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1175 お仕置きは執行中

 呪いを刻み込んでしまえば、罪人を残しておく理由などない。


「では、行くがいい罪人共」


 輸送機へと乱暴に放り込んで離陸させる。

 上昇中に光学迷彩を展開。


「あ、見えなくなった」


「目撃されても困るんでな」


「それは確かに」


 話している間に輸送機を目的地に向けて発進させた。


「もう、行ってしまったかな?」


「ああ」


「ようやく終わったね」


「いいや、これからだぞ」


 俺が否定したことでカーターが首を傾げた。


「どういうことだろう?」


「まだまだ今夜中に終わらせないといけない仕事が残ってる」


「この国の統治なら、そういう言い方はしないよね」


 カーターが沈思黙考する。

 さほど待つことなくパッと目を見開くと──


「忘れていたよ。

 この城を作り替えるんだったね」


 苦笑しながら、そう言った。


「それもある」


「他にもあるのかい?」


「ここの連中が全員クズなら地方領主もその可能性が高い」


「ああ……」


 してやられたという顔になったカーター。


「それは失念していたよ。

 願わくばそうでないことを」


 あまり期待しているとは思えない感じでカーターが言った。


「そこのところは、どうなんだろうね?」


 恐る恐る聞いてくる。


「現在調査中だ」


 そう、調査中なのだ。

 もっと早くに収容所送りにできると思っていたのだが。

 半数近くは保留状態である。


 真っ黒な連中はさっさとクイックメモライズと呪いを叩き込んで運び出したんだけど。

 予想よりも、まともそうなのが残りそうである。


『意外だったな』


 まだ、シロと決まった訳じゃないので嬉しい誤算と言える状態ではないがな。

 仮にシロが確定した場合でもすべきことがある。

 この国はもうラフィーポ王国ではないからな。


 王族が運び出された時点で、そんな国は亡きものとなった。

 今からここはエーベネラント王国だ。

 そのことを自覚してもらわねばならない。


『神のお告げってことにしておくか』


 それが最も手っ取り早いだろう。

 王都に確認に来ることにはなるだろうが、少なくとも一笑に付すことはないはずだ。


「手回しがいいね」


「でなきゃ今夜中に終わらせられない」


「ハハハ、それは確かに」


 カーターは力なく笑った。


「ひとつ問題があるんだよな」


「え?」


「地方領主がシロだった場合の話だよ」


「あ」


 カーターも気付いたようだ。


「どうやって信じ込ませるかだね。

 喧嘩っ早い領主だと戦争になるかなぁ」


 困った表情を見せるカーター。


「そこは俺がどうにかする」


「それは助かるけど」


 そう言いつつもカーターは困り顔だ。


「心配しなくても戦争にはならんよ」


「どうするんだい!?」


「ちょっと詐欺的だが、国が滅んだことを神のお告げということにして伝える」


 ここであったことを夢の中で流せば信憑性も増すだろうか。

 逆効果かもしれない。


 夢の中に神様が現れたことよりインパクトがありそうだもんな。

 フィルターをかけて神様が見せている演出を強めに仕上げるとしよう。


「それは……」


 神のお告げと聞いて、さしものカーターも唖然としている。


「信じるだろうか?」


 やはり、そこが気になるようだ。


「幸いにして夜中だからね」


 困惑の表情で首を傾げるカーター。


「派手な夢を見てもらおうと思っているよ。

 それこそ神のお告げに相応しいほどの夢をね」


 カーターが「うわぁ」という顔をした。


「それは確かに詐欺的だね」


 少し苦め成分が多めで苦笑するカーター。


「でも、それだと確認のために王都へ来るだろうね」


「その時に俺たちはいないってことだ」


「あー、それが問題なのか」


「そゆこと」


「困ったねえ。

 代理を任せられる者を誰も残せなかったのが痛いよ」


「全員がクズだったんだから、しょうがない」


「いや、ごもっとも」


 2人して苦笑する。


「いっそのことダファル卿に残ってもらおうかね」


「ええっ!?」


 ヴァンが飛び上がらんばかりに驚いていた。

 まさか自分に話が振られるとは夢にも思っていなかったのだろう。


「ふむ、それは悪くない考えかも?」


 カーターにまでそんなことを言われてヴァンが途方に暮れた表情になった。

 イケメンが台無しである。


『まあ、勘弁してくれとは言えないよな』


 下っ端のツラいところである。


「これは最終手段にしようか」


「そうだね」


 ヴァンが目立たぬように安堵していた。


「ナイスなアイデアもないし、先に城を作り替えるとしよう」



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 城の中に残ったまま作り替えることはできないので外に出ることにしたのだが……


