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1138 バスの中にて

「陛下、降参です」


 バスに乗り込むなりベルが白旗を揚げてきた。

 リアルに物理で。


 お子様ランチ用の旗サイズだったけどな。

 爪楊枝で作っているあたり、芸が細かい。


『いつの間に……』


 それはともかく、本人が白旗を揚げるならネタバレしても大丈夫だろう。


「送信元は王都だよ」


「……そうでしたか」


 何気なく答えたつもりだろうが、答えるまでの微妙な間は誤魔化せない。

 間違いなく驚いたはず。

 面倒なのでツッコミは入れないが。


「尋問しますか?」


 ナタリーが聞いてきた。


「「「ワクワク」」」


「いや、尋問するとなると起こさなければならんからな」


「「「ガックリ」」」


「ですが、このままでは……」


「「「─────っ」」」


「情報が得られない、そう言いたいんだろ?」


「はい」


「「「─────っ!」」」


「それも一理ある」


「でしたら」


「「「ワクワク」」」


「……………」


 俺はおもむろに振り返った。


「「「おおっ」」」


 すぐ後ろにいた風と踊るの3人娘が仰け反る。


「さっきから真後ろでうるさい」


「「「だってー」」」


「だってじゃねえよ。

 ワクワクとか口で言ってるし」


「期待の表れっす」


「すっごく興味あるっす」


「刑事ドラマみたいっす」


 ローヌ、ナーエ、ライネの3人が口々に言ってきた。

 素直なのは良いことだ。


 が、邪魔になっていたということに関して無自覚なのがイラッとする。


「今は寝かせてやれ。

 ずっと張り詰め通しで疲れている」


 拡張現実をオンの状態で奴隷スパイを見ると[疲労]が表示されていた。


「陛下、格好いいっす」


 感動したと言わんばかりに瞳をキラキラさせてローヌが言った。


「褒めても何も出ないぞ」


「ちびりそうっす」


 ナーエが妙なことを言い出した。


「なんでだよ」


 思わずツッコミを入れてしまったさ。


「格好良くてちびりそうっす」


「……あのな」


 せめて、痺れるとか憧れるとか言い様があるだろうに。

 頭痛がしそうな表現をしないでほしい。


 それ以前に、格好いいとか言われること自体があり得ないんだが。

 この程度のことで何を言うのかって感じだ。


『そんなんだったら、本物のイケメンだらけになってしまうっての』


 ここで言う本物のイケメンというのは、外見だけでなく内面も重要視される。

 要するに、凄く性格がいいイケメンということだ。


 だが、実際には本物のイケメンなど驚くほど少ない。

 故に俺は格好良くない。

 証明終了!


