118 謝罪とクラス確定
改訂版です。
「神の使いとか冗談じゃない」
そうでなくても称号に[女神の息子]や[女神に祝福されし者]なんかがあるんだから。
女神関連だと[女神に同情された男]もあるけど、ここでは関係ないよな。
何にせよ居心地が悪いったらありゃしない。
商人ギルドの方でも同じようなことになっていたらと思うとゲンナリだ。
「そんなのが広まったら二度とこの街には来ないからな」
「おいぃっ」
ゴードンが血相を変えるが知ったことじゃない。
「そうなれば商人ギルドから恨まれるどころか敵視されてもおかしくないですよね、ギルド長」
受付嬢のお姉さんが静かな怒りをたぎらせている。
最後の「ギルド長」の部分にやたら凄みがあったから迫力倍増だ。
「ひゃいっ」
上司であるはずのゴードンがタジタジだ。
ケニーも凍り付いたようになっている。
それだけ俺と商人ギルドの関係性をよく理解しているということだろう。
独自の情報網を持ってそうだな。
お姉さんがギルド長やった方がいいんじゃないか、これ。
「衛兵隊長さんも部下の人たちに徹底させてください」
「わ、わかった」
まったく、命令する立場はどっちなんだよ。
「お二方とも賢者様の妙な噂が広まらないように徹底してくださいね」
ゴードンとケニーが高速で頷いていた。
怒気が噴出しているせいかお姉さんが何倍も大きくなったかのような迫力があるせいだろう。
某アニメの超化を見る思いだ。
「でないと商人ギルドが賠償請求してきかねませんよ」
「うっ」
「それは……」
「あそこのギルド長は若いですがヤリ手と評判なんですよ」
へえ、シャーリーがねえ。
人生経験のあるアーキンが補佐しているし、そういう評価になっても不思議ではないのか。
「お二方に対抗する覚悟はおありですか」
「「………………」」
「聞くところによると「神の使いが語ればすべて真実になる」などという話が広まりつつあるとか」
「ぶはっ!」
なんだそれ!?
流言飛語にしたって無茶苦茶じゃないか。
「主よ、これを看過すれば被害が及ぶのでは?」
ツバキが懸念を口にしたのも無理はない。
「もう既に被害が出始めてるよ」
「何だとぉっ!?」
俺の言葉に焦った様子を見せるゴードンだ。
下手をすれば手遅れになりかねないから無理もないとは思うが。
「下で壊れてんのかと思うくらい受付嬢がビビっていたし、食堂にいた連中も似たようなもんだったからなぁ」
「なんと!?」
「それは由々しき事態ですね」
ゴードンもケニーも血相を変えている。
一刻を争う事態になっていることを瞬時に悟ったようだ。
後で知ったことだが賄賂を受け取っていた一部の衛兵がやらかしたことだったらしい。
ギブソンの一件で徹底調査されることになって後ろ暗い連中が、かく乱のためにデマを流したとか。
神の使いの機嫌を損ねれば、こんな街などすぐに消し去るとか。
神の使いから逃れることはできないとか。
なんか言いたい放題だったみたいだ。
普通なら笑い飛ばして終わりなんだが色々あったからなぁ。
嵐の後に街中で疑惑の悪党どもの死体がゴロゴロしてたし黒幕は変死体だし。
更には赤イナゴが蝗害規模の群れで街に接近したにもかかわらず街の被害は皆無。
それが神罰かと見紛う嵐の中で発生した落雷連発と炎の竜巻によるものとくればねえ。
蝗害の一件まで予言した覚えはないんだが、汚職衛兵は強引に結びつけたそうだ。
その程度で自分たちへの追究が有耶無耶になると思うとは浅はかすぎる。
むしろ罪が確定する前に身柄を確保されて逃げ場をなくし追及が厳しくなるとは思わんのだろうか。
結局、汚職衛兵が罪を逃れるために流したデマということで決着がついた。
いずれの事件も人のなせる業ではないということで沈静化させるのに時間はかからなかったようだ。
荒唐無稽な噂だったからな。
人は信じたいものを信じると聞いたことがあるけど、まさにそうだと実感させられたよ。
「すまぬ」
「面目次第もございません」
ギルド長と衛兵隊長として各々の部下に指示を出した後に謝罪を受けた。
「いいけどね。今後こういうことがないようにしてくれれば」
「当然だ」
ゴードンが胸を張るが階下の状況を把握できてなかったのを忘れてないか。
「それはもう間違いなく」
ケニーは正反対で恐縮しきりである。
赤い髪を短く刈りそろえ精悍な顔立ちをしているイケメンにこんなことをさせると女性ファンから苦情が殺到しそうだ。
とにかく、これで手打ちとした。
あんまり追い詰めても面倒なことになるだけだからな。
「で、国の方の報告には俺の予言は省いておいてもらえるよな」
「……そ、それはっ」
嘘のつけない人間にはハードルが高い注文だ。
「それくらいの貸しは余裕であると思うんだけど」
あんまり、こういう真似をしたくはないんだけどね。
「事実を客観的に書いた結果、不確かな情報は省かれたとしておいてくれると助かる」
「わかり、ました……」
老け込んだように肩を落とすケニーには申し訳ないと思うが、国に目を付けられるのは勘弁願いたい。
王女を助けたりしているから既に手遅れの感は否めないのだけど。
「ところで衛兵は特に忙しかったろうに、今日は大丈夫なのか」
本題を持ち出す前に軽く話題を振ってみる。
ケニーもゴードンも、いかにも寝てませんって顔してるからな。
俺としては早々に冒険者のランクを確定させて帰りたいところなんだけど。
「報告書はまだですが事態の収拾はつけました」
それを聞いて一安心ということで本題に入らせてもらうとしよう。
「それじゃあ手続きを終わらせてもらおうか」
俺がゴードンに声を掛けると頷かれた。
お姉さんが上位の鑑定用魔道具を用意して色のついたカードを差し込んでいる。
「賢者様、カードをお願いします」
「はいよ」
手渡すと色つきカードを差し込んだスロットに俺のカードを差し込んだ。
ランク認定はこんな風にするのか。
興味深いが、それより気になったのは先に入れたカードが黒色だったことである。
紫黒茶青水黄緑赤白の9段階ある冒険者ギルドのランクのうち上から2番目なんだけど?
