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114 朝から忙しなくなる

改訂版です。

 早めの時間に就寝したこともあって早朝に目覚めた。

 ミズホ組もそれに続く。


「寝てていいんだぞ」


「主よ、無茶を言ってくれるではないか」


 喉を鳴らしてツバキが笑った。


「これ以上は眠れません」


 ハリーが淡々と語りツバキがウンウンと頷いている。


「おはよう」


 続いて起き出してきたのはルーリアだ。

 ミズホ組とのやり取りは声を潜めていたつもりだったのだが、声はもう少し絞っておくべきだったようだ。


「ああ、おはよう。起こしてしまったか?」


「大丈夫だ。ゆっくり休ませてもらった」


「賢者さん、おはよう」


 ノエルも起きてきた。


「おはよう。リーシャたちはまだのようだが、いつもこんな調子なのか?」


 月狼の友は誰1人として起きる気配がなかったので聞いてみた。


「初めてかもしれない」


 ノエルの返事から察するに普段は見張りを立てたりして警戒しているのだろう。


「そうなのか?」


「たぶん警戒しなくていいからだと思う」


 ここは警備のしっかりした高級宿の最上階だからな。

 それに昨日は結構振り回したし。

 気がゆるんでしまうと、こうなるのも仕方ないのかもしれない。


「散歩でも行くか?」


 朝食の時間まで余裕があるからノエルを誘ってみたのだが残念なことにフルフルと首を振って断られた。


「皆が起きたときに私がいないと騒ぎ出す」


 過保護だとは思っていたが、ここまでとは……

 これじゃあメモ書き残していっても気付かずに騒ぎかねないな。


「しょうがない。それじゃあトランプでもするか」


「トラ……なに?」


「虎がどうしたというのだ?」


 ノエルが小首をかしげ、ルーリアが困惑の表情を浮かべる。


「トランプだよ。4種類の記号と数字を組み合わせたカードのことだ」


 少し離れた場所へテーブルを移動させて席に着き、紙で作ったカードを用意して簡単な説明をした。


「ふむ、このカードをひとくくりにしてトランプというのか」


 英語圏ではプレイングカードと呼称されるそうで日本でしか通用しない呼称だけどな。

 トランプは切り札とかいう意味になるそうだ。

 まあ、英語のない異世界なんだから馴染み深い呼び方でいいだろう。


 それよりも、どう遊ぶかを説明する方が大事だ。

 せっかく暇つぶしのために作ったのだし遊ばなきゃ勿体ない。

 ならば将棋があるじゃないかと言われそうだけれど、あれは駒音で月狼の友が目覚めかねないから却下した。


「変わった娯楽があるのだな。紙は高級品ゆえ広まらぬのも無理はないが」


「うちじゃあ紙は安価だから気軽に遊べるぞ」


「まったく恐れ入る。賢者殿は多才だな」


 ルーリアは苦笑交じりにそう語った。


「そうでもないさ」


 将棋もトランプも俺が考えたものじゃないしな。

 まあ、何も知らない現状では謙遜していると思われるんだろうけど。


 何はともあれトランプだ。

 今回は簡単なルールで切り上げやすいババ抜きを選択。

 ローズやノエルが有利だとは思うが気にせずやってみることにした。


 結果は大人げない約1名がツバキから顰蹙を買いながらボロ勝ち。

 桃髪天使な幼女は忖度して無心で楽しんでいたというのに……

 俺は初めての相手を滅多打ちにして二度とやらんと言われるより接待プレイでバランスを取る選択をしたと言っておこう。


 ノエルたちには感想を聞いていないが、それなりには楽しめたと思う。

 区切りはリーシャたちの起床だ。

 部屋へと運ばれてくる朝食の匂いに誘われる格好だったのが何とも言えないところだ。


 朝食を運び込んできた従業員が窓を開けていく。


「もう外に出ても大丈夫ですよ」


 いい笑顔で言われると安心感が違うし愛想良くされると話も弾む。

 白々しいとは思ったけど色々と聞いておいた。

 それによると安全宣言が衛兵隊長と冒険者ギルド長の連名で出されているのだそうだ。

 あの2人、ちゃんと仕事してるな。


 それだけに疲労困憊でダウンしてやいないかと心配になる。

 昨日は緊急事態ということでやむなく退避したから俺たちの冒険者ランクは白のまま。

 ランクアップの試験を担当したゴードンがいないと手続きができない訳で、現状のままだと討伐系の依頼は受けられない。


 さっさと手続きを済ませたいのだが。

 朝食後に冒険者ギルドへ向かうのは躊躇われる。


「朝一の冒険者ギルドはどのくらい混み合うんだ?」


 こういう懸念があるのでね。


「討伐系の割のいい依頼を狙って冒険者たちが殺到するな」


 リーシャが答えてくれた。


「他の用事なら時間をずらした方がいいわよ」


 レイナが捕捉してくれる。


「しょうがない。そういうことなら先に商人ギルドに行くか」


 朝一なら何処も混み合うとは思うが冒険者ギルドよりはマシだろう。


「商人ギルドにも用事があるんかいな?」


 アニスが興味を引かれたようで聞いてくる。


「ああ。商談と市場調査ってところか」


「随分と時間のかかりそうな依頼を持ち込むつもりなんやな」


 何か勘違いされているようだ。

 そういや月狼の友は俺の商人ギルドでの立場とか知らないんだっけ。


「いや、すぐに終わる」


 商談は家畜を購入する手配をお願いするだけだし。

 市場調査は紙と楽器の需要について確認しておきたいってだけだ。

