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1139 国境線地帯にて

「あの、陛下?」


 フィズが困った顔をして問いかけてきている。


「おお、スマン。

 少し考え事が過ぎたようだ」


「いえっ、こちらこそ申し訳ありません」


 考え事の最中に邪魔立てしてしまったと思ってしまったようだ。


「気にしなくていいさ。

 今後の予定に穴がないか軽く思案していただけだから」


「それは尚のこと……」


 俺の言葉を受けて顔色を悪くしてしまうフィズ。


「大丈夫だって」


 笑みを浮かべながら言ってみるが、効果は感じられない。

 やはり、笑顔が不自然なんだろう。


『こんなことなら【千両役者】を使うんだった』


 後の祭り状態で後から自然な笑みを見せても意味がない。

 それどころか逆効果になる恐れすらある。


「ジニア、ウィス、悪いがフィズのフォロー頼むわ」


 困った時の神頼みならぬ丸投げである。


『……間接的には神頼みになるのか』


 エリーゼ様の真似をしているからな。

 丸投げバンザイ。


「はい、分かりました」


 苦笑しながらジニアが引き受けてくれた。


「任された」


 特に表情を変えることなくウィスが頷く。

 だが、すぐに首を傾げて俺の目を見てくる。


「お、どうした?」


「もしかして急ぐ?」


「俺がか?」


 コクリと頷かれた。


「ああ、そうだな」


「何を?」


「ちょっと軍隊を止めてくる」



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 跳んできました、国境線地帯。

 光学迷彩と風魔法を使って目視と匂いで発見されないようにしながら空を飛ぶ。

 あと音も匂いと同様に一方通行だ。


『おっと、熱源感知されると面倒だな』


 普通の人間が相手ならその心配はないんだが。

 そういうスキルを持っている奴がいると厄介だ。

 いなかったとしても、野良の魔物に感知されて間接的にバレる恐れもある。


『ちょっと油断しすぎか』


 相手を舐めてかかってしっぺ返しを喰らうなんて御免被る。

 そんな訳で光学迷彩の魔法を少し改良した。


 結界で遮断すればすぐなんだが、熱がこもってしまうからな。


『空間魔法で一時的に回収すればいいのか』


 回収した熱を再利用するのも面白そうだ。

 転送魔法と組み合わせれば、熱源感知する相手を惑わせることも可能だろう。

 あるいは熱を凝縮させて使うとか。


 色々と使い道はありそうだが、今回は別の方式だ。

 考え事をしながらも術式の改造は終了。

 新型の光学迷彩の出来上がりだ。


 とはいえ、熱源も光と同様にねじ曲げて感知できないようにしているだけだが。

 マイナーバージョンアップなので新魔法と言うには抵抗がある。


『光学迷彩のままでいいか』


 それはともかく敵軍の偵察だ。


 まあ、すぐに発見したけどね。

 それっぽい連中が隠れもせずに平野部に陣取りしていたから。


 パッと見で3千人規模だろうか。


「あー、余裕かましてるなー」


 装備なんかは統一されているから軍隊なんだと分かるんだが。

 お世辞にも士気が高いとは言えないような状態だ。


 歩哨と思しき兵士がだらしなく突っ立っている。

 おまけに堂々とアクビをしているくらい緊張感が欠けていた。


『野良の魔物が来たら真っ先にやられるぞ』


 それとも何か感知するスキルを持っているのか。

 気になって【天眼・遠見】と【天眼・鑑定】を組み合わせて確認してみたが……


「マジかー」


 思わず声に出してしまうくらい何のスキルも持っていなかった。


『どんだけ油断してるんだよ』


 それを言うなら、陣内の連中も同様だ。

 だらしなさは歩哨よりも更に上なくらいである。


 ついでに、この連中も鑑定していく。


「……………」


 見事なまでに感知系のスキル持ちはいなかった。

 指揮官から下っ端まで全員ね。


『何を考えているんだろう』


 そう思ったが、この連中は高度なことは何も考えていない。

 むしろ逆だろう。

 隣国に攻め入って略奪やら何やらで自分たちが美味しい思いをすることしか頭にない。


 念のために【遠聴】で下っ端の会話を聞いてみた。


「はやく始まんねえかなー」


 表情を思いっ切り緩ませる下っ端兵士。

 どうやら先のことを思い浮かべて脳内は至福の時間のようだ。


「へへっ、そう慌てるなって。

 明日になりゃあ、やりたい放題できるんだからよ」


