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1106 あまり久しいとは感じない

 呼び出されたついでにジェダイトシティを見回っていく。

 内壁の内側は特に変化なしといったところだ。


「陛下、お疲れ様です!」


 城下を歩いていると、さっそく国民に挨拶された。


「はいよ、お疲れ~」


 軽く手を挙げながら応じる。


「こんちわーっす!」


「おー」


「お疲れ様でっす!」


「お疲れー」


 すれ違うドワーフたちのテンションが高い。

 以前よりも気さくな感じになったと言うべきだろうか。

 なんにせよ、秋祭りが終わってから雰囲気が変わった面子が多いようだ。


 とはいえ特に問題視するようなことは何もない。

 以前よりも気難しい部分が薄くなったようだし歓迎すべきだろう。


『秋祭りをやって良かったな』


 そんなことを考えながら門を潜って内壁の外へと出て行く。

 まず目指したのはボーン兄弟の店だ。

 しばらく歩いて店が見える所まで来たのだけれど……


『あー、邪魔になりそうだな』


 顔を見せるのは断念する。

 外からでも繁盛しているのが分かるくらいに客の出入りがあったからだ。


 俺の方は大した用事がない。

 暇そうなら茶飲み話でもと思っただけだし。

 商品を卸すのは他の国民の仕事になったからね。


 新商品の売り込みなら直に出向くことも考えるけど。

 今日はそういうものがない。

 行っても商売の邪魔にしかならないのでUターン決定である。


『ギルドに顔出してから帰るか』


 面白そうな依頼が出ていれば受けてみるのもありだろう。

 そんな風に考えて、俺は冒険者ギルドへと向かった。


 明確な目的がある訳ではないので歩みは遅い。

 店を覗きながらフラフラ歩く。


 屋台で軽く買い食いなんかもしてみる。

 お好み棒の屋台が繁盛していた。


 俺が選んだのはオーソドックスなフランクフルトだったけど。

 並ばずに買えるのが、それだけだったのだ。


 串に刺されているのではなくPシートに包まれているのが斬新だった。

 Pシートの効果で手に持っても熱くないしベタつかない。

 おまけに食べられるのでゴミも出ないしな。

 店主の工夫に感心させられた。


 モグモグしながらギルドへ向かう。

 食べ終わる頃合いで冒険者ギルドが見えてきた。


 が、俺は立ち止まる。

 別に冒険者ギルドが人でごった返していたから嫌気がさしたとかではない。


 背後から近寄ってくる気配を感じたのだ。

 振り返るとビルが早足で歩み寄ってきた。


「久しぶりだな、賢者様」


「そうか?」


「そうだよ」


 苦笑されてしまった。

 あまり久しいと感じなかったのだが、よくよく考えるとパワーレベリング以来である。


『言われてみれば、そうかもな』


「今日もぼっちなのか」


「ぼっちって言うなっ」


 脊髄反射のタイミングで反論してくるビル。

 ぼっちなのを気にしているらしい。


「俺はソロが性に合っているんだよっ」


 強がりにしか聞こえない。

 まあ、からかうのは程々にしておこう。

 話すべきことを忘れてしまっては意味がないからな。


「今は大丈夫か?」


「お? 特に用事はないが……」


 訝しげな表情を向けられる。


「ならば飯でもどうだ?」


「おいおい、何だよ急に」


 更に胡乱な目をするビル。

 要件はまだ何もいっていないからな。


「お前さんがらみの情報を得たんだが知りたくないか」


「マジかよ、何かヤバいことになってるんじゃないだろうな」


 ビルの表情が辟易した感じのそれに変わった。


「ヤバくはない。

 ある意味、朗報と言うべきか」


「ホントかよぉ……」


 ビルは疑わしげにボヤく。


 気持ちは分からなくもないがな。

 本人の与り知らぬ所から己の話が出てくるのだから。


 不気味だったり胡散臭かったりはするだろう。

 ビルもそのあたりで迷いを感じているようだ。


 が、しばらく考え込むと深く嘆息した。


『気持ちを切り替えたか』


 それを証明するように次の瞬間には真剣な面持ちになっていた。


「とりあえず、さわりだけ聞かせてもらえるか」


