↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1122/1785

1109 漫才コンビではないのだけど

 ビルが諦観を感じさせる表情になって溜め息をつく。


「本当に俺は何もしなくていいんだよな?」


 念押しする感じで聞いてきた。

 俺が何をしようとしているか理解したからこそ不安になるのだと思われる。


 敵は犯罪組織の残党のようなものだ。

 しかも、元の規模がが大きい。

 残党といえど個人で対抗するには無理がある。


 桁外れに強ければ話も変わってくるが、今のビルでは対抗することさえ難しい。

 だから俺が衛兵につなぎを取ったのだとビルは考えたはずだ。


 とはいえ、命令権のない個人の要請である。

 コネを駆使しようと限度があるとも考えているだろう。


 おそらくは常識的な範囲での戦力の見積もりをしているはず。


『せいぜい中隊規模までかな』


 その認識は俺の想定と乖離している。


 確かに衛兵を大規模に動かすにはリスクを伴う。

 ゲールウエザー王国は治安が良い方だが、それでも裏組織は存在するようだしな。

 残党狩りで下手に動員数を増やすと手痛い目にあうことが考えられるのだ。


 それを逆手にとった作戦を提案するつもりではあるが。

 残党どもを釣り上げる際に裏組織もついでに釣り上げる。


 根こそぎ引っこ抜くことはできないだろう。

 そうするべきでもない。


 穴が空いても、すぐに埋まるものだ。

 前より状況が悪くなることも無いとは言えない。


 ならば許容しがたいものだけを釣り上げる。

 古くから地元に根ざした組織は穏健なものが多いみたいだし、それで充分だろう。


 穏健派には不文律による縛りもあるようだからな。

 やりすぎると反動が大きいことを理解しているからだろう。

 いきなり豹変するとは考えにくい。


 が、新規に参入してきた連中は違う。

 組織の安定より上がりを重視する。


 危うくなれば逃げればいいと考えるからだ。

 そのためには仲間を犠牲にすることも厭わない。


『より悪辣な輩が多いってことだな』


 こういう奴らはちょっとした隙でも餌が大きければ噛みついてくる。

 危険性が高かろうと目もくれない。

 ハイリスクハイリターンを狙ってくる訳だ。


『それを利用して釣らせてもらおう』


 コイツらが抜けた穴も、いずれは埋まる。

 イタチごっこになるだろう。


 だが、その間に穏健派に勢力を伸ばさせれば状況も変わっていくだろう。

 そうそう思い通りに行くものではないとは思うが、現状よりはマシになるはずだ。


『問題は、この提案をダニエルが受け入れるかだよな』


 割と大掛かりになるだろうし。

 俺自身は作戦行動を手伝うつもりもないが。


 立案と大まかな計画を提案するだけのつもりだ。

 基本はゲールウエザー王国の面子で動かなければ意味がないからな。

 向こうの国のことなんだし。


 助っ人が何人か入るくらいはあるかもだけど。


「おいっ、本当に何もしなくていいんだよなっ?」


『おっと』


 少し考え込みすぎたようだ。

 ビルの問いかけに答えるのを忘れていた。


「すまんな、少し計算していた」


 ウソではない。

 助っ人の面子や頭数について考えたのは事実だ。

 ビルの質問に対応した計算とは言い難いがな。


『どう考えても、こちらの都合だし』


 それでも作戦が実行されればビルの遺恨は晴れるだろう。

 無関係って訳じゃないからな。


「何ぃっ!?」


 ビルは敏感に何かを感じ取ったようだ。

 何もしなくていいのかの返事がイエスでもノーでもなかったからな。

 警戒心丸出しで鼻息を荒くしている。


「そう、カッカするな」


「してねえし」


 ブスッとした表情でそっぽを向くビル。


 だが、ソワソワして落ち着きがない。

 どうやら俺の計算が気になって仕方ないようだ。


「少なくとも王都では何もしなくていいぞ」


「おいっ」


 今にも唸り声を上げそうな番犬のようにビルが睨みをきかせてきた。


「ここにいると王都で偽物が出た時に不都合が生じるかもしれないだろ」


「偽物だとバレると、見せしめの効果が薄くなるか?」


「そんなとこだな」


「言っとくが王都に舞い戻るつもりはねえぞ」


 本物がいれば偽物を用意する必要はなくなる。


「それを頼むつもりはないな」


 トラウマになった場所に戻れとは言えないさ。

 克服して自分の意思で行くというのならば話は別だが。


「じゃあ、何を頼むつもりだよ。

 ダンジョンに引きこもれとでも言うのか」


「ああ、その手もあるな。

 それは考えていなかった」


 俺が考えていたのは別の手だが、やりようによってはビルの案の方が楽かもしれない。

 長距離を移動しなくて済むからな。


 まあ、深く潜ることになるからビルにとっては楽とは言い難いか。

 うちの国民以外に見られないのが最低条件だし。

 前にパワーレベリングしたのと同じくらいは潜る必要があるだろう。


