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1119 やっぱり方針変更?

 カーターが俺の怒り具合を確認するべく聞いてきた。

 俺の配慮不足を痛感させられることとなったが……


『それで、引き下がるだけだと何も解決しないんだよなぁ』


 実に面倒くさい話だ。


「トーンとかいうバカ野郎をギャフンと言わせないと気が済まんくらいだな」


 俺の返事にカーターが頬を引きつらせた。


「心配しなくても、ラフィーポとかいう国からケチはつかないようにするさ」


 付け加えた言葉に肩を落とすように嘆息して安堵の表情を浮かべるカーター。


『そういうのを見てしまうと罪悪感が湧いてしまうんですがね』


 まだ俺の言いたいことは残っているのだ。

 申し訳ないとは思うが、決めたことを覆したりはしない。


「国を解体すれば文句も言い様がないよな」


 何をやってもケチをつけてきそうな相手のようだし。

 ふざけた奴に新書を持たせるくらいだからな。

 それに奴隷スパイを送りつけてきた国でもある。


 やると決めた以上は徹底的にやらないとね。


 え? 自重?

 今回はもしかすると封印かな。


 【諸法の理】によれば評価のよろしくない国みたいだから上は叩き潰すのは決定事項だ。

 スケーレトロの時のように隔離スローライフを強制するかは、まだ分からんけど。

 場合によっては永遠に行方不明になってもらうことだって考えられる。


「ちょっ、ハルト殿ぉっ!?」


 カーターが泡を食っている。


『だよなぁ……』


「大本を放置してもスケーレトロの時のようなことになりかねんぞ」


「うぐっ」


 短く唸ったカーターが渋い表情になった。

 戦争の2文字が頭の中を独占したからだろう。


 色々あったがために現状で戦争をするほど国庫に余裕はないからな。

 人材も不足しているとくれば、無理からぬところだ。


 そこを考えると、スルーしても碌なことがないのだ。

 それが分かっているのだろう。

 カーターがガックリと肩を落とした。


 俺のラフィーポ王国、買いたい宣言……

 もとい、解体宣言にカーターが落胆したくなる気持ちは分からなくもない。

 揉め事は避けられないと確信したからなのは明白だ。


 この場合の揉め事は外交交渉で片付けられるものではない。

 俺がスルーした場合は確実に戦争へと発展するだろう。


 向こうはそれを狙っているのかもしれない。

 スパイを送り込んでいるのは、そのタイミングを計るためでもあるのかもな。


『そんなことは俺がさせんよ』


 戦争になる前に掃除して終わらせる。

 掃除と書いて「おしおき」と読んだりするけどな。


 そのあたりをカーターも想像してしまったのだろう。

 状況の悪化を思い描いて嘆いている訳だ。


『俺が手を出さなくても、結局は荒事になるぞ』


 カーターは戦争にならないよう外交努力をするつもりのようだけど。

 それも相手が端から喧嘩を吹っ掛ける気満々なら、どうしようもない。


 たぶん、そうなるんじゃないかと俺は予感めいたものを感じている。

 証拠は呈示できないので断言はしない。


 が、最悪の事態として想定すべきだろう。

 俺が手を出すより悪化することまでは想像が及んでいないようだ。


 それを失念するとはカーターにしては珍しいミスではないだろうか。

 あまりに状況が動きすぎてカーターも先読みできなくなっているのかもしれない。


 スパイへの対処までは計算できていたようだけど。

 そういう意味では、ラフィーポ王国の思惑通りにことが進んでいた訳だ。

 スパイよりも後から来たであろうトーンとかいう貴族が仕事をしていることになる。


『ただの使いっ走りのくせに、実は有能なのか?』


 意図してカーターの思考をかき乱せるのであれば大したものだ。


 ただ、何となくではあるが違う気がする。

 引っかき回して混乱を狙うなら切れ者を送る必要はない。


 いや、逆に悪手だと言える。

 何かあった時に詰め腹を切らせなければならなくなるからな。


 先の状況が読み切れない段階で有能な駒を失うのは大いなる損失と言えるだろう。

 莫大な利益を見込めるなら話は変わってくるかもしれないが。


『こういう場合は、どうでもいい捨て駒を使うもんだよな』


 斬り捨てても損のないバカの有効活用ができるからだ。

 自分たちが持て余していたゴミを相手への嫌がらせに使うと言った方が的確か。


 処分費用がかさむ廃品を相手に押し付ける発想は、まさにバカとハサミは使いよう。


 地元民からの苦情が来なくなるし。

 それだけでも負担は減るだろう。

 後始末やもみ消しにだって金はかかるからな。


 押し付けた相手からの苦情は、距離の関係からそうそう来るものではない。

 来ても、そっちで処分してくれで終わらせることも可能。

 引き取ることになっても帰りの道中で処分して終了させられる。


 ゴミの排出元が何か言ってきても、国際問題を起こしたからと突っぱねられる。

 地元で問題を起こした場合は根回しで有耶無耶にできてもな。

 アウェーでやらかせば、どうにもならないって訳だ。


『これを考えた奴は天才か?』


 決して称賛などしたくはない類のイカれた天才ではあるがな。


 そして、ゴミはその天才が思い描けないほど望ましい結果を生む。

 あくまでも送り出した側にとっての、だがな。


 バカだから空気は読まない。

 地元だろうが外国だろうがお構いなしだ。

 よそ行きの態度とか猫を被るとかは「何それ、おいしいの?」だろう。


 そして、バカだから常識がない。

 故に送り込んだ者たちにも予想外のことをやらかす訳だ。


