122 土下座が止まらない
改訂版です。
王女様に見つからずに転送魔法でミズホ国に帰ってくることができた。
新しい国民として連れてきた面々は適当な場所で転送魔法を使ったら混乱してたよ。
「なっ、なんでやっ!? 夜のはずやのに明るいでっ」
「どうなってんのよっ?」
特にアニスとレイナがこんな調子で騒がしかった。
時差の説明を忘れていたのは俺のミスなので強制的に黙らせる訳にもいかない。
「「「「「陛下~っ!」」」」」
トテタタターと駆けてきた子供組にピョンと飛びつかれた。
あっという間に幼女まみれになるが、こんなのはいつものことである。
「はい、ただいま~」
背後で新国民組が一斉にしゃがんだっぽいけど、なんでだ?
子供組に襲われると勘違いした……ということはないだろうし、変だな。
「ねー、陛下」
「んー?」
「この人たちニャんで土下座してるのかニャー?」
という三毛ットシーなミーニャさんの言葉で慌てて振り向くと確かに土下座している。
立っているのは平常運転なノエルと困惑した表情のルーリアだけ。
「俺にも分からん」
原因が分からないんじゃ、どうしようもないぞ。
「妖精の子供たちが賢者殿に飛びつく前に青ざめた表情をしていたが……」
ルーリアがヒントになりそうな目撃情報をくれた。
「そこから先は瞬時にこの有様だ」
ジャンピング土下座したのか。
「お姉さんたちは賢者さんが王様だということに今頃気付いたんだと思う」
ノエルが無表情なままでポソリと言った。
「は?」
思わず間抜けな声で聞き返していたよ。
いや、意味は分かるけど今更感ハンパないだろ?
ちゃんと建国したって言ったし、称号にも[建国王]ってあったでしょうが。
それにノエルとルーリアは気付いていながら普通に接してくれていたんだが。
どうしてこうなった?
女神関連の称号が非常識すぎて他の情報はすっぽ抜けたとか言わないでくれよ。
何であれ土下座は勘弁してほしい。
妖精組の時は四苦八苦させられたもんな。
ジェダイト王国でもそうだったし、先日のゴードンとケニーにも土下座された。
なんと土下座を見る機会の多いことか。
俺、日本じゃリアルで土下座なんて見たことないよ。
せいぜいが時代劇とかテレビのニュースくらいだよな。
ドルフィンの着ぐるみを脱いだローズに目を向けたが……
「くーくくぅ」
処置なーし、だそうですよ。
肩をすくめてお手上げをされてしまいましたよ。
「ねー、陛下ー。この人たち誰ー?」
ロシアンブルーなルーシーが聞いてくる。
「誰なの誰なの?」
尻尾ふりふり俺の周囲をちょこちょこ動き回るシェルティーのシェリー。
「「誰ですか?」」
パピヨンなハッピーとチワワのチーはハモって聞いてくるが、俺のズボンにしがみついて半身を隠すようにしている。
知らない人には人見知りになるのか。
「お客さんかニャ~?」
ミーニャさんは飛びついたまま離れないけど、単に甘えているだけだ。
「お客さんじゃなくて新しい国民だよ」
「「「「「おー」」」」」
「土下座してるのはどうしてー?」
ルーシーが聞いてくる。
「そうニャ。どうしてニャ?」
ミーニャも追随して聞いてきた。
「神様たちはいないのにね」
シェリーが不思議そうに首をかしげている。
「「ホントだね」」
ハッピーとチーもだ。
「本物の王様を直に見たことがないから、かな?」
そうとしか言い様がない。
「「「「「えー、変なのー」」」」」
子供組は不思議そうにしたままだ。
まあ、子供組はよその国のことなんて知らないし俺は身近な存在だからな。
そのあたりを説明するのは長くなりそうだから別の機会にするとしよう。
それよりも未だに月狼の友が土下座を維持したままなのを気にすべきだ。
俺なんて成り立てほやほやの新米国王だというのに。
「君ら、どんだけビビってんのさ?」
事実を真摯に受け入れようとしているからこそなんだろうけど頑なにキープされるのは困ったものだ。
こんなんじゃ仕入れてきた家畜を倉庫から出すこともできないぞ。
いや、子供組に任せればいいのか。
月狼の友は放置することになるけれど頭を冷やすというか落ち着かせるには時間も必要だろう。
「諸君、発表がありまーす」
子供組に向き直って呼びかけると横一列に並んだ。
「今回は馬と鶏を仕入れてきましたー」
「お馬さん!」
シェリーが瞳をキラキラ輝かせている。
そういやシェルティーって元は万能型の牧羊犬だったから血が騒ぐのかもな。
「「卵ですか」」
いまにも涎を垂らしそうな顔をしてハッピーとチーが俺を見上げてくる。
食いしん坊キャラだったっけ?
