1157 地味に行きます
改めて皆を見ていく。
「用意はいいな」
「「「「「お─────っ!」」」」」
片腕を突き上げて気勢を上げるミズホ組一同。
やる気に満ち溢れている。
「よーし、その意気で城内を制圧するぞ」
とは言ったものの、俺が参加するわけじゃない。
「レヴナントは増殖中だが、まだ人間もいる」
実はそちらの方が多いくらいだ。
元研究者のレヴナントがコントロールしている節がある。
いきなりポーションを浴びせたりせず、時間をかけていたぶっていた。
その結果、死亡しても気にした様子がないどころか喜んでいる。
レヴナント化するポーションの使用タイミングは死体にしてからのようだ。
「あ、まだ全滅した訳じゃないんすね」
3人娘のローヌが意外だと言わんばかりの様子で確認してくる。
「レヴナントがいたぶって遊んでいるからだろ」
記憶を残してはいても所詮はレヴナント。
思慮深さは欠片ほどもない。
生前の性格の悪さが前面に出てしまっているのだろう。
「それは悪趣味っすね」
ナーエが言うことはもっともだが、同意はしかねる。
「そうでもないさ」
「えっ!? 何故っすか?」
ライネが驚いて聞いてくる。
「残りはどうしようもない悪党ばかりだからな。
そういう目にあったとしても因果応報だよ」
「「「納得っす」」」
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ホバークラフト列車が停車する。
「よーし、降りるぞ」
「「えっ!?」」
何故かカーターとヴァンが驚いている。
「まだ、そんなに時間がたってないと思うんだけど?」
ちょっと意外そうに聞いてくるカーター。
ガクガクと激しい感じの首肯しかできないヴァン。
「そんなこと言われてもな……
ここはもう目的地なんだけど」
「おーっ、凄いねえ」
カーターは驚きつつも喜んでいる。
「実感が湧かないよ」
そう言って、アハハと声を出して笑った。
「しょうがないさ。
ずっとトンネルの中だったからな。
景色が見えれば少しは違ったんだろうが」
「見えれば見えたで怖い気もするね」
全然、怖がっているようには見えない顔で言ってくる。
「怖いというのは言い得て妙だな」
「というと?」
キョトンとした表情になったカーターが不思議そうに聞いてきた。
「トンネル内だから何もなかったように思えるんだ」
気圧も下げたし、魔法で影響がないようにもしていたからな。
「地上だと何か問題が?」
カーターは察しがいい。
「ああ、今回のようなスピードを地上で出すと周辺に被害が出る」
カーターが困惑したように首を傾げた。
衝撃波を知らないから無理もないことだ。
「音の速さを超えると空気が圧縮された状態で弾き飛ばされるんだ」
「よく分からないな」
しばし考え込むカーター。
「風属性の攻撃魔法を全周囲に放っているようなものだ」
「魔法じゃないんだよね」
「ああ、自然現象だからな」
「……さすがはハルト殿。
私達の知らないことを知ってるね」
「一応は賢者だからな」
自称するからには知識くらいはないとね。
知恵者じゃありませんので。
「とにかく、凄そうなのだけは分かった気がする」
今度は苦笑するカーター。
想像が追いつかないと言いたいのだろう。
「これは飛行機よりも速いんだね」
それだけ分かれば充分だ。
「飛行機でもその気になれば、その速度は出せるがな」
「周辺被害が酷いことになるから出さないということだね」
「それもあるが、ドラゴンとかのヤバい魔物を引き寄せかねない」
「ああ、なるほど」
苦笑の色を濃くするカーターだ。
若干、頬が引きつっていたかもしれない。
とはいえ、まだマシな方である。
ヴァンなどは真っ白になっていたからな。
気を失ってはいないようだが呆然とした面持ちのままで固まってしまっている。
普段のイケメンぶりが台無しになっていた。
まあ、それでもギャップのある方が格好いいとか言われたりするんだろうけど。
要するに格好いい奴は何をしても絵になる訳だ。
そして、爆発しろのコメントを貰うと。
「おーい」
ヴァンの目の前で手を振る。
「はっ!」
すぐ我に返ってくれたので楽だった。
そのまま謝りマシーンへと移行したけどね。
しかしながら、カーターと俺以外は全員がもう降車済みだ。
これ以上は皆を待たせられないのでスルーしてサクッと外に出る。
整列状態で待機している一同。
誰の目にも臨戦態勢なのは明らか。
「んじゃあ、行ってみようかー」
地魔法エレベーターでグーンと昇っていく。
地上に出ると、地獄絵図……は拡がっていなかった。
正門の内側に出てきたのだが、誰もいない。
「既に敷地内なんだね」
「今回は地味にやるから門を蹴り壊して吹き飛ばしたりしないんだよ」
「あー、そういうこともあったね」
少し遠い目をするカーター。
ヴァンはギョッとしてこちらをチラ見している。
ただ、さすがに信じられないという段階ではなさそうだ。
そこまでするのか的な雰囲気を感じる。
それはそれで居たたまれない気持ちになるんですがね。
自重は大事だと痛感したけど今更です。
「よーし、それじゃあチームに分かれて戦闘行動に入るぞ」
皆の表情が引き締まったものになった。
薄く殺気が漏れ出しているのは、緊張感を持って作戦行動に挑もうとしている証拠だ。
とはいえ、今の段階で殺気立つようでは修行が足りない。
手練れがいれば気取られてしまう。
『このあたりは、まだまだだな』
今後の学校での教育次第ということになるだろう。
え? 普通の学校じゃ、そんなこと教えないって?
