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1172 問題は多々残っている

 カーターがあっさり刑の内容を決めた。

 そこに異論はない。

 もちろん、不満もない。


 千メートルの高地で強制スローライフの刑。

 この内容を変えることの方が不満だ。


『だって、面倒だもの』


 何を置いても他の刑を考えるが面倒。

 これ以上の案を求めて議論するのも面倒。

 もう準備を始めているから、変更するのが面倒。


『そういうことなのだよ』


 自分に言い聞かせて決定する。

 いや、これに代わるものはないから言い聞かせる必要はないんだろうけどね。


「さすがは賢者ハルト殿だよ」


 納得し感慨深そうにしていたカーターだったが、不意にそんなことを言ってきた。


「ん? どゆこと?」


「私の知らないことを色々と知っていると思ってね」


「ああ、そういうことか」


 知識だけのエセ賢者ですけど、何か?


「たまたま知っていただけだよ」


「いやいや、謙遜だよ」


 そんなことはないと思うのだが。


「過酷な環境と言われても、私では出てこなかったよ」


「だから、たまたまさ。

 ロードストーン戦記は知らなかったし」


「それはそうかもしれないが、そこまでハルト殿が知っていたら私は立つ瀬がないよ」


「いくら何でも言いすぎだ。

 俺も詳しくないことがある」


 【諸法の理】で調べれば分かることだけど。


「えーっ、そうなのかい!?」


 本気でカーターは驚いていた。


「例えばどんなことが?」


 身を乗り出して聞いてくる。

 疑っているというよりは純粋な興味からだろう。


『刑の執行はいいのか?』


 まあ、時間的な猶予は余裕であるけどさ。

 あと数時間かけたとしても、ちょっと寝不足になる程度で済むだろう。


 もう1人の俺たちは夜通し働くことになりそうだけどな。

 王都はいいけど、地方の貴族が残っているからね。


『大国でなくて良かったよ』


 全員を把握するのが面倒くさいからな。

 王侯貴族に腐った連中しかいない国だけど、領地持ちの貴族も同じとは限らない。

 そこを見極めてからでなければ何も始められない訳だ。


 手始めに斥候型自動人形は送り込んでいる。

 スローライフの刑が確定すれば仕事が増える予定だ。

 強制的に島流しならぬ山送りは当然なんだけど、それだけでは終わらない。


 財産を没収して地元民に還元する準備を整えないといけないし。

 奴隷がいるなら解放すべきかどうか判定して処理する必要があるし。

 城や領主の館から有罪でない者たちを外へ退避させなきゃならないし。


 え? どうして退避させるのかって?

 ぶっ壊して建て直すからだよ。


 でもってエーベネラント王国の旗を立てる。

 今夜のうちにラフィーポ王国は滅亡するからね。


 既に滅亡したも同然はであるけれど。

 それが確定するのは刑を執行してからだ。


 え? 建物をそのままに旗だけ入れ替えるんじゃダメなのかって?

