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1164 否定すればキレるのみ?

「何度でも言ってやる」


 俺はクズ研究者を指差しながら言った。


「貴様はレヴナントだ。

 ゾンビより少しマシという程度のアンデッドにすぎない」


 実際は幅があるし、もっと強いことが多い。


 だが、この男は身体能力に優れているとは思えない。

 悪意は極悪人レベルだと断言できるがね。

 それらが組み合わさってレヴナントの強さは決まるため、平均よりは上だろう。


 本来であれば干涸らびた死体のパーチドデッドより上と見た方がいい。

 それでも、あえてゾンビより少しマシと言ったのは挑発せんがためである。


「断じて違うっ!」


 強硬に否定するクズ研究者。

 興奮のあまり玉座を離れ前に進み出る。

 憤怒の形相は猛犬を想起させ、今にも噛みついてきそうだ。


 分かりやすいくらい挑発に乗ってくれるものである。


「ならば人の血を啜り己が糧にしてみせろ」


 そうは言ったが、そのつもりはない。

 単なる煽り文句だ。


「なんだと!?」


「それができねばヴァンパイアとは言えんよ

 まさか、多少のドレイン能力があるだけで勘違いするバカがいるとは思わなかったぞ」


「─────っ!」


 クズ研究者が歯噛みする。

 ヴァンパイアでないことを指摘される方が奴にとっては堪えるようだ。


『もう一息ってところか』


「魅了が使えない時点で違うと分かりそうなものだがな」


「─────────────っ!!」


 歯ぎしりは更に酷くなり、ダンダンと地団駄を踏む。


『もう一声だ』


「ああ、そうそう。

 貴様は飛ぶことができないだろう」


「それがどうしたっ」


 苛立ちを八つ当たりするように吐き出してくる。


「やはり知らんか」


「何だとっ!?」


「ヴァンパイアは自力で空を飛ぶことができる」


 背中にコウモリの翼を生やしてのことだがな。

 それをコイツに教えてやる義理はない。


「ぐうっ」


 悔しそうに唸るクズ研究者。

 できないことを自覚しているからこそなんだろうが……


『そこは隠せよ』


 ハッタリもかませられないようでは駆け引きにもなりゃしない。

 だからといって手加減だの手抜きだのはするはずもない訳で。


「だが、貴様にはどう足掻こうと無理な話だよなぁ?」


 ここが勝負所とばかりに意地悪く言ってやる。


「きぃ────────────────────っ!!」


 クズ研究者がヒステリックな奇声を上げる。

 そして、ドタドタと不格好な走り方で駆け寄ってきた。


 本人は全速力のつもりのようだが、ハッキリ言って遅い。

 碌に体を動かさないタイプなんだろう。


『生前より強くなっても走り方を知らないんじゃな』


 さっきまでは猛犬のイメージだったのに今じゃ肉食の亀である。

 まあ、こっちは亀と違ってうるさく鳴くけどな。


「貴様がぁっ、貴様がぁっ、貴様があああああぁぁぁっ!」


 叩き付けるように指を突き付けてくる。

 気分のいいものではないが、それを見せると今までの積み重ねが泡と消えかねない。


「俺がどうしたって?」


 努めて普通に聞いてみる。


 だが、それに返事はなかった。


 足裏を叩き付けるようなジャンプを繰り返す。

 地団駄を強力なものにしたかったようだ。

 それだけ苛立ちを感じていたということなんだろうが、やっていることは子供である。


 ただし──


「皆殺しにしろおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 吠えた内容は生易しさなど微塵も感じないものであったが。