 前者はシャーリーにお願いしておけば手配してくれるだろう。

 後者も詳細が知りたい訳ではなく、大体の普及具合や紙を商材にする場合の注意点などが分かれば充分なのだ。


 紙が使えないのはあまりに不便だから、まずはザラ紙から普及させて徐々に質の良いものを送り出すつもり。

 大きな商いになりそうだからガンフォールに1枚噛んでもらった方が良いかもしれない。


 楽器の方は単純に種類が増えれば娯楽も少しは充実するかと考えただけのこと。

 市場を荒らす心配が少なそうだし模倣されても構わない。

 品質が幅広くあるなら普及も促進されるのではなかろうか。

 知らんけど。


 他にも娯楽用品や米と日本酒なんかも考えている。

 これらが当面の主戦力商品だ。

 ただし、ドワーフの方から徐々に流す予定。

 何が起きるか分からない商材だから様子を見ながらでないとな。

 他国の経済圏な訳だし。


 文化や生活を荒らしてまで金儲けがしたい訳ではない。

 意図せぬ文化ハザードを起こして多くの人が路頭に迷う事態に陥るなど罪悪感ゲージがレッドゾーン突入だ。

 そういう訳で一応は自重するつもり。

 とはいえ新しい風を流して何の影響もないと思うのは虫がいい話だろう。

 その結果として不幸なことがあったとしたら、それは残念なことだと言わざるを得ない。


 しかしながら、それだけだ。

 多かれ少なかれ誰しも己の行動で誰かを押し退けている。

 自分が目標を持って行動した結果、同じ目標を持つ誰かがあぶれるのはよくあること。

 結局、図太くなくては世知辛い世の中など渡ってはいけない。


 自重するのも、派手にやれば目立って余計な恨みを買う恐れがあるからだ。

 ハマーとかガンフォールあたりから自重できていないと指摘される可能性もあるけどな。

 そのあたりはよほどでなければ気にするつもりはない。

 窮屈に生きるつもりはないのでね。


 そんなこんなで考え事しながら飯食ってたせいで、あっと言う間に食べ終わっていた。

 途中から思考に埋没してしまっていたか。

 悪いクセだという自覚はあるが、たぶん治らんな。


「で、これからどうすんの?」


 食後の茶を飲んでいるタイミングでレイナが聞いてきた。


「まずは屋台を冷やかしながら商人ギルドに行く」


「それ助かる」


 物足りないって顔をしていたから買い食いしたくて予定を聞いたのかもな。


「その後はどないするん?」


「冒険者ギルドへ行って登録手続きを完了させる」


「せやったな。忘れてたわ」


「何だったら先に冒険者ギルドへ行って待っていてくれてもいいぞ」


「やめておく」


 俺の提案をあっさり却下するリーシャ。

 やはり混雑を回避したいのだろうなと思っていたのだが。


「ボーン兄弟に挨拶しなくてはならない」


 ということだった。

 彼等とはここでお別れになるのだし、当然だよな。


「向こうも商人ギルドで待っていると思う」


 ならば俺がどうこう言うことではないな。


「すまない。後で構わないので衛兵の詰め所へ行きたいのだが」


 ルーリアが遠慮がちにそんなことを言ってきた。


「詰め所に用が?」


「荷物を引き取りに行かなければ」


「ああ、武装解除させられていたんだったな」


 言われて初めて思い出す間抜けな俺。

 最初に見たときは腰に双剣を交差させるように差しててインパクトあったのにね。

 よくよく聞いてみると本来のスタイルではないそうだけど。

 道理で模擬試合の時に長剣型の木剣を使っていた訳だ。


「それならドルフィンとツバキをつけよう」


 合流を容易にするには念話が使える者がいた方がいい。

 それにルーリアは保護観察処分状態だからな。

 余計なトラブルに巻き込まれないよう保険を掛けておかないと。


「すまない。助かる」


 ルーリアもそれを理解しているようで了承してくれた。


 ただ、今後のことを考えると個人単位で連絡がつくようにしたいところだ。

 携帯電話か無線機くらいは作った方がいいかもしれない。

 作るのは国に帰ってからになるが。


 そんなこんなで行動に移る。

 ハマーやボルトと合流して商人ギルドへGOだ。

 まあ、食いしん坊たちの買い食いに付き合いながらなんだけど。


 ルーリアたちと予定通り途中で別れた後も、すれ違う相手からほぼ確実に振り向かれていた。

 ドワーフにフードを目深に被ったローブ姿の集団という違和感バリバリの連れがいるからな。

 しかも俺なんて幼女と手をつないでいるし。

 まかり間違ってノエルを迷子にさせる訳にはいかないのでしょうがない。


 そんなこんなで商人ギルドに到着。

 やっぱり朝は人が多いようで中はそこそこ賑わっている。

 にもかかわらず窓口のギルド職員が俺の姿を確認すると一瞬のフリーズの後ハンドベルを鳴らした。

 で、上司らしき職員が部下を従え俺の前まで小走りに近い早足で向かって来た。


「これはこれはヒガ様、おはようございます」


 上司職員が挨拶すると後ろに控える部下2人もお辞儀をする。


「ああ、おはよう」


 こういう目立つのは勘弁してほしいと思いながらも平静を装って挨拶を返した。


「こちらへどうぞ」


 そして奥へと案内されてしまう。

 その間に用件を聞いて上司が指示する前に控えていた職員たちが離れていく。

 優秀なんだとは思うけど気遣いも覚えてほしいものだ。


読んでくれてありがとう。

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