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1207 自業自得の尻ぬぐい?

 受講者たちが俺の方を真剣な眼差しで見てくる。


 これから魔力掲示板の説明をしようとは思っているのだけれど。

 というより、説明をしていたつもりが受講者たちの反応から修正に切り替わった。


 警告が効きすぎたのは俺の責任だしな。

 放置すれば、ミスした時に隠蔽や誤魔化しをする者たちが少なからずいたと思う。


 元々はそういう意識の低い面々ではなかったようだけど。

 ビビらせすぎたせいで正常な判断を下せなくなっていたみたいなのだ。


『元の状態に戻すのに骨が折れるとは思っていなかったさ』


 半ば脅しに近い物言いもしたし。

 俺の罪悪感ゲージがグーンと伸びたのは言うまでもない。

 自業自得だから愚痴を漏らす訳にもいかないのがツラいところだ。


 まあ、それは呑み込むしかないだろう。

 それについては納得した。


 皆も修正を受け入れるのに時間がかかるだろうと待ちの体勢に入ろうとしたのだが。


『ん~、どういうことだ?』


 受講者たちの様子がおかしい。


 何がおかしいかと言われると返答に困るのだけれど。

 間合いというか空気にズレがある気がするのだ。

 俺は皆も修正を受け入れるために間を必要としていると思っていた。


 が、そういう雰囲気がない。

 急かすような空気すら漂っている。


 しかしながら、受講者たちに期待されるような目をされる理由に思い当たる節がない。

 早く魔力掲示板の説明に入ってほしいというのとは何か違う気がする。

 なんとなくではあるが、そう思うのだ。


 それでいて次の言葉を待っているのは明白な目をしている。

 思い当たる節がないか映像ログを確認しながら考えてみることにした。


 警告をしたら想定以上にビビられたところから高速再生で見てみる。

 【多重思考】でもう1人の俺を何人か呼び出して分析してみた。

 と同時に高速で脳内会議を開く。


『どう思う、俺』


『ビビられた時点では、今のような状態になるとは思えんな』


『そんなの当たり前だ』


『もっと後だろう』


『状況を整理するために、そこから再生しているだけだ』


『酷い言われようだな。

 俺だって、それを再認識するために言っただけなんだが?』


『む、そうか』


『それは悪いことをした』


『すまない、俺』


『いや、分かってくれればいいんだ』


『おいおい、悠長なことをしてる場合じゃないだろ』


 受講生たちを待たせているのは分かるんだが。

 俺を含め他のもう1人の俺たちも慌ててはいない。

 脳内会議を始めて今まで、コンマ1秒も経過していないからだ。


 さすがは神級スキルの【多重思考】。

 【高速思考】の上位スキルは伊達じゃない。


『慌てるな』


『泡を食っても原因の究明はできんぞ』


『だが、茶飲み話をするような感覚でもできないだろうな』


『これは手厳しい』


『しかし、俺が言うことも事実だ』


『確かにな』


 これで招集されたもう1人の俺たちが本腰になった。

 こうして会話する間も映像ログは超高速で何度も再生されている。


 それを見ている間に場の空気が弛緩したものになった。

 本気になった時の緊張感は何処に行ったと言いたくなる雰囲気だ。


『思うに、そんなに悩むことじゃなかったんじゃないか?』


『そうかもしれん』


『映像ログを再生し続ければ嫌でも分かったな』


『いやいや、1人きりじゃ煮詰まっていた恐れもあるぞ』


『無いとは言えんな』


『だが、まあ……』


『謎はすべて解けた』


『おいおい、ここで使うような台詞か?』


『謎というほどのことでもなかっただろう』


『トモさんがここにいたら真似してくれるかな』


『そりゃあ、頼めばしてくれるだろうけどさぁ』


『クオリティを気にするとは思うな』


『それよりも、決め台詞はそっちじゃないとか言うんじゃないか?』


『あー、言えてるー』


『どっちもあり得るな』


『甲乙つけがたいぞ』


 変なところで盛り上がっている。


『おい、俺よ』


『どうした?』


『なんだ?』


『今いいところなのにー』


『そうだぞ、俺よ』


『結論が出たのは分かった』


 俺も俺だからな。

 何を言っているのか訳が分からなくなりそうだが。


 もう1人の俺たちも俺がベースである以上、考えることは読みやすいし分かりやすい。

 タイミングにズレはあったりもするけどな。

 だから俺にも答えは分かったさ。


 要するに受講者たちはミス対応の仕方を具体的に説明してほしいと思っているのだ。

 分かってしまえば、どうと言うことはない。


『分かった途端にグダグダか』


『いいじゃんか』


『そうそう』


『万事解決、世に事案なしってね』


『マッタリするの最高ー』


 むしろ問題は別のところにある。

 それも、ふたつもだ。


 ひとつは──


