1160 悩むチームと怒るチーム
他のチームも【天眼・遠見】を使って見てみる。
「陛下の注文は厳しー」
言いながらレヴナントを足払いする女子組。
直後に折れたと分かる音がしたことからも威力は相当なものだと分かる。
次の瞬間、レヴナントの脚はあり得ない形に折れ曲がりながら体は宙に浮いていた。
蹴りの勢いがついたせいで横倒しになりながら、蹴った女子組には背中を向ける形で。
「貰った!」
次の蹴りを連脚で繰り出す女子組。
腰骨、背骨、頸骨に突き入れるような蹴りが入った。
ゴゴゴキッという音は連続で骨を折った証拠だ。
『首ポキかー』
久しぶりに見た気がする。
背骨や腰骨まで折る念の入れようは容赦がない。
『まさか、学校で教えてるのか?』
さすがにそれはないんじゃないかと思いかけたが……
無いとは言い切れないことに気付いてしまった。
『特別臨時講師がいるからなぁ……』
首ポキ大好きローズさんである。
嬉々として教えたことだろう。
今の蹴り技を見る限り、彷彿させるものはあった。
技の切れなどに甘さがあって本人の癖が出るためか、すぐには気付かなかったけれど。
『容赦のなさはローズだよな』
「続いて柔らかい風壁水平バージョン」
別の女子組が風属性の魔法を使った。
クッション代わりにするつもりだろう。
なかなかユニークな発想だ。
レヴナントは床に叩き付けられる前に透明なクッションに受け止められていた。
背骨を蹴ったことで加わったロールの勢いも徐々に削られていく。
「こういうのを縛りプレイって言うんだっけ?」
「えーっ、縛られちゃうのぉ?」
「そういう意味じゃないって」
他の女子組が暖気な会話をしていた。
「ちょっとぉ、話は後にして手伝ってよぉ」
最初の女子組が仲間に文句を言う。
「なぁに言ってんのよー」
「もう終わったでしょ。
さっさと氷漬けにしなさいよ」
傍観組が反論する。
だが、しかし……
「そうでもないみたいだよ」
傍観組の1人が指差した。
誘導されるように、そちらを見る一同。
「「「「「うわぁ……」」」」」
全員が辟易した表情になっていた。
レヴナントが起き上がろうと藻掻いていたからだ。
柔らかい風壁が動きを阻害しているため起き上がれずにはいたが。
「まだまだ元気ね」
「首が折れて気持ち悪い動きになってるよ」
「しょうがないじゃん。
ローズ先生直伝の必殺技なんだから」
『やっぱり、ローズが教えてたか……』
「首ポキしとけば大抵の魔物はイチコロだって先生が言ってたよ」
ローズなら言いそうだ。
それだけにローズが受け持った授業の全容が気になる。
『ドン引きするようなことじゃありませんように』
「イチコロって言うけど、必殺になってないわよ」
「残念でしたー。
あれはもう死んでるから必殺だよぉ」
「最初から死んでる相手は殺せないって」
「どっちでもいいから何とかしようよぉ」
漫才風になりかけていた会話だったが、どうにか1人の女子組によって引き戻された。
とはいえ、問題はそこからだ。
「どうする?」
「どうしよう」
途方に暮れる一同。
「とりあえず風壁が有効な間は手足をバタつかせるだけみたいね」
「このまま止まるまで放置するとか?」
「謁見の間に集合するのが断トツでビリになるでしょうね」
「じゃあ、どうしろと?」
「魔法で燃やすのはどう?」
「焼却処分はひとまとめにしてからって言われてるでしょ」
「全部じゃないわよ。
動かなくなるまで燃やす感じで」
「ああ、そういう……」
「それなら行けそう?」
「かもね」
同意の方向へ流れかけていたのだが。
「やめた方がいいと思う」
1人だけ反対意見が出た。
「どうしてよ?」
「中途半端に燃やしたら、きっと見た目が酷いことになると思う」
「「「「うっ」」」」
そこまでは考えていなかったであろう面々も、指摘されれば容易に想像できるようだ。
「燃やしてダメなら、どうする?」
「せめて、どれくらいで動かなくなるか分かればねー」
「何か思いつきそう?」
「分かんないわよ。
たぶん、今よりはマシだろうけど」
このまま八方ふさがりになりそうな雰囲気になりつつあった。
「思うんだけど……」
「なになに?」
「血を流すのがダメって思い込みすぎじゃない?」
「だって陛下が禁止してたわよ」
「禁止じゃなくて被らないようにって言っただけよね」
「言われてみれば、そうかも?」
「言われなくても、そうだったと思うわよ」
「それで、どうするのよ。
簡単に倒せそうにないわよ、アレ」
「ううん、さっきの攻撃で簡単に倒せてたと思う」
