1193 暇に飽かしてつくってみた結果
申し訳ありません。
停電で遅くなりました。
鉛筆が完成した。
え? シャーペンじゃないのかって?
お馴染みのカチカチするラチェット式じゃないからね。
捻って絞り出す代物をシャーペンと言ってしまうのは違和感があるんだよ。
芯が1ミリと細くなくて鉛筆に近いからというのも理由のひとつだ。
今もあるかもだけどロケット鉛筆ってあったよね。
感覚的にはあれに近い。
まあ、個人的なイメージの問題なので違和感を抱く人もいるだろう。
セールマールの世界の住人ならば……
けれど、ルベルスなら問題ない。
鉛筆を見るのは誰であっても初めてのはずだからな。
普及はしてないけど発明した人がいるかもしれないけどさ。
とにかく、これは鉛筆ってことにする。
替え芯型鉛筆と名付けるべきかとも思ったけどね。
採用しなかったのは、まどろっこしいからだ。
どうせ鉛筆と略して呼ばれることになる。
ならば、それで良しって訳だ。
「あとは消しゴムだな」
鉛筆ができただけでは意味がない。
繰り返し書いて消せる筆記用品がほしいのだ。
あれこれと鉛筆の仕様を模索している間にシミュレートは完了している。
【多重思考】でもう1人の俺を何人も呼び出しての人海戦術だ。
え? 人海戦術をとるほどのことかって?
まあ、ただ消すだけなら必要ないね。
それでも人海戦術でシミュレートしたのは色々と配合を変えたからだ。
消字能力はもちろん、カスの量やまとまり具合なんかを確かめるためにね。
消えにくいのが論外なのは言うまでもない。
よく消えてもカスが多いんじゃ意味がない。
では、カスがまとまりにくいのも採用しないのかというと、そうでもない。
カスの出方が少ないなら採用の目がある。
ゴミが少ないってことだからな。
逆にまとまりやすくても採用しないことがある。
消しゴムが割れやすいとか。
減りが速いとか。
何度か使っている間に紙を汚すことがあるとか。
最後のは消しゴムに汚れが残っているから起こり得ることだ。
何も書かれていないところでこすって汚れを落とせば予防できる。
ただし、その分だけ無駄に消しゴムを消費することになるけどな。
ケチくさい考えだが、この時に減りが速いとあっと言う間に使い切ってしまう。
そういうのをチェックしてもらっていた訳だ。
「サンキュー、俺」
『『『『『いいってことよ、俺』』』』』
いくつか候補が挙がっているので、あとは試作して実際の使い心地を確かめるのみ。
まずは試作品A。
柔らかくてまとまりやすいタイプだ。
完成した鉛筆の使い勝手も同時に確かめながら消してみる。
「消字能力は問題なし」
鉛筆の方も書き味が滑らかだ。
これならザラついた紙でも引っ掛からずに書けるだろう。
もちろん、折れる心配もない。
『芯を1ミリにして正解だったな』
だが、消しゴムの方に問題が出てきた。
「柔らかすぎたか」
最初のうちは良かったが、割れてきた。
2割と消費していない。
これはザラつきのある紙で使うとアウトだな。
ポッキリ折れてもおかしくない。
「ボツだな」
試作品Aは諦めて試作品Bに取り掛かる。
消すのは普通だ。
そんなにまとまる訳でもないが、その分だけ消しカスがわずかに少ない気がする。
それに試作品Aよりは割れにくい。
「でも、力を入れて消すと割れやすいか」
消しカスは割と集めやすいんだけどな。
「あ」
こすりながら集めてたら、その部分が消えてしまった。
間抜けなミスだ。
が、消しカスが柔らかいとやりかねない。
俺がやってしまったということは他の誰かもやってしまう恐れがあるということだ。
保留にするか微妙なところだね。
「試作品Cを試そうか」
普通に消せる。
消しカスはあまりまとまらないけど、試作品AやBより明らかに量が少ない。
消しゴム本体も汚れにくくなっている。
これなら紙が汚れる事故も減るだろう。
『それだけに、やっちゃった時のダメージがデカいけどな』