 こんなのはわざわざ証明するまでもないことなんだがな。

 だというのに──


「いやいや、それくらい格好いいってことっすよ」


 ライネがナーエの意見を援護射撃してくる。


「これはどんな女も惚れてしまうっすね」


 おまけに、こんなことを言うし。


『本気か?』


 とてもそうは見えない。

 一見、真面目に語っているように見えるのだが。


 それでいて、ちぐはぐな印象を感じてしまう。

 妙に台詞くさいというか。


『ああ、そういうことか』


 ライネ自身は自分の言った言葉に共感していないのだ。

 だから、お前はどうなんだと聞けば話をはぐらかされるはず。


「ある訳ないだろ、そんなこと。

 そもそも言い方がコントのネタっぽいんだよ」


「なんでバレたっす!?」


 やはり冗談だったようだ。

 そんな訳で3人娘の相手はここまでだ。


「フィズ、この3人を少し静かにさせてくれ」


「申し訳ありません」


「謝らなくていいよ」


 俺が、そう言いきる前にジニアやウィスと共に3人娘の拘束にかかる。

 油断している3人娘の背後にササッと回ってガッと羽交い締め。


 行動が迅速だ。

 俺が指示を出す前から待っていたに違いない。

 どの程度まで調子に乗るか様子見していたと思われる。


 3人娘にしてみれば、気付いた時には捕まっていた感じだろうか。


「うわっ」


「何をするっす」


「やめるっす」


『油断しすぎだよ』


 ギャーギャー騒ぎ出すかと思われたが、そこは女子組の連係プレーが発動。

 フィズたちが羽交い締めしている間に他の女子組が猿ぐつわを噛ませた。


「「「むーっ!」」」


 と唸る3人娘だが、そのまま女子組で拘束して2号車に連行。


『連行するなら猿ぐつわいらんだろう』


 そう考えたが、強制的に降車させるまでずっと唸っていたから指示に忠実だった訳だ。


「終わりました」


「ああ、御苦労さん。

 些か強引だとは思うが、眠らせている奴隷スパイのことを考えてくれたんだな」


 目を覚まされても再び眠らせなきゃならんから手間だし。


『変に誤解されて舌でも噛みきられたりしたら堪らん』


 そういう血がブワッと出そうなのって心臓によろしくないし。


 何より罪悪感が怒濤の勢いで押し寄せてきそうだ。

 それだけは何としても阻止したい。


 帰ってきたら彼女の悪夢はすべて終わっていた、というのが理想である。


 とはいえ、そう簡単なことではない。

 まずは国境線に展開しているラフィーポ王国軍を撤退させる必要がある。

 戦争が始まったら、問題の解決どころじゃなくなるからな。


『まったく、面倒なことをしてくれるぜ』


 大多数の兵は上から命令されて出征してきているにすぎないだろう。

 故に生かして退かせる必要がある。


 熊蔵たちのようにアンデッド化させられているなら消し飛ばして終わりだけど。

 まさか、それを願う訳にもいかない。


『たぶん大丈夫だとは思うけどね』


 兵をアンデッド化させるのは問題がある。

 使い捨てになるからな。


 そして、制御不能なのが最大の問題だ。

 敵と味方の区別なんて同じアンデッド以外はしないだろう。


 だから、一部の部隊だけをアンデッドにするなんてことはできないのだ。

 戦争である以上は相応の戦力となる。


 例え勝利したとしても補填が極めて困難な損失を生むだろう。

 アンデッドで攻め入った場合は使い捨てるしかないからな。

 そうなれば大幅な戦力低下は免れない。


 そればかりか、育成の手間やコストも膨大なものとなる。

 保有戦力を元の状態に戻すまでには年単位で時間がかかるはずだ。


 それを周辺国が黙って見ているか。

 今回の首謀者たちは否と答えると思う。


 アンデッドを使ってテロを実行しようとするような連中だ。

 自分たちが弱みを見せれば絶対に叩かれると考える気がするんだよな。

 それも高い確率で。


 疑心暗鬼に陥るんだろうな。

 故に兵たちをアンデッド化させる手は使わない訳だ。


 だからこそ、こちらにとっては手間なんだけどね。

 アンデッド相手なら浄化すれば終わるから。


 それから奴隷スパイの家族を連れて来る必要があるだろう。

 本人の奴隷契約の解除もしなければならない。


 普通に契約解除するなら、まず持ち主から買い取る必要がある。

 そこから奴隷契約を破棄すれば晴れて奴隷から解放される訳なんだが。


 契約違反をした相手に金を払う義理はない。


『誰がそんなことするかっての』


 犯罪奴隷なら罪状によっては命の保証がないが、借金奴隷はそうではない。


 彼女は紛れもなく後者である。

 真っ当な商人の家に生まれ育った普通のお嬢さんだからな。


 鑑定した時に確認したが、犯罪奴隷に落とされるようなことは何ひとつしていない。

 ぶっちゃけると、罠にはめられて借金奴隷にされてしまった。


 その上、扱いが犯罪奴隷と変わらない。

 それだけで歴とした契約違反となる。


 だが、それを奴隷本人が訴えたところで何も解決しない。

 契約者が国で訴える相手も国。

 まともとは言い難い国が相手の場合、詰みである。


 とにかく、向こうが先に契約違反をしたのだ。

 強制的に契約を破棄してもとやかく言われる筋合いはない。


 え? 言ってきたらどうするのかって?

 真っ向から叩き潰すに決まってる。


 テロの一件だけでも腹に据えかねているのだ。

 加えて奴隷スパイの事情を知ってしまった。

 断じて許せるものではない。


 じゃあ、何故すぐに契約解除しないのかとなるだろう。

 目覚めてから解除するのは確かに問題があるからな。


 捕まった場合は家族が云々と脅されているだろうし、自害しかねない。

 それを阻止するための一手間が必要になってくる。


 だから先に家族を連れて来るのだ。

 家族の安全が確保されているなら目覚めても死のうとはしないだろう。


 で、強制解除するところを家族に見せる。

 ややこしい説明を何度もしなくて済む訳だ。


 これを一石二鳥と言わずして何というのか。


『まあ、面倒事を増やしたくないだけだけど』


 ここまでを晩餐までに終わらせる。

 イレギュラーがなければ可能なはずだ。


 まあ、少しくらい予定がずれ込んでも大きな問題はない。

 あとは首謀者を潰すだけだからな。

 これについては夜のうちにどうにかしようと考えているし。


 可能なら最後の仕上げは皆で行きたいところだ。

 経験値の肥やしになるかは分からんけど。


 今回のメンバーで軍隊の相手をさせるのは不安があるので、そっちはスルーだ。

 何処かの中将も「戦いは数だよ」と言った。

 無視はできないだろう。


読んでくれてありがとう。

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