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1174 お仕置きタイム始まる

 カーターの思惑通りの展開になった。

 わずか数分ほどでというのが笑えたけど。


『いくらなんでも体力なさ過ぎだろっ』


 カーターも予想外だったらしく目を丸くして、それから苦笑いした。


「悪口のネタが尽きたとか?」


 上の連中はどいつもグッタリしているというのに、そんなことを聞いてくるカーター。

 それはないだろうと思いながらも聞かずにいられないといったところか。

 無理からぬところだ。


 上の連中は色々と規格外な存在だからな。

 より悪く、より低くという意味でだけど。


「カーターに向かって同じことを連呼していたのがいるだろう?」


「そう言われると……、いたね」


 その女も肩で息をして項垂れている。

 こちらを見る余裕すらない。

 全力を出し切ったというのが、ありありと分かる。


『根性、見せたじゃないか』


 あまりに短い時間だったため、とてもそうは見えないけれど。

 とにかく、自分の処遇に関することだけには必死になれるようだ。


 それは他の奴らも同じようである。

 回復してくる様子が見られない。


「あれを見れば分かると思うけど、単に体力がないだけだと思うぞ」


「いやはや、酷いものだね」


 カーターが頭を振った。


「私でも彼らより体力があると断言できるよ」


「自発的に収容所送りの輸送機へ乗り込ませるのは無理っぽいな」


「あー、すまない」


「大丈夫だ。

 やりようはある」


「どうするんだい?」


「こうするのさ」


 まず、俺は壁面ギリギリに接触するような特大ライトリングソーをセットした。

 リングではなくスクエアと言うべきかもしれないが。


「拡がれ」


 声に出してライトリングソーを動かす。

 何をするのか説明する手間を省くためである。


 イケメン騎士ヴァンでは難しいかもしれないが、カーターなら想像がつくだろう。

 色々と見せてきているからな。


 拡がりながら壁の中へと消えていくライトリングソー。


「続いて、分解」


 切り離した上の部分を消滅させる。


「「「「「───────────────!!」」」」」


 あるはずのものが目の前から消えたことで、上の連中が驚愕の表情で叫んでいた。


「なっ……」


 ヴァンなどは叫ぶこともできず呆然とするばかりだ。

 どちらがより驚いているかは分からない。


 が、いずれも度肝を抜かれたことだけは確かなようだ。

 対してカーターはどうかというと──


「おー、これは凄い。

 外が丸見えになってしまったよ」


 軽く驚いているだけであった。

 楽しそうに笑う余裕もある。

 慣れとは恐ろしいものだ。


 俺にとっては喜ばしいと言うべきだろう。

 毎度毎度、卒倒されんばかりに驚かれても困るからね。

 ヴァンは簡単には慣れてくれそうにない気はするけれど。


 ともかく、やることをやってしまおう。


「それで仕上げにこうすれば」


 言いながら謁見の間にスペースを確保する。


 まず、うちの子たちにハンドサインで壁際へ下がらせた。

 俺とカーターたちも壁際へ寄る。

 上の連中は隅っこに押しやった。


 その上で召喚魔法風に輸送機をドン!