「ケーキだニャ、ケーキだニャ」
何故か万歳しているミーニャさんのお陰で食いしん坊疑惑の謎が解けたけど。
「そんなしょっちゅうケーキばっか食ってたら太って忍者できなくなるかもなぁ」
俺の一言でシェリー以外の子供組が打ちのめされたように四つん這いになってしまった。
「「「「ガーン!」」」」
「おいおい、禁止してるんじゃなくて程々にって言ってるんだよ」
「「「「シャキーン!」」」」
即座に復活するかね。
子供ながら素早い動きだったこともあって少しばかりルーリアが目を丸くさせていた。
切れ長の目だから少しの変化だと分かりづらいんだけど。
「面白い」
ボソッと呟いているノエルさんは言葉と表情が一致していません。
どう考えても無表情のままです。
すぐには無理だとしても子供らしく喜怒哀楽をハッキリ表現できるようになってもらいたい。
「外に出すから馬を落ち着かせてくれよ」
「「「「「はーい」」」」」
元気な返事を聞いた俺は倉庫から家畜を引っ張り出して睡眠状態を解除した。
想定していたとおり馬たちは知らない場所で目覚めたことでパニックを起こす。
鶏も似たようなものだが怯えよりも怒りの方が強い。
こういうのは一通り暴れれば勝手に落ち着くので理力魔法で囲ってやるだけで充分だ。
後は時間が解決してくれる。
馬は繊細だから同じような扱いをするとストレスでやられちゃうんだよね。
「ミーニャ、抑えて」
「どう、どう、なのニャ」
「ハッピー、そっち」
「うん、わかった」
「チーはこっち」
「まかせてなの」
今回はルーシーが音頭を取るようだ。
何にせよ頑張って少しでも早く馬たちを落ち着かせようと奮闘している。
「はいよー、シルバー」
乗ってもいないのにシェリーが妙なことを口走った。
ガクッときましたよ?
馬を走らせるときの掛け声でなだめようとするって、どうなのよ。
すぐに落ち着いたからいいんだけどさ。
「では君たちに任務を与える」
「「「「「ラジャー!」」」」」
まだ、何も言ってません。
「これより馬を誘導して厩舎へ連れて行きますニャ」
言わなくても指示の内容は見当がついたか。
後はカーラやキースに報告して全員で情報を共有するくらいだが飯食った後でもいいので急がない。
子供組が馬を連れて去ったが月狼の友たちはなおも動かない。
ふと、ガンフォールに会いに行っても同じなんだろうかと考えてしまう。
想像したくないわー。
なんだか放置したくなってきたが、そういう訳にもいかんよな。
ノエルやルーリアもいることを忘れてはいけない。
イタズラに付き合わせるのはハードルが高そうだし。
子供のノエルではなく、いたずらの経験がなさそうなルーリアの方がね。
ぼっちは誰が悪いって訳じゃないんだけど。
仕方ないので真面目に動くとしよう。
「ハリー、皆に帰ってきたことを知らせてくれ」
「了解です」
返事をしたハリーはシュッと消えて素早く行動に移った。
短い指示だが、紹介すべき相手がいることも馬とかのことも伝えてくれるだろう。
「ツバキは鶏を頼むわ」
「心得た」
理力魔法の囲いを阿吽の呼吸で切り替える。
「では、俺たちも行こうか」
皆に声をかけて移動を促す。
ノエルは特に表情を変えず俺を見ているので動けばついてきそうだ。
が、ルーリアは困惑した表情で月狼の友を見ている。
迷いを見せているルーリアの背中を無理矢理押して強制的に歩かせる。
「えっ、ちょっ、あの……」
「いいの、いいの」
笑顔で言いながら抗議を封じる。
「はい、行くよー」
ノエルもついて来た。
さて、月狼の友はどう動くかな?
読んでくれてありがとう。




