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1155 ふたたび超特急なんだけど

 集合の号令をかけて全員が集まるまでに少し時間がかかった。

 1分とはかかっていないものの古参組のようなシュバッとした感じはない。


 単独行動なら可能なのだろうけれど。

 団体行動で狭い場所から出てくるとなると難しいようだ。


『今回の面子じゃ、これが限界か』


 静かにという部分は守られているから、良しとしよう。


「おー、凄いね。

 声も掛けていないのに集合したよ」


 感心しているカーターに無言で頷いてみせた。

 ハンドサインで「待て」の合図を出して次の行動に移る。


 俺とカーターのいた狭い範囲だけを地魔法でスルスルと下げていく。

 同時にマルチライトで薄く穴の中を照らした。


 バスの周囲を幻影結界で覆ったので城内の者たちには気付かれまい。

 興味深げにキョロキョロと周囲を見回すカーター。

 楽しげに見えるのは気のせいではないだろう。


 その割には何も喋らない。

 空気を読んだ訳だ。

 そのあたりはカーターの適応力の高さがうかがえる。


 とはいえカーターだからな。

 殊更、驚くことではない。


 少し気になったので意図的に古いエレベーターの感覚を再現してみた。

 ここで止まるという時になってグニュンとでも言うべき感覚に襲われたのだが。


 止まったことに気付いて楽しそうに俺の方を見てきただけだった。

 これなら少々のことではパニックを起こさないだろう。


 まず、マルチライトの光量を上げる。

 そこから一気に空間を広げた。

 トンネルの方もドーンと掘り進めていく。


 カーターがトンネルの奥を見ながら今にも歓声を上げそうな状態だ。

 そうやって夢中になっている間にホバークラフト列車を引っ張り出す。

 光の魔方陣で演出するので、すぐにバレるんだけどな。


 今度は列車の方に視線を奪われるカーター。

 しかしながらトンネルの方も気になるらしい。


 忙しなく首が動き始めた。

 瞳をキラキラさせていて好奇心が全開状態になっているのが分かる。


『子供かっ』


 内心でツッコミを入れた。

 まあ、リアルで言っても肯定されそうだ。


「子供の心を持った大人なんて素敵だと思わないかい」


 とか言われそうな気がするくらいだ。


 この調子では先に乗っておくように言っても無駄じゃなかろうか。

 仕方がないのでヴァンを先に放り込んでおく。


 次に皆を呼んだ。


「ニャーォ」


 猫の鳴き真似をすると、ベルを先頭にして皆が降りてくる。

 銘々が風魔法を使って着地の衝撃を和らげていた。

 彼女らのレベルであれば普通に飛び降りられる高さではあるのだけどね。


 慎重になっているのは着地時の音や振動を気にしてのことだろう。

 集合の号令をかけた時の[静かに]という部分が守られている訳だ。

 穴自体は広げなかったので[速やかに]とはいかなかったけれど。


 え? なんで猫の鳴き真似をしたのかって?

 カーターが反応するか見たかったんだよね。

 案の定、気付いてなかった。


 トンネルとオプションブーストを装着したホバークラフト列車に夢中だ。

 ちなみに皆が鳴き真似を合図だと認識したのは学校で習ったからである。


 どういう合図かは状況によって変わってくるので、そう単純ではない。

 同じ鳴き声でも「動くな」だったり「隠れろ」だったり違いがあるからな。


 場合によっては指示ではなく、敵の目を欺くために使われることもある。

 今回の場合は「行動を開始せよ」なんだけど。


 全員がそろったのを確認して上につながる穴だけを塞いだ。

 みんな何か言いたそうにしているが[質問はなし]の指示が守られている。


「説明は列車の中で行う」


 そう言うと、速やかに乗車していった。

 車外に残るのは俺とカーターのみ。


「さっきより速いじゃないか」


 まだまだシュバッの領域ではないが、それでも倍くらいには動けていた。

 それだけ早く説明を聞きたいのだというのは分かるのだが。


『なんだかなぁ……』


 心情的には「解せぬ」と言いたいところだ。

 まあ、どうにもならないので諦めが肝心である。


「何時までそうしているつもりだ?」


 カーターに呼びかける。

 これで反応しないなら置き去りにするかとも思ったのだが。


「いやいや、凄いね!

 まるで地の果てまで続いているようじゃないか」


 今度は興奮そのままに話し掛けてきた。


「それに──」


「いいから乗ってくれ」


 なおもお喋りを続けようとするカーターに対し、俺は言葉を被せて遮った。


「でないと、ここに残したまま出発するぞ」


 この言葉は効果覿面であった。


「おっと、それは困るね」


 カーターが真顔に戻ってススッと乗車していく。

 先程までの子供っぽさは欠片ほども感じられない。


「変わり身、早すぎだろっ」


 ツッコミを入れるが、聞いている者は誰もいない。


「……………」


 寒々しい思いをしながら俺も列車に乗り込んだ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「──という訳で、ラフィーポ王国を潰しに行く」