「どういうことよ?」
「蹴ったときに魔力を練り上げた?」
その質問に他の面子の視線が蹴った女子組に向けられる。
「えっと、あの……ゴメン」
その返答から普通の蹴り技だったことが判明した。
「「「「ダメじゃん」」」」
「分かったわよ。
アレにトドメを刺せばいいんでしょっ」
半ば自棄気味に突撃していく。
「「「「あっ、ちょっと!」」」」
止める間もなく、蹴り女子は今度こそ魔力を練り上げて跳び蹴りを放つ。
「これでトドメよっ!」
「「「「あー……」」」」
という落胆にも似た声を発しつつ風壁を展開する一同であった。
『もう少し考えて行動しような』
スプラッタは見たくないので【天眼・遠見】を他の面子へを切り替えることにした。
斥候型自動人形に見守らせておけば問題はないはずだ。
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次のチームは騎士連中と対峙していた。
聞くに堪えない下品な言葉をチームの面子に浴びせる騎士ども。
『コイツら、騎士服を着てるだけの盗賊だな』
品位の欠片もない。
言葉だけでなく、仕草のひとつを見てもそうだ。
聞いているだけでプチッとキレそうになったので【遠聴】スキルを一時的にオフにした。
オフにしなければ、禁を破って殴りに行っていたと思う。
まあ、禁というほどのことではないけどね。
罰則とか決めている訳じゃないし。
いざという時は跳んでいくつもりだし。
ただ、手加減の仕方を間違えかねない状況ではあったと思う。
プチッとやってしまうと現場にいる面々にドン引きされかねない。
とりあえず【天眼・遠見】だけで観察する。
【読唇術】もカットしたのは言うまでもない。
しばしのやり取りの後、下品な騎士どもは激高した様子を見せた。
挑発し返されたのだろう。
女子組とは対照的であった。
うちの子たちは、よく抑えていたと感心させられるばかりだ。
我慢するのは下品な騎士どもが抜剣するまでだけどな。
待ってましたとばかりに抜刀して納刀。
下品な騎士どもには一瞬の出来事だったようだ。
抜刀したことさえ分からなかったらしい。
連中が剣を振りかぶろうとして根元から切り落とされたことに、ようやく気付く。
正確には床に落ちた刀身の音に驚いたと言うべきか。
残された部分を凝視して絶句。
『あー、隙だらけだなぁ』
それでも女子組は手を出さない。
蔑んだ目で見ているけどな。
彼女らがあんな冷たい目をするとは今まで知らなかったさ。
だけど、納得もする。
それだけ怒っているのだ。
下品で無礼な輩は簡単にはトドメを刺されないだろう。
『いや、違う』
ここで戦えば加減を間違えて殺してしまいかねないと判断したようだ。
俺が謁見の間に連行する条件を与えなければ、迷いなく剣ごと斬り伏せていただろう。
『条件を厳しくし過ぎたか』
入れ込みすぎなのを抑えるためだったとはいえ、過大なストレスになったはず。
彼女らには後で特別ボーナスを渡すとしよう。
そんなことを考えている間に動きがあった。
下品な騎士どもが怒り心頭に発するような剣幕で何か喚き始めたようだ。
『この期に及んで逃げないとはな』
実力差を目の当たりにしているにも関わらず、この有様
驚くのを通り越して呆れてしまった。
まぐれや偶然とでも思っているのだろうか。
それとも恐怖心が麻痺してしまったのか。
よく見ると、剣のことを訴えているようだ。
『まさかなぁ……』
剣を弁償しろと言っているように見えるのだが。
だとしたら、アホすぎる。
アホすぎるとは思うのだが、絶対にそんなことはないと否定もできない。
普通なら何を置いても逃走すべき状況のはずなのに逃げ出す素振りも見せないからな。
確かめるために【読唇術】だけ使ってみることにした。
【遠聴】はオフにしたままだ。
読み取るのと、実際に聞こえてくるのでは大きく違う。
万が一にも切れたくはないからな。
「………………………………………」
しばしの読み取りの後、俺は深く嘆息したくなってしまった。
まさかの予想的中だったからだ。
家宝だったのにとか。
先祖伝来の名剣だったんだぞとか。
有名な鍛冶師にオーダーしたものだとか。
口々に剣の凄さを訴えていた。
そして口を揃えて高価なものだから弁償しろと喚いている。
それの繰り返しだ。
俺がそれを確認した直後に女子組が動いた。
いきなり胸ぐらを掴み上げて高速の往復ビンタを連続で見舞う。
顔が腫れ上がっても止まらない。
それは下品な騎士どもが失神するまで続くのであった。
読んでくれてありがとう。