「あの……」


 堪らずといった様子でヴァンが声を掛けてきた。


「何かな、ダファル卿?」


「凄く落ち着かないのですが」


 困り顔で言ってくる。

 頬が引きつったりはしていないので恐怖を感じているのとは少し違うようだ。


 カーターの安全性を気にしつつも俺に遠慮して言えないといったところか。

 結局は言わずにいられなかった訳だけど。


「あー、そうかもね」


 足の裏に伝わる硬い感触はあるのに、足元には何もないんだから。

 俺たちは今、ラフィーポの王城より高い場所にいる。

 理力魔法を使って皆を浮かせているというか、足場を作っているのだが。


「絨毯でも敷こうか?」


 見た目の感じが変わってくるので多少は落ち着くと思うのだが。


「いえ、そこまでしていただく訳にはっ」


 ヴァンは恐縮している。


「気にすることはない。

 俺の配慮が足りなかったんだから」


 そう言いながら倉の中で特大絨毯を特急で仕上げていく。

 仕上がりスピードを追求して作った代物なので無地なのはお約束。


『どん帳みたいだな』


 学校の講堂にある舞台を仕切る幕だな。

 咄嗟だったこともあって、あれがイメージに混ざってしまい色は濃い赤だ。

 更にどん帳っぽい見た目になってしまったさ。


「全員分だと、こんなものしか用意できないが」


 言いながら引っ張り出して皆の足場になるように広げた。


「こんなものだなんて謙遜じゃないか」


 カーターが苦笑する。


「これだけの大きさなのに均一な質感なんて、ちょっと信じられないくらいだよ」


 無地の地味絨毯に言うことが大袈裟だ。

 そう思ったが、本気を出してしまった影響かもしれない。


 スピードだけを意識したことで他は無意識になってしまったのだ。

 普通なら疎かになるはずが、神級スキルの【万象の匠】さんが仕事してくれたようです。

 しかも、熟練度がベテラン級に達しているから……


「色使いが、また上品だ

 この大きさで色ムラもないなんて奇跡だよ」


 こんな風に評価されてしまったりする訳だ。


「滅多に見られる代物じゃないよ。

 さぞや名のある工房で作られた絨毯なんだろうね」


「まあね」


 たった今、俺が1人で仕上げたなんて言える訳がない。


『今からやろうとしていることに比べれば地味かもしれんがね』


「はいはい、それじゃあ終わらせちゃうよ」


 まずはオープン・ザ・トレジャリー。

 武器を出しまくって一斉に撃ち出す。

 瞬く間に瓦礫へと変貌していく王城。


 ただし、轟くはずの崩壊の音は宙に浮く我々には届かない。


「音をカットすると迫力激減だ」


「それなら、どうして音声結界を展開されたのですか?」


 ベルが聞いてきた。


「この距離でカットしないと、うるさくてしょうがないぞ」


「完全に遮断しなくてもいいと思うのですが」


「ごもっともな話だが、それだと約1名がどうなるか読めなくてな」


「あー、エーベネラントの騎士殿ですか」


「そういうことだな」


 会話をしている間に王城は瓦礫の山へと姿を変えていた。

 いや、山と言えるような状態ではないか。


 地下施設は言うまでもなく、更にその地下にある遺跡も破壊し尽くしたからだ。


 大きく陥没した場所に瓦礫を埋めたような状態と言うべきか。

 隙間なく詰め込んだことで体積が減った結果、こうなった。

 押し固めれば地盤を固めることにもつながるだろう。


 え? 遺跡の調査はいいのかって?

 完全に破壊しておいて今更な話だ。


 まあ、やったのは俺だけど。

 それに調査済みである。

 だからこそ埋めるの決定なんだけどな。


 アンデッドの研究施設なんぞ残しておける訳がない。

 しかも、量産を主眼に置いた研究を行う施設だ。


『碌でもないったらありゃしねえぜ、まったく』


 地上部分より入念に破壊させてもらいましたとも。


 ドリルっぽく抉ったり。

 高周波振動で切りながら粉砕したり。

 瓦礫に埋もれた後も、密かに地魔法でかき混ぜたり。


 万が一、掘り返されたとしても痕跡は何も発見できまい。


 安心安全を得るためだ。

 これくらい念入りにしておかないとな。


読んでくれてありがとう。

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