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1158 覚悟の懇願

 待ってましたとばかりに飛び出していく一同。

 古参組のようにシュバッとはいかないがね。

 レベル的には充分に可能なはずなんだけど。


 この頭数での連携は不慣れなようだ。


『妖精組はずっと群れ単位で行動していたからな』


 阿吽の呼吸で動ける訳だ。

 相手が変わっても、経験や洞察によって呼吸を合わせることができる。


 今日の面子にそれを求めるならパーティレベルまで人数を削らねばならないだろう。

 しかも、別パーティだと連携スピードは落ちる。


 例外は3桁レベルに達しているベルやナタリーだろうか。

 意図的にテンポを遅らせることで皆に動きを合わせていたし。


『なかなか味な真似をするじゃないか』


 似たようなことをする者も何人かいるようだ。

 ベルやナタリーほどの切れはないがね。


 それでも冷静に状況を見極めようとしているのは分かる。


 風と踊るの3人娘以外とか。

 3人娘はフィズたちに囲まれ抑え込まれる格好になっている。


 メンバーのことがよく分かっているのは同じパーティだからこそだな。

 お陰でパーティ全体が他の面子とは違う雰囲気だ。


 似たような雰囲気は神官ちゃんとシャーリーのコンビがそうだな。

 シャーリーは神官ちゃんを見て自分で落ち着きを取り戻したところが違うけど。


『これなら全体的にも抑えは効くかな』


 この調子なら暴走は回避できるだろう。

 少しだが、気が楽になった。


 これなら他のことにも気が配りやすくなる。

 皆がどれだけ経験値を稼げるかとかね。


「ん?」


 ふと、残されたカーターたちの方を見ると、ヴァンが唖然としていた。


「速い……」


 呆然とした面持ちで呟く。


『ヴァンでも、こうなるか』


 昼間の騒動の時は抑え気味にしていたし。

 エーベネラントの騎士たちに自信をなくされても困るからね。

 レベル差が倍近くあるからしょうがない。


 え? ヴァンに見せるのはいいのかって?

