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1178 人手不足解消法?

 目減りした地方の財政を回復させる方法が思いつかないとカーターは言うが。

 そんなに難しい問題でもない。

 全額は無理だと思うけどね。


「やらかした連中に賠償させればいい」


「あっ、そうか!」


 額に手を当てて、しまったという顔をするカーター。


「そういう連中なら間違いなく蓄財するよね」


「半分はな」


「そっか、本当の雇い主に吸い上げられるか」


「誤魔化して半分に抑えているけど」


 でなければ、9割方は吸い上げられているだろう。


「それなら無いよりはマシだろうね」


「本当は吸い上げた連中からも徴収したいんだけどな」


「それをすると、彼らの元領地に影響が出るか」


「そうなんだよ」


 商人と違って溜める蓄えるということを知らないからな。


「「はぁー……」」


 2人でそろって溜め息をつくしかなかった。

 その直後のことである。


「ひとつ、よろしいでしょうか?」


 それまで無言を保ってきたシャーリーが、そう言って会話に入ってきた。


「何かな?」


「その商人たちも山送りなんですよね?」


『山送りと言われると、重い刑罰のように思えないな』


 強制スローライフの刑も似たようなものだが。

 何にせよ、島流しよりも軽く思えるのは事実である。


 元日本人の感覚が色濃く残っているからだろう。

 祖父母の影響で時代劇は結構好きだったし。


「そうだな」


「現地で責任を取らせる必要があると思うのですが」


「神罰が下ったってことにしておく」


 これもなかなか大変だ。

 実行犯たる破壊工作員は商人の部下たちなので数が多い。


 幸か不幸か、嫌々やらされているのはいなかったが。

 そんな訳で遠慮することなく山送り決定だ。


 当然、依頼を受けた商人もね。

 家族親族も含めてだから大所帯になってしまったのが人数の増えた理由だ。


 跡継ぎやその権利を持つであろう者たちすべてが碌でもない連中だった。

 ほぼ全員が詐欺師なのだ。

 それ以外の奴らには盗癖があったし。


『まあ、クズ連中の手先だしな』


 先に送り込んだ連中と同類なんだから、むしろ当たり前の結果なんだろうけど。


 急遽、別の収容所をいくつか確保することになったのは面倒だった。

 上から下まで横の繋がりも含めて、まともな人材がいないのは嘆かわしい。


『人の仕事を増やしやがって』


 シャーリーにしてみれば、それどころではなかったようだが。


「それは……」


 神罰の言葉にシャーリーが浮かない表情になった。


「単に消え失せるだけなら領民も納得しないだろうがな」


「それで神罰ですか」


「他に良いアイデアがあるなら採用するぞ」


 俺としてもベリルママを都合よく利用しているようで気分は良くないし。

 西方人の感覚で神罰となると太陽神とか月の女神が念頭に来るんだろうけど。


『あと、裁きの神とかいるんだっけ?』


 狩猟に豊穣を司る神もいれば、魔法や商売の神もいるのだ。

 いても不思議はない。


 というより確実にいるだろう。

 単に俺が会ったことがないだけである。


 実際には神ではなく亜神なんだが。

 いずれにせよ、ルディア様や裁きを司る亜神の人には申し訳なく思う。


 え? ラソル様はどうなのかって?

 分かっているのに聞いちゃうかな。


 それがお約束だって?

