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1216 女子組、ションボリする

「で、どうだった?」


 3号車から見えない死角に入ったところで聞いてみたが……


「石壁を中心とした半径1キロ以内に魔法を使える存在は確認できませんでした」


 無念そうにフィズが報告してきた。

 他の女子組も悔しそうだ。


「痕跡も見当たりません」


「そうか」


「申し訳ありません」


 フィズ以下、女子組はションボリだ。


 あまりの落ち込みように俺の方が悪いことをした気分になってしまう。

 特に何かした訳じゃないのに罪悪感が湧いてくるもんな。


「いや、気にすることはない」


「ですが……」


 簡単には元の状態に戻ってくれないようだ。


 まあ、これくらいでションボリがどうにかなるとは思っていない。

 それは承知の上で言っている。


「勘違いするなよ」


 キツくならないよう声のトーンに気を付けつつ言った。


「え?」


 それでもフィズは不安そうに聞き返してくる。


 フィズがこんな具合だ。

 他の女子組も、言わずもがなの状態である。


 例外的にウィスは平気そうにしていたけど。

 いつもの無表情にわずかの変化も見られない。

 ポーカーフェイスとはまた違う平常運転ぶりだ。


『大物だよな』


 人見知りするけど。


「偵察だけでなんでも完璧に分かるなら苦労はしない」


 俺がそう言っても、女子組の反応に変化はなかった。


「ならば問おう」


 ビクリと身をすくませる一同。

 何を問われるのかと不安を感じているようだ。


『重症だなぁ』


「盗賊はいないよな」


「はっ、はひっ」


 フィズにしては珍しく上擦った声での返事となった。


「断言できるのだろう?」


「それは間違いなくっ」


 フィズの返事に合わせるように女子組が一斉に頷いた。

 これについては自信を持っているようだ。

 頷きに躊躇いを感じない。


「ですが、魔法で隠蔽されているようなら何とも言えません」


 途端に自信なさげになる一同だ。

 元のションボリさんに戻ってしまった。


「あのなぁ……」


『どんだけ弱気になってるんだよ』


 とてもラフィーポの王城でひと暴れしてきたと思えない萎えっぷりである。

 ここまでくると苦笑を禁じ得ない。


「皆の目を欺ける魔法使いがそうそういるものか」


 ミズホ国民を除けば。


「いたとして、そんな奴が盗賊である訳ないだろ?」


 そう言われて女子組が初めて落ち着きを取り戻した。

 まだまだ普段通りとは言えない程度だがな。


「クドいようだが」


 前置きして注意を引く。


「偵察に行ったからって完璧になんでも分かると思うなよ」


 諭すようにゆっくりとした口調で言った。


「まずは盗賊でないことをハッキリさせたじゃないか」


 そう言って女子組の面々を見渡す。

 全員が神妙な表情で頷いていた。


「痕跡がないかも、くまなく確認したのだろう?」


 俺の問いに女子組一同が一斉に頷いた。

 それだけは間違いないとばかりにコクコクと何度も。


「次に周辺の魔力の流れがおかしくないかも調べたよな?」


 確認するように問う。


 これは学校で教えていることだからな。

 まだ履修していないことも考えられるので確かめておかないといけない。


 俺の問いに皆はしっかりと頷いていた。

 習ったのは間違いない。

 西方の冒険者なら、魔力の流れを感知しようなんてしないからな。


『ならば、どう確認すべきかは身についているはずだ』


「これについても何かを感じたりはしなかったんだよな?」


 またも頷く一同。


 ただし、今度は自信なさげである。

 自分たちが卒業というお墨付きを得ていないことを気にしているようだ。


「不安があるか?」


 この問いかけに明確な返事はなかった。

 頷きも頭を振ることもない。


 ただ、ほとんどの者が縋るような目を向けてくる。

 問いに対する返答がイエスであるのは疑いようもない。


『学校で厳しめに教えてるのが裏目に出てるかなぁ……』


 実戦で通用するようにと思ってのことなんだが。

 反動がこんな所で出てしまっているようだ。

 学校あるあるだな。


 ここで大丈夫と告げても、皆は安心しないだろう。


「それでいいんだ」


 俺はあえてそう言った。

 皆の不安は払拭されたようには見えないが、気にしない。

 俺の話に聞き入る体勢になってくれたからな。


「今の皆であれば、西方の魔導師など軽く凌駕しているぞ」


 女子組の面々がキョトンとした表情で固まってしまった。

 自分たちが、そんな領域にいるとは思っていなかったようだ。


「「「「「……………」」」」」


 沈黙の間が訪れる。

 漫画であれば「シーン」という書き文字がコマに挿入されただろう。


 理解が追いついていないようだ。

 言葉の意味は分かっている。


 だが、それを指し示す相手が自分たちであるということに理解が及ばない。

 彼女らの自身に対する認識が俺の評価よりずっと低いが故に。


 学校の講師陣が使う魔法を目の当たりにしているせいだろう。