「おいぃーっ!」


 ビルが血相を変えてツッコミを入れてきた。


「心配しなくても支援するから、そんなに危なくはないぞ」


「そんなにってどういうことだよっ」


『耳聡いな』


 元より隠すつもりはないので、どうでもいいのだが。


「ダンジョン内で目撃情報があるとマズいだろ?」


「どんだけ潜らせるつもりだよっ」


「少なくとも前と同じくらいかな?」


「冗談キツいわーっ!」


「誰も1人で潜れとは言ってないぞ」


「それでも日帰りコースじゃないだろうがっ」


「当然だな」


「そんなにどころじゃなく危ねえじゃねえかっ」


「大丈夫だ」


「何を根拠に、そんな自信たっぷりなんだよ」


「支援するって言っただろ」


 途端に嫌そうな顔をする。


「あんな、おっかねえ思いはしたくねえよっ」


「あれでレベルアップしたんだから少しは楽になるって」


「少しはって何だ、少しはって!?」


「今のままだとソロでお泊まりは厳しいかなってさ」


「誰がダンジョンにこもるって言ったっ!?」


「言ってないがチャンスだぞ」


「何がチャンスなものかっ」


「今なら夜は安眠できて、更にレベルアップもできるぞ」


「頼んでねえよっ」


 先程からビルはツッコミばかりだ。


『漫才コンビのボケを担当している気分になってしまうじゃないか』


 ボケているつもりは微塵もないのだがな。


「楽にパワーレベリングできるチャンスなんだぞ」


「いらんわっ」


 ビルはお気に召さないらしい。


「調子に乗れば足をすくわれるのは目に見えているからな」


 なかなか堅実なことを言う。

 しかも意志は鋼よりも強固である。


 レベルが英雄クラスに近づいても決して調子には乗らないようだ。

 少し会わない間にレベルは70台に突入していたというのに堅実なことだ。


[ビル/人間種・ヒューマン/剣士/男/26才/レベル68 → 71]


 短期間に3レベルもアップしてた。

 強力な魔法が使える魔導師ならいざ知らず、我流の剣士とは思えぬ成長ぶりである。


『遅咲きで覚醒した天才肌ってところか』


 何が覚醒の切っ掛けになったのだろうか。

 実に興味深い。


 是非ともパワーレベリングで鍛えて、その謎を解き明かしたいところだ。

 が、本人はそれを強く望まない。


『仕方ないか』


 ビルはうちの国民じゃないし、その意思を尊重するしかないだろう。


「どうしても嫌だというなら仕方ない」


「むっ」


 ビルが表情を強張らせた。


「そう怖い顔するなよ。

 別に無理強いはしないさ」


 そう言うと、あからさまに安堵の表情になった。

 同時に「ふうっ」と息を吐き出す。


「ただ……」


 言葉を続けようとするとビクッと反応する。


『バリバリに警戒されているな』


 内心で苦笑せざるを得ない。


「しばらくは遠いところへ行ってもらうことになるぞ」


「遠いってどれくらいだよ?」


 まだ警戒されているものの、先程までとはトーンが違う。

 一応は落ち着いて話ができそうだ。


『どんだけ嫌だったんだよ』


 それを見抜けなかった俺が間抜けなだけかもしれないが。


「確定はしていないが、国境は越えてもらうことになるだろうな」


 この返事にビルは眉根を寄せた。

 何を言っているのかと訝る様子は表情がありありと語っている。


「国境を越えたらゲールウエザー王国じゃねえかよ」


 ビルが訝っていた理由がこの一言で判明した。

 ここはミズホ国のジェダイトシティである。

 だからビルの認識は正しい。


『俺が言ったことも間違いではないんだけどね』


「国境は国境でもゲールウエザー王国のだからな」


「むうっ」


 ビルが唸った。


「エーベネラント王国か?」


 探りを入れるように聞いてくる。


「なんだ? 向こうでも名前が売れているのか?」


 ビルほど世話焼きな冒険者なら、そういうこともあり得るだろう。


「そうじゃねえよ。

 あの国、戦争で負けそうだって聞いたぞ」


 深刻そうな顔でそんなことを言ってくる。


『そんな話は聞いてないんだがな』


 隣国が戦争をしかけてきたならファックスで一報が入るはずだ。

 それがないのだから……


「あー、もしかしてスケーレトロ王国のことか?」


「決まってるだろ」


「その情報は古いぞ」


「なにっ?」


 目を見開いて驚き半分で訳が分からないという顔をするビル。


「スケーレトロ王国はエーベネラント王国に併合されたからな」


「ふぁっ!?」


 今度こそビルは驚き全開で固まってしまった。

 数秒とかからずに再起動したけれど。


「どどどどういうことだよっ!?」


「どうもこうもエーベネラントが勝ったから、そういう結果になったんだろ」


 何処かで情報を仕入れてきました的な口振りで答える。

 俺たちミズホ組が思いっ切り介入したことは言える訳がないからな。


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。