『脳内会議は終了だ』


 で終わらせられた。

 横暴だとか許されざるとか、散々文句を言われたけどね。


 脱線するのが悪いと思う。


 で、もうひとつの問題。

 対応策の説明を求められることまでは想定していなかった。


『そこまで説明するとなると時間が余計にかかるんですがね』


 それも仕方あるまい。

 もう少し上手くやれていればとは思ったが。

 結局のところ、自業自得であるのだし。


「最初にすべきは間違いであることを周知させることだ。

 掲示板でその旨を知らせろ。

 コソッと修正だけして終わらせるなよ。

 そんなことをすれば、現場が混乱して収拾がつかなくなるぞ」


 必死な様子で頷く受講者たち。

 何だか脅しているようで居心地が悪い。


「修正はその後だ。

 単純で即座に訂正できるなら、間違いを周知させる時と同時でも構わない」


 そのあたりは臨機応変というやつだ。


「時間がかかるなら、まずはミスがあったと周知させるのを優先させろ」


「何故かは実演して見せたから分かるよな?」


 情報の伝達スピードが今までより格段に上がることを目撃したばかりだ。


 その分、より素早い対応が求められてくる。

 故に被害の蔓延を食い止めることが何よりも重要になってくる。


 そのためには間違いであることを素早く周知させることが肝要だ。

 訂正も早い方が好ましい。


 返事が鈍く感じたので、そのあたりも言って聞かせた。

 分かるだろうからなんて憶測で行動すると碌なことにならない。


「訂正に時間がかかりそうな場合や被害が大きくなりそうな時は上司にも報告しろよ」


 この返答にも躊躇いが見られた。


「それが隠蔽や誤魔化しにつながると知れ。

 そうすることの方が重大な結果を招きかねないぞ。

 もし、そうなれば王国への重大な裏切りになると思え」


 悲愴感の漂う頷きが返されたので信用度は高いと思う。

 だが、脅迫してるみたいで後味が悪いったらない。


 それでも言わなきゃならんのだけどね。

 大事なことだから。


 もちろん、その後も対応方法の説明を続けたさ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 気分はグッタリだった。

 延々と掲示内容のミス対応について話し続けたせいである。


 使い方についての具体的な説明が行えていないから、尚のこと気が重い。

 逆に受講生たちは引き締まった表情になっている。


 割と脅すようなことを言ってしまったかと思ったのだが。

 どうやら具体的に説明したことで安心できたようだ。


『俺1人だけ損した気分だな』


 思わず内心で愚痴ってしまう。

 同意してくれる相手もここにはいないしな。


 気持ちを切り替えて、すべき説明をクリアしていくしかない。

 メモライズ系の魔法を使いたくなったさ。

 混乱を招きかねないので使わんがね。


「じゃあ、使い方について説明していくぞ」


 表情を引き締めて聞き入る体勢に入る受講生たち。

 リラックスしろと言っても無理だろう。

 できれば堅苦しいのは勘弁してほしいのだが。


 この空気を作り出してしまったのが俺である以上、何も言えない。

 居心地の悪さを感じつつも説明を続けるしかなかった。


「文章の読み取りについては、ついさっき見た通りだ。

 文字を書いている面と魔力掲示板を向かい合わせにして軽く押し付ける」


 それだけのことなんだが、真剣な表情で頷きが返ってきた。

 罪悪感とない交ぜになったプレッシャーを感じるが、ここは耐えねばならない。


「紙を折り畳んで持ってきた場合は浮かないように注意してほしい。

 どういう結果になるかは、もう皆も十分に承知してくれているはずだ」


 一斉にブンブンと激しく首肯された。

 禿げショックの効果は抜群である。


 中には不安そうにしている者もいて、更に罪悪感を抱かせてくれたり。


 たかが紙1枚でこうなるとは思っても見なかったさ。

 まだまだ受講者たちのメンタルが安定したとは言いがたいってことだ。


 もちろん、フォローさせていただきます。


「紙なんだから逆方向へ折り返せば大丈夫だ。

 それでも不安なら折り目の上から定規や板を押し当てるんだな」


 そう言うと、不安そうな表情も和らいでいた。

 ちょっとしたコツを言っているにすぎないのだが。


「もうひとつ注意点がある」


 効果音が聞こえてきそうなほど、緊張した面持ちになる一同。


「急いでいる時に走り書きをしないこと。

 読めないだけならまだいいが、読み間違いを誘発しかねんからな」


 これにも激しい頷きが返された。

 当然だろう。

 情報伝達の恐ろしさを嫌というほど味わった直後なのだ。


 そう簡単に忘れられても困る。

 なんのために過剰にビビらせてしまったのかという話にもなってくるしな。


読んでくれてありがとう。

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