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1148 解除するよ

 フランク一家は悪党の本気を見たことがなかったのだろう。

 故に長女が脅迫されていたとは夢にも思わなかった訳だ。

 受け止め切れずに真っ白になったとしても仕方あるまい。


 が、話を進めねば長女の解放はないのだ。


「俺のことは信じ切れないか?」


 率直に聞いてみた。


 まあ、本当に奴隷契約の解除ができるのか不安になるだろうしな。

 と思っっていたのだが……


「め、滅相もないことですっ」


 トフルが真っ青になってブルブルと頭を振った。

 イーラやニーナもトフルとシンクロしているし。

 同調的になるのは一家の特徴だからいいとしてもだ。


『なんでガクブル状態なんだ?』


「あれだけの大金を頂戴した上に国から脱出させていただきました」


 トフルがそう言うと、あとの2人がブンブンと首を縦に振る。


「それに、想像を絶する大魔法の数々」


 思い出したのか、少しだけ遠い目をするトフル。

 イーラたちも同じらしく、頷きはしたものの魔法のインパクトのせいか動きは緩めだ。


『やりすぎたかなぁ……』


 そうは言っても既に済んだこと。

 後悔しても後の祭りである。


 よくよく考えたら[自重知らず]の称号を持っていた。

 どうやら、俺は毎回やりすぎてしまう運命からは逃れられないようだ。


 しかも[トラブルサモナー]だし。


『俺の方が遠い目をしたいよ』


 何事かと思われるから、できないけどさ。

 なんにせよ、トフルがヒートアップしてきている。


「分かったから落ち着けよ」


 そうは言ったが、効果は薄そうだ。


「更には見たこともない魔道具で気が付けば国外ですよっ」


 しまいには言いつのるように興奮していた。

 シンクロしている約2名も喋りはしなかったが同じである。


 フンスフンスと鼻息を荒くしている3人。

 どう見ても入れ込みすぎである。


「じゃあ、その気合いでナトレを説得してくれ」


 それだけ熱意があれば伝わるだろう。

 ましてや家族の言葉だ。


「俺が信じろと言ってもナトレ相手には無理な話だ」


 そう言うと、3人は呆気にとられた表情になった。

 何かに気付いて毒気を抜かれたような感じだ。


 まあ、別に3人は俺をやり込めようなどとは思っていなかっただろうけど。

 なんにせよ、トーンダウンしたのは間違いない。


 この様子だとナトレも一緒に今日の体験をしてきたつもりになっていたのかもな。


『それだけ家族の絆が強いってことか』


 だが、暴走されると大変そうだ。

 そのことを想像すると胃が痛くなりそうなのでスルーしておく。


「じゃあ、俺を信じてナトレを説得してくれ。

 それは俺にはできないことだ。

 家族の絆があって初めてできることだと思うぞ」


 一家がそろって頷いた。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「それじゃあ、暗示を解いて」


 光の魔方陣をナトレの額あたりに発生させる。

 毎度お馴染みの演出だ。


 別にサッと終わらせてもいいんだけどね。


 その場合、フランク一家が不安になる恐れもあるからな。

 何だか大変そうだと思ってくれた方が、解除した実感を持ってくれるって訳だ。


「魔道具がらみでゴチャゴチャしてるな」


 【千両役者】スキルを使って少し顔を顰めてみせた。

 もちろん、これも演出である。


 ゴチャゴチャしてるのは事実なんだけど。

 暗示の強制は当然として、暗示への拒否感や疑問を抱かせないなどの効果もある。


 現在位置の確認も行っているし。

 これは距離によって暗示を発動させる時の魔力を調整するためだ。

 従って使用者にモニターされることはない。


 アンデッドの状態を把握できるかどうかは不明だ。

 親機が手元にないから調べられないし、アンデッドは全滅させたからな。

 そんな訳で斥候型の自動人形を向こうの王城に送り込んでいるのだが。


『気付かれたような気配はないな』


 暗示をかけた相手が死んだ時点で魔道具の効果が切れるようだ。


 とにかく、そういう細々した術式に対応させる振りをする。

 端的に言ってしまえば、光の魔方陣を増やしていく訳だ。


 両手を組んで祈るように見守っているトフルたちがハラハラしている。


 そりゃそうだ。

 小さいとはいえ、魔方陣が次々と追加されるからな。


 本当は追加する必要もないんだけど。

 術式の構成は別々のパーツの集まりって感じだけど一括解除できるし。


 それを丁寧にひとつひとつバラす感じで解除していく。

 ひとつのパーツを解除するごとに魔方陣を消すという演出を交えてね。

 視覚的な効果も考慮してやっているので時間がかかる。


 その分、フランク一家にとっては気が気じゃないだろうけどな。

 ちょっと可哀相だけど丁寧にやっているように見せた方がいいだろう。

 終わった際の安心感につながるからな。


『申し訳ないが、そういうことだ』


 俺の中の罪悪感がドンドン積み上がっていく点については代償と思うほかあるまい。

 一家の心理的負担を思えば大した負担ではないはずだ。