 それでも確実に分かることがひとつある。

 バカが動けば周囲を振り回し被害をもたらす。


 送り込んだ先でそれをしてくれるのは最高の攪乱になるだろう。

 こうしろ、ああしろと、指示を出す必要さえないのが素晴らしい。


 バカの口から誰それから指示を受けたという証言は出てこないのだ。

 自発的に動いている訳だからな。

 指令書などの証拠になるものも残らない。


 更には、バカだから背景事情など考えるはずもない。

 上手くおだてれば信じ込む。


 事実かどうかは関係ない。

 聞かされたことを真実だと思い込んで熱心に職務をこなそうとするだろう。


「国王陛下の親書を届ける名誉ある職務を与える」


 とかなんとか言われただけで舞い上がるような人材が望ましい。


「返事を受け取り帰還するまでは我が国の代表として恥ずかしくない振る舞いを忘れるな」


 こんな風に言っておけば充分だ。


 普通は、これで大人しくなるのだが。

 国を代表していると思い込んでいるバカだと調子に乗る訳だ。

 外国であるかどうかを考慮しないからな。


 そう考えれば、トーンとかいう貴族の能無しな行動も頷けるというもの。

 見事に敵の思惑通りのことをしでかしている訳だからな。


 おそらく当人は、与えられた名誉ある職務を忠実に行っているつもりだろう。


 そして、エーベネラント王国からクレームが来れば証拠隠滅タイムだ。

 バカに詰め腹を切らせて口封じ。


 捨て駒だから惜しくない。

 むしろ、厄介者を正当な口実で処分できる。

 一石二鳥とは、まさにこのこと。


 あとは強引に終了へと持ち込むのみだ。


『ただなぁ……』


 これもラフィーポ王国の上層部に常識がある場合の話だ。

 本気で逸材を送り込んでいると思っているパターンもないとは言い切れない。


『あり得るのが怖いんだよな』


 こんな奴いないだろうと思うようなのが実際にいたりするのだ。

 ネットの掲示板でフェイクを交えながら書き込んでも釣り認定されるようなのがな。


 大学時代にも何回か見ているし。

 役所勤めをするようになってからは年に1回は見たと思う。


 配属部署によっては、もっと頻度が上がったりするから異動の時期は戦々恐々だったさ。

 そういう部署に長年いると精神の均衡を崩したりする人も出てくるくらいだ。

 そのあたりは一般企業でも似たような所はあるのだろうけど。


 いずれにせよ、敵が典型的な行き当たりばったり思考で動いていることは充分あり得る。

 逆に意外にもまともで想定内に収まることも考えられなくはないのだが。

 このあたりが不透明なので何とも言えないところである。


『借金奴隷をスパイに仕立て上げるような国だしな』


 向こうの常識が、こちらの斜め上であることも充分に考えられる。

 とにかく、借金奴隷を犯罪奴隷であるかのように扱う時点で俺とは相容れない。


 もしかしたら借金奴隷の中でも救いようのない連中を選んでいるのかもしれないが。

 そこは確かめてみなければ分からない。


『あのスパイにも事情聴取が必要かな』


 泳がせようと思っていたが、方針変更するしかなさそうだ。


 そんな訳で取っ捕まえてお話ししてみることに決定。

 コロコロ方針を変えるのは好ましくないとは思うんだけど。


 こちらから動いた方が早く終わる気がするのでね。

 臨機応変も時には必要だ。


 え? エーベネラント王国に入り込んだ敵の間諜組織が分からなくなる?

 連絡先などもスパイから聞き出せばいい。

 そこから調べ上げるだけのことだ。


 そんな訳でスパイの確保に動く訳だが。


『せっかくだから誰かに任せるのもありか』


 これも訓練となり得るだろう。

 連れて来た全員を動かすようなものではないがな。


『ベルとナタリーにするか』


 サクッと人選。

 受けるかどうかは当人たち次第だがね。


 とりあえずメールで指示を送ってみることにした。


[タイトル:【至急】極秘任務(任意)]


 これを見ただけでベルなどは喜びそうだ。

 ナタリーは嘆息しながらもベルに付き合ってくれるだろう。


 いきなり[嫌です]のレスはないと思う、たぶん……


『無いとは言いきれないからドキドキものなんだよな』


 ベルが悪乗りする恐れがあるからと拒否られることは充分に考えられるのだ。


 その時は仕方あるまい。

 無理強いするのは趣味じゃないからな。


 状況によっては──


[拒否は認めない]


 と本文に書き加えるのだが。

 もちろん、タイトルにも任意の文字は入れない。


 今回はそこまでの任務じゃない。

 半分は訓練目的なので、答えが否であるなら他の者に任せてみるのもありだろう。


 シャーリーと神官ちゃんのコンビなんかは面白そうだ。

 もしくは風と踊るの面子のチームプレーに期待するのもありかもしれない。


『メールの返信次第だがな』


 問題はナタリーがどこまで拒絶反応を見せるかだ。

 強硬に否定した場合は、ベルのレスを見せればいい。


 ベルはまず断ってこないだろうから。

 タイトルの時点で興味を引いて面白がると思う。


『楽しそうって言ってくるんじゃないか』


 不謹慎ではあるけれどと前置きした上でな。


 至急とか極秘という単語にテンションを上げるのが見えるかのようだ。

 そうなれば占めたものである。


 ナタリーも諦めるはずだからな。

 そんな訳で本文中の指令を極秘かつ大急ぎでクリアしてくれるだろう。


[カーターを監視しているスパイを確保せよ]


 これがクリアすべき指令だ。


読んでくれてありがとう。

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