 どうしても自分たちの魔法がまだまだ甘いという意識が根付いてしまっているようだ。


『講師と比較しちゃダメでしょ』


 生徒より上で当たり前の相手なんだから。

 比較対象が普通じゃないことも多々あるし。


 同格の相手と競い合って落ち込むのとは訳が違うと気付いてほしいところである。


『今回の一件で自信がついたと思っていたんだけどなぁ』


 敵国に乗り込んで暴れてくるなんて、そうそう経験できることじゃないんだが。

 それでも俺から言われるまで自分たちの実力を認識できていなかったとは驚きだ。


 学校での教育についても修正が必要かもしれない。

 まあ、このあたりは皆と相談して決める必要があるだろう。


 ひょっとすると変える必要がないという意見の方が多いかもしれないし。

 変えることになっても、どういう風に変えるかという具体案もない。

 案があっても、さじ加減は決めないといけないだろう。


 自分1人で決めるには荷が重い。

 というより、1人で決めると学校の方針がブレブレになる恐れがある。


 何人かで検討すべき案件だろう。

 即応性が求められる案件でもないしな。


「変に自惚れられても困るが、もっと自信を持って行動しろ」


 落ち着いた頃合いを見計らって言ってみた。

 反応は微妙なところだ。

 ただただ神妙な表情で聞き入るばかりではね。


 無視されている訳じゃないので話を続ける。


「周囲の状況の把握に関しては充分だ。

 大きな動きがないなら警戒の範囲を絞り込める」


 女子組がハッとした顔で俺のことを見てきた。


「何も発見できなかったなら、安全が確認できるまで警戒すればいい」


 異常なしを平穏とイコールと考える時点で間違いなのだ。

 感知できていない何かがあることを想定しておく必要がある。


「偵察の結果に落ち込んでいる暇があると思うなよ」


 若干の戸惑いが見られる。


「偵察の網を潜り抜けた何者かがいると思っているのだろう?」


 再びハッとした表情になる女子組。


「広範囲を調べた結果、排除すべき何かはなかった。

 大規模な集団や大型の魔物が敵である恐れはなくなったと考えていい」


 一同は真剣に耳を傾けている。


「何者かがいるかいないかは現状では不明だ。

 とはいえ、この状況下では存在することを前提に考えるべきだろう」


 女子組もそう思うからこそ落ち込んでいた訳だ。

 が、それが甘い。

 落ち込む前に考えるべきことがある。


「何かがいるなら、どういう相手が考えられる?」


 敵かどうかは判然としていない。

 しかしながら、石壁を撤去しようとすれば話は別だ。


 意味もなく魔法を使うとは考えにくいからな。

 目的があるから石壁が維持されている。

 それが取り除かれるなら相手がどう動くかは分からない。


『何がしたいのか不明だからなぁ』


 待ち伏せによる襲撃でないのは明らかだが。

 偵察に向かった女子組が森の中から可能な限り接近しても反応はなかったし。


 街道に姿を見せなかったからかもしれないが。

 あるいは石壁に手を出さなかったからとも考えられる。


 後者の方が可能性は高そうだ。


『となると破壊は下策か』


 藪を突いて蛇を出すことはあるまい。

 敵となることは充分に考えられるからな。


「言っとくが、分からないはなしだぞ」


 何人かは唸ったり身じろぎしたりしていた。


「謎の状況だからって受け身で通そうとするなよ。

 相手が何もしない保証は何処にもないんだぞ」


 それこそ、こちらに都合の悪い動きをする恐れだってある。

 そのことに気付いた女子組一同が表情を引きつらせた。


「相手が敵であると想定しようか。

 その場合、手持ちの情報で分かることがあるぞ」


「「「「「─────っ!?」」」」」


 愕然とした様子を見せる女子組の面々。

 何も分からなかったと思い込んでいるが故の驚きっぷりだ。


「皆の網にかからなかったんだ。

 相手が存在するなら隠密に優れた少人数である可能性が高い」


 俺の言葉に女子組が一同そろってハッとした表情を見せた。


『分からないことからも情報が得られることに気付いたか』


 次の瞬間には悔しさの滲んだ表情になっていた。


「「「「「─────っ!」」」」」


 何故、気付かなかったのかと言わんばかりに歯噛みしているのは無理からぬことだろう。

 コロンブスの卵的な発想が要求されるからな。


 知ってしまえば、どうということはないのだけど。


 ただ、悔しさを感じるのは悪いことばかりではない。

 これを教訓として更なる成長が見込めるからな。


『いい傾向だ』


「皆が丹念に調べてきたからこそ絞り込めた情報だということを忘れるな」


 その言葉に胸を張れとの思いを込めた。


「皆は何も分からなかったと思っているようだが、そうでもないだろ?」


 一斉に頷きが返ってくる。

 ヘッドバンギングかよってくらい激しかった。


 自分たちのしてきたことが無駄ではなかったと実感できたみたいだ。


『いい経験になったかな』


 次からは同じ状況に陥っても腐ることはないだろう。


読んでくれてありがとう。

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