表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1232/1785

1219 犯人は……

 俺に対する隠蔽は続いている。

 厳密に言うなら拡張現実への隠蔽工作と言うべきか。

 いずれにせよ、女子組の状態は何も表示されないままである。


 だが、雰囲気が変わった気がした。

 何となくという感覚的なものだけどな。


 あえて言うなら空気が軽くなった感じだろうか。

 被さっていたものが取り払われたとも言えそうだ。


 とにかく皆への状態異常は解除されているものと思われる。

 容疑者が俺の想像通りの相手ならね。


 解除されなければ俺がどう動くかも読んでいるはずだ。

 皆にそれなりに負荷がかかっているはずだからな。

 女子組の動揺が何よりの証拠だ。


 それが分かっていて俺が対応しないとでも?

 犯人がラソル様であれエリーゼ様であれ、統轄神様に報告するまでだ。

 直に連絡するのは無理だからベリルママ経由だけど。


 そこまで考えて、ふと気になった。


『ん? 負荷……』


 そういう発想はなかった。

 どうして、そこに思い至らなかったのか。


 俺はどうしようもないバカだ。

 皆が精神的な圧力をかけられていたというのに。

 気遣うかどうか以前に気付けなかった。


 偵察の指示を出しておきながら、この体たらくとは。


『情けない』


 自分の間抜けさに苛立ちが募る。


 が、それを表出させてはならない。

 ようやくプレッシャーから抜け出せたであろう皆に更なる負担をかけてしまうからな。


 そのあたりは【千両役者】のスキルを使えば、どうとでもなるのだけは助かる。

 内心では煮えたぎるものを抱えてしまっていたけどな。


 これは自分の中で処理すべきことだ。

 たとえラソル様が犯人だったとしても、ぶつけてしまうのは単なる八つ当たりであろう。

 それも見越してのイタズラであるなら文句のひとつくらいは言うけどさ。


『見越してるだろうな』


 あのラソル様が計算していない訳がない。

 俺が文句を言えば──


「人として成長できたと思わないかい?」


 とか返してきそうだ。

 実にイライラさせられる。


 問いかけで返してきた内容が正論だからな。

 亜神として人を導くために試練を与えたみたいな感じで言われるとね。


『イタズラが目的じゃないかよ』


 建前を盾にしてくるとは卑怯千万。

 それを分かっていてやってると気付いてしまうから、更に腹が立つ。

 これも計算のうちで、もっと腹が立つ。


 エンドレスだ。


『おちゃらけ亜神のことを考えるのはよそう』


 腹を立てれば立てるほど術中にはまってしまうからな。

 これは逃げではなく、スルーだ。

 ラソル様がその点を煽ってきてもスルー。


 イタズラの天才に付き合って勝てるはずはないのだ。

 精神衛生上、最善手はそれだけである。


 向こうは年季も違うし。

 天才に努力と経験が加われば、付け焼き刃で対抗できるはずはないのだ。


 実に嫌な努力と経験である。

 そう考えるだけで眉間に皺が寄りそうになった。


『おっと、スルーだ、スルー』


 ラソル様が犯人と決まった訳でもないんだしな。

 限りなく濃厚になってきた気はするけど。


 とにかく気にすべきは女子組の方である。


「皆は大丈夫か?」


 今更だが女子組の面々に聞いてみる。

 彼女たちにしても明確に何か変わったとは分からないだろう。

 こうなることを事前に知っていたとしても、切り替わったとは気付くまい。


「言われてみれば……」


 俺の問いに反応したのは風と踊るのナーエだった。


「もやもやした感じがして気持ち悪かったっす」


 感じていたことをナーエが告げてくる。


『やっぱりそうか』


 精神面で負荷を受けていたのは間違いないのだ。

 単なる不安感や畏怖の感情ではなかったはず。


「状態異常だからな」


 しょうがないとは思わない。

 が、受け入れるしかないのも事実。


 それが分かっているのだろう。

 俺の返答に皆も諦観を感じさせるような脱力を見せた。


「でも、今は何ともないっすよ」


 ライネが不思議そうに訴えてくる。


「皆の状態異常が解除されたからだろう」


「あ、分かるようになったんすね」


 ローヌが勝手に納得して頷いている。


「いいや、俺の方はまだ解除されてないぞ」


「「「ええっ!?」」」


 声を上げたのは3人娘だけだったが、他の皆も驚いている。


「なんでっすか!?」


「どうしてっすか!?」


「どういうことっすか!?」


 3人が口々に問うてくる。

 なかなかの混乱ぶりだ。

 それだけ俺のみ変化がないのは信じられないのだろう。


 自分たちの状態異常が解除されていると聞かされていればこそだとは思うが。

 詰め寄らんばかりの3人娘。


 が、その頭がむんずと掴まれる。

 彼女らのリーダーであるフィズが両手で。

 足りない分はサブリーダーであるジニアが手伝って。


「うぎゃああああぁぁぁぁぁっ!」


「痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!」


「割れる割れる割れる割れるっ!」


 3人娘の叫びっぷりから、かなりの握力で掴まれているのがうかがえる。


「落ち着きなさい」


 フィズがツッコミを入れた。


 それと同時に両手へと力が込められていく。

 ギリギリミシミシという音が聞こえてきそうな掴みっぷりだ。

 ジニアもそれに続いている。


『ナイスコンビネーション』


 阿吽の呼吸であった。

 ヒョロッとさん1号2号と内心で呼んでいた頃とは大違いな力強さを感じる。

 相変わらずのヒョロッとさんぶりなんだけど大幅なパワーアップをしているからね。


 レベルアップした恩恵を受けている訳だ。

 それを受ける側は堪ったものじゃないけどな。


「「「ギブギブギブギブギブギブギブギブギブギブギブ────────ッ!」」」


 3人娘がそろって絶叫。

 そして、頭部はガッチリ固定されているために首から下で奇妙な踊りを披露する。


「やめてやれ。

 そこまですることもないだろう」


 ようやく手が離された。

 その場にへたり込む風と踊るの3人娘。

 言わなきゃ失神するまで続いたかもしれない。


『怖いなぁ』


「3人は調子に乗りすぎです」


 憤慨とまではいかないものの、フィズの鼻息は荒い。


「そうか?」


「そうです」


 力んで返事をする割に何故なのかは語られない。


『ああ、これは……』


 状態異常の影響だ。

 既に状態異常ではないから名残と言うべきか。


 何にせよ負荷がかかった影響がこんな形でも出ている。

 3人娘たちも同じだろう。


 まあ、フィズとジニアの握力に任せた制止によってローヌたちは鎮静化したが。


「お前も落ち着け、フィズ」


 そう言いながら3人娘を除く女子組にごく軽くデバフをかけた。

 興奮した状態が治まるように。


「申し訳ありません」


 デバフの直後に謝ってくるフィズ。

 自分の状態が普通でなかったことに気付いたようだ。


「謝ることはない。

 悪いのは、この状況を作り出した犯人だ」


 そして確信した。

 これはエリーゼ様の仕業ではない。


 皆に影響が残るようなことをするはずがないのだ。

 仕事を依頼する俺の精神状態にも関わってくるからな。


 え? ラソル様だって影響が残らないように調整してイタズラするだろって?

 それは時と場合によるさ。


 普段は確かにちゃんとケアしている。

 そういうフォローがあるから最終的にはしょうがないで終わるのだ。

 腹が立つしドン引きもするけどね。


 けれども、追い込むのが目的だった場合は話が違ってくる。

 それを確認する方法は簡単だ。


 皆のステータスを見ればいい。

 いくらなんでも、これが確認できないってことはないだろう。


『大丈夫だよな』


 些か不安になったのは相手が相手だからだ。

 油断すると足をすくわれるので気は抜けない。

 慎重に【天眼・鑑定】スキルを使ったが、こちらまでブロックされることはなかった。


『あっ』


 ここで自分のミスに気付いた。

 致命的なものではないが、俺の行動を読まれたのだけは間違いない。


『鑑定すれば良かったんじゃないか』


 拡張現実で表示される内容についても判明するからな。

 自動で表示される拡張現実の方が一度に確認できてお手軽なのだ。


 詳細は見られないが、そういうのは鑑定すれば済む話。

 まあ、どちらも一長一短だ。


 詳細を知ろうとするなら鑑定一択だが、個人個人で見ていくことになる。

 その分、人数が増えると手間暇がかかるし。


『しまった……』


 そのことで俺が厭うことを計算されていたようだ。

 今頃になって気付いてもな。


『やられたー』


 ラソル様の喜ぶ様が目に浮かぶようで腹が立つ。


 が、今はスルーだ。

 皆のステータスの確認をする方が先である。


[フィズ/人間種・ヒューマン+/レベル85]

[ジニア/人間種・ヒューマン+/レベル83]

[ローヌ/人間種・ヒューマン+/レベル82]

[ナーエ/人間種・ヒューマン+/レベル82]

[ライネ/人間種・ヒューマン+/レベル82]

[ウィス/人間種・ヒューマン+/レベル86]


『やっぱり……』


 風と踊るの面子で見ただけでもレベルが上がっている。

 今の彼女らが短時間の偵察でレベルアップなどする訳もない。

 西方じゃ英雄扱いされるレベルだからな。


 珍しい魔物と遭遇して倒した面子もいるから絶対とは言わないさ。

 ほんのわずかの経験値でレベルが上がる状態だったのかもしれないし。


 だが、全員となれば話は別だ。

 それも一気に3レベル。


 さすがに居残りだったベルたちはレベルアップしていないが。

 だからこそ偶然で片付けられる話ではない。


『これはもう確定と言っていいな』


 搦め手で予告もなくこんな趣味的な真似をするんだから。

 犯人は間違いなくラソル様だ。


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