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1217 何かがおかしい

 女子組が戻ってきた時はどうなるかと思ったさ。

 ションボリ落ち込んでるんだもんな。


 それでも、やらねばならないことがある。

 偵察が終わっただけだからな。


 まあ、報告中に自信を取り戻してくれたけど。


『たったこれだけのことでなぁ……』


 よく分からない。

 だが、むしろ好都合である。

 状況は何ひとつ変わっていないからな。


 対応しなければならない以上は、ポジティブになれる今の方が安心できるというものだ。


「さて、落ち着いたか?」


 俺が声を掛けると、女子組が一斉にシャキッと姿勢を正した。

 誤魔化す感じや無理やり感はない。


「良さそうだな」


 ションボリの時と違って、纏っている空気が違う。

 全体的にキレのある雰囲気になっていた。


「では、質問の続きだ。

 石壁を作ったのはどんな相手だと思う?」


 自信を取り戻した状態でなら発想も柔軟になるかと考えたのだが……


「「「「「……………」」」」」


 返事がない。

 皆、一生懸命に考えようとしている様子がうかがえはするんだがな。


『そうそう都合良くはいかないか』


 俺は気持ちを切り替えるべく小さく嘆息した。

 控えめでないと皆が気にしてしまうからな。


『どうしたものかな』


 自問自答する。

 もう少し時間を与えて考えさせるか。


 これは限度があるだろう。

 時間がたてばたつほど危機感が薄まっていく恐れがあるからな。


 ただ考えるだけなのと、目的を持って行動するのでは緊張感に差が出てしまう。

 考えることに集中するあまりってやつだ。

 だからといって他のことへの注意が疎かになるのはいただけない。


 ならばヒントを出すか。

 できれば出したくないんだけど。


 今後のことを考えても、甘えが出るかもしれないのはマイナスだからな。

 それに女子組が必死になっている状態だし。


『目がマジっていうか……』


 ハッキリ言って怖い。

 こんな時にヒントを出すのは迂闊というものだ。


「せっかくノーヒントで考えていたのにぃ!」


 とか、クレームがついてもおかしくない。

 そうはならなかったとしても水を差してしまう恐れはある。


 ションボリから復帰してきたことを考えれば避けたいところだ。

 逆戻りはないだろうけどさ。


 それでも不機嫌になられたんじゃ気を遣うし、結果的には似たようなものだ。

 そうなると悟られることのないよう注意しつつ誘導するしかあるまい。


「なら、少し目線を変えようか」


 俺がそう言うと女子組の注目が集まった。

 一瞬ではあったが、ギラッとした目で睨まれた気がする。


『おいおい……』


 幸いにも「邪魔をするな」って感じの視線ではなかったけどさ。

 何というか、獲物を狙う獣といった雰囲気はあった。


 それを無視して話を続ける。


「今の状況で困ることは何だ?」


「「「足止めっす」」」


 風と踊るの3人娘が手を挙げることもなく即答した。

 それを悔しそうに見る他の面々。


 どうやら暗黙のうちに早い者勝ちのバトルとなっていたようだ。

 獲物を狙う獣モードが継続しているとは予想外である。

 一瞬で終わったものと思っていたのだが。


『餌は俺かよ』


 ツッコミを入れたいところだが辛抱だ。

 皆は闘志を秘めている様子だが、無理にそうしている節があるのだ。

 力みがあるというか。


 視線の鋭さや身に纏った空気なんかが、それを証明している。

 きっと、まだ萎えやすい状態なんだろう。


 意識して気合いを入れることで現状を維持しているものと思われる。

 変に刺激するのは良くない。


「理由は?」


「帰れないっす」


 ローヌが即答した。


『確かにそうなんだけどさ』


 そういうことを聞きたいんじゃないと言いたくなる。

 現にフィズやジニアは頭を抱えていた。

 ウィスは冷ややかな視線を送っている。


「迷惑してるっすよ」


 ナーエはパーティメンバーの微妙な反応に気付かず憤慨している。


「責任者、出てこいって感じっす」


 ライネもだ。


「ナーエは迷惑していると言ったが、本当にそうか?」


「もちろんっすよ」


 コクコク頷きながら返答してきた。


「なら、どうして押し通ることを提案しない?」


 石壁程度の魔法を破壊できないはずはないのだ。

 皆もそれは分かっている。

 もちろんローヌも。


「うっ……」


 にもかかわらず、ローヌはたじろいだ。


『気付いてはいるようだな』


 石壁周りの魔力の流れ方が普通でないことに。

 微妙な差なのでパッと見では気付きにくいはずなのだが。


『まあ、周辺の状況を調べるために魔力感知をしてたからな』


 偵察に出る前ならともかく、気付かない方がおかしいか。


