表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1219/1785

1206 副作用はあるか?

 爺さん公爵が受講生たちを見て短く嘆息した。

 しょうがないと自分に言い聞かせるように。

 それを見て出来の悪い生徒を見る校長先生のように感じたのは何故だろうか。


 俺は自分のデモンストレーションを失敗だと思ったのだが。

 カーターもほぼ同意していると言っていいだろう。

 俺に責はないと言ってくれてはいるが。


 爺さん公爵だけが、あれは間違いではないと思っている。

 まさかの展開だ。

 誰にとっても予想外。


 俺自身の想定を超えていた。

 カーターも読めなかった。

 受講者たちは尚のことであろう。


 爺さん公爵もこの展開は読めてはいなかったと思う。

 それでも受け入れるのは誰よりも早く柔軟であった気がする。

 自他共に厳しいからこそなのだろう。


「こういう結果になるとは思っていなかったのでしょうな」


 この台詞は、だからこそ苦笑を禁じ得ないものであった。


 向けられた相手は受講者たちであることは分かっている。

 それでも俺に向けられた言葉であるかのように感じた。


 半ば本能的に同意しているのだろう。

 そういう考えは思い浮かばなかったのだが。


 身内に甘いだけならともかく、他人にも甘いとは思わなかったが故に。

 むしろ他人には厳しいつもりだったのだが。


『甘いのかね?』


 自問自答した。


 どうやら親しい者やその関係者には甘くなるらしい。

 身内ほどではないにしてもね。


 だからこそ、苦笑が漏れそうになった訳だ。


『甘々じゃないか』


 自嘲せずにはいられなかった。

 【千両役者】の助けを借りて抑え込んだほどである。


 ここで笑ってしまうと、話がややこしくなると思ったのでね。


「そりゃあな」


 何でもないように見せながら切り返す。


「薬になるようにと思ってデモンストレーションしてみせた訳だし」


 だからこそ魔力掲示板が互いにリンクしているとは説明していなかったのだ。

 文章が読み取らせた掲示板だけでなく残りにも表示されるとは想像もつかなかったか。


 ただ、説明していたとしても結果は同じだったと思う。

 ここにいる面子だとファックスも触ったことがないだろうし。

 通信という概念を口頭で説明されてもピンと来なかったはずだ。


 まして表示されたのは、ほぼ同時のタイミング。


『一気に3面同時では度肝を抜かれたか』


 それだけ魔道具に馴染みがない証拠である。

 俺はそこをもっと慎重に考慮しておくべきだったのだ。


 カーターが言うように、不慣れでショックを受けるのも道理というもの。

 初心忘るべからずという言葉が頭の中に湧き上がってきた。

 罪悪感を引き連れて。


 些か可哀相なことをしてしまったとは思う。

 警告以上の結果になってしまった。


 やりすぎで副作用が出てしまうかは分からない。

 出そうな気もするが、どうしようもないとも思う。


『副作用が出ないことを祈ろう』


 今のところ分かるのは警告の効果が半減されないであろうことだけ。

 せめてもの救いと言えそうだ。


 なんにせよ、次は自重しよう。

 今回についてはスルーで行く。


 やってしまったものは仕方がない。

 爺さん公爵が言うように良い薬になったと思うことにする。


 ここで引き締めたものを甘くすると碌なことにならない気がするからだ。

 グダグダになるよりはマシなはず。


 そんな訳で受講者たち一同が復帰してくるのを待つ。

 爺さん公爵も自然に落ち着くのを待つようだ。


 一喝して無理にでも引き戻すのかと思ったのだが。

 そういう強引な気配は感じられなかった。


 ひたすら厳しいという訳でもなさそうである。

 爺さん公爵の中に緩急をつけるための基準があるのだろう。

 俺にはよく分からないが。


「………………………………………」


 待ったのは如何ほどだろうか。

 あえて時間を計ることはしなかったが、それなりに待ったと思う。

 受講生たちが、どうにかショックから抜け出してきた。


 説明の再開といこう。

 まだ注意点について話し終わってないのが、微妙なところだ。


『そこからリサーチして修正だもんなぁ……』


 先は長い。

 千里の道も一歩からとは言うけれど。

 ちょっと気が遠くなりそうだ。


「これで魔道具を使う上での人為的なミスの怖さが分かってもらえたと思う」


 コクコク頷く受講者たち。

 肝を冷やした分だけ骨身にしみているから、頷きっぷりも必死だ。


「ここにあるのは3面だが、設置予定はもっと多くなる」


「「「「「────────っ!」」」」」


 受講者たちが血相を変えた。


「皆の利便性を上げて効率を上げるためだからな」


 そう言うと、悩ましげな表情になった。


 仕事が効率化するのはありがたい。

 反面、魔力掲示板を使うのは怖い。

