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1144 壊してしまっても構わんのだろう?

 困惑の表情で何かを問いたげに俺を見てくるフランク一家。


 まあ、普通の反応だ。

 出入り口を使わずに店を出て行くと言ったのだから。


 店舗を買って商売をしないに続く禅問答っぽい何か、第2弾。

 第1弾についても答えは出ていないけれど。


 これで第3弾なんてことになったら大変じゃなかろうか。

 ないと言いたいところである。


 別に本気で禅問答をしたい訳じゃないのでね。


「要するに連中が追えないようにすればいいんだよ」


「「「……………」」」


 一家の反応は鈍い。

 ただ、目だけは3人とも──


「だから、どうやって?」


 と語っていた。


「店を買い取る話にもつながるんだよ」


 トフルが頭を振った。


「さっぱり、分かりませんな」


 まともに説明してないから当然だ。


「あ、商売をするつもりがないって……」


 ニーナが何かに気付いたかのように呟いた。

 トフルやイーラがギョッとした表情でニーナを見やる。


 が、ニーナは慌てた様子で頭を振るだけだ。


「そういうことだったのかなって……

 何をするのかまでは、全然分からないし」


 それでも繋がりに気付いた。

 少なくとも両親よりは答えに近いと思う。


 とはいえ、禅問答を楽しむためにここにいる訳ではない。


「簡単に言うと、魔法でぶっ壊す」


「「「は?」」」


 まずはこの反応。

 訳が分からないが顔全面に出ていた。


 そして、言葉が頭の中に染み込んだあたりで──


「「「ええ─────っ!?」」」


 一斉に仰け反りながら驚いていた。


「色々と思い出が染みついているだろうし、その点については申し訳ないと思う」


「いえっ、そういうことではっ」


 泡を食ったようにトフルが言ってきた。


「この店を買ったのは数年前ですし……」


「そうなのか?」


「はい、思い出というものは何も」


 暗い顔をしてトフルが答えた。

 おそらく店を買った時に借金をして長女が借金奴隷になってしまったのだろう。

 ならば良い思い出などあるはずもない。


「では、この国に未練はあるか?」


 念のための確認のような質問だ。

 国を出ると言っていたからな。


「ここまでされて未練などあろうはずもありません」


 トフルは躊躇いなく答えた。


 イーラに視線を向ける。

 全員の意思を確認しておく必要があるだろう。


「娘さえ無事なら何処でも生きていけます」


 イーラも断言した。

 次はニーナだ。


「私はこの国に残る方が嫌です」


 バッサリな答えであった。


 だが、ニーナの両親はたしなめようとはしなかった。

 その様子を見て諦観を感じさせるような苦笑をするばかり。


 娘にそう言わしめるだけの価値しかない国であることは2人もよく分かっていたからだ。


「では、店を壊してしまっても構わんのだろう?」


 その質問を口にしてから、ふと思い出した。

 某弓兵の台詞を。

 意図して言った訳ではないのだが、ちょっとだけ気分が持ち上がった。


「それは……」


 トフルが困り顔をして言い淀む。

 何か問題があるのだろうか。

 少し考えたくらいでは思い浮かばない。


 この店舗の所有者がトフルであるのは間違いないのだが。

 これが賃貸であるなら、家主しだいで別の手を考えることになっただろう。

 判断基準は黒幕の息がかかっているか否かである。


 答えが否であった場合は夜に見張りを眠らせて入り口から出ていくことになったと思う。

 あんまりスカッとしないが、仕方あるまい。


 え? 黒幕の手先の持ち物だったらどうするかって?

 聞くだけ野暮ってもんでしょう。

 遠慮なく破壊しますよ?


