1190 仕事を土産にしたようなもの?
諸々の用事を片付けて帰ってきた。
結論から言うと、お小言は数分で終了。
カーターには仕事が待ち受けていたからだ。
お小言と仕事、どちらが楽かは何とも言えないところである。
「いつもよりハードな気がする……」
食事の時にカーターが力なくぼやいていたし。
「すまんな、勝手に連れ出したのは俺なのに」
「いやいや、行くと言ったのは私だ」
苦笑と共に返されてしまった。
力ない感じではなかったので大丈夫だろう。
爺さん公爵もそれなりにコントロールはしているようだ。
まあ、カーターが倒れると影響が大きいからな。
それに仕事量が増えるのは仕方あるまい。
国土が増えたことで管理すべき情報量も増えた訳だし。
これでも、まだマシな方である。
旧ラフィーポ側にもファックスを置いてきたから正確な情報が入ってくるし。
新侯爵であるラドニー・エルアークの報告も分かりやすく的確なんだとか。
自分に何かあった時のために引き継ぎ用の書類を作成してあったそうだ。
それにしたって仕事が早いと思う。
魔道具の使い方が完璧に身についているのは間違いない。
簡単に説明してマニュアルは渡したけど、もう使いこなしてる。
引き継ぎ用の書類はそのままファックスで送れないことに気付いて対応してるもんな。
先にコピー用紙へコピーしてからファックスで送信してきたのだ。
もちろん、マニュアルにはそういう応用的な使い方は書かれていない。
「優秀な人材を得られたのは幸いでしたな」
爺さん公爵がしみじみとした様子で頷きながら言った。
「財政的に苦しい状況が続きますがな」
そう続けたのは、俺に対する牽制だろう。
これ以上の負担を増やしてくれるなという訳だ。
『俺だって好きでそうしてるんじゃないんだぜ』
何故かトラブルの方から俺に向かって来るだけなんだ。
[トラブルサモナー]なんて称号がついちゃったくらいだし。
弁明したかったが、そこは我慢した。
爺さん公爵も疲れてるみたいだったからな。
この爺さんにポックリ逝かれるとシャレにならん。
できれば楽隠居を存分に堪能してから旅立ってほしいしな。
でも、今はそれどころじゃない。
ただでさえ忙しかったのに今回の騒動で更に忙しくなった。
近いうちに旧ラフィーポにも顔を出すと言っていたし。
更に負担を増やす訳にはいかないだろう。
俺が足を用意すると言ったら固辞されたから尚更だ。
『頑固ジジイめ』
言い出したらテコでも動かんからな。
「近いうちと言っても、ヒガ陛下がお帰りになってからですぞ」
気にすることはないと言おうとしたら先手を打ってきたし。
しょうがないから疲労回復ポーションをセットで渡しておいた。
濃縮していないドリンクタイプだ。
飲みやすい味になっているが、そのぶん効果も薄まっている。
長期にわたって忙しいと分かっている状況では、その方が望ましい。
効果の高いものに頼り切りになると無理を続けることになる。
そういう状態だと疲労は抜けても精神面では負荷がかかったままになるからな。
短期なら気力だけで乗り越えられるだろうが、長期に及ぶとそうはいかない。
どこかでちゃんとした休息を取らないと病んでしまうのは目に見えている訳だ。
そういう訳だから連続服用しても効果が重複しないようにしておいた。
むしろ一定の時間内に次を服用した場合は強制的に眠ってしまうよう調整してある。
一種の安全装置だな。
ポーションだから装置というのもおかしいが。
「助かります」
なんにせよ、爺さん公爵にはありがたがられた。
台詞だけなら素っ気なかったんだけどね。
子供が見たら泣き出しそうな顔で言われたし。
『その顔、怖いって』
本人にしてみれば万感の思いを込めているつもりなんだろう。
「代価は貰ってるから気にするな」
「何を仰いますか。
このような格安で大量のポーションが手に入る訳がありますまい」
「心配しなくても製造原価は割ってない」
「真でございますかっ!?」
「こんなことでウソを言ってどうするよ」
「しかし……」
爺さん公爵が困惑している。
俺の提示した額が本当に製造原価なのか判断しかねているようだ。
ポーションなんて高価な材料をふんだんに使うことが多いからな。
品質を維持させる安定剤も使う材料しだいで日持ちが変わってくる。
もちろん、長期にわたって品質が保たれる安定剤はレア素材だから高くつく。
効果を高めるための素材は何種類もあるし。
それらも効果のほどはまちまちだ。
基本的には複数種類使う方が効果が高かったりもする。
使えば使うほど高価になるのは言うまでもない。
絶対に必要な素材が入手困難で高くつくケースもあるけどね。
強力な魔物だったり。
何ヶ月もかけて乾燥させてからでないと素材として使えないものだったり。
抽出に手間暇がかかるとか高価な薬品が必要なんてこともある。
とにかく、西方でのポーションの作り方には色々と面倒な部分が多い。
その代わりと言ってはなんだが、技術を習得すれば誰でも作成できるようになる。
魔力を込める工程も魔道具を使えば、魔法使いでなくても対応可能だ。
単純な魔力操作だから、そこまで高価な魔道具でもないみたいだしな。
自前で魔力操作ができるなら魔道具に頼らなくてもいいし。
魔力操作ができるなら魔術士未満の者でもいいようだ。
とはいえ、一定の品質に保つため魔道具を使う職人がほとんどのようだけど。
