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1170 悩ましい問題

「そうなると……」


 カーターが上を見上げた。


「残る問題は彼らだよね」


「そうなるな」


「本当は、魔法をどうやって届かせたのか種明かしをしてほしいところだけど」


「それは全部片付けてからな」


「じゃあ、彼らは処刑されるんだ」


 サックリと物騒なことを言うカーター。

 まだまだ根に持っているようだ。


 黒幕は死んでいるけどな。

 それを殺した相手も消滅したし。

 だからという訳でもないだろうが、怒りの矛先は上の連中に向いている。


『国の中枢にいる連中が元凶だったとも言えるからな』


 黒幕である王が死んでも、代わりはいる。

 この国の王位継承権など知らないし、知りたくもないがね。


 まともな奴でないことだけは確かだろう。

 ラフィーポではまともな人間が虐げられる。

 幽閉されたり追放されたり。


 ちなみに地下牢に誰もいないのは確認済みだ。


 あるいは殺されたり。

 これについては確認のしようはない。


 が、生きている連中でそういう標的にされそうなタイプの人間はいなかった。

 まともな人間を手っ取り早く見つけるならファントムミストだ。


 ただし、まともじゃない連中は発狂死するのがお約束である。

 生かして苦しみを与え続けるとした以上は使えない。


 そう、殺さない。


「処刑なんて慈悲だろ」


 まさかと言わんばかりに頭を振った。


「それもそうか。

 私としても彼らに慈悲など必要ないと思うね」


 では、どうするのかという話になってくる。


「手っ取り早いのは犯罪奴隷にして売り飛ばすことだな」


 処刑の話で泡を食いかけていた上の奴らが大騒ぎし始めた。

 凄い剣幕だが声は届かない。


「滑稽だね」


 蔑んだ目で見るカーター。


「そうなりたくないのであれば君たちは真人間であるべきだったんだよ」


 カーターがそう告げても、連中は止まらない。


「それは無理な注文だぞ、カーター」


「だろうね。

 過去は変えられない」


「いや、それ以前の問題だ」


「それ以前?」


 不思議そうな顔をして聞いてくる。


「奴らは自分が真人間だと信じて疑っていないからな」


 俺の言葉に目を丸くするカーター。


 だが、それも一瞬のこと。

 すぐに声を出して笑い出した。


「ハハハハハッ、それは確かに!

