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1132 敵の思惑と皆の対応

「全員で聖炎だ」


 フィズが次の指示を出す。


「「「「「了解」」」」」


 風と踊るの全員で聖炎を放つ準備に入った。


 そこから発動まで多少の時間がかかったが、仕方あるまい。

 動きが鈍っていたとはいえ3人娘はパーチドデッドを抑え込みながらだったしな。


 聖炎は比較的制御の難しい魔法だ。

 今の彼女らのレベルでは、多少もたついてしまう。

 もう少しスムーズに制御できるようになるには3桁レベルに達する必要がある。


『まあ、こんなものか』


 全員の右手の先に灯った聖炎の炎も小さなものだ。

 光属性を帯びた炎は徐々に大きくなっていく。

 最初はロウソクの炎程度だったものがソフトボール大になった。


 現状のレベルで考えれば妥当と言えるだろう。

 それでもパーチドデッドには必要充分な威力があるのだが。


「行くっすよ」


「「おうっす」」


 ローヌの呼びかけにナーエとライネが返事をした。


「「「合体っ!」」」


『は?』


 何を訳の分からないことをと思っていると……

 3人が槍を斜めに持ち上げた。


 パーチドデッドの体が宙に浮く。

 ビクビクと手足を動かすが、大暴れした最初の勢いはない。

 そのまま3体はぶつけるように合わされた。


『合体ね……』


 単に重ねただけである。

 不格好なことこの上ない。

 まあ、元から見た目のよろしくないアンデッドだからな。


「「雑に扱うな」」


 フィズとジニアから叱責が飛んで来る。

 槍の切れ味次第でパーチドデッドが自由になることを懸念してのことだろう。


 そこまで2人が気にするほどではないと思うのだが。

 既に機敏な動きはできなくなっているようだし。


 仮に下に落ちたとしても、刺し直せば済むことである。

 それは3人娘も理解しているようだ。


「「「へーい」」」


 返事に心情が表れている。


「集中しろ」


 緊張感のなさにフィズの指示が飛んだ。

 静かに穏やかな声ではあったが、3人娘にとっては矢にも等しいものであった。


「「「ういっす」」」


「放て!」


 フィズの合図で全員が聖炎を放射。

 パーチドデッドに炎が当たると瞬く間に全身を炎が覆う。


 激しく燃え上がるかに見えたが、炎は制御されている。

 パッと見では火勢が感じられないかもしれない。


 それでいて聖炎は数秒とかからず負の波動諸共にパーチドデッドを燃やし尽くした。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 風と踊るの面子以外も城内のパーチドデッドはミズホ組が難なく抑え込んでいる。

 人員をあまり分散させずに対応できたお陰もあるだろう。


 とはいえパーチドデッドの数が少ない訳ではない。

 皆が連携で上手く捌いているだけだ。


 避難誘導にともなう牽制。

 さり気ない位置取りで兵士たちには避難誘導へ回らせるようにするのを忘れない。

 避難状況を確認しつつ槍か地魔法のグラウンドタスクでパーチドデッドの動きを止める。

 聖炎の準備ができ次第、攻撃して終了。


 あちこちに分散してはいるが、そのパターンはほぼ同じである。

 彼女らの状況を見比べられるなら、誰もがマニュアルの存在を疑うだろう。


 現場で臨機応変に対応せざるを得ない以上、そこまで細かなものは存在しないがね。


 ただ、完全否定することもできない。

 学校での教育の成果だと言えるからな。

 危なげなく見ていられるというものだ。


 ただし、懸念材料がない訳ではない。


『ちょっと破壊工作員が多すぎないか?』


 あのポーションを飲んだのはメイドだけではないってことだ。

 となると熊蔵の随行員しかいない。

 こちらの方が数が多いくらいだ。


『スパイが山ほどいるような状況じゃなくて助かった』


 もし、そんなことになっていたらと思うとゾッとする。

 熊蔵の連れて来た連中に加えてスパイだらけとなるとタイマン勝負になっていただろう。


 もちろん、この程度のアンデッドにうちの面子が不覚を取るとは思わない。

 真っ向勝負でならばだが。


 しかしながら、ここはエーベネラント王国の王城だ。

 アンデッドに対処したことのない者たちばかりなのは疑う余地もない。

 状況によってはミズホ組が対処する前に襲われる者が出ていたかもしれない訳だ。


 しかも、噛みつかれればアウトという相手である。

 ポーションを飲んだ連中と同じ症状を発症してパーチドデッドが増えてしまうのは痛い。

 数の力に圧倒されないという保証はないからな。


『人竜組くらいのレベルなら余裕で対処できるんだが』


 育成の都合から今回は連れてきていない。

 経験を積ませるつもりでレベルの低い面子を集めたからだ。


 現状で3桁レベルに達しているのはベルとナタリーくらいのもの。

 城内がパーチドデッドだらけになったら2人だけで対処しろとは言いづらい。

 そのような状況にはなっていなくて幸いだ。


『まあ、普通に考えれば何十人もスパイを送り込むのは非効率か』


 それでもバスに確保した以外のスパイが8人いたけどな。

 ラフィーポ王国の連中は本腰を入れてエーベネラント王国を狙ってきているようだ。


 問題は今回の自爆テロである。

 爆発はしなかったが……

 ある意味、爆発されるより厄介だ。


 俺たちが来ていなければ、爆発の方が被害が少なかったのは明白だからな。

 パーチドデッドが増殖すればするだけ手に負えなくなる。


 だが、エーベネラント王国が滅んだとしても、領土は手に入らない。

 アンデッドだらけの国となって進入することすらままならなくなるのは目に見えている。


 いや、パーチドデッドたちが国境線を越えてくれば自分たちの身すら危うくなるだろう。

 発案者がそれを想定していないとは考えにくい。


『いくら何でも、ちゃんと考えているよな……』


 気になったので【諸法の理】でパーチドデッドについて詳しく調べ直してみた。

 読み飛ばした部分があったのを思いだしたのだ。


 え? 先に読んでおけば良かったのにって?

