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1165 譲ったり試そうとしたり

 俺がクズ研究者とのやりとりをする中で戦闘行動が繰り広げられている。

 合図となるハンドサインを出した直後から女子組が動き始めた訳だけれど。

 動こうとしない者たちもいた。


「あらあら、わざわざサインで攻撃開始命令ですか」


 クスクスとベルが笑う。

 ナタリーが抗議の視線を向けてくるが、なんのその。


「大丈夫よ、風魔法で声が届かないようにしてるもの」


 ベルがそう言うと、ナタリーの表情は諦観を感じさせるものに変わった。


「陛下が幻影魔法と風魔法で誤魔化している。

 あの自己陶酔男が振り向かない限り戦闘は露見しない」


 神官ちゃんが補足した。


「それは分かっています」


「分かっていても用心を重ねろというのは分かる」


 神官ちゃんの言葉に、もの言いたげな顔を見せるナタリー。

 分かっているなら静かにしろと言いたいのだろう。


「慎重な姿勢は良いこと。

 私は嫌いじゃない」


 今度は赤面する。

 今の言葉はド真ん中のストレートだったようだ。


「でも、慎重すぎると好機を逸することがある」


「ぐっ」


 ナタリーが短く唸った。


「同感ですね」


 シャーリーがここで会話に入ってくる。


「うっ」


 情けない感じの顔でナタリーがベルを見る。


「残念だけど、私も同じ意見だわ」


 ナタリー撃沈。

 嘆息しつつガックリと肩を落とした。


「ところで」


「あら、何かしら?」


 シャーリーが話題を変えようとしていることに気付いたベルが問いかける。


「我々も攻撃参加しなくて良いのですか?」


「ああ、そのことね」


 問われても余裕の表情を見せているベル。

 ハッと顔を上げて、どうしたものかとベルの方を見るナタリー。

 神官ちゃんは平常運転でボーッとしている。


「ベル婆が動かないのは理由があると思って私も前に出ないのですが」


 コクコクと頷く神官ちゃん。

 ナタリーの表情からは迷いが消えていた。

 きっと何か考えがあるから動かないのだと思っていそうだ。


「やはり、カーター陛下とダファル卿の護衛が目的ですか?」


 シャーリーが己の推測するところを口に出して聞いた。


「うーん、どうかしらねぇ……」


 対するベルの歯切れは良くない。


「違うのですか?」


 困惑の表情になるシャーリー。


「違うとは言えないわね」


 ベルは苦笑する。


「どういうことでしょう?」


 シャーリーは言い回しの回りくどさに困惑している。


「ベル婆は結果的にそうなっていると言いたいのだと思う」


 と神官ちゃん。


「それは、ちょっと露骨すぎるから遠慮していたのよ」


 またも苦笑するベル。

 風魔法で会話が届くのを阻害しているからこそ、そういう慎みを大事にしていたようだ。


「では、本当の理由が他にあると?」


「そういうことになるわね」


「それは?」


「大したことじゃないわよ。

 私達の頭数が減れば……」


 そこまで言ってベルは言葉を句切った。

 シャーリーたちの方を見て「ここまで言えば分かるでしょ」とばかりに笑みを浮かべる。

 ウィンクのオマケ付きだ。


 婆さんのウィンクなんて誰得だと思うかもしれない。

 が、ベル婆がやると可愛く見えるから不思議である。


「そういうことでしたか」


 シャーリーが困ったような表情で嘆息した。


「少しでも皆に経験値が多く入るように配慮した、ですね?」


「そういうことになるかしら。

 獲物は多い方がいいものね」


「なるかしら、じゃないです」


 ナタリーが呆れたような目を向ける。


「露悪的に言い換えても同じことです」


 鼻息荒く言い放つ。


「露悪的とはちょっと違うかしらねぇ」


 左手を頬に添えるようにして首を傾げるベル。


「あんまり露骨に言うと、傲慢すぎるかなぁって思ったのよ」


「知りません」


 ぷいっとそっぽを向くナタリー。

 生真面目な性格をしている割に子供っぽいところがある。


「納得した」


「私達とのレベル差を考慮されたのですね」


 うんうんと頷く神官ちゃんとシャーリー。


「アナタたちは行った方がいいんじゃないかしら」


 ベルが促すが……


「いいえ」


 シャーリーは頭を振り。


「ここは皆に譲る」


 神官ちゃんも首を縦には振らなかった。


「そう?」


「はい、不遜な考えかもしれませんが……」


「ちょっと遠慮したくらいで、誰もそんな風には思わないわよ」


「シャーリーは考えすぎ」