「…………………………………………………………………」


 一瞬で終わるはずのものを時間をかけて解除していく。

 先に解除して小芝居をする手もあるが、そうはしなかった。

 ウソをついているようで耐えがたいものがあったからだ。


 焦らすのも心苦しくはある。

 が、実行している行為そのものがウソにはならないので少しはマシなのだ。


「これで暗示については終了っと」


 ほぅと漏らされる吐息が聞こえてきた。

 フランク一家のものであるのは言うまでもないだろう。


「おいおい、あくまでも暗示についてだぞ」


「それでもです」


 震える声で泣く寸前の顔をしたトフルが言った。


『あー、またやりすぎたか』


 過剰演出だった訳だ。

 申し訳なさが罪悪感を引き連れて怒濤のごとく押し寄せてくる。


「娘は、これで死なずに済むんですよね」


「もちろんだ」


 俺はハッキリと断言した。

 ここを罪悪感のプレッシャーに負けて言い淀もうものなら台無しである。


 だが、あえて【千両役者】は使わなかった。

 これは俺に対する罰だからだ。


 大した罰ではないかもしれないが、逃げる訳にはいかない。

 トフルたちの視線を正面から受け止める。


 一家は感極まった状態になっていた。

 あとわずか、ほんの些細なことで涙腺は決壊するだろう。


 それでも唇を噛みしめて耐えている。

 ナトレが目を覚ますまではという思いがあるからに違いない。


「じゃあ、奴隷化の解除な」


「はいっ」


 唇を引き結んでゆっくりと頷くトフル。


「よろしくお願いします」


 深々とお辞儀するイーラ。


「……………」


 何も言えないながらも、父親と同じ表情で頷くニーナ。


「大丈夫だ。

 こっちの方が遥かに楽だぞ」


「「「え……?」」」


 わずかに呆気にとられた表情を見せるフランク一家。


「相手が重大な契約違反をしているしな。

 その反動で解除しやすくなっているんだ。

 強制的に解除しても何の反動もないからナトレには負担が一切かからない」


 今度は事前に説明を入れておく。

 暗示の解除中に些か煽りすぎた部分があるので、これで一家の負担も減らしたい。

 少しでも緊張が緩和されればいいのだが。


 俺の説明に3人は緊張した面持ちを残しながらも安堵していた。

 終わるまでは、この緊張が解けることはないだろう。


「すぐに終わる」


 そう言ってフィンガースナップで指を弾き鳴らした。

 ナトレの頭上に光の魔方陣が描き出されていく。

 見る者によっては天使の輪のようだと思うかもしれない。


 それが維持されたのは数秒ほどのこと。

 次の瞬間には一際強い光を放ち、視界を埋め尽くす。


 だが、眩しさは感じない。

 今度は時間をかけるのではなく不思議効果で演出してみた訳だ。


 そして何事もなかったように魔方陣は消えていた。

 消えていたというか、俺のやったことなんだけどね。


 大事なのはフランク一家にどう見えるか。

 思惑通りなら、それでいいのだ。

 そんなことを考えていた時である。


「んっ……」


 ナトレが小さな呻き声を発し、わずかに身じろぎした。

 俺は後ろに下がり、一家を前に送り出す。

 この時になって3人は不安げな面持ちで俺を見てきた。


「何も心配はいらないさ。

 成功しているから目を覚まさせたんだよ」


 気にしているのはそこではないらしく微妙な表情を見せる。


「ほら、完全に目を覚ます前にシャンとしろ」


 そう言ったくらいでは、表情から不安は消えてくれないのだが。


「ど、どういう、顔をすれば……」


 トフルが言うと、イーラやニーナも同調するように頷いた。


『不安の原因はそっちかよ』


 思わず内心でツッコミを入れてしまったさ。


「んんっ……」


 ナトレがもう少しハッキリした感じの声で呻いた。

 フランク一家の面々がアタフタとし始める。


 目覚めの時までもはや猶予がない。

 それを察知したであろう3人が絶叫しそうな勢いの顔になった。


「「「────────っ!」」」


 大口を開けているが、そこから悲鳴はほとばしらない。

 少しでもナトレの目覚めを遅らせようと必死で堪えているようだ。


 そして、とにかく何かアドバイスが欲しいとばかりに縋る目を向けてくる。


『そこから先は任せたはずなんだがなぁ』


 色々とあるのだろう。

 ナトレを借金奴隷にさせてしまったことが大きいのだと思う。


 それさえ回避していれば違った未来もあったはず。

 少なくとも想像していた以上に過酷な運命に巻き込まれずには済んだはずだ。


 そのことを悔やむからこそ、合わせる顔がないのだと思う。


「どういう顔をするかなんて気にしてる場合かよ」


 指摘しても納得する訳はないのだけど。


 だが、この状況で笑えと言っても無理だ。

 無理に笑おうとしても結果は惨憺たるものになるのが目に見えている。


 言うべきことがあるとすれば、それは表情についてではないだろう。

 相手は役者じゃないんだし。


「助かって良かっただろ?

 だったら、おかえりと言ってやれ」


読んでくれてありがとう。

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