「失礼ですが、本当に壊せるのですか?」


 それを聞いてきたのはイーラであった。

 トフルなどは震え上がっている。


 不敬だとか何とか考えているのだろう。

 もちろん、そんなことは無いのだが。


 が、トフルがそう考えてしまうのも分からなくはない。

 この国の王侯貴族がどういう連中か知ってしまったからね。


 だからといって、違いを説明しても無駄だろう。

 そう簡単に受け入れられるものではないはずだ。


 故にトフルの方はスルーした。


「あー、そっちが心配になるんだ」


 イーラが無理だと思うのも無理はない。

 建物は石造りの3階建てだからな。


「その気になれば、この辺り一帯を吹っ飛ばして更地にするくらいは朝飯前だが」


「「「……………」」」


 微妙な静けさが漂う。

 信じていないという雰囲気ではない。

 3人とも顔色を悪くしているからね。


「あの、この建物だけでどうにか……」


 恐る恐るといった感じでトフルが言ってきた。


「元より、そのつもりだよ。

 ここだけを二度と使えなくする」


「そんなことが可能なんですか?」


 今度はニーナが聞いてきた。

 トフルは小さく「ひぃっ」とか悲鳴を上げている。


『あー、ビビらせすぎたかな』


 椅子に座っていなければ、土下座されていたかもしれない。

 先程の一家総掛かりの謝罪はよく土下座しなかったものだと思う。

 とはいえ紙一重の状態だったのではないだろうか。


 そう考えると、イーラもニーナも女性陣は剛胆だ。

 奴隷にされてしまったナトレが関わらないのであれば、大胆になれるらしい。


「可能か不可能かで言ったら、可能だ。

 どの魔法を使うべきかは検討中だが」


「「「え?」」」


 ポカーン顔が3人分、並んでいた。


「プラン1、この下を底なし沼にして沈める」


 底なし沼とは言ったが、3階が沈む程度までにする予定だ。


 ただ、このプランには欠点がある。

 この建物の体積分だけ泥が街の中に溢れ出してしまうのだ。


 見張りの足止めになる利点もあるけどね。

 そうでないなら落とし穴で充分だろう。

 溢れ出した泥の後始末が大変だし。


 両隣の店舗は敵だとしても、御近所さんすべてが敵という訳でもあるまい。

 そう考えると傍迷惑なことこの上ない案だ。


「プラン2、建物に使われている石材をすべて砂に変えてしまう」


 地魔法を使えば楽勝だ。

 あっと言う間に崩れ落ちるだろう。

 付近一帯が砂だらけになるけどな。


 泥とどっちがマシなのかという話になるか。

 これは強風時に被害が拡大しやすい案だと言える。

 御近所さん以外も迷惑を被ることだろう。


「プラン3、構造を支える柱や壁だけを粉砕する」


 地球でもビルや橋などの巨大建造物の解体時に使われる方法である。

 日本では諸事情により行われなくなったがね。

 何度か見たことがある動画なんかの映像は海外のものばかりだ。


「そうすることで建物を内側に自壊させる。

 周辺の建物に倒れ込まないようにするのがミソだ。

 簡単に言うと、樵が狙った方向に木を切り倒すようなものだな」


 色々と計算が必要になってくるがね。

 これもホコリや瓦礫が飛散するので迷惑ではあるが、先のふたつよりはマシだと思う。

 ある程度は敵を混乱に陥れるための手段として使いたいというのはあるけれど。


 でなければ、分解の魔法を使うだろう。

 ゴミになるようなものは何ひとつ残さず消してしまえるからな。

 見張りを足止めする泥とか煙幕代わりの砂やホコリなんかは出ないけど。


 塵ひとつ残さず消せば、それはそれで混乱するとは思うがね。


「とまあ、こんな感じだ。

 周辺の建物を魔法で破壊しないという条件をつけるならな」


 条件なしなら、幾らでも方法があるということを暗にほのめかす。


 あと、条件はひとつだけだ。

 汚さないとは言っていない。

 ゴミに埋もれるかもしれないことも条件に含まれていない。


 ちょっとズルいかもしれない。

 ただ、もっとズルいことも含まれていたりする。

 この条件には裏があるからね。


 魔法がもたらした結果により間接的に破損することについては言及していない。

 大量の泥や砂が近隣の建物にダメージを与える恐れは大いにある。

 あるいは瓦礫が飛んできて破損することもあるだろう。


 まあ、敵の息がかかった建物が致命的なダメージを負ったりするかもしれない訳だ。

 敵の下っ端である犯罪奴隷どもが酷い目にあうことも条件には含まれていない。


『ズルいだろう?』


 フランク一家が気付かなければスルーしてしまうつもりだからな。

 気付かれた時は説得するまでだ。


『悪は許すべからずってな』


 説得が必要になるなら、ナトレがどんな目にあわされたか語るだけで充分だろう。

 家族思いの3人からすれば、奴隷契約の違反だけでもアウトなはず。


『命に関わる仕事をさせられていたなんて知った日には……』


 ましてや殺されかけた訳だからな。

 もしも殺されていれば、見るも無惨な姿にされていた訳だし。

 干涸らびた死体になるなんて言葉で説明されても信じないだろうけどさ。


「「「……………」」」


 果たして3人は言葉を失っていた。

 ポンポンと簡単に提案されるとは思わなかったようだ。


『これは気付く以前の問題だったか』


 待つだけでは時間が無駄になるので、話を先に進める。


「どのプランがいい?」


 何気なく問いかけただけなのにギョッとした目を向けられた。


「あ、あの……」


 トフルが申し訳なさそうに聞いてくる。


「どうした?」


「私どもが決めるので?」


『あー、そういうことか』


 俺が買い取って壊すのだからトフルたちが決めることではない。

 筋は通っている。


 そして、できれば自分たちを巻き込まないでほしいってことだな。

 一般市民ならば、当然の考え方だろう。


「希望があるか聞いてみただけだ」


 3人そろってブルブルと頭を振った。

 絵に描いたかのような必死の形相だ。


「じゃあ、適当にやっとく」


 ガクガクと頷く3人であった。


読んでくれてありがとう。

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