 思い込みの激しい者ほど矯正は至難だ。

 ならば死より重い罰を死ぬまで受け続けるがいい!」


 カーターは罪の深さを知れと言わんばかりの言葉で締め括った。

 そして、嘲るような笑みを上へと向ける。


 上の奴らの目には獰猛に映ったようだ。

 先程とは打って変わって静まり返っていた。


 まあ、向こうの音は通さない一方通行だから元より静かなんだが。

 見た目からも分かる静寂の世界とでも言おうか。

 連中はその中にいた。


 ある者は身動きの取れぬガチガチの姿勢のまま小刻みに震え上がり。

 ある者は血の気を失った顔になった。

 あるいはその両方か。


 ただ、大人として絶対に避けたいお漏らしラインを超えた奴はいないようだ。


 カーターの迫力不足か連中の意地か。

 だが、そこを気にしても何も始まるまい。

 矛先を向けたカーターにしてみれば、ちょっとした挑発のつもりなのだろうし。


 向こうの感覚からすれば無抵抗の状態で殴られたも同然なのかもしれないが。

 とはいえ、それは奴らが勝手に思っていることである。

 カーターにしてみればジャブすら放ったつもりはないはず。


『脆いものだ』


 加害者側にしか立ったことのない輩が、その立ち位置を失うとこんなものだ。

 転落は早く、這い上がる気概を持てない。


 それでも完全に心が折れるところまでは至っていないだろう。

 自分だけは何とか助かるのではないかと甘い幻想を抱いていることがうかがえるからだ。


 目が死んではいない。

 ひどく濁ってはいるけどな。


 他の奴らを出し抜いてでも助かろうと思っているのだろう。

 そういう心理を罰に利用することも考えたが、適当なものが思いつかない。


 すぐに思いつくものはある。

 大陸東方の適当な場所へ置き去りにするだけのお手軽な方法だ。

 似たようなことはクリスの暗殺を目論んだ輩で行ったことがある。


 あの時は奴1人だったし、結界で覆ったけどな。

 それでも再起不能にはなったが。


 今回の条件だと結界は使えない。

 守られていると分かれば、誰も出し抜こうとは考えないだろうしな。


 だが、それでは半日とかからずに全滅するのは確定的だ。

 場所がランクの低いダンジョンの中層だったとしても結果はさして変わらない。

 その程度の弱さでしかない上にサバイバル能力が欠如しているからな。


 そんなことでは長く苦しみを与え続けることができない。

 ずっと虐げられてきた借金奴隷たちは到底納得できないだろう。


 故にこれは採用できない。


「死より重い罰ってのは意外と難しいな。

 悪いが重罪人指定の犯罪奴隷しか思いつかん」


 重罪人として指定された犯罪奴隷は釈放条件がなく恩赦なども適用されない。

 減刑などが一切ない無期懲役ってことだ。

 しかも優先的に厳しい労働環境に回される。


「それだと鉱山送りがオチかな」


 カーターは不満そうである。

 劣悪な労働環境だと思うのだが。


「納得がいかないみたいだな」


「あれは死亡率が高いと聞くからね。

 長く苦しみを味わわせることは難しいと思うんだ」


「なるほど、納得」


 納得はしたものの次の案がない。


「困ったな」


「そうかい?」


「犯罪奴隷より適した罰が思い浮かばない」


 それを聞いたカーターも沈黙してしまった。

 良案とは、そう簡単に出てくるものではないということだ。


「場合によっては元奴隷たちに処刑を任せるってのもありかな」


 直接的に処罰できるので元奴隷たちからも一定の納得は得られると思う。

 長く苦しめることはできないけれど。


「代表者を決めるときに一悶着あるんじゃないかな」


 カーターは浮かない顔だ。


「それに一般人だと覚悟のない人もいるよ」


 そういう場合は普通の処刑方法だと殺しきれないだろう。


「石打ちか袋叩きを考えたんだけどな」


 どちらも大勢で寄って集ってが基本となる。

 石を投げつけるか殴打するかの差だ。


「いずれにせよ、覚悟と言われると弱いな」


 全員を納得させられる方法などはないだろう。


 が、少しでも妥当と言えるものに近づけられればとは思う。

 自ら手を下すことに拒否感を抱くなら、それは違うということだ。


「いっそのこと、カーターの所で強制労働させるか?」


 その権利はあるからな。

 人材不足なんだし。


 ただし、妙案とは言い難い。

 あの連中が使える人材とは思えないのだ。


 下手をすると穴埋めにならないどころか仕事を増やしかねない。

 カーターは憂鬱そうに頭を振った。


「使いどころに困るから却下だね」


 話にならないとばかりに嘆息する。


「あー、やっぱり?」


 カーターの返答は予想していたので仕方ないと思う。


「人足や坑夫としては論外だし」


「不摂生の塊だもんなぁ」


 メタボで運動不足な連中にアスリート並みのトレーニングを行わせるようなものだ。

 トレーニングメニューの1割もこなせず音を上げることだろう。


 実際には仕事なので、すべてを終わらせなければ休めない。

 それが休みなしで連日となれば……


『論外と言い切るのも道理だよなぁ』


「職人のような仕事もね……」


「根気も体力もないからな」


 人足をするよりはマシかもしれないが、上の連中にはそれすらも苦行になるだろうし。


「おそらく器用さもない」


 素質くらいは持ち合わせた奴がいても不思議ではない。


 が、ここで言う器用さとは職人としての技量も込みでの話だ。

 素質があろうと一朝一夕で身につくものではない。


 技術を習得できる根気がなければ、結局は器用さがないということになる。


「文官の補佐みたいな使い方もできないと思うよ」


「常識が著しく欠如してるもんなー」


 何を言い出すか分からない奴を政に使うことほど怖いことはない。

 この国の政治の常識をエーベネラントに持ち込まれても困る。


 きっと現場は大混乱に陥るだろう。

 奴隷として行動に制限は加えられても、思考はそうではないからな。


「単純な計算も間違えるのが多そうだし」


「あー、教養も足りてないかー」


 商人になる訳でないからと重視されなかった結果だと思われる。

 そのあたりをカーターは自国で目の当たりにしてきているんだろう。


『やけに実感がこもっていたもんな』


「とにかく、思っていた以上に役立たずなのはよく分かった」


「分かってもらえて何よりだよ」


 カーターが肩を落として苦笑する。


「そうなると、スケーレトロの時と同じ手しかなさそうだなー」


 俺としては甘い処分だと思うのだが。

 他に手がないのであるならば仕方あるまい。


「あー、強制スローライフってやつかい?」


「そうそう」


 身分剥奪の上で脱出不可能な環境へ送り込む。

 最初に用意された物資がなくなれば飢えて死ぬのを待つばかりとなる。

 故に自給自足をするしか生き残る道はない。


 ちなみにスケーレトロの連中は数を減らしながらもサバイバル生活に馴染みつつある。

 意外に逞しいものだ。

 元の身分が上だった奴らほど耐えられない傾向にはあるけれど。


「それしかないかー」


 カーターも妥協すべきかどうかを迷うレベルのようだ。


「スケーレトロの奴らより厳しめにいくか?」


「そんなことができるのかい?」


「より過酷な環境にすればいい。

 スケーレトロの連中でデータは取れているから加減はできると思う」


「おー」


 なるほどと頷くカーター。


「やりすぎると、あっと言う間に全滅するけどな」


読んでくれてありがとう。

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