 神官ちゃんのツッコミに何か言いかけたシャーリーだったが……


「そうかもしれないわね」


 同意してから小さく嘆息した。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「速攻っ!」


 戦闘開始直後にフィズが指示を出した。

 幻影魔法や風魔法が展開されたことの意味を理解したからだろう。


「「「「「了解っ!」」」」」


 フィズが出した指示に風と踊るのメンバーだけでなく他の女子組たちも応じた。

 彼女らもまた理解している。

 この連中をクズ研究者の前に出す訳にはいかないと。


 故に奴の背後へと一気に回り込んだ。

 動き出そうとしていたレヴナントどもに肉薄。


「刀に冷気を纏わせろ!」


 レヴナントどもが反応する前にジニアが追加の指示を出した。

 全員が魔力を練ってミズホ刀へと送り込む。


 いや、ウィスだけは違った。

 ミズホ刀は鞘に収まったままの徒手空拳である。


「ウィスっち!?」


「何してるっすか!?」


「どうするつもりっす?」


 3人娘がいち早く気付くが、意に介した様子がない。


「試す」


「「「試すって、何をっすか!?」」」


 それには答えずにウィスは魔力を練り上げる。

 その間に襲いかかってくるレヴナントを3人娘が槍で切り払い、ウィスは躱した。


 足を切り落とされたレヴナントが転倒する。

 が、切断面は凍り付いて血が噴き出すことはない。


「コイツらしつこいから、もう一丁っす」


 すかさずローヌが槍を振り下ろし、切り上げる。


「足の次は腕っすよ」


 ナーエも同じように槍を振るった。


「覚悟するっす」


 ライネもだ。

 それぞれが確実にレヴナントの両肩を切り落としていた。

 もちろん、切り口から血が流れることはない。


「「「次でフィニッシュっす!」」」


 そろって槍を引いた3人娘が刺突の構えを見せた、その時である。


「丁度いい」


 ウィスが呟くように言った。


「「「何がっすか?」」」


 聞き漏らさなかった3人娘が反射的に問うていた。


 が、やはりと言うべきかウィスは答えない。

 代わりにチラリと3人娘を見た。

 目線が合った3人は、それでウィスの言いたいことを悟った。


「「「つべこべ言わずに結果を見ろってことっすね」」」


 そう言うと、ウィスの周りを固める。


「「「ウィスっちの準備が終わるまでは絶対に通さないっすよ!」」」


「大袈裟……」


 ウィスは小さく嘆息した。


「そんなに時間はかからない」


 練り上げた魔力を両手に送り込む。


「おおっ、凄いっす!」


 ローヌがレヴナントを捌きつつウィスを見て興奮していた。


「ウィスっちの手が光ってるっすよ!」


 同じくナーエも。

 周囲に伝えようとしている訳ではないだろうが、結果としてそうなっていた。


「光魔法っすね!」


 ライネが飛び込んできたレヴナントを蹴り飛ばしながら補足する。

 女子組の注目がウィスに集まっていた。

 もちろん、レヴナントをあしらいながらだ。


 レヴナントは剣を手に襲いかかってくるが太刀筋が単調すぎる上に遅い。

 ここの貴族なら一太刀で斬り伏せられただろう。


 が、女子組にはアクビが出るような攻撃だ。

 チラチラと余所見をするくらい、どうと言うほどのこともなかった。


「見世物じゃない」


 気付いたウィスは不機嫌そうに呟いていた。

 それでもなすべきことに集中している。

 最初に足を切り落とされたレヴナントの顔面に向けて人差し指を向けた。


「光になれ」


 何処かで聞いたような台詞だが、ボソリと言われると雰囲気がまるで違う。

 ウィスが指先からレーザー的に細長い光魔法を撃ち出した。


 あれは聖烈光だ。

 またの名をファンタジー版ビームライフル。


 ウィスのそれは針金のように細くて弱々しいものだったが、間違いはない。

 レヴナントの顔面に命中すると絶叫をほとばしらせるかのように大口を開いた。


「うるさいのは無用」


 結果を予測して事前に風魔法を使っていたようだ。

 首を振り身を捩ってレヴナントが暴れ出す。

 四肢を失っていようとお構いなしだ。


「出力が足りないなら数を当てるまで」


 人差し指の先だけでなく5本の指先から聖烈光を放つ。

 それらが飛んでいく途中で収束し、太さを増した状態で飛んでいく。


『今度こそビームライフルっぽいな』


 レヴナントの胸に命中するとクレーターのような穴を穿っていた。


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