 ごもっとも。

 面倒くさがるものじゃないとは思うんだけどね。


『……………』


 どうやら噛みつきによる増殖には制限があるようだ。

 1体のパーチドデッドが噛みついて増やせるのは約10体。

 その後は塵となって自滅するという。


 しかも噛みつかれて増えたパーチドデッドに増殖能力はない。


『だよなぁ』


 ねずみ算式に際限なく増えるのだとしたら、誰もこんな手は使わないだろう。

 西方はあっと言う間に滅亡だ。

 制限付きで助かった。


 それでも10倍になるというのは面倒である。

 タフだが制御不能とくれば軍にも組み込めないし使う側だって持て余すはず。


 だが、バカとハサミは使いようという諺がある。

 例えば破壊工作なら、これほど効果的なものもないだろう。


 敵の中枢近くに送り込みさえすればいい。

 破壊工作員が10倍に増えるのだ。


 それもゾンビよりタフで痛みを感じない。

 抗う術がなければ壊滅的な被害を受けるのは間違いない。

 充分な脅威と言える。


 今回の手口はまさにそれだ。

 西方で数十を超えるアンデッドを相手に損害を出すことなく乗り切れる国などない。


 その脅威度はダンジョンの暴走に匹敵するだろう。

 王城どころか王都が壊滅的な被害を受けることさえ考えられる。


 たとえ王族が生き残っても、軍を指揮できるような状況ではないはずだ。

 国内も少なからず混乱することが容易に予想できる。


 その間に戦争を吹っ掛ければ勝ちは揺らぐまい。

 少なくとも国境線は大きく変わる。


『やることがセコいんだよ』


 この作戦を考えた奴は費用対効果とかチマチマ考えていそうだ。

 多くの人間を犠牲にしておいて、そういう発想をするタイプは度しがたい。

 時代劇に出てくる黒幕っぽいと感じたさ。


『間違いなく潰してくれる!』


 とはいえ、それをするのは後でということになる。

 今はミズホ組のフォローを想定した監視に注意を払わねばならない。


 女子組の面々は風と踊るの面々と同じような対処をしていた。


 まずはパーチドデッドを囲い込んで逃がさないようにする。

 次は牽制だ。

 その間に周囲にいるエーベネラント王国の面々を避難させるためである。


 万が一にも犠牲者を出す訳にはいかないからな。

 それが確認できれば、あとは寄って集って終わらせる。


 一方的な蹂躙だ。

 袋叩きとも言う。


 だが、卑怯と言うことなかれ。

 自爆テロを考えた者こそが卑怯と言われるべきだよな?


 現場にいる敵はすべて既に死したる者だ。

 成仏させるべく早急に倒すべきだろう。


 なんにせよ、ほとんどの面子が同じように対処していた。

 一部例外もいたけどな。


 シャーリーと神官ちゃんことシーニュだ。

 この2人は他の面子と組むことなく遊撃的に動いていたのだが。


「この人たちって敵の貴族が連れて来ていた随行員よね?」


 シャーリーが神官ちゃんに問いかける。


「おそらく」


 神官ちゃんが頷きながら答えた。

 先に潜入していたスパイと違って固まって行動していたせいで頭数が多い。

 他にもいるが、ここが8体と最多だ。


『2人で8体か』


 兵士がいなくて避難誘導もままならない状況では難易度は他よりも格段に高い。

 それでも慌てた様子を見せないのは大したものだ。


 素早くパーチドデッドたちの周りを回りながらバラバラに動かぬよう蹴り戻している。

 逃げ遅れた者がこの場に何人もいなければ、もう少しやりようもあっただろう。


「早く逃げなさいっ!」


 一喝すると、腰を抜かしていたメイドたちが四つん這いでどうにか逃げ始めた。

 このままでは避難の完了までに消費される時間は相当なものになるだろう。


 それでも焦った様子を見せない。

 淡々と作業をこなすような雰囲気さえ漂わせていた。


 が、2人の動きは素早いままだ。


「ちょこまか動いて面倒ねっ」


 パーチドデッドを蹴り飛ばしながらシャーリーが吠えた。


「文句を言わない」


 神官ちゃんも同じように蹴り飛ばしているが、声に力は込められていない。

 同じ作業をしているようには見えないほどである。


「これで時間を稼げば応援が来る」


 次の蹴りを繰り出す神官ちゃん。


「分かってるわよっ」


 負けじとシャーリーも蹴りを放つ。

 愚痴りながらも動揺した様子はない。


『成長するもんだねぇ』


 出会って間もない頃のシャーリーは少々のことでガクブルしていたもんだが。


読んでくれてありがとう。

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