 なるほど、お約束は大事だ。


 では、改めて。

 悪いけど、おちゃらけ亜神には申し訳ないなんて思わない。

 1ミリほどもね。


 それと悪いとも思ってない。

 これが他の相手なら酷い言い様なんだろうけどね。


 酷いことされているのは俺たちの方だし。

 いたずらで散々に振り回されてるもんな。


「他に案はありません」


 しばし考え込んでいたシャーリーは頭を振った。

 他の誰からも意見は出てこない。


 ただし、シャーリーは──


「そのことについては仕方がないと思います」


 と、話を続けた。

 何か他にも懸念すべきことがあるようだ。


 目で先を促す。


「経営者がいなくなった商会は潰れるしかないのではないですか?」


 シャーリーの言葉にざわめきが拡がっていく。

 気付いていない者が多かったようだ。


『さすがにシャーリーは着眼点が違うね』


 商人ギルド長を務めていただけはある。

 店が潰れたときの影響もちゃんと考えていた訳だ。


 まず、失業者が大量に発生することになる。

 この国ではクズほど大店を経営しているようだし。

 下っ端従業員は何も知らない者ばかりのため山送りを免れている。


 普通は無理やりにでも悪事に荷担させられそうなものだが、そうはなっていなかった。

 表向きは真っ当な商会に見せかけるため、あえて下っ端は普通に働かせていたのだ。


 でなければ、地方領主も連中を信用したりはしなかっただろう。


 では、悪事に人手が必要なときはどうするか。

 クズ貴族に依頼して犯罪奴隷を借り受けるというのが答えである。


 下っ端従業員に出番はない訳だ。

 そんな彼らが職を失えば、社会に及ぼす影響は計り知れないものになるだろう。

 治安も確実に悪化する。


 シャーリーの懸念も至極もっともであった。


「確かに彼女の言う通りだね」


 カーターも感心したように頷きながら同意する。

 そのあたりには着眼していなかったということだろう。


『そりゃあ、元商人ギルド長だからね』


 喉まで出かかった言葉は引っ込めた。

 本人に許可なく暴露する訳にはいかない。


 特にシャーリーは商売人として自信を失っているしな。

 バラしてしまうのは屈辱ではなかろうか。

 あるいは黒歴史を白日の下に晒されたときのような感覚か。


 いずれにしても、それに近いものを感じると思う。


 現にシャーリーは気まずそうだ。

 自分のことがバレるのではないかと冷や冷やしていることだろう。


「商会は国が没収する」


「「ええっ!?」」


 シャーリーとカーターがハモった。

 ただし、驚きの意味合いが違う。


 シャーリーは俺が解決策を用意していたとは思っていなかったようだ。

 純粋に驚いている。


 カーターは解決策はあるだろうと踏んでいた節があった。

 しかしながら、その内容がカーターにとっては突拍子もないことだったようだ。

 驚きつつも困惑しているのがありありと分かる。


「国営にすることで悪事に荷担していない平従業員を守るのが目的だ」


 ふんふんと頷くシャーリー。

 一方で頷けないのはカーターだ。


「ちょっと待とうか、ハルト殿」


 焦った様子で声を掛けてきた。


「言いたいことは分かるよ。

 ただでさえ人手不足なのに、そんな余裕はないと言いたいんだろう?」


 上がいない状態では従業員も働けないしな。

 しかしながら、代わりの人材を用意できる当てがない。


「そうだよ~」


 困り顔で情けない声を出して肯定するカーター。

 本当に余裕がないのだと誰の目にも分かる有様だ。


『重症だな』


「完全解消とは行かないが、手はある」


「本当かいっ?」


「ウソを言ってどうするんだよ」


「それでっ」


 身を乗り出さんばかりに聞いてくるカーターは珍しい。


「元奴隷たちがいるだろう。

 彼らの中には国の要職に就いていた貴族の補佐をしていた者も多いんだよ」


「おおっ、そうだったんだ!

 それは実に素晴らしいことだよ」


「すぐに商売人としてやっていけるかと言われると微妙なところだがね」


 しばらくは混乱状態になるのは目に見えている。

 それでも現場の人間がフォローすれば、どうにか切り盛りはできるはずだ。

 誰にでも初めてはあるし。

 今までの経験や知識を活用すれば、手も足も出ないなんてことはない。


 知識面でのサポートは俺もする。

 スリープメモライズを使ってね。

 違和感を抱かれるだろうから神託ということにしておくけど。


『神託の安売りみたいで気が引けるけど』


 そんなことを言ってられる状況じゃないしな。

 嫌なら辞めていいということにすれば、強制的な感じも少しは薄れるだろう。


「ただし、城の方にも元奴隷は残すぞ」


 カーターはすぐに頷いた。


「確かに、こちらも人手は欲しいよね」


「実務の分かっている人間がな」


「貴族の代わりを務めていたのなら申し分ないだろうけど、引き受けてくれるかな?」


「給金が安いって言うんだろ」


「そこなんだよぉ」


「交渉しだいじゃないか?」


「だから、それは無理だってー」


 情けない声を出すカーター。


「何も金額の多寡だけで考える必要はないだろう」


「というと?」


「人手が足りないのを逆に利用するのも一手だと思うぞ」


「は?」


 なに言ってんだコイツの目で見られたさ。


『カーターにこの目で見られるとはなぁ』


 まあ、説明を端折ってるからしょうがないけどさ。


「ここで借金奴隷だった者たちには家族がいる」


 余所では身内がいない借金奴隷も珍しくはないのだが。

 元ラフィーポ王国が抱えていた借金奴隷は必ず家族がいる。

 家族に借金を負わせて追い込み、奴隷を確保する手が使われていたからだ。


 追い込まれたことで収入が激減したり職を失った家族も少なくないはず。


「衣食住の確保を保証すれば人は集まると思う」


「そうだろうか?」


「目先の金よりも安定した生活の方を選ぶと思うぞ。

 借金で苦労しただけに、負債を抱えることを嫌がるはずだ」


「うーん……」


 カーターは腕を組んで考え込んでしまった。


「家賃がかからない。

 食費も不要。

 そして、着るものが与えられる」


「む」


「給料が安くてもマイナスにはならないから貯蓄も可能だ」


 無駄遣いさえしなければだが。


「確かにそれなら……」


 小さくな好きながら呟くカーター。


「だけど、話を聞いてもらえるだろうか」


 納得しつつも不安そうだ。


読んでくれてありがとう。

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