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1212 信じてもらえない

 俺の方針に異を唱える婆孫コンビ。

 暗に俺が行ってくればいいと言っているようだ。


『普通は逆だろうに』


 常識的に考えるなら偵察は一国の王がするものではないのだが。


 ただし、それは西方の常識で考えた場合の話。

 ミズホ国の常識だと、こんなものである。


 それだけ2人もミズホ国に染まっていると言うべきなんだろう。

 国民になってからの日は浅い方なんだけどね。


『俺の過保護ぶりがそこまで酷いってことか?』


 否定したいところだけど、できないんだよな。

 俺が超のつく過保護だと知らぬミズホ国民はいないくらいだから。

 称号に[過保護王]なんて付いてしまうくらいだし。


 だからこそ、正反対の方針を打ち出しているように見えたのだろう。

 そんなつもりはないのだけれど。


「だから女子組全員で行ってもらうつもりだよ。

 もちろん、単独行動は厳禁ということにしてな」


 1人では不覚を取ることがあっても複数ならフォローし合える。


「「……………」」


 ベルもナタリーも俺の言葉を信じているようには見えない。

 明らかにジト目で俺のことを見ているもんな。


「陛下、実はもう調べ終わっているのではないですか?」


 ベル婆はそんなことを言い出すし。


「そうですね。

 そうとしか考えられません」


 ナタリーもそれに同意するだけでなく、断定調だ。


 まったくもって信用がない。

 いや、ある意味で信用されすぎてしまっていると言うべきか。


「そんなことはないよ」


 動揺することなく否定したにもかかわらず、疑いの視線は濃い。


「「信じられません」」


 即答でバッサリだ。


「おいおい」


 ウソは言ってないんだが、どうすれば信じてもらえるのだろう。


 え? 普段の過保護ぶりをどうにかしないと無理?

