表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1149/1785

1136 ダンジョン由来ではありません

 エーベネラント王城内におけるアンデッド騒動は鎮静化させた。

 状況から察するにラフィーポ王国の陰謀なのは疑いようがない。


 だとすると、これで終わりではないだろう。

 故に斥候型自動人形で王城内の監視を継続しているのだが。


 これだけ派手にやったにもかかわらず、怪しい動きが見られない。

 本国に報告する別動隊が動くと思ったのだが。


『派手だったからこそ、ほとぼりが冷めるのを待っているのか?』


 それにしたってパーチドデッドの動きを観察するような者がいなかった。

 リアルでアンデッドを見て、その余裕がなかったということも考えたのだが……


『なーんか、ピンと来ないんだよなぁ』


 何も考えずにテロを起こしたと言われた方が、まだしっくりくる。


 だとしたら、計画性がないにも程があるけどな。

 テロを起こすタイミングが分からんし。

 結果がどうなったかも判明しない。


 最初はペンダントでモニターしてるのかと思ったが、そういうことはなかった。

 シーニュが回収してきたものを調べた結果だから間違いない。


 牽制の蹴りを入れている時に回収してくる抜け目なさは見事と言うしかないだろう。

 一緒に牽制していたシャーリーはひとつも回収できていなかったけどな。


「申し訳ありません」


 ションボリしたシャーリーに謝られてしまった。

 シーニュの行動には気付いていたのだ。

 ただ、真似はできなかっただけである。


「人から奪い取るようで抵抗があったって?」


「はい……」


 死者から剥ぎ取るような気がしたと言うのだ。

 元商人としての矜持が、そういう気持ちにさせるらしい。


「普通に死んだ相手なら分かるけどな」


 その場合は、多くの者が墓を暴くに等しい気持ちになると思う。


「アンデッドは死者の成れの果てだが、所詮は魔物だ」


 苦しげに顔を歪めるシャーリー。


『散々蹴り飛ばして聖炎で燃やしたのに、これなのか』


 もしかすると、燃やしたのは荼毘に付したつもりなのかもしれない。

 その認識は間違いだ。


 一度、アンデッドになってしまえば魔物である。

 生前の記憶を持とうが関係ない。


「アンデッド化してしまえば元には戻れないってことを忘れてないか?」


 不可逆だということを失念している気がしたので聞いてみた。


「あ……」


 短く声を漏らした後は言葉が出てこない。

 どうやら思っていた通りのようだ。


「死者じゃないんだ。

 何度も言うが、アンデッドは魔物だからな」


「はい」


 どうにかシャーリーも納得してくれた。


「私達が回収した物も見てもらった方がいいですよね」


 そう言いながらベルが空間魔法を使おうとした。


「あー、そっちは仕舞い込んだままにしてくれ」


 俺の言葉にベルの動きが止まった。


「どういうことでしょうか?」


 怪訝な表情で問うてくる。

 出鼻をくじかれた格好だが、不満を感じているという訳ではなさそうだ。

 当然と思っていたことがキャンセルされたからだろう。


「却下する理由は簡単だ。

 バスに残してきたお嬢さんが暴れる恐れがあるからな」


「えっ!?」


 ベルが驚きを露わにしていた。

 そのまま数秒ほど固まってしまう。

 おかげで空間魔法は使われることもなかったので幸いと言えるのではなかろうか。


「どういうことでしょうか?」


 ナタリーが代わりに聞いてきた。


「そんな高度なものだったのですか?」


 どうにか復活してきたベルも聞いてくる。


「ああ、かなり高度な魔道具だ」


「「そんな!?」」


 婆孫コンビがそろって声を上げた。

 2人が驚くのも無理はない。

 西方の技術水準を遥かに超えているからだ。


「本当なんですか?」


 戸惑いつつもシャーリーが聞いてきた。

 聞かずにはいられなかったといった風である。

 商人ギルド長であったことから魔道具に接する機会もそれなりにあったが故だろう。


 他の面子も信じ難いという表情をしている者が大半である。

 平然としているのは神官ちゃんくらいか。


 いや、興味がないだけのようだ。

 何処までもマイペースである。


「信じられんのは分かるが事実だぞ」


「いえっ、疑っている訳ではないのですが……」


 最初は焦った反応を見せながらも戸惑いを隠せず、声のトーンが落ちていく。


「コイツは今の時代の魔道具じゃないからな」


 多くの者が「あっ」と声を上げていた。

 シャーリーもそのうちの1人である。

 失念していたことに気付かされたからなのは間違いあるまい。


 婆孫コンビは納得したように頷いている。


「発掘品ですか……」


 溜め息を漏らしながらナタリーが言った。


「そういうことだ」


「でっ、でもっ、おかしくないですか?」


