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1201 困ってます?

 目覚まし時計の起こし方を最後まで説明していく。


「あとは映像の明るさを徐々に強くすることで補助的な役割を持たせてある」


 本当は取扱説明書に記載されているがね。

 それをあえて説明するのは、2人が読まないコンビだからだ。


 今朝のことを反省して読んでくれればいいんだけど、そうもいかないんだよな。


 仕事で忙しいから昼間に読む暇などないだろうし。

 夜は翌朝に備えて少しでも睡眠時間を確保したいだろうし。


 何かを犠牲にするなら取扱説明書を読む時間だと思う。


 え? カーターならロードストーン戦記とか読んでいるはずだって?

 うん、それは否定できないね。

 趣味の時間はたとえわずかでも死守するだろうから。


 結果として、ますます取扱説明書を読む時間が削られる訳だ。

 より酷くなる訳だが、それを責めることはできない。


 誰だって趣味の時間を削りたくはないさ。

 仕事で忙しいなら尚更である。

 ストレスを少しでも発散しないと倒れてしまうことだってあるだろうし。


「そうだったのか……

 映像の方はおまけのようなものだと思っていたよ」


『あれだけ驚いておいて、おまけってどうなのさ?』


 思わずツッコミを入れたくなったが、スルーしておいた。

 カーターの言いたいことも分からんではないしな。


 音に合わせて流す映像が自然なものだったと評価しているのだろう。

 お得感のあるという意味でのおまけなら悪い気はしない。


「二度寝防止の意味合いもある」


「どういうことだい?」


「セットした時間よりずっと早く目覚めることもあるからな」


 早くても1時間以内ではあるが。


「あー、油断して再び横になるってこと?」


 恐怖の二度寝コースである。


「そうそう」


 これはカーターでなくても分かることだろう。

 誘惑に駆られた経験は誰しもあるのではないだろうか。


「明るければ寝にくくなるだろう?」


「そうだね」


 カーターが頷いた。


「それでも二度寝されると、さすがに起こしようがないんだよ」


「あー……」


 それが、このオーダーメイド品の弱点でもある。

 スヌーズ機能なんてないのだ。


 自然な目覚めを目的に作られているからね。

 スッキリ起きられるなら、普通は二度寝などしない訳だし。


 一応は複数の起床時間をセットできるようになっているけど。

 本来はそういう使い方をするためのものではない。

 曜日によって起床時刻が変わることを想定したものだ。


 ただ、どういう使い方をするかは本人次第である。

 当面は気付かないだろうけど。

 そこまでは取扱説明書を読み込んでいないはずだ。


 でなきゃ、俺を探して朝っぱらから激走したりはしない。


「なるほど」


 納得しつつも苦笑するカーター。


「だからベッドから出るまで動画が流れ続けたんだね」


 手動で止める手段もあるが、それなりに面倒である。

 初めての場合は取扱説明書とにらめっこで操作しないといけないだろう。

 熟読して完璧に覚えているなら話は別だが、それでも戸惑うんじゃないかな。


 そんなことをするくらいならベッドから起き出すだけの方がずっと楽である。

 登録者の動きを感知して自動で止まってくれるからね。


 今朝のカーターの場合は後者であるのは間違いない。


「そういうことだ」


「いやー、焦ったよ。

 どうすればいいのかサッパリ分からなかったから」


「取扱説明書をちゃんと読まないからだ」


「ハハハ、面目ない」


 誤魔化すように照れ笑いを浮かべるカーターである。

 時間ができるまでは読む気がないのを確信してしまった。


『しょうがないなぁ……』


 一体、何時になるやらである。

 旧スケーレトロを併合したばかりなのに、旧ラフィーポまで吸収してしまったし。

 そのくせ国力に安定感がないしな。


 時間がかかるのは仕方のないことだ。


『次からは魔道具に説明させるか』


 毎回それでは困るので、初回限定でやればいいだろう。

 強制的にチュートリアルモードに入る訳だ。


『まあ、そうそう注文が入る訳じゃないがな』


 その時は、そんな風に考えながら朝食の時間を過ごしていた。

 目覚まし時計の話題で持ちきりだったのは言うまでもない。

 お陰で他のことを考えられなかったし。


 思えば、それが罠だった。

 などということはない。


 どっちだよというツッコミが聞こえてきそうである。

 とにかく、目覚まし時計のことに気を取られていたことで油断していた。


 故に罠にも等しい誘導のされ方をしたと感じた訳だ。


 あ、ラソル様は関係ないよ。

 それは誰かが意図したものではないからね。

 単に目覚まし時計の仕上がり具合に満足したことが油断につながっただけだ。


 何がどうなったのかは朝食が終わった直後の話になる。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「困ったものだね」