「「「「「───────────────!!」」」」」


 再び騒ぎ出す上の連中。

 ただし、今度は鮨詰め状態なのでダメージを負っている。

 耳元で絶叫し合うような状態なら無理もない。


『アホだ』


 どうなるかの予測も満足にできんとは。

 まあ、得体の知れない巨大な物体が急に現れれば驚きもするんだろうけどさ。

 連中は無視して輸送機の後部ハッチを開放。


「おっと、忘れていた」


 最低限のスローライフ知識をクイックメモライズで叩き込む。


「「「「「───────────────!!」」」」」


 またも絶叫する連中だが、今回はダメージを気にする余裕がなさそうだ。

 驚きではなく酷い頭痛に耐えきれなくて叫んでいるからだろう。


「何をしたんだい?」


 不思議そうにカーターが聞いてきた。


「スローライフに必要な知識を植え付けただけだ。

 無理やり頭にねじ込むと、あんな感じになる」


「まるで呪いだね」


「本当の呪いは痛くないけどな」


「そうなのかい?」


 カーターが不思議そうに聞いてきた。


「痛みを与えるのが目的の呪いはその限りじゃないけどな。

 相手に気付かせたくないなら痛みなんて感じさせない方がいいんだぞ」


「おー、なるほど」


「連中が痛みを感じるのは知識を得る代償だ。

 あんな奴らに無料でくれてやるもんじゃないだろう?」


 無料でいいなら現場にノウハウ本を置いておけばいい。

 死にたくなければ必死で読むだろう。


「なかなか意地が悪いね」


 カーターが苦笑する。


「そんなことはないと思うぞ。

 楽して覚えられるんだからな」


「そこが意地悪なところだと思うんだけどね」


 喉を鳴らしながらカーターが笑う。


「実に素晴らしいと思うよ」


 否定されるのかと思ったら肯定された。


「本は読まなければ身につかないからね。

 読んでも身につかないことだってあるし」


 本人に気力と理解力が要求されるからな。


「意地悪どころか親切だと思うんだがな」


「それはブラックなユーモアだね」


 そんなことを言う割にはカーターの口振りも表情も皮肉な感じがしない。


「一時の苦痛だけで彼らは長生きできるんだからさ」


『そういうことか』


 確かにカーターの言う通りである。

 身につけた知識があることで連中は死なずに冬を越すことができるだろう。


 辛く苦しい思いをしながら寿命が尽きるまで長く苦しむことになるのだ。

 親切に見せかけて、実は冷酷な仕打ちをしていることになる。


「確かにそれは意地悪かもな」


「だろう?」


「これでも甘いと言われるかもしれんがな」


 フランク一家はお人好しなところがあるから、そうは言わないだろうけど。


 身内をスパイとして送り込まれた被害者家族であれば言うかもしれない。

 二度と奴隷にされた家族は帰ってこないのだから。

 事実を知れば、同じ毒ポーションを飲ませろと要求するかもしれない。


「それはあるだろうね」


「そんな訳で罰を追加しようと思う」


「どうするんだい?」


 見当もつかないのだろう。

 カーターは首を捻っている。


「いくつか呪いをかけるんだよ」


「おおっ、それはそれは」


 カーターがひとつ身震いをした。

 そして、待ちの体勢に入る。

 詳細なことまで聞こうとしている訳だ。


「そんな大層なものじゃないぞ。

 短期間で死ぬような呪いはかけないからな」


「そうだったね」


 少し肩の力が抜けたようではあるが、待ちの体勢は変わらない。


「ひとつは何を食べても美味しさを感じない呪いだ」


 カーターが首を捻る。


「旨さや甘さがなくなると考えればいい」


「ふむ?」


 まだ、想像が追いつかないようだ。


「何を食べても味気ないか不味いかしか感じないと言えば、どうだろうな?」


「うっ、それが死ぬまでとなるとキツそうだ」


「次は感情の反動が押し寄せる呪い」


「感情の反動だって?」


「怒りや喜びを感じれば感じるほど、後で罪悪感や虚無感を同じだけ感じる」


「それは怖いね」


 そう言いながらカーターが渋い顔をした。


「彼らじゃ早々に壊れてしまうんじゃないかな」


 それを危惧するからこその表情だったようだ。

 心が壊れてしまえば、死んだも同然。

 上の連中にとっては罰から解放されたに等しい。


「そこは心配いらない。

 精神が壊れそうになったら回復させる呪いも追加すればいい」


「回復なのに呪いなんだ」


「何があったかの記憶は残すからね」


「簡単には許さないってことかー」


「狂って逃げるなど許さんよ」


「これで終わりかな?」


「いいや、肝心なのが残っている」


「肝心な呪いだって?」


「この連中には後悔させねばならんだろう?」


「そうだね」


「自分たちが何をした結果なのか分からないのでは逆恨みするだけだと思わないか?」


 しばしの沈黙のあと、カーターは嘆息した。


「それは確かにそうだね。

 でも、理解しても逆恨みしそうだけど」


「そうならないようにする呪いがあるのさ」


「本当に?」


 カーターは半信半疑といったところか。


「ああ、悪夢を見せる呪いだよ」


「そう来たか」


 俺が返答した内容は想定外だったらしく、カーターは少しだが目を丸くさせていた。


 そして考え込む。

 が、すぐに答えが出たらしくコクリと頷いた。


「罪を悪夢にして認識させる訳だね」


「そういうことだ」


 自分たちのやらかしたことを悪夢として徹底して叩き込まれる訳だ。


「だけど、そこまで逆恨みに効果的なのかい?」


「呪いの悪夢だからね。

 反省なき愚か者には死んだ方がマシだと思うような恐怖心が湧き起こるようになってる」


「死の恐怖か……」


「それを乗り越えて恨みを抱き続けられるような奴は、あの中にはいないな」


 未だに痛みを乗り越えられずにいる連中を指差す。


「言えてるね」


 根性とは縁遠い奴らだし。

 俺は上の連中に呪いを叩き込んだ。


読んでくれてありがとう。

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