「あーらら、プッツンしちゃったかー」


 そうなるように誘導したんだけどな。

 ただでさえ思考力がダウンしている奴がキレれば、小細工も減ってくるだろう。


『問題はキレているのが奴だけなんだよなぁ』


 それまで微動だにしなかった他のレヴナントたちがクズ研究者の咆哮に反応した。

 だらしない猫背のような姿勢でダランと腕を下げた状態からビシッと直立する。

 そして、周囲を見渡すのだが……


『何だ?』


 今までのレヴナントたちとは何か違う。

 動きは個人により異なるのだが、何処か画一的な印象があった。


「総員、戦闘準備」


 違和感の正体を探りつつ女子組に指示を出す。

 それだけで場の空気が引き締まった。


 まだ、誰も抜刀はしていない。

 それでも全員が戦闘モードに切り替わったと断言できる緊張感がある。


「何か様子がおかしいから油断はするなよ」


 慎重にとは言わない。

 受け身になりすぎる恐れがあるし。

 場合によっては対応が遅れることもあり得る。


 まあ、それで死ぬのはクズ共だけだがな。

 できれば簡単に死なせたくはないところだが。


『レヴナントでないなら生き残る方がツラいと思ってもらわないと』


 被害者や犠牲者たちが納得しないだろう。

 殺したいほど憎んでいる者だと話は違ってくるかもしれないけれど。


 とりあえずクズ共は風魔法で上へ巻き上げる。

 耳障りな悲鳴が入り交じって聞こえてきたので個人を対象に遮音結界を展開。


 これで自分の声さえ聞こえなくなったはずだ。

 一方通行なので、外からの音声は聞こえるがね。


 入れ替わるようなタイミングでレヴナントたちの振り下ろした剣が床を打った。

 急に殺害対象が消えたことでレヴナントの動きがフリーズするが、何かおかしい。


『驚いていない?』


 本当にレヴナントなのかと言いたくなるくらい無機質な雰囲気を漂わせている。


「何の真似だ?」


 クズ研究者が俺の思考を中断させる。

 いきなり真顔に戻るとか、器用な奴だ。


 クレバーな一面もあるらしい。

 気を付けないと足をすくわれそうだ。

 皆に油断するなと言っておいて、自分がやり込められたりしたら示しがつかない。


「簡単に死なせては納得いかないんでな」


「何だと?」


「連中には死んだ方がマシだという苦しみを与え続ける予定だ」


 こんな会話を続ける間にレヴナントどもが再起動したかのように動き始めた。

 新たな目標として、こちらに目をつけたようだ。


 ならば、何時までも待機させている訳にはいかないだろう。

 元よりアンデッドを見逃すつもりなどない。

 苦しみを与える相手は人間だけだ。


 俺はクズ研究者に見られないよう背中に手を回し、GOサインを出した。

 声には出さない。


 何を切っ掛けにして命令を変更するか、予測のつかない相手だからな。

 キレたかと思ったら唐突に素に戻るような奴だし。

 非戦闘員を狙えとか言い出されると面倒だ。


 上に飛ばした連中以外で、非戦闘員に見えるのはカーターしかいない。

 守り切るのが難しい訳ではないが、相手にその行動を取らせないのが最善である。


 ならば奴の命令が維持された現在の状態がベストだ。

 皆殺しの中止か停止を命じられるようなことは考えられないからな。

 命令した奴が殺意を漲らせているんだし。


 だからこそ、こうして会話できる状態に戻ってくるとは予想外だった。


「フン!」


 鼻で笑うクズ研究者。

 俺の想定外を見抜いたかのようにも思える態度であったが、それはない。


 【千両役者】スキルを使っているからな。

 向こうの自分に酔い痴れるための猿芝居などとは比べ物にならない。


 ならば、何を嘲笑うか。


 ハンドサインに気付いた?

 それはない。

 これもまた【千両役者】を使ったからな。


 考えられるのは、俺の発言だ。

 その割には返答が遅い。

 それもまた考えづらいと思いかけたが。


『そういや、相手はレヴナントだったな』


 複雑な思考を苦手としているアンデッドだ。

 考えられるだけマシではあるのだろうが。

 俺の発言を理解するのに時間がかかったということなんだろう。


「ナンセンスもいいところだ」


 そして、どうやら挑発しているつもりらしい。

 やられた分はやり返す性分のようだ。


「はいはい、そうですか」


 簡単に乗ってくるとでも思ったのだとしたら舐められたものである。


『まあ、レヴナントだからな』


 短絡的な思考になるのは仕方ない。


「非生産的なのだよっ!」


 クズ研究者は再び吠えた。

 俺の返事から醒めたままで挑発は効果がないと悟ったようだ。

 そしてキレた。


 煽っておいて思い通りにいかねば即座にキレるとは短絡的にも程がある。

 元からこういう性格なんだと見た。


『ナルシストってことか』


 故に周りが見えていない。

 戦うための訓練を受けていないから仕方のない側面はあると思うが油断しすぎである。


 この思い込みも、やはり元からの性格なんだろう。

 独りよがりも甚だしい。

 研究者としては致命的ではないか。


 何しろ、研究を始めた段階で奴の中では結果が決まっているようなものだ。

 思い通りにいかないなら考察することもなくキレる。


 クズ研究者がレヴナントになったのも、そういう流れだった。

 実験が失敗して周辺のものに当たり散らすとか、信じ難いものがある。


 しかしながら、保管容器を破損させて毒ポーションを被ったのは事実だ。

 その結果が更なる知能低下を招くとは夢にも思わなかっただろう。


『だからこそ、今までの不満を爆発させて暴れ出したんだろうがな』


 特に雇い主である王からはネチネチと嫌みを言われていたらしい。

 怨嗟に満ちた愚痴を垂れ流しながら嬲り殺しにしていたから判明したことだ。


 【天眼・遠見】を使っていたために生々しすぎる拷問ショーであったがな。

 状況把握のためには仕方ないと割り切ったものの何かが削られる思いであった。


『グロ耐性だけは高いよな、コイツ』


 平然とした顔で……

 思い出すのはよそう。

 それこそ、非生産的というものだ。


『それにしても……』


 人の意見を否定するために、こうも喋り続けられるものなのか。

 呆れるのを通り越して感心させられてしまう。


 もちろん、話している内容は意図的に聞き流している。

 熱のこもった表情から、今もなお続いていることが分かるので放置プレイ中だ。

 そんなものに興味を持つくらいなら、うちの子たちの活躍を確認する方がマシである。


 まあ、戦闘開始からずっと【多重思考】スキルを使ってモニタリングしてたけど。

 幻影魔法と風魔法でアシストもしている。

 さほど強力にはしていないので、振り返ればすぐにバレるような代物だが。


 己に酔っている間は振り向いたりなどはしないだろう。

 どんな顔をするか気にはなったけど。


 ついでに上の方の遮音結界も個別から下に届かないように切り替えた。

 思ったよりも面倒くさかったのでね。


読んでくれてありがとう。

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