 焦った様子でシャーリーが聞いてくる。

 発掘品など滅多に出てくる代物ではないからな。


「使い捨て感覚で使われるのがってことか?」


「はい」


「これ、使い捨てだからな」


「は!?」


 カクーンと顎を外してしまいそうなくらい大口を開けているシャーリー。


「生産性を上げるために使い捨てにしてるみたいだな」


 感覚的にはレンズ付きフィルムのようなものだ。

 まあ、あれは回収して再利用しているようだけど。


「何故そのようなことを?」


 質問してきたのはベルだった。

 シャーリーが復帰できていないしな。

 高度な魔道具が使い捨てとあっては聞かずにいられなかったのだろう。

 他の面子も動揺らしく前のめりになっている。


「セキュリティの問題かな」


「と言いますと?」


「こいつは対象者に暗示をかけて強制的に従わせるのが基本機能のひとつだ」


 この説明で周囲がざわつき始める。


「それで死ぬと分かっているポーションを飲んだのね」


「死ぬかどうかは知らされてなかったかもしれないわよ」


「どっちでもいいわよ。

 飲む暗示をかけていれば逆らえないんでしょうし」


 女子組の面子がそんな話をしている。

 暗示のひとつはそれで間違いない。


「それとセキュリティの関係は?」


「すべての暗示が実行されると自壊する」


「壊れていませんが?」


 ペンダントは特に破損したようには見えない。

 そう思うのも無理からぬことだろう。


「二重構造なんだよ。

 内側の術式を記述した部分は再利用不可の状態だ」


「鹵獲防止ですか?」


「そういうことだな」


 ベルの確認するような問いかけに俺は頷きながら答えた。


「それと、この壊れ方は術式の解読を不能にするものだ」


「粉々になっているとかですか?」


「ああ、その通り」


 使用中は耐衝撃の結界で状態を維持。

 終われば結界を解除して魔法で衝撃を与える。


 元から壊れやすい材料と製法だから簡単に壊れるのだ。

 粘土を乾燥させただけのものだからな。

 素焼きの陶器より脆い。


 だが、作りやすいという利点もある。

 乾燥させる前の粘土に術式を浮き彫りにしたプレートをスタンプ。

 これだけで術式の記述は終了だ。

 量産向きの手法だと言える。


 ただし、高度な生産技術がないと細かな術式を粘土に定着させられないのだが。

 色々と工夫はされているようだ。


 乾燥時に割れないよう魔法で保護しているのも、そのひとつである。

 このことからも分かるが、人の手が加わっているのは明らか。


 つまり、この魔道具はダンジョンで得られたものではない。

 さっきも言ったように発掘品なのは確実だろう。


『厄介なものを掘り出してくれたものだ』


 そして、利点はもうひとつ。

 通常なら壊れやすいという弱点をセキュリティに利用していること。


「取り出そうとすれば、更に壊れてしまうだろうな」


「どうして分かるんですか?」


「鑑定したから」


「そういうことですか……

 でも、よく解読できましたね」


 細かく鑑定情報を読み取れば術式の内容についても分かるのだが。

 今回は友好国とはいえ余所様の目もあるので、そこは自重した。

 別のアプローチを使っている。


「鑑定情報を参考にして錬成魔法で再生させたからな」


 え? 自重してない?

 鑑定で暴くよりはマシだと思うんだが。


「それは……」


 ベルが困惑の表情を浮かべた。

 おそらく魔道具が動作することを懸念しているのだろう。


「大丈夫なんですか?」


「ああ、問題ないように処理したぞ」


 俺はしっかりと頷いて答えた。


「再生前に結界で遮断してると言えば安心できるか?」


「ああ……

 はい、なるほど」


 ホッと一息つくベル。


「今のところは」


 言い添えることも忘れていなかったが。


 ペンダントが再生されたことに代わりはないと言いたいのだろう。

 俺が最初に警告を出していることからも、結界で遮断されなくなればと考えているはず。


『用心深いことだ』


「心配はいらない。

 読み終わったら中身は分解しておいた」


 ペンダントの中身は既に空っぽである。


「なるほど、処理済みでしたか」


「ああ」


「では、暗示をかける以外はどんな機能が?」


「今回の一件、同時多発しただろ?」


 ヒントがあればベルなら分かるはずだと逆に問いかけてみた。

 すぐにハッとする。


「暗示の行動を発動させるための信号を受信……」


「正解だ」


 俺がそう言うと、ベルは渋い表情をした。

 微塵も嬉しいとは思っていないのは明白である。


「送信側の魔道具もあったのですね」


「そうだな」


「彼らは所持していませんでしたが」


「ああ、送信機はずっと離れた場所にあるようだぞ」


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