 そして、気付いたからこそ手出しするのを躊躇う訳だが。

 これを臆病と言うなかれ。


 下手に触ると何が起きるか分からないと判断した結果だ。

 故に、あえて詳しくは調べなかったのだ。


 何も分からないと彼女らが思う中で慎重に動いたのは褒められて然るべきだろう。


『けど、単純に褒める訳にはいかないんだよなぁ』


 それを報告しない点がダメダメだ。

 帳消しにしていると言っていいだろう。


「あの程度の石壁を突破できないはずはないだろう?」


 皆もそれは考えたはず。

 魔力の流れのおかしさと天秤にかけることになったとは思うが。


「ううっ……」


 この問いかけにもナーエは答えられずにいた。

 本能的に石壁に触れるのがヤバいと感じているのだろう。


『しょうがないな』


「あの石壁が変だと感じているんだな?」


 観念した様子で頷くローヌ。

 他の面々も神妙な面持ちで頷いている。


 正直、気が重い。

 次の言葉は確実に皆を落ち込ませるだろうからだ。


 しかしながら、躊躇うわけにはいかない。

 ここで注意しなければ今後も異変に対して報告を怠りかねないからだ。

 皆の気持ちがどうとか考えている場合ではない。


「だったら、どうして報告しようとしない?」


 それでも厳しくはならないよう諭すように問いかけた。


 充分に伝わるはずだ。

 何がいけなかったのか。

 どうするべきだったのか。


 皆も分からないはずはないのだ。

 わずかとはいえ異変を感じているのだから。


「「「「「っ……」」」」」


 だから、俺の問いかけに偵察へ出た全員がたじろいでいた。

 1人の例外もない。

 こういう時に落ち着いていそうなウィスでさえも動揺している。


『ん?』


 違和感があった。

 女子組の面々は間違いなく動揺している。

 にもかかわらず落ち込む様子が見られない。


 今の彼女らの精神状態ならショボーンな状態になっても不思議はないのだが。


『どういうことだ?』


 さすがに変だと感じた。

 何かがおかしい。


 事前に調べなかったのが裏目に出たかもしれない。

 そう思いながら、拡張現実の表示をオンにした。


「……………」


 特に異常がない。

 アイコン表示がないから、それは確定情報のはず。


 それでも何か釈然としないものを感じるのだ。

 【多重思考】でもう1人の俺を何人か呼び出してみる。

 【天眼・遠見】で多方向から同時に見てみるが、やはり変化はなかった。


 綺麗サッパリといった感じで妙なものは何も見られない。

 俺の予想通りなら[暗示]とか[幻惑]あたりが表示されてもおかしくないんですけど?


 絶対に変だ。

 何がどう変なのか聞かれると返答に困るのだが、変だ。


 皆が動揺したままだからな。


『んんっ!? 動揺したままだって?』


 あり得ない。

 拡張現実をオンにしているにもかかわらず、何も表示されていないのだ。


 少なくとも[動揺]がなければおかしい。

 それとも皆が動揺している振りをしている?

 そんな必要が何処にあるというのか。


 咄嗟に全員が示し合わせたような芝居をするなど非現実的である。

 事前に打ち合わせしていたというのであれば話は別だが、そういう状況でもなかった。


 ならば考えられるのは……


『隠蔽だよな』


 それも俺の拡張現実を無効化させるような強力なやつだ。

 並みの相手ではない。


 というより、こういうことをしでかす相手は考えるまでもなく絞り込まれるというもの。

 亜神以上の存在だ。


 え? ラソル様で決まりだろって?


『そうとは言い切れないんだよなー』


 だって神様の教習所に行ってるんだぜ。

 統轄神様の監視下でサボってイタズラに来るとは……


『思えないとも言い切れないけどさ』


 いつもよりは確率的に低くはなるはずだ。


 こういう困難な状況だから燃えるはずとか言われると、何とも言えないところだけど。

 ラソル様らしいと思えるからね。


 何にせよ、統轄神様がどれだけラソル様を抑え込めるかが鍵になると思う。


 あと、ラソル様以外にも心当たりがあるんだよ。

 ラソル様と違ってイタズラじゃないんだけど。

 迷惑度では大差ないので似たようなものだ。


 え? そんな人いたっけだって?

 いるよ。

 面倒くさいという理由で仕事を丸投げしてくる人が。


 そう、エリーゼ様である。


 だとするなら何か仕事を押し付けられたってことだと思うんだが。

 今のところは、そういう気配がない。


 ただ、嫌な予感がしなかったのが誘導された結果だとしたらってのはある。

 今回はそのあたりまで誤魔化されていたってことになるからな。


読んでくれてありがとう。

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