登録したての新人なのに問題ないのかね。
「俺は新人だろ。そこまですっ飛ばしていいのか?」
最初はランクを抑えておいて実績で積み重ねて順番に上げていった方が無難だと思うのだが。
「トラブルの元になりそうなのは百も承知だ」
自覚はあるのか。
「けどな、茶ランクを軽くあしらえるような奴を下のランクにしとく余裕もない」
激しく嫌な予感がしてきたのは気のせいではないだろう。
「余裕もないって何だよ」
「優先依頼がある」
「何だよ、それ」
耳慣れない単語に俺の頭の中で警報が鳴り響いている。
最初に説明されて然るべきことだと思えてならないのだが。
「青ランク以上の者に回される半強制の依頼だ」
「半強制ね」
絶対的なものではないようだが難題を押しつける制度だと思っておいた方が良さそうだ。
「ギルド側が指名した者には基本的に優先依頼を受ける義務がある」
やっぱりなという顔をすると、ゴードンは慌てだした。
「ただし違約金を支払うことで依頼を受けないという選択もできるから絶対ではない」
実に言い訳くさい。
こんなの優先依頼とやらをセッティングしてますよと言っているようなものじゃないか。
「俺たちも暇じゃないんだ。全員分の違約金を払うからキャンセルで」
「待て待て!」
「待たない」
「そうではない。事前に優先依頼を用意したりとかはしておらんと言いたいのだ」
「紛らわしい真似をするな」
「むう、それはスマン」
その後の説明によると優先依頼は青ランクに声が掛けられることが多いそうだ。
主に報酬の都合で。
青では達成困難と判断されると適正なランクが検討されるので黒ランクは滅多に呼ばれないらしい。
例外は頭数が欲しい場合だが、動員されることなどそうそうないという。
これを真に受けてはいけない。
説明されたことがウソだとは言わないが大変な時だけ指名されるってことだからな。
「言っとくが、俺はここに入り浸る気はないぞ」
いない者を指名するのは不可能だと先手を打っておく。
はやく帰りたいのだ。
お節を作って蕎麦を打ってと年越しの準備がしたいから予定を変えるつもりはない。
「ジェダイト王国にギルド支部がないから来たようなもんだからな」
俺が追加した言葉にヒゲもじゃの顔でも分かるくらい「しまった!」という表情を見せるゴードン。
下手な芝居してんのかと思ったが本気らしい。
俺がよそから来たことを失念するとか狸なのか間抜けなのか微妙なジジイである。
「もう何日か──」
「今日中に帰る」
ゴードンの言葉に被せてにべも無く言い切った。
滞在しないかと言いたかったのだろうが知ったことではない。
「残念だ」
その後はすんなりとカードが返却されて手続きが進んでいった。
試験を受けたミズホ組は全員が黒ランクでボルトは青ランク。
窓口で手続きしていたら騒がれる結果になっていたことだろう。
ルーリアもランクアップして青から茶になったが、むしろ黒でもおかしくないと思った。
依頼をこなすより居場所を探す旅を優先させた結果なんだろうな。
「お前らも手続きしろ」
ゴードンの一言で月狼の友は、元々茶ランクだったリーシャ以外の全員がランクアップした。
「良かったな」
「「うん!」」
「依頼を受けてランクアップとか儲けものよね」
「せやな」
「ラッキーです~」
こういう素直に喜ぶ姿勢は見習わないといけないな。
読んでくれてありがとう。