 そんな空気を漂わせているように感じたのは気のせいではないだろう。


 やはり、薬が効きすぎている。

 魔力掲示板を使うことにビビりが入っているのは確実だ。


 忌避感とまでは言わないが、これは問題だろう。


 便利になるように作ったものが利用を躊躇われたのでは意味がない。

 あるいは使うには使うがストレスの元になりかねないのも歓迎できない。


『これって確実に副作用だよな』


 せっかく注文を受けて作ったのだ。

 どうにか修正しないといけない。


「ミスが怖いか?」


 受講者たちに問うてみた。


「「「「「……………」」」」」


 返事はない。

 が、一同の表情が何よりの返答であった。


「間違った情報を扱わないようにしなければと思ってしまっているようだな」


 ビクリと反応があった。


「仕事に対する真摯さが感じられるな」


 【千両役者】の助けを借りて笑顔を作った。

 【天眼・遠見】でチェックするが、引き込まれる感じがして不自然さは見られない。

 特級スキルで熟練度がカンストしているだけはある。


 ただ、それは心理的にフラットな状態であればの話だ。

 デモンストレーションの副作用が見られる受講者たちには唐突だったと思う。

 そのせいか受講者たちの間に戸惑いが見られた。


 こんな具合では受け答えはおろか返事さえ期待できない。

 それでも畏縮した雰囲気は薄れていた。


『上出来だ』


 あとは馴染ませて印象を変えるための説得に入る。

 だが、ここで焦ってはいけない。


『こういう時は急がば回れってね』


「カーターの人徳だな」


 話が不自然にならないように注意しつつカーターに振った。


「いやいや、そんなことはないって」


 謙遜するカーター。

 その割に照れ臭そうに笑っている。


「私はカッツェの指導の賜物だと思うよ」


「何を仰いますか」


 爺さん公爵が否定する。

 いつもより澄まし顔になっているけれど。


『2人とも芝居は下手だな』


 俺も【千両役者】スキルがなければ似たようなものだとは思うけど。

 それでも乗ってくれたのは実にありがたい。


 芝居がかった感じになったのが逆に受講者たちの緊張を解してくれたようだし。


『これなら行けそうだ』


「ミスをしない者などいない。

 だから、それで畏縮するのは間違いだ」


 俺の言葉に受講者たちの困惑顔が見て取れた。

 間違いだと言われても開き直れるものではないからな。

 ふてぶてしく振る舞える面子も受講者の中にはいないようだし。


「大手を振ってミスをしろと言ってるんじゃない」


 困惑は薄らいだが、今度は疑問が浮かんでくる。


「ミスを減らす努力はすべきだ」


 当たり前のことだが、あえて言う。

 でないと、混乱しかけているようだしな。


「が、どんなに注意深く行動しようとミスは起きる」


 ここで一旦、言葉を句切った。

 大事なことを話すという予告のようなもの。


 受講生たちを見渡してみる。

 ちゃんと伝わっているようだ。

 しっかりと聞く体勢になっている。


 聞き逃すまいと必死の形相なのは仕方のないところか。


「そういう時にどうするかが大事なんだ。

 まず、間違っても隠してはいけない」


 戸惑いが見られるせいか、頷きはまばらだ。


「くれぐれも言っておく。

 隠すのは下策だ。

 誤魔化すのも御法度。

 事態をより悪化させるだけだぞ」


 悪化という言葉を聞いてギョッとした様子を見せる一同。


「責任を取りたくない?

 隠せば余計に責任を問われることになる」


 爺さん公爵が重々しく頷いていた。


「どう足掻いたって隠し通せるものじゃない。

 すべての魔力掲示板を密かに壊して回るつもりか?」


 生憎と壊れにくいようにしてある。

 破損しても再生するようにもしてあるし。

 そもそも数が多いから、簡単に壊せたとしても最後まで壊す前に捕まるのがオチだ。


「罰されるのは嫌か?

 隠したり誤魔化す方が何倍も重い罰になるぞ」


 更に深く頷く爺さん公爵。

 それを見た受講者たちは青い顔で頬を引きつらせる。


「正直者が馬鹿を見る世の中だが、ここはそうじゃないだろう。

 傷口の浅いうちに正直に名乗り出た方が損をしないんじゃないのか?」


 俺が指摘すると、ハッと表情を変えたがね。


「だったら、速やかに正しい行動をしろ」


 受講者たちが食い入るように耳を傾けてきた。

 モラル意識が高いようでなによりだ。


 カーターの薫陶があればこそなんだろう。

 あと、爺さん公爵の引き締めと。


 他の国もそういうところばかりだといいんだけど。

 残念ながら、そう甘くもないんだよな。


 バーグラーはその筆頭だった。

 他にもブレット、スケーレトロ、ラフィーポ。

 友好国より多いのが悩ましい。


 まあ、どの国も吸収されたけどさ。


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