 あまりインパクトがないからね。

 受け入れられない面子もいるだろう。


 特に権力者におもねるタイプの商人とか衛兵とか。

 強く反発されて暴動でも起こされると面倒だ。

 制圧するのに怪我人やら死人が出るんじゃ寝覚めも悪いし。


 ならば最初にドカーンと衝撃を与えて歯向かうのは無意味だと思い知らせる方がいい。

 傲慢にして横暴であるとは思うがね。

 それでも変に抵抗されるよりはいい。


 ここはカーターの国になるのだし、負担は少ない方が楽だ。

 カーターにとっても統治される国民にとっても。


 その後が平和なら文句も出ないはずだし。

 運営次第では評判が良くなるだろう。


 そういう訳で国民には大きな影響がないようにするつもりである。

 それをするのは俺じゃなくてカーターなんだけど。


『また、仕事が増えるな』


 しかも悩ましい問題が出てきた。

 今まで以上に人材がないということだ。


 スケーレトロの時は、まだマシな者が残ったから良かったけど。

 今回はどうしようもない。


 何しろスッカラカンなのだ。

 領地持ちの貴族にまともなのがいたとしても焼け石に水である。


 地方は地方で運営しなければならない訳だし。

 まともだからと中央に引っ張ってきても抜けた穴を埋めねばならない。


 引き継ぎの手間もかかるし、引き継いだからといって上手くいくとは限らない。


 中央に連れて来て仕事ができるかも未知数だ。

 地方と中央では仕事の内容も手順も異なる部分が多いだろうし。

 俺が役所時代に経験した食中毒全滅事件の代理なんかが良い例である。


 それならば、まともな貴族はそのままにするのが妥当だろう。

 能力的に優れているなら昇爵させて他の領地を吸収してしまうのもありだ。

 まともな貴族が残る可能性は少ない訳だし。


 それもこれも地方貴族の調査が完了しなければ何とも言えないところである。


『願わくば、まともな貴族が少しでも多く残っていますように!』


 心の中で両手を合わせて祈ってしまうくらい切なる願いだよ。

 困った時の神頼みといきたいところだけど、それはできない。


 ベリルママが「はいはーい、お任せー」とか言ってどうにかしてしまいかねないからだ。

 ベリルママの過保護ぶりを考えると無いとは言えない。

 俺も人のことは言えないが、さすがにシャレにならんからな。


 だって、神様の依怙贔屓なんだぜ。

 そんなので無理を通すのは道理が引っ込むどころじゃないだろう。


『お前が言うなってツッコミを入れられそうだけど』


 それはともかくない袖は振れない状況はどうしようもない。

 上の連中を呪いで縛り付けて働かせたとしてもダメだ。

 その理由はカーターが既に語っている。


『奴らを使うくらいなら猫とか犬の手を借りた方がマシだな』


 仕事は何もしなくても癒やしにはなるし。

 邪魔にしかならない連中より遥かにマシだ。


「ハルト殿?」


 カーターに声を掛けられて我に返った。

 そういや質問されたきり答えてなかったな。


「すまん、考え込んでしまった」


 俺の詳しくないことが何であるかという質問だったか。


「西方の宗教関連の知識なんかは門外漢だぞ」


「へえー!」


 意外そうに目を丸くしているカーター。


「ミズホ国はどちらかというと一神教に近いからな」


「そうなのかい!?」


 カーターは、ますます目を丸くする。


「では、光の神が主神としてすべてを司っていると?」


『ぶほぉっ!』


 咄嗟に【千両役者】を使って耐えましたよ。

 でなきゃ、リアルで吹いていたのは間違いない。


『おちゃらけ亜神が主神って……』


 突拍子もなさ過ぎるというか、イメージにないからな。

 ギャグにもなりゃしない。


 だって、イタズラばかりしてて仕事はやらされてる印象しかないぞ。

 もしくは、お仕置きの一環だよな。


 義務は果たしているとは聞いているけれど、少なくとも主神ってガラじゃない。

 そういうのは、ルディア様の方がイメージ的にしっくりくる。


『ああ、でも……』


 新たな管理神になるために神様の教習所に通っているのはラソル様なんだよな。

 そうなると、主神というのも変ではないのか。

 それが実現するのは余所の世界でだけど。


 だとしても、やはり似合わないと思ってしまう。

 根付いたイメージを変えるのは並大抵のことではないからね。


「光の神と思われている存在は、うちでは女神の眷属という扱いになる」


「眷属? 神様ではないのかい?」


「亜神という神に準じる存在だ。

 本当の神様の代理として仕事をしているイメージかな」


 しばし考え込むカーター。


「なるほど、それで一神教に近いということなんだね」


『誤解されたみたいだな』


「亜神が神に近い存在だからというのであれば違うぞ」


 カーターが首を傾げた。


「神の代行をする亜神が大勢いるから多神教に見えるという意味ではないのかい?」


「違うな」


 亜神が神様の代行をしているというのは正しい認識なんだけど。


「では、どういうことだろう?」


 首を捻りながらも大いに興味がありそうなカーター。

 だが、これを説明するには異世界の説明をしなければならない。

 管理神とは切っても切れない概念だからね。


 とてもではないが短時間で終わるとは思えないんだよな。

 カーターの理解力にもよるけど。


 如何に異世界の概念を持つことができるかが鍵だ。

 知力よりも知識の方が理解する上では重要になってくるだろう。


「悪いが、それを説明しようと思うと時間がどれだけかかるか分からん」


「そんなに難しい話なのかい!?」


 カーターが目を見開ききっていた。

 何気ない質問のはずが、意図せず難しい話になってしまったと思ったからだろう。


「難しいという訳じゃない。

 ある概念を理解するために想像力が要求される」


「そうなんだー」


 カーターが少し残念そうに肩を落としていた。


「チキズミー先生の物語を読んでいれば、そのあたりの想像力も鍛えられるさ」


「おおっ、そうなんだ!」


 つい今し方の「そうなんだ」とは打って変わって声に張りがあった。


「それよりも、先に終わらせてしまおう」


「そうだね」


 俺たちは上を向く。

 ことの成り行きを見守る形になっていた連中がギョッとした顔になる。


「エーベネラント国王として諸君に告げる」


 まず、カーターが話し始めた。


「我が国はラフィーポ王国を占領し併合する」


 上の連中は騒ぎ出すが、音声は一方通行のままだ。

 こちらには届かないものの上では怒号が飛び交っているだろう。

 このままでは、カーターが話を続けても連中の耳には届かない。


 故に手でカーターを制しておいてバチッと弱めに電撃を浴びせて黙らせる。

 静かになったのでゴーサインを出した。


「なお、これは正当な行為であることも付け加えておこう」


 余裕の表情で反論するカーター。

 再びギャーギャーと騒ぎそうになる連中を目線だけで黙らせた。


 コイツら相手に殺気を振りまく必要性を感じない。

 現に誰も騒ごうとはしなくなったし。


「我が国へのスパイ行為ならびに軍隊の越境侵略行為を正当化できるならしてみたまえ」


 王族と思しき連中が何か言い始めたが、喚く感じではなかった。

 電気ビリビリを嫌がっているようだ。


「ちなみに侵略軍は大規模殲滅魔法で全滅させたよ」


 カーターがそう言うと、上の連中は青い顔をして黙り込んでしまった。


読んでくれてありがとう。

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