面がまともだったらルディア様のことは報告しなかったさ。

 半分は自業自得と言えるだろう。


 残りはそうさせてしまったラソル様に問題があると思うけど。

 ダブルでお仕置きが確定だ。


 え? 犯人かどうか確定していない?

 それはもはや関係ないだろうな。

 ベリルママを怒らせたも同然だからな。


 ルディア様だってとばっちりを受けたみたいなものだから調査とか関係なくなるだろう。


『普段の行いが普通ならねえ』


 ラソル様だって回避できたことなのだ。

 まあ、イタズラをしないラソル様はラソル様じゃない気はするけど。


 何もこのタイミングで、とは思う。

 そこに妙な引っ掛かりを感じた。


 が、俺だってとばっちりで説教を受けたりお仕置きされたりは御免被る。

 自分のすべきことに専念しておくべきだろう。


 まずは奇妙な石壁の調査結果を確認するところからだ。


『結論から言えば、自動人形じゃ半端にしか分からなかったな』


 【多重思考】で呼び出したもう1人の俺が嘆息混じりに言った。

 やはりそうかと思ってしまう。


『ラソル様のすることだからな』


 向こうの得意分野で代理を土俵に上げて勝負しても勝てる訳がない。


『だが、あの石壁はハリボテみたいなものだってことは分かったぞ』


『ハリボテねえ……』


『中身までは分からんかった』


 それは仕方あるまい。

 ビックリ箱的に隠蔽しているんだろうからな。

 間接的な観察では見破れないだろう。


『直に見に行ってもダメかもしれないくらい隠蔽具合がハンパなかったからな』


『いや、それは大丈夫だと思う』


『そうか?』


『ここまでされれば、ターゲットは俺だと思わないか?』


 俺の拡張現実に干渉してきたくらいだ。

 その上、もう1人の俺の自動人形を介した調査も妨害してきた訳だし。


『言われてみれば、そうかもな。

 もはやラソル様が犯人で決定と見るべきか』


『そういうことだ。

 その上で俺がターゲットだと考えれば、どうだ?』


『そうか、なるほど。

 ラソル様のイタズラなんだよ』


 もう1人の俺が苦り切った声音で納得していた。

 俺も同感である。


『間近に接近すれば何かしら術式が発動しそうだな』


 その場合は、見破るまでもない状態になるだろう。

 碌でもない結果が待ち受けていそうでウンザリだ。


『そういう仕掛けはあってもおかしくないだろ?』


『今回のはイタズラにしちゃ控えめだもんな……』


 もう1人の俺と共に内心で嘆息した。


『『あれで終わりの訳がない』』


 ということだ。

 これ以上は直に見に行かないと、どうにもならないだろう。


 そうなると、あれこれと準備しておく必要がある。

 ストームたちを待たせたままだしな。


 何が起きるか分からない。

 どれだけ時間がかかるかも分からない。


 俺がいない状況でも3号車の面々を送り届けることは不可能ではない。

 ラソル様のイタズラと確信できた今ならね。


 この近辺に大きな危険はないと言えるからだ。

 得体の知れない何者かの仕業であることを考慮しなくて済むのは大きい。

 待ち伏せや襲撃、設置された罠などの恐れがなくなるからな。


 ちょっとした魔物はいるだろうが、そんなのはミズホ組の敵ではない。

 仮に亜竜クラスが来ても婆孫コンビがいる。

 単体なら苦労せずに仕留めるだろう。


 神官ちゃんやシャーリーがフォローに回れば数頭が相手でも問題ない。

 女子組だって全員が英雄クラスのレベルに達している。


 対応は可能だ。

 任せっぱなしにはしないがな。


 油断して足をすくわれるのは嫌だし。

 俺自身が痛い目を見るだけなら、まだ受け入れもするんだが。

 状況によってはミズホ組に被害が出かねないからな。


『そんな訳で、俺よ』


 石壁の方へは俺が行く必要がある。

 が、皆も放置できない。

 ならばミズホ組のガードをもう1人の俺に任せるのが次善の策となるだろう。


『分かってるって』


 何をすべきかなんて説明など不要とばかりに、もう1人の俺が言ってきた。


『みなまで言わずともってな。

 もう一仕事って言うんだろ』


『ああ、スマン』


『何を仰る、だな。

 水臭いことを言うなよ。

 同じ俺なんだからさ』


『そうだった』


『そんなことより大事なのはミズホ組だ』


『もちろんだ』


 何より優先されるのは言うまでもない。

 まあ、客人もいるので突出した優先度合いとはならないが。


『『[過保護王]の称号は伊達じゃない』』