 下卑た笑い声を発しながら応じた同僚兵士も似たようなものである。


「そうだぜぇ。

 楽しみは焦らされるほど旨味が増すんだ」


 賛同した下っ端兵士などは、涎まで垂らしている。


「おいおい、涎が出てんぞ」


「汚えなぁ」


 他の同僚兵士たちが注意するものの、この連中だって締まりのある顔はしていない。

 それが証拠に──


「おっと、いけねぇ」


 涎兵士が口元を袖口で拭うと、一斉に爆笑していた。


「「「「「ブワッハハハハハハッ!」」」」」


「気持ちは分かるぜぇ」


「そうそう、待ちきれねえよ」


 ますます締まりのない顔つきになっていく兵士たち。


「なんたって、好きに暴れろと言われているからなぁ」


「捕まった時は最悪だと思ったけどよ」


「だよなー」


「まさか、隣の国でなら何をしてもいいなんて言われるとは思わなかったぜ」


「それな」


「さすがは王様、話が分かるっ!」


「「「「「おうよっ!」」」」」


「俺たち犯罪奴隷にお目こぼしをってな」


「バーカ、それを言うならお情けだろうが」


「何だっていいんだよ。

 美味しくいただければな」


「そうそう、金も女も望むままってな」


「「「「「ギャハハハハハハハハッ!」」」」」


 これでは単なる盗賊である。


『下種どもがっ!

 貴様らに明日などあるものかっ』


 気分は一気に急降下。

 怒りは天を突き抜ける勢いで急上昇だ。


 まあ、鑑定する前から想像はついていたけど。

 コイツらは自分たちでも言っていたように犯罪奴隷である。


 どうやら同じ盗賊団の面子で固まっているようだ。

 凶悪な盗賊団の一員だったらしい。


 コイツらは元[泥サソリ団]なんだとさ。

 他の集団を確認してみると[闇夜の毒蜘蛛団]とか[血の毒蛇団]なんてのがいる。


『気持ち悪いネーミングするなぁ』


 それが狙いなんだろうけど。

 誰かを脅すことも前提にしている訳だ。


 似付かわしいとは言えるだろう。

 どいつもこいつも凶悪犯罪者に似付かわしい罪状がてんこ盛りだし。


 当たり前のように複数の罪名が並ぶ。

 見ているだけで胸糞が悪くなる。


『遠慮しなくていいのは助かるがな』


 指揮官からして盗賊団の頭目だったりする。

 犯歴のない人間など1人もいない。


 これはもう軍隊と言うべきではないだろう。

 軍服を着ていようが関係ない。

 盗賊団と呼んだ方がしっくりくる。


 寄せ集めではあるがな。

 一応の統率が取れているのは犯罪奴隷として縛り付けられているからだろう。


『バカバカしくなってきたぞ』


 どうやって追い払おうかと頭を悩ませていたことがな。


 巨人兵のレプリカを並べて威圧してみようかとか。

 それでダメならロケットパンチで輜重隊の物資を破壊しようとか。

 精神的に追い込むために闇属性の魔法で悪夢的な幻覚を見せようとかも考えた。


 だが、そんな手は使わない。

 この連中を裁くに相応しい者は他にいる。


『数え切れないほどな!』


 俺はファントムミストの魔法を使った。

 割と大規模になるが、バーグラーで使った時ほどではない。

 3千人が陣取っている平野の一部を覆い隠すだけだ。


 それでも真っ昼間に霧が立ちこめるなど異常事態もいいところなのだが……


「霧だとぉ?」


「ちっ、辛気くせえな」


「何だってんだよ」


「進軍中でなくて良かったじゃねえか。

 獲物に逃げられちゃ、楽しみが減っちまう」


「おお、そうだな」


 徐々に立ちこめていく霧を見ても誰も慌てた様子を見せない。

 さすがは凶悪犯罪者どもだ。

 これくらいではビビりもしない。


「けどよぉ、鬱陶しくねえか?」


「だんだん見えなくなってきたってんだろ」


「おうよ」


「こんなの、じきに消えるって」


「消えなかったら、どうするよ?」


「どうもしねえ。

 屁ぇこいて寝るだけだ」


「バカ野郎、臭えからどっか行け」


「そっちこそバカ野郎だ。

 こんな目の前もまともに見えねえのに何処へ行けって……」


 反論中に盗賊兵士がビクリと体を震わせた。

 そのまま喋るのをやめてしまう。


「何だ?」


「どうしたってんだよ」


「何か聞こえねえか?」


「さあな」


「聞こえねえぞ」


「空耳じゃねえのか?」


 その時である。


「ギャーッ!」


 濁声の悲鳴が霧の中に響き渡った。


読んでくれてありがとう。

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