 それじゃあ、現状を乗り切れないってことじゃないか。


『勘弁してくれよー』


 嘆いても状況が好転する訳ではないのだけれど。

 途方に暮れるしかできそうにないんだよね。

 何を言っても信じてもらえそうにないからさ。


 それでも方針を変更することだけはしない。

 女子組にとって良い訓練になりそうだし。


 嫌な予感はしないというのも理由としては大きい。

 これらを説得の材料にしても婆孫コンビには通じないと思うけど。


『こういう時は付き合いの長い相手の方が信じてくれるんだけど』


 元日本人組なんかはその口だ。

 守護者組や妖精組もな。

 あとは奥さんたちやドワーフたちの中でも古参の面々とか。


 思ったより多いかもしれない。

 そういう面子と婆孫コンビとでは差があるのだろう。


 まだまだ俺のことを知らないが故の反応と諦めるしかなさそうだ。


『千里の道も一歩からと言うしな』


 決して信頼関係が築けていないからではないと思いたい。


 そんなことを考えてしまうと急に不安になってくるから困ったものである。

 自分のメンタルの弱さが情けないやら恨めしいやらだ。


 とりあえず信頼関係については考えないようにする。

 泥沼にはまり込みそうだし。

 現実逃避だろうが何だろうが、精神衛生上の問題を軽視する訳にはいかない。


 結論として強引に押し通すことにした。

 俺の方針に反対意見を述べているのはベルとナタリーの2人だけだし。


 1号車に乗り込んでいる一部の女子組は、むしろ命令が下るのを待っているほどだ。

 もし、ここに風と踊るの面々がいたなら催促されたことだろう。


「「「まだっすか、陛下」」」


 3人娘はこんな具合に詰め寄ってこようとするだろうし。

 まあ、フィズとジニアに抑え込まれるんだけど。

 一連の流れが目に見えるようだ。


「準備万端、いつでも行ける」


 隙をついてウィスが滑り込んでくるのを防げないことも含めてな。


 ただ、彼女らは2号車に乗り込んでいるので今の状況を知らない。

 バスが減速して徐行していることを訝しんではいるだろうけど。


 こんな具合に俺があれこれ考えている間、ベルたちは静かだった。

 時間にして数秒ほどと短かったのもあるけれど。


 向こうは向こうで何やら考え込んでいたようだ。

 わずかな時間の間に何かしらの結論に至ったらしい。


「ああ、そういうことだったのですね」


 いきなりベル婆が何の脈絡もなく独りごちた。

 想定外の事態である。


 俺は──


「は?」


 としか言えなかった。

 それだけ前後のつながりがなく、いきなりだったのだ。


『どうしたって言うんだ?』


 何がなにやらサッパリだ。

 俺の混乱ぶりを見てもベル婆はニコニコと笑みを浮かべるばかり。


「分かります、分かります」


 すべて分かりましたとばかりに、うんうんと頷くベル。

 向こうは勝手に謎が解けたようだ。


『謎はすべて解けた的なことを考えていそうだな』


 とすると、俺は犯人役ということになる。


 なんだか犯人すら知らない動機をでっち上げられそうで怖い。

 俺には見当もつかない推理を披露してくれそうなのでね。


 そういう意味では冤罪を訴える被告の気分が味わえそうだ。


 ただ、ベル婆の発している空気感は警察や検察といった堅苦しいものではない。

 普段は昼行灯かと思わせる能天気ぶりを見せる探偵少年といった感じだ。


 そういう意味では現場に居合わせた面子の1人にされてしまった気分である。


「どういうことでしょうか?」


 ナタリーが首を傾げた。

 現場にいた面子、その2だ。


「あら、悩むほどのことじゃないわよ」


 クスクスとベルは笑う。


「分からないから聞いているんです」


 憮然とした表情を見せるナタリー。


「そこは少し考えましょうよ。

 女子組が帰ってくるのを待つ間の退屈しのぎにはなるわよ」


 この探偵は焦らすのが好きなようだ。


「……………」


 ナタリーはジト目でベルを見た。

 その顔には、また始まったと言わんばかりの呆れが乗っている。


「面白そう」


 神官ちゃんがボソッと呟いた。


「ちょっと、シーニュさん」


 眉をつり上げるナタリー。


「無責任なことを言わないでください」


 経験上、碌なことにならないと察しているからこその反応なのだろう。


「退屈だから仕方ない」


「くっ」


 これに反論できないナタリーである。

 自身も暇を持て余すことを予感しているのだろう。


 神官ちゃんが俺の方を見た。


「私達も偵察に出る?」


「いや、4人は残るべきだろう」


 ストームやフェーダ姫を守る面子が必要だ。

 向こうも護衛の騎士たちはいるがね。


 それでも俺が送迎しているからには安全面の責任を持つべきである。

 その点については、うちの元ゲールウエザー組が残れば問題ない。


 うちの子たちの脅威になる気配も感じないし。

 俺も残るから万が一もないはずだ。


「だったら待ち時間は有効に使わせてほしい」


「俺は別に構わないんだけどさ」


 ストームたちの安全さえ確保してくれれば。


 俺の言葉に神官ちゃんが、ドヤ顔になった。

 まあ、いつもの無表情が少し変わった程度なんだが。

 それでもフンスと強めの鼻息付きなのでドヤ度の高さが分かろうというものだ。


「ぐぬぬ」


 反論できないどころか、ダメ押しを受けて悔しそうなナタリーさんである。


「いいじゃないですか。

 気分転換にもなりますし」


 シャーリーも参戦してきた。


『大丈夫なのかな』


 そうは思うが、バスを停車させなければならない。

 ちょうど良さげな場所を見つけたのだ。


「そろそろ止めるか」


「ここでですか?」


 聞いてきたのはシャーリーだった。


「ここだからいいんだよ」


「どういうことでしょうか?」


 首を傾げて聞いてくる。


「この先の見通しが悪くなっているだろう」


「そうですね」


「逆に後ろはずっと見通せる」


「ああっ」


 シャーリーが何かに気付いたようにハッとした表情を見せた。


「後ろから馬車が来た時のためなんですね。

 この先に何かトラブルがあると思わせるための位置取りですか」


 先が見通せなくても俺たちが停車していればトラブルだと思ってくれるだろう。

 でなければ、街道のど真ん中を占拠する形で停車などする訳がない。


『普通はね』


「そういうことだ」


「それは分かりましたが……」


 理解した割には歯切れが悪いシャーリーである。


「近くまで来たら、向こうの状況を確かめようと馬車を降りてくるんじゃないですか?」


 もっともな意見である。

 そうなった場合はバレてしまうだろう。

 この先に何もないことが。


「だから、あえて遠目にも分かりやすくしておくことで接近を躊躇わせるんだよ」


 後続の馬車に先がどうなっているか見せないための停車位置である。


「相手によるんじゃないですか?」


 穴のある策だと指摘してくるシャーリー。


「大きな隊商ならお節介を焼くために近づくことも考えられる」


 追随する神官ちゃん。


「そうですね。

 警戒心の薄い者たちも近づいてくるでしょう」


 同じくナタリーもだ。


「冒険者がこの辺りを狩り場にしているなら、間違いなく寄ってくるでしょうね」


 ベル婆などは楽しそうに笑っているし。


「それはないでしょう。

 最寄りの街や村から徒歩で来るには遠すぎます」


「あら、残念」


 そう言ったベル婆の表情は少しも残念そうには見えないのだが。


「でも、後続が来る恐れは消えない」


 それた話を神官ちゃんが戻してきた。


「だから、徒歩でも簡単には近寄れないようにするんだよ」


 俺は地魔法を使って後方の街道を見通せる範囲でグシャグシャにした。


読んでくれてありがとう。

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