 食後にお茶を飲んでいると、カーターがそんなことを言い出した。

 嘆息のオマケ付きである。


『おいおい、今度は何だよ?』


 内心でツッコミを入れる。

 俺に向けられた言葉じゃなかったからだ。


「仕方ありますまい。

 人手が足りておりませんからな」


 爺さん公爵と2人で既に仕事モードに入りつつある。


 俺に関係ないなら退散するのみ。

 そう思って席を立とうとしたのだが……


「ハルト殿っ!」


 立ちかけたところでカーターから声を掛けられた。


「どうしたよ、そんなに大きな声を出さなきゃならんか?」


 俺は近くにいるのだが。

 まあ、俺から退散する気配を感じ取ったが故の焦りからなんだろうけど。


「すまないが、相談に乗ってもらえないだろうか?」


「いいのか?

 内政干渉になってしまうぞ」


 そうでなくてもカーターの仕事は機密事項に振れるものが多いはず。

 いくら友達だからって、そういう情報を俺にさらけ出すのはマズかろう。


「いや、通常業務に支障を来す状況になっているんだよ」


「訳が分からん」


 何かトラブルでもあるのだろうか。

 そういう雰囲気は感じなかったのだが。


「個人間の連絡が上手くいかないんだ」


 そう言われて気が付いた。

 いや、思い出したと言うべきか。


「広いもんな」


 ここの王城は敷地面積がかなりある。

 おまけに、ついさっき爺さん公爵が言ったように人が足りていない。

 互いにカバーし合うにしても限度があるだろう。


 現に見張りの兵士などはピンチを迎えていたしな。

 あれは本人の名誉に関わる問題だった。

 たかが見張りの交代ひとつで、そんなことになる。


 他にも色々と問題が発生しているようだ。

 カーターたちの様子から察すればの話だが。


 少なくとも俺はそういう状況を把握していなかった。

 まあ、バスの中に引きこもっている時間が長かったからな。


 俺が城内を巡ったのはザッと1周だけだし。

 遭遇していない面子の方が多い。


 故に色々なトラブルを抱えていたとしても不思議はない。

 たまたま俺が出会わなかっただけだ。


「そうなんだよ。

 ここまで広いと不便でね」


 ガックリと項垂れてカーターは嘆息した。


「だからといって城を縮小する訳にもいかんだろう」


 王城は国力の象徴でもある。

 迂闊に減築でもしようものなら影響力は計り知れない。


 国民には不安を抱かれ。

 国外の者には侮られ。

 場合によっては侵略者を呼び寄せる結果につながりかねないのだ。


 しかも、そうなる恐れが非常に高いと言わざるを得ない。

 利便性だけを見た言動は将来を潰す。


 それを分かっていない者が政に関わるべきではないだろう。


「ハルト殿なら簡単にできそうだが、それは確かにやってはいけないね」


 カーターが苦笑することなく真顔で言った。


「弱みを見せることにつながりかねない。

 少なくとも現状を維持していると内外に思わせなければ」


 カーターはちゃんと分かっている。


「たとえ、それがハッタリだとしてもね」


 しかしながら、甘い部分がある。

 弱みを俺にさらけ出したのはいただけない。


「おいおい、それは俺に対しても言えることだろう」


 釘を刺しておく。

 俺には侵略の意図なんてさらさらないのだけど。


 これくらいは言っておかないと、認識の甘さに気付かないんじゃなかろうか。

 爺さん公爵も渋い表情をしているし。

 その割に苦言を呈さないのは首を傾げたくなるところだが。


「本来ならば、そうなんだろうけどね」


 カーターが小さくフッと笑った。


「ハルト殿が侵略を考えるなら、あまりにも回りくどすぎるんじゃないかい」


 2国をエーベネラントに併合させるくらいなら、さっさと支配した方が早い。

 そう言いたいのだろう。


 ぐうの音も出ない反論だ。


「まあ、いいけどさ……」


 不貞寝したい気分ではあるが、そうもいかない。


「それで相談って?」


「うん、それなんだよ」


 カーターが困り顔になった。

 わずかに笑おうとしているように見えるのは、少しでも元気を出そうとしているのか。


「人が少ないのは仕方がない。

 信用できる者なんて簡単には雇えないし」


 フランク一家は例外だ。


「雇えても人材育成には時間がかかるしな」


「それも仕方がないね。

 短期間でどうにかなるものじゃない」


 教える側も少ないからな。

 もし、大量に頭数を揃えることができたとしても混乱を招きかねない。


「そうなると業務の効率化が絶対的な課題になるか」


「そうなんだよ」


 カーターはそう言って重苦しく息を吐き出した。


「何も思い浮かばないんだ」


『なるほど』


 それで相談か。


読んでくれてありがとう。

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