頻度的には少なくなるだろうから、ボツにするほどでもないか。
なお、試作品Cは更に割れにくくなってる。
まったく割れない訳じゃないけど。
乱雑に扱わなきゃポッキリは防げそうだ。
めくれるように小さい割れが剥がれ落ちることはありそうだけど。
「これは有力候補だな」
まだ試作品はある。
続いて試作品Dだ。
「………………………………………」
書いて消すを繰り返す。
「ふむ、今までより消える感じがするな」
確認するべく書いて消す。
「……………」
こする回数が明らかに少ない。
「うん、間違いない」
消字能力は今までで最高だ。
その代わりと言ってはなんだけど、消しカスはまとまりにくくなっている。
量が少なくてサラッとした感じだから軽く払うだけでカスは集められるけど。
消しゴムの先を見てみた。
消し続けた結果、ボロボロになっているなら使い勝手が悪いことになる。
折れや割れの元になるからな。
「……………」
注視してみたが、そういう兆候は見られない。
思った以上に丈夫なようだ。
異世界の素材で作っているというのが原因なんだろうか。
それを追及するつもりはない。
とりあえず使い勝手が良いのがあるんだから。
試作品が全滅するなら考えるけど。
え? より良いものは作らないのかって?
突き詰めれば切りがないから、今回はこれでいくさ。
改良品を作るなら、その時に考える。
「ふむ、割れにも強いか」
とにかく、手に取った時の感触とは印象が違った。
まとまりはないが、折れない割れないは重要だ。
ちゃんと消せるし。
それも力を込める必要がないのがいい。
消しカスが少ないのも好印象だ。
「これは最有力かもしれない」
ラストの試作品E。
あまり馴染みのある感触ではない。
手に取った瞬間にガチガチだと思った。
消してみる。
「……………」
消しカスがほとんど出ない。
消字能力はさっきより落ちた気がするが、普通の範疇だろう。
そう思っていたら、途中で消えなくなってきた。
消しゴムの先端を見てみる。
「あー……」
汚れていた。
何もない所でこすってリトライ。
「……………」
今度は消える。
消しカスはやはり少ない。
「……………」
また消えなくなってきた。
汚れを落として消す。
「……………」
やはり消える。
これは覚えのない感触だ。
試作品AからDまでは元日本人の記憶に残る消しゴムなんだけど。
この試作品Eは今まで使ってきたどの消しゴムとも違う。
消し続けていると、また消えなくなってきた。
『これが問題点だよなぁ』
些細な問題と思えるなら、これもありなんだけど。
試しに他のところを消してみる。
「へえー」
思わず感心してしまった。
書き込みの多い場所を選んだのに汚れなかったからだ。
何もない場所で汚れを落とすようにこすってから今の場所を消してみる。
「おー、ちゃんと消えるな」
汚れはしなくてもコーティングされたみたいになるかと思ったんだけどな。
そういうこともなかったようで何よりだ。
きっと魔物樹脂を使っているからこその特色なんだと思う。
「これは俺だけじゃ決められんな」
実際に使う人間に決めてもらうのがベストだろう。
が、いきなり現場に配布して回るのは混乱を招く元だ。
「まずはカーターに見せてみるか」
試作品の消しゴムに色をつけて簡単に見分けられるようにした。
試作品Cが水色。
試作品Dが黒。
試作品Eが青緑。
その上で、その場で納品できるよう鉛筆と一緒に錬成魔法でコピーを量産。
即決することも考えられるからな。
消耗品としては高いから絶対とは言えないがね。
さて、どうなりますか。
「勝負だ!」
いや、勝ち負けじゃなくて採用されるか否かだけどね。
意気込みとしては、そんなところだけど。
とにかく、見せてみなければ始まらない。
カーターの所へ持って行くとしよう。
俺はバスを降りてカーターのいる執務室へと向かった。
読んでくれてありがとう。




