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1176 ズレてる普通と地方の動静

 城の築造は続く。

 というか、更地にさえなっていない。


「続いて行くぜ!」


 地魔法で地盤を固めながら隆起させた。

 これでようやく更地である。


「これで仕上げだ!」


 光魔法で城塞サイズの魔方陣を展開。

 もう1人の俺に依頼して倉で作成していた城を引っ張り出す。


「おおっ、一気に行ったね!」


 カーターが感嘆の声を上げた。


 イケメン騎士ヴァンは声もない。

 というか、目を見開ききって固まっている。


 2人が驚いている間に新しい城と地盤とを地魔法で接合。


「完了だ」


 パチパチパチと幾つもの拍手が起こった。


 うちの子たちは普通に。

 カーターは満面の笑顔で。

 ヴァンは呆気にとられながら流されるように。


 そんな有様なので、ヴァンは拍手が終わってから我に返る始末だ。


「はっ、一体なにが!?」


「今になって、それかい?」


 カーターが苦笑している。


「ハルト殿なら、これくらいは普通だよ」


「これがヒガ陛下の普通……」


 呆然とした面持ちで呟くヴァン。


「普通って一体……」


 そこは追及してはいけない。


「それこそ今更だよ」


「そうでしょうか?」


「考えてもみなよ。

 ハルト殿は、我が国からラフィーポ王国まで地下に道を通したんだよ?」


 そう言ってから、カーターが「おや?」と怪訝な表情になった。


「ハッハッハ、そういやラフィーポはもう王国じゃなかったね」


 刑が執行されたから王族はいなくなった。

 すなわち、今はエーベネラント王国の領土だ。

 話の本筋とは関係のない話だが。


 で、ヴァンの反応はというと──


「……………」


 こんな具合に黙りを決め込んでいる。


 ただし、表情は考え込んでいる感じではない。

 どちらかというと思い出したことに唖然としているように見える。

 端的に言えば瞠目かな。


 それを見てカーターは小さく笑みを浮かべた。


「そのことを思えば、この方が魔力消費は少ないんじゃないかな」


「まさか、あれも普通ということは……」


 不安そうに聞いているヴァン。


「どうだろうね?」


 カーターは首を傾げる。


「そこは私にも分からないよ」


 言いながら、こちらを見てきた。

 ヴァンも釣られるように俺の方を見る。


「普通というか、むしろ逆だぞ」


「なっ!?」


 愕然と顔に張り付けて固まるヴァン。


「規模が大きいってだけで、あれは別に難しいことはしていないからな」


「あー、複雑な造形をしている訳じゃないよね」


「そういうことだ。

 魔力消費量はそこそこ多いけど」


 その話を聞いて、ヴァンが少し安堵した。

 これで魔力はほとんど使っていないとか言ったら、どうなっていただろうか。


 実は回復スピードが上がっているので、そんな負担になっている訳でもないんだけど。

 超長距離のトンネルを魔法で何度も掘ったせいか【魔導の神髄】の熟練度が微増したし。


 神級スキルの中でも熟練度カンストが見え始めているだけはある。

 なんにせよ【魔導の神髄】様々だ。


「とりあえず、下に降りようか」


 サクッと庭に降り立った。

 即席で作った絨毯はもちろん引っ込めている。


「ああ、残念……」


 カーターが消えたはずの絨毯を見ようとするように地面を眺め入っていた。

 俺としては過剰品質のものを求められても困るので内心では冷や冷やなんだが。


「悪いが非売品だ」


 これで逃げ切るしかあるまい。

 あんなの西方の職人に見られたら引退とかされかねない。

 もっと小さいサイズなら息をのむとか、そういう反応で終わってくれるとは思うんだが。


「そうだよねえ」


 本当に残念そうだが、何が何でも欲しいという感じでもない。

 これ幸いと話題を変えることにする。


「それよりも城の中を見ていくだろ?」


「もちろんさ。

 ここで見ずに帰るのは勿体なさすぎる」


 絨毯より興味を引くようだ。

 何よりで、やれやれな気分である。

 俺たちは新しい城を見て回っていく。


「様式はうちらしくなっているね」


 周囲を見回しながらカーターが言った。


「でなきゃ、作り替える意味がないからな」


「そりゃ、ごもっとも」


 そう言ってカーターは「ハハッ」と乾いた笑い声を上げた。

 その間も俺たちは歩き続ける。


 部屋のひとつを見て──


「これは、元ラフィーポの面々には違和感だらけかもしれないね」


 カーターが真面目な顔でそんなことを言った。


「俺はこちらの方が落ち着きがあっていいと思うけどな」


「それは、ありがとう。

 余所じゃ地味とか散々に言われているから嬉しいよ」