 この男は折れたりしないさ。

 一時的に落ち込んでも必ず戻ってくるだろう。


 どこまでレベルを上げてくるかは分からんがね。


「頼もしいねえ」


 カーターには余裕がある。

 既に慣れている訳だ。

 スケーレトロの時はもっと派手に乗り込んだしな。


 まあ、結界で覆っているから派手にやってもバレないけどさ。

 借金奴隷たちも隔離済みだし。


 だから、トラブルがあっても気にする必要はないんだが、今回は地味にやる。

 主役はうちの子たちだからね。


 古参組ならともかく、まだまだ派手目な荒事には慣れていないだろうし。

 そういうのは集合場所に集まってからだ。


「じゃあ、俺たちも行こうか」


 2人を促して俺は歩き出した。


「待ってください!」


 歩き出した俺にヴァンが声を掛けてくる。

 足を止めて振り向いた。


 ほぼ横並びになろうとしていたカーターも同じく振り向く。

 不思議そうな顔をしているところを見ると、何故呼び止められたのか分からないようだ。


 まあ、それは俺も同様なのだが。


「何処へ向かおうと仰るのですか?」


 ヴァンが妙なことを聞いてきた。

 予想外もいい質問である。


「「は?」」


 故にカーターとハモる結果となった。

 互いに顔を見合わせる。

 カーターにとっても意外な問いだったのは間違いないようだ。


 故にこう思う。


『なに言ってんだ、コイツ?』


 表情に出ていたのだろう。

 カーターが苦笑する。

 それは俺もなんだけど。


 シンクロしたかのような心境だ。


「最短ルートで謁見の間へ向かうんだが?」


「集合場所だとハルト殿が言っただろう」


「あ……」


 どうやら失念していたらしい。

 皆の動きに圧倒されて思考が麻痺していたものと思われる。

 ヴァンがショボーンと落ち込んでいくものの気にしている暇はないのでスルー決定。


「はいはい、さっさと出発するよ」


「おー」


 ノリ良くカーターが拳を突き出した。

 そんな訳で再び歩き出す。


 が、どうにも居心地はよろしくない。

 空気感が微妙なんだよな。


 ウキウキ感が前面に出ているカーターは陽。

 落ち込んだままトボトボと付いて来るヴァンは陰。


 カーターが単独ならどうとも感じなかったと思うのだが。

 ヴァンの陰鬱さを際立たせる格好になっていて、勘弁してほしいと感じる。


 そういう時に限って鬱陶しいのが集ってくるんだよ。

 レヴナントだ。

 実験を失敗させた奴じゃなくて、そいつの犠牲者である。


 影を利用して上手く隠れ潜んでいたつもりのようだ。

 一定の間合いに踏み込むと──


「ひょーっ!」


 嬉々として躍り出てくるのだが……


「脅かしたいならお化け屋敷でやれ」


 問答無用で斬り伏せる。

 体液が飛び散らないよう瞬時に凍らせるのも忘れない。


「いやー、驚いたよー」


 興奮冷めやらぬ感じでカーターが言ってきた。


 ヴァンはそれどころではないがね。

 剣の柄に手をかけて今にも飛び出さんばかりである。


「今のお前さんじゃ勝てない相手だよ」


 グッと歯噛みするヴァン。

 護衛でありながらカーターを守ることができないと言われた訳だからな。


 事実であることは本人もよく分かっているはず。

 無力感に責め苛まれていることだろう。


「どうすれば勝てるようになりますか」


 絞り出すような声で聞いてきた。


「それを俺に聞くのか?」


「はいっ」


『即答するかね、普通』


 しかも、力強くだ。

 国家機密に該当するかもしれないと考えなかった訳ではあるまいに。

 ヴァン・ダファルほどの男がそこを無視するとは……


『覚悟はできているようだな』


 人にこの話を知られれば恥知らずと罵られることにもなるだろう。

 騎士にとっては何よりも屈辱的なことのはず。

 その上、俺が何も教えなかったとしたら恥の上塗りにもなる。


 それを見越しての駆け引きも考えられるが。

 他の者であればともかく、この男がそんな真似をするとは思えない。


 今は必死になるあまり気付いていないだけだ。

 後で気付いた時の反応は……


 まあ、本人にとっては黒歴史になりそうなので今はスルーしておこう。


「せめて手掛かりになるものだけでもっ」


 切羽詰まったような口調で懇願してくる。

 こちらに向けられる視線は真剣そのもの。


 これでは適当にお茶を濁すこともしづらくなる。

 する気もないけどな。


 この男はビル・ベルヴィントに似ているからな。


 しかしながら見た目は全然違う。

 別にビルが醜男って訳じゃない。

 傭兵エクス・キュージョンとしての顔はそう見られるようにしているが。


 素顔のビルは年相応の精悍な顔つきをした若者って感じだ。

 泥臭いところがあるから女子にはモテにくいみたいだけど。


 そういう意味では無精髭を生やしていた頃の方が女子に受けていたかも。

 ワイルド系とかオッサン顔を好む一部女子に限られるがな。

 なんにせよ2人の外見は別路線だ。


 それに、性格的にも大きく異なる側面がある。

 ヴァンはビルのようにお節介な性格をしている訳ではないからな。


 もし、そんな性格をしていたらファンクラブができているだろう。

 今でもあるかもしれないが、規模が違うはずだ。


 とにかく、普通に見れば似ている要素はない。

 それでも似ていると俺が思うのは譲れない何かを持っているからだと思う。


『そういう奴は強いよな』


 レベル云々じゃなくハートが強いと言えばいいのだろうか。

 簡単にはへこたれない。


 まあ、ヴァンは現時点で折れかけているんだけどね。

 それでもギリギリのところで踏み止まろうと藻掻いている。


 少なくとも2人は俺よりガッツのある人間だと思う。


『だから気にかけてしまうんだろうなぁ』


 どうでもいい相手なら「知らん」で終わらせている。


「レヴナントに勝ちたいなら対処法は列車の中で言ったろ?」


「魔力ですか」


「ああ、魔力を練ることができればナイフ1本で勝てるようになる」


 ヴァンの目の色が変わった。

 ナイフ1本はインパクトがあったようだ。

 そこまで劇的なのかという驚きと光明を見出した希望が入り交じっている。


「どうすれば?」


 前のめりになって聞いてくる。


「それは自分で考えろ。

 いま教えたことは列車での俺の発言をおさらいしたようなものだ。

 だが、これ以上は国の機密情報を聞こうとしているに等しいぞ」


「っ!」


 一瞬で顔を青ざめさせるヴァン。

 自分が何を聞こうとしていたのか、ようやく気付いたようだ。


「別に問題にしようとは思っていないから心配するな」


「申し訳ありませんっ」


 ヴァンは土下座しそうな勢いで謝ってきた。


「謝る必要はない」


 そう言っても、ヴァンは頭を上げない。

 簡単には顔を見せないだろう。

 土下座されるよりはマシだけど、しばらくこのままになるのは勘弁してほしい。


「カーター」


「ん、何かな?」


「何か問題になるようなやり取りはあったと思うか?」


「さあ、私は何も聞いていないけどね~」


 実に白々しい口振りだ。

 今にも口笛を吹いて誤魔化すのではないかと思えるほどであった。

 猿芝居もいいところである。


 けれども、これはカーターの計算だ。

 次の瞬間には薄く困惑したヴァンの顔が見られた。


「陛下……」


 そう、下手な芝居で揺さぶりをかけてヴァンに面を上げさせるためだったのだ。

 こうしてカーターのファインプレーに助けられた格好で危機回避。


『助かった』


 フォローがなきゃ手間取ったことだろう。

 カーターには感謝しないとね。


読んでくれてありがとう。

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