ミズホ国では教えるんです。
「チーム編成は冒険者パーティの組み方でいい。
少人数のところは他のチームと組むか補佐に回るように」
この指示を出した直後に整列状態が解かれる。
少し間隔を開けて、いくつかの小集団に別れる程度だけどな。
元から各パーティ単位で固まっていたのだ。
整列を崩したのは、いつでも行けるという意思表示だろう。
「単独行動を避けて包囲を狭めていけ」
包囲を狭めるという言葉に女子組が獰猛な目付きになった。
狩りをするのと変わらない感覚のようだ。
『入れ込みすぎだろ』
気になったので、出すつもりのなかった指示を入れることにする。
「異変がある場合は踏み込まずに報告して指示を待て」
ここまで言い切ると、皆を見渡した。
今か今かと待ちかねているのが、ありありと分かる。
『大丈夫かな』
指示は守ってくれるとは思うんだが、どうにも心配だ。
皆には悪いけど斥候型自動人形を多めに張り付けておこう。
もちろん、見つからないよう内緒でな。
「集合場所は謁見の間だ。
仕留めたレヴナントや死体は焼却処分するから、忘れず運ぶように」
リヤカーを使えば数があっても問題あるまい。
まとめて焼却処分するのは死体を残す訳にはいかないからだ。
ここの連中は犯罪奴隷よりも悪辣である。
時代劇のあの方から「テメエら人間じゃねえっ!」の台詞を確実に貰えるほどに。
生身の人間でありながら瘴気を纏っていてもおかしくない。
死体を残せばアンデッドになるのは既定路線のようなものである。
死の間際に、それまでを反省するなら話は別だが。
『ありえねえだろ……』
納得して殺されるような殊勝な玉など到底いるとは思えない。
そう考えるとレヴナントはついでみたいなものだ。
倒せば再生能力も発動しなくなるし。
ただ、ポーションでレヴナントになっているから体液を残すのは危険かもしれない。
ポーションはパーチドデッドの時より強力になっているみたいだしな。
万が一を考えると燃やして灰にするのが適切だろう。
「ポーションとレヴナントの体液には気を付けろ。
注意すべきはポーションだけじゃないぞ。
奴らの血にもそれが流れていることを忘れるなよ」
そう言うと、前のめりな空気が少しだけ和らいだ。
気が引き締まったことだろう。
気負うところはあっても、油断や慢心はないようだ。
それが分かっただけでも収穫である。
「場合によっては唾液も危険かもしれん。
絶対に噛みつかれないよう注意するように!」
念のための情報だが、警戒しすぎだとは思わない。
皆も神妙な様子で聞いていた。
「あとは生き残りの追い込み方だな」
スケーレトロの時と同じだ。
簡単に死なせるよりは苦しみ抜く方が罰となるだろう。
「方法は各自に任せる」
このあたりは考えて行動する癖をつけるための指示だ。
「より多くを謁見の間に追い込んだチームにはボーナスを出そう」
入れ込みすぎだとは思うが、それだけに急なテンションの低下も無いとは言えない。
モチベーションを維持するための景品くらいはあってもいいと思う。
「逆に死体の方が多いチームはペナルティがあるかもしれないから、そのつもりでな」
一瞬だが、ザワリとした。
ハードルが上がったと感じたのだろう。
しかしながら飴があるなら鞭もあるべきだと思う。
これで、より気を引き締めて作戦行動に入ってくれるはず。
間違っても死体を置き去りにする真似はすまい。
あるいは別の場所で燃やしたりだとか。
そういう不真面目なズルをする者はうちにはいないからな。
「以上だ」
締め括った途端にギラッとしたものが再浮上してくるのを感じた。
『しょうがないなぁ……』
一抹の不安を残しつつ──
「それでは作戦を開始せよ」
俺は号令を発した。
読んでくれてありがとう。