品質にバラツキがあると買い取る側に嫌がられるしな。
高品質品以外は売れ残ったとしても不思議ではない。
売れたとしても買い叩かれるのがオチである。
こんな感じで西方でのポーション職人は色々と苦労しているのだ。
ミズホ国では魔法を使って解決するから関係ないけど。
『そっか、爺さん公爵はうちでのポーションの作り方を知らないからな』
ミズホ国の常識は西方の非常識である。
必要な素材の種類からして違うし。
魔法を積極的に使うから手間暇もかからないときている。
そんな訳でコストは大幅に削減されているのだ。
「他国では無理だぞ」
西方人にはハードルの高い魔法を使いこなさないといけないしな。
うちじゃ学校のカリキュラムに組み込まれているけど。
「と言いますと?」
「詳細は国の機密事項だが、高度な魔法を使えば製造原価を落とせるんだよ」
「なんと!?」
「人件費はかかるが、そこはサービスって約束だからな」
その分を払うと言われても固辞するまでだ。
「……左様でございましたか」
ようやく爺さん公爵も納得したようだ。
「誠にありがとうございます」
「いいってことよ。
友達に倒れられちゃ困るからな。
引っ張り回した詫びの意味もある」
「何を仰いますか!?」
爺さん公爵は仰け反るような大仰な仕草で驚いていた。
『腰、大丈夫か?』
思わず聞いてしまいそうになったさ。
特に痛がったりはしてないし、問題ないみたいだけど。
まあ、普段からピシッと背筋が伸びてるからな。
「我が国の危機を救っていただいたというのに、詫びなど滅相もございませぬ」
「いや、でもなぁ……
カーターを無断で連れて行った訳だし」
「それは陛下が悪いのです」
爺さん公爵はカーターに厳しい。
「ヴァンを伴っておきながら連絡も寄越さないとは」
そう言って頭を振った。
「ダファル卿は責任を問われないんだ」
「あれにも問題はありますが、陛下の護衛が優先です。
陛下がお命じにならないのであれば、伝令などできぬでしょう」
「処罰はなしか。
そこが気になってたんだよな」
俺がそう言うと、爺さん公爵が呆気にとられたように口を開いていた。
「どうかしたか?」
「いえ、我が国の騎士の身さえ案じられるとはと感服したしだいにございます」
何だか爺さん公爵にまで優しいと言われているような気になってしまった。
まあ、お世辞もあるだろうけどさ。
あんまり自惚れていると碌なことにはならないと思っておいた方がいい。
それでも妙に照れ臭く思ってしまうのは、どうしようもないけどね。
「俺が勝手に振り回したからな」
「いえ、ですから──」
押し問答のような形になってしまった。
数分ほどで双方が引く形に落ち着いたけれど。
その数分間でやたらと気疲れしてしまったさ。
気を遣うのって、いつまでたっても慣れないものだ。
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『暇だ……』
することがない。
俺はゲールウエザー王国の王太子ストームの送迎をするだけだからな。
エーベネラントの王城で日がな一日を過ごす。
あれからカーターは食事の時も執務室から出てこなくなった。
食事は執務室に運び込まれている。
出られなくされているというのが正しい表現か。
いずれにせよ、俺と違って仕事が山積みだからな。
寝る時はさすがに寝室に行ってるようだが。
他に出られるのは用を足す時くらいか。
これじゃあ、俺が連れ出すこともできやしない。
やれば確実にカーターの仕事が増えそうだもんな。
『暇だー』
滞在予定に変更はない。
ゲールウエザーでの問題については既に解決済みだし。
故に助っ人として参加することもできない。
久々にシノビマスターの出番を作ってもいいかなって思ったんだけどね。
一件落着してしまっては介入できない。
そういう意味ではビルも帰れるんだけど。
アリバイづくりのために傭兵エクスとして今日もストームの護衛を続けている。
『アイツも暇みたいなもんだろうに平気なのな』
特に苦痛は感じていないようだ。
ストームが婚約者であるフェーダ姫と甘い時間を過ごそうが平然としていた。
仕事と割り切っている風には見えないのだが。
甘ったるい空間内にいても泰然としていられるのが凄い。
『鈍感か?』
そう思ってしまうくらいだ。
ビルも俺にだけは言われたくないだろう。
何せ、俺の称号には[鈍感王]があるからな。
「暇だぞー」
「無茶を言わないでください、陛下」
ナタリーにツッコミを入れられた。
「えー、退屈で死にそうだー」
「そんなことを仰っても、下手なことをすると邪魔になるだけですよ」
「う……」
「ここの皆さんは忙しいのですから大人しくしていましょう」
それを言われると、何も言い返せない。
俺だって皆の邪魔はしたくないからな。
人生に新たな道を見出したフランク一家も一生懸命に働いてるし。
トフルとイーラの夫婦は会計関連の以外の事務仕事も引き受けて大変そうだ。
ナトレはメイドとして忙しそうにしている。
妹のニーナがメイド見習いなので、そちらのフォローもしないといけないし。
見習いであるニーナは経験の少なさから処理効率は良くないからな。
でも、一家4人の全員が生き生きしている。
そこだけは良かったと心の底から思えた。
『俺は暇なんですがっ』
読んでくれてありがとう。