「ここは特に華美な印象だったからな」


「あー、そうだね。

 謁見の間へとつながる扉なんかは特に」


 宝石で埋め尽くすとか発想が成金趣味丸出しである。

 しかも、切り絵のように宝石でアホな文言も書いてあったし。


 妙なところで自尊心が高かったからだろう。

 先祖から子孫まで連綿と受け継がれてきた思想信条は最後まで変わらなかった訳だ。


「ところで地方はどうなっているか知りたくないか?」


「おや、もう分かったのかい?」


 カーターが目を丸くする。


「まあね」


「それで、どうなのかな?」


 あまり期待している感じはないようだ。

 王城でまともなのがいなかったのだから無理もない。


「ある意味、納得がいく結果だ」


「そっかー」


 ガックリと肩を落とすカーター。


「待て待て、早とちりはいかん」


「えっ、でも……」


「一応は朗報もある」


「一応なんだね」


「期待しすぎると良くない」


「それもそうか」


 苦笑しながらカーターは「で?」という目をした。


「王都に近いほどアウトだ」


「ああー、そうだろうね」


 カーターが苦笑する。


「クーデターを起こしかねないようなのを近くには置かないかー」


「そういうことだな」


「じゃあ、真っ当な領主もいるんだ」


「国境線付近には」


「それも納得だ。

 うん、ハルト殿の言う通りだね」


「どういうことでしょうか?」


 ヴァンが聞いてきた。

 自分がこの場に残されるかもしれないからなのだろう。

 聞かずにはいられなかったようだ。


「一応は朗報だけど期待しすぎるとダメということさ」


「少しでも真っ当な領主がいるのであれば期待できるのではないですか?」


「ダファル、ハルト殿は国境付近と言ったのだよ」


 カーターにそう言われて怪訝な表情になるヴァン。

 国境付近の領主だから何だというのだろうかという疑問が浮かんでいるようだ。

 それを隠しきれないあたり、相当に焦っているものと思われる。


「ここの元国王が配置したなら最前線と考えるべきだよ」


「あっ」


 ヴァンも答えに辿り着いたようだ。


「現状では小競り合いなどにも発展はしていないがな」


「それならば悲観することもないのではありませんか?」


「変なのが送り込まれてるんだよ」


「まさかっ!?」


 驚愕に顔を歪めるヴァン。


「あのようなことを他国でも行おうというのですかっ?」


「アンデッドを使ったテロのことか?」


「はい」


 険しい表情で頷くヴァン。


「そこまでじゃないな。

 あれは軍隊を送り込むための陽動をかねていたし」


 アンデッドではないと知ったことでヴァンの顔から険しさが薄れていく。


「では、変なのとは何なのですか?」


 それでも警戒感が残っているのだろう。

 安堵するまでには至っていなかった。


「盗賊部隊ってところかな」


 戦争をするほどの規模ではないが、国境線付近に展開されているのがいるのだ。

 サッと顔色を変えるヴァン。

 そして渋面になるカーター。


「ちなみに、この連中は些か特殊でね」


「どう特殊なのかな?」


 カーターが問うてきた。


「隣国から越境してくる盗賊を装っているんだ。

 まあ、元々が犯罪奴隷だから装うと言うのも変なんだけど」


「自国に被害を出して何の意味があるというのでしょうか?」


 ヴァンが首を捻る。


「被害が大きくなれば地元民から領主への信頼が失われるね」


 カーターが言った。

 ヴァンの目が鋭く細められた。


「それを理由に処分するつもりですか」


「そんなところだろう。

 討伐しようにも隣国に逃げ込まれると手出ししようがないしな。

 失策が続けば、領民だけでなく王からの信頼も失われる。

 それがこれを画策した奴のシナリオなんだろうよ」


 誰が立案計画したかは知らないし知ろうとも思わないが、とにかく陰湿だ。

 よほど地方領主に恨みがあるのかもしれない。

 バーグラーが常習的に使っていた手口を真似つつ利用しているくらいだからな。


「ですが、ラフィーポは我が国を除いても隣接する国は多いです。

 隣国にこの部隊のことが知られた場合は厄介なことになりませんか?」


 自国の領土を利用されて妙な真似をされているのだ。

 陰謀と勘繰られて戦争へと発展することもないとは言い切れない。

 ヴァンが懸念するのはそんなところだろう。


「すべての隣国に対してやってることじゃないさ。

 北側の2ヶ国などは戦争をしたがらないだろうし」


 スパイが送り込まれているのはエーベネラント王国だけじゃないからな。

 そのあたりを察知するくらい訳はないということだ。


読んでくれてありがとう。

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