 ということだ。


『俺が俺そっくりに化けさせた自動人形を操って俺として振る舞えばいいんだよな』


 もう1人の俺が言った。

 確かにその通りなんだが、ややこしい。


『無駄に回りくどい言い方をするなよ』


 恐らくは退屈な留守番になるから今のうちに茶目っ気を出しておこうとしたのだろう。


『ハハハ、すまぬ』


 こんな謝り方をするのだから、間違いあるまい。


『まったく……』


 愚痴をこぼすように言ったものの、本気で不満を持った訳ではない。

 もう1人の俺のしたことは単なる冗談ではないと分かるからな。


 これからラソル様の仕掛けに挑むのだ。

 心身ともに強張った状態を残さぬようにという気遣いでもあるのは明白である。


 裏側にある意味もすぐに理解した。

 そのあたりは俺自身だからこそと言えるだろう。


『じゃあ、細かいことを決めて別行動に移るぞ』


『了解した』



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 もう1人の俺とのミーティングは超高速で終わった。

 【高速思考】スキルを内包する【多重思考】スキルだからこそできる芸当である。

 が、ミズホ組を待たせていることに違いはない。


 え? 3号車の客人たちはもっと待ってる?

 それは仕方あるまい。

 再出発するまで、もうしばらく我慢してもらうしかなかろう。


 その時の説明役は俺じゃなくて、もう1人の俺が制御する自動人形だけど。


 まあ、記憶は引き継ぐのでリアルタイムで体験するかどうかの差でしかない。

 その気になればリンクを深くしてリアルタイムで記憶の共有も可能だが。


 とはいえ、それをする気は毛頭ない。

 2ヶ所の状況を同時に把握するのは神経を使うからな。


 ただでさえ気疲れするラソル様のイタズラに付き合わされるのだ。

 精神的に疲れるなんてもんじゃない。

 下手すりゃ3号車の方でボロを出しかねないだろう。


 まあ、説明が終わったら1号車に戻る予定だけどさ。


『念には念を入れて行動しないとな』


 予測不能なのがラソル様のイタズラである。

 振り回されると分かっていても動揺せずにいられる保証はない。


 だから、対応はひとつひとつ丁寧にやっていく。

 丁寧になんてやってられない精神状態になる恐れはあるがな。


 とにかく、そのためにはミズホ組の協力が不可欠だ。

 もう1人の俺と撃ち合わせたことも含めて状況の説明などを行う。

 それなりに多岐に渡る内容のため、些か時間がかかった。


 声に出して喋るとなると【多重思考】も役には立たない。

 会話を高速化することは叶わないからな。


 ある程度は早口で話せるだろう。

 が、そんなものは常識的な会話の範疇にすぎない。


 何倍にも高速化されるわけではないのだ。

 それどころか逆に聞き返す頻度が多くなりかねない。

 結局は会話時間の短縮にはつながらないはず。


 聞き手の側にも並外れた高い能力が要求される訳だ。

 ただでさえ、ややこしい話をしなければならない時に無駄に集中して疲れたくはない。

 俺も皆もな。


 ここを乗り切ればすべて終わりって訳じゃないんだ。

 ゲールウエザー王国の王都までストームたちを送り届けなきゃならん。

 エクスに扮したビルをジェダイトシティに連れて行くのは、その後だし。


 時間はかかっても普通にするのが一番ということは往々にしてあるものだ。

 現に普通に説明して聞き返されることはなかったからな。

 一通りの話が終われば、そろって同時に大きな溜め息をついていたけど。


「陛下に対する妨害行動だったなんて」


 ベルが呆れているのだから相当だ。

 普段はベルのブレーキ役であるナタリーもこの意見には同感なようで静かに頷いている。


「常識がない」


 神官ちゃんがボソッと辛辣なことを言った。


「同じく、そう思います」


 シャーリーも同意している。

 もちろん、この4人だけに留まらない。


「意味分かんないっすよ」


「そうっす」


「必要性を感じないっす」


 風と踊るの3人娘も同様の有様だ。

 残りのメンバーだけでなく女子組も、しきりに頷いていた。


 まあ、無理もない。

 ラソル様のイタズラに付き合わされたと知ったのだ。

 溜め息ひとつと軽い愚痴で済んだのであれば安いものだろう。


読んでくれてありがとう。

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