 パチパチパチとまばらな拍手。

 カーターとベルとナタリーだけだからしょうがないだろう。

 しかも、ナタリーはベルの視線に耐えかねてのことなので自発的なものではない。


 他の面子は呆れと不安が半々といった感じの表情をしていた。

 その中の1人が挙手をする。


「質問いいですか?」


 風と踊るのリーダー、フィズだ。


「もちろん」


 まだ敵の戦力について説明が残っているが、後でも問題はないだろう。


「我々が行く意味はあるのでしょうか?」


 女子組の大半が頷いている。


「えー、それを言っちゃうかなー……」


「3千を超える兵をどうにかできる陛下が向かわれる時点で勝負ありだと思います」


 風と踊るのサブリーダー、ジニアが追い打ちをかけてきた。


「今回の俺の役目は皆の送迎とカーターの護衛だから」


「「「えっ!?」」」


 風と踊るの3人娘が驚きの声を上げた。


「そんなに意外だったか?」


「え、だって……、あれ?」


 3人娘の1人、ローヌが混乱してしまったらしくプチパニック状態だ。


 同じくナーエやライネと顔を見合わせて目を白黒させていた。


「この3人は陛下がラフィーポ王国を潰しに行くと思い込んでいる」


 同じパーティメンバーとして付き合いの長いウィスが3人娘の代弁をした。


『あー、誤解されていた訳か』


 国を潰すとなると大仕事になるから俺の役目だと勝手に思い込んでしまったんだな。


「皆に経験値稼ぎをしてもらいたくてな。

 だから、実際の戦闘行動は皆にやってもらう。

 そんな訳で俺は保護者的立場で監督するだけだ」


「「「「「ええ──────────っ!」」」」」


 俺の言葉は3人娘だけでなく、他の面子にも意外だったらしい。

 ほとんどの面子が驚き動揺していた。


「むむむ無茶っすよ!」


「そうっす!」


「うちらペーペーっすよ!」


 3人娘の叫びに同意する動揺した面々。


『ペーペーは言いすぎだ』


 卒業には至っていないとはいえ学校で多くを学び習得しているだろうに。


「できないことをやれと言うほど俺は鬼畜ではないつもりだが?」


 この言葉に皆の動揺は鳴りを潜める。

 [過保護王]の称号を持つ俺が不可能を要求する訳がないのだ。

 それを強調すると情けなくなってくるので、あえて口に出したりはしないがな。


「犯罪奴隷で主力を賄おうとする連中だぞ。

 しかも、ほとんどを投入して全滅してるからな」


「残っている犯罪奴隷はどれくらいですか?」


 女子組の1人が質問してきた。


「それはフランク一家を見張っていた奴らだけだ。

 ちなみに、この連中もついさっき罠にかかって全滅したぞ」


 俺が出てこないことに業を煮やして全員で乗り込むとかバカな連中である。

 報告するための人員を残さないあたり、所詮は満足に訓練を受けていない盗賊だ。


『これで王城にいる奴らに警戒される恐れが低くなったと』


 既に夜闇が支配する時間である。

 仕事熱心な衛兵でもいれば王城へ報告を上げることも考えられるがな。


 しかしながら、自動人形の監視に引っ掛かるような動きはない。

 それを説明すると──


「「「「「おおーっ」」」」」


 皆も納得したように感心していた。

 それでも気になるのだろう。


「では、大した兵力は残されていないと?」


 いま質問してきた女子が念押しの確認とばかりに聞いてきた。


「ああ、王城に碌なのは残っていない。

 見てくれだけの騎士とか何人いても同じだぞ」


「いえ、具体的な強さが分からないことには……」


「強い奴でホブゴブリンと同等」


 別の言い方をするなら冒険者のルーキーには勝てる程度だ。


「「「「「弱っ!」」」」」


「だから、見てくれだけだと言ったろう」


「兵士はどうなんです?」


 念押しちゃんは慎重である。


「王城にいるはずの連中は戦争のために駆り出されたからな」


 全滅しているから1人も残ってはいない。


「兵士もどきならいるが、借金奴隷だから戦力として考えられていないぞ」


「つまり、兵士の格好をしている者は倒してはいけないわけですね?」


「それは最初に選別するから気にしなくていいぞ」


 [過保護王]は伊達じゃない。


「衛兵はどうでしょうか?」


「都合のいい治安維持要員としてしか見られていないから城に入れてもらえないようだ」


「どう都合がいいんだい?」


 ここでカーターが興味を持ったらしく聞いてきた。


「基本的な治安維持は任されているが、国が使っている犯罪奴隷には手出しができない」


 フランク一家への露骨な妨害も阻止できなかったようだしな。

 国が犯罪をしているから止められなくて当たり前とは言えるのだが。


 これじゃあ真面目に仕事をする気にもなれないだろう。

 トフルから買い取った家が瓦礫の山となっても報告されないのは、そういうことだ。


 まともに捜査も行われる様子もない。

 暗闇が支配する時間帯であるからとも言えるが、明日になっても変わらないだろう。

 真面目に仕事をしようとすればするほど横槍が入れられてきたみたいだからな。


 それなら最初からしない方がマシと思うようになっても無理はあるまい。


「とにかく、皆が苦戦するような敵はいない」


 ここまで言い切ると、念押しちゃんも静かになった。

 今度は逆に油断する面子が出てきやしないかと心配になってくる。


「油断だけはするなよ」


 俺の方が念押しする形になったのは、何か予感があったからかもしれない。


読んでくれてありがとう。

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