 詳細を聞くかどうか判断するのは、それからだと言いたげである。

 それについて異論はない。


 当人が判断すべきことだし、詳細も含めて話を聞けと押し付ける気もない。

 ファックスでそれを味わったばかりだからな。


 送信側は俺がありがた迷惑に思っているとは気付いていないだろうが。

 むしろ逆のことを想像して悦に入っていそうな気がする。


『いっそのことショートメッセージだけ送れる端末とか作ろうかね』


 携帯を渡すと時間を気にせず電話をかけてきそうだし。

 そのあたりで気を遣ってくれたとしても時間の問題は発生しうる。


『時差とか理解していないもんな』


 それだけでもアウトなのに延々と喋られたんじゃ堪ったものではない。

 故にショートメッセージ端末なのだ。


 え? 普通にメールを送れるようにした方が便利なんじゃないのかって?

 ファックスの二の舞なんてノーサンキューだ。


『長文の報告を受け取ってウンザリしたばかりだっての』


 ファックスでやらかしたダニエルならメール端末でもきっとやらかす。

 釘を刺しても効果があるのは最初の数回までだと思う。

 ならば制限をつけるしかないだろう。


 それはさておき、ビルに説明しなければならない。

 問題はビルが「さわり」をどういう風に理解しているかだ。


 冒頭部分のことだと思っている者は意外に多いんだよな。

 大事な部分であると分かっているのは何割くらいいるのだろうか。


 とりあえず話してみる。

 でないと何も始まらない。


「ノンロワ商会の会頭が逮捕された」


 俺の言葉にビルが表情を険しくさせる。


「その様子だと、そいつが何をしたか少しは知っているようだな」


「ゲールウエザーの王都じゃ有名人だ」


「ほう」


「顔は知らなくても名前くらいは誰でも知ってるからな」


「それは確かに有名人だな」


 ダニエルからの報告書にもそう書かれている。


「違法スレスレで金儲けをする悪徳商人だ」


「言っとくが、奴の依頼なんぞは一度たりと受けた覚えはないぞっ」


 鼻息も荒く断言するビル。

 何があっても仕事の依頼を受ける気はないと言いたいようだ。


「それで、どうして俺と関連性があるんだよ?」


「ビルがここに来ることになった原因だからだ」


「なっ!?」


 ビルはオーバーアクションで仰け反りながら驚いた。


「罠にはめるための役者を雇った元締めと言った方が分かりやすいか?」


「───────────っ!」


 飢えた獣のような形相で歯噛みするビル。


「あの野郎はヤバそうだから関わらないようにしていたんだっ!」


 それなのに何故だと言いたいのだろう。


「知りたいか?」


「当然だっ!」


「なら、場所を変えよう」


 唸り声を上げる犬のような顔つきから、ハッと我に返るビル。

 そこで初めて周囲を見渡す余裕ができたようだ。


 派手に驚いたり怒鳴ったりしたせいで注目を浴びてしまっている。

 しかも冒険者ギルドが近いせいで野次馬っぽいのが興味深そうに見ていた。


「なあ、あれ賢者様じゃないか?」


「そうだな」


「へー、あれが……」


「久しぶりに見た」


「何か賢者ってより優男って感じだな」


「バーカ、見た目に騙されてんじゃねえよ」


「そうだぜ、スゲー人だからな」


「どう凄いんだよ」


「暴風のブラドは知ってるか?」


 一斉に頷く一同。


「肉弾ゴードンは?」


 これもまた同じ。


「それが、どうしたってんだよ?」


「その2人が、どう足掻いても敵わないって言うんだぜ」


「「「「「ウソだろ!?」」」」」


「しっ、声がデカいよっ」


「「「「「すまん……」」」」」


 数人で固まってヒソヒソやっている。

 ビルにはほとんどが聞こえていないだろうが、俺には丸聞こえだ。

 スキルを使うまでもない。


「で、あっちは最近噂の二刀使いじゃね?」


「そうなのか?」


「俺、知ってる。

 ソロなのに深い階層へ潜るスゲー奴だ」


「なんで、そんなこと知ってるんだよ」


「荷物持ちで雇われた。

 最初は死ぬかと思ったよ」


「それはそれは……」


「途中で逃げてギルドに違約金を支払わされる奴までいてさー」


「「「「「マジかっ」」」」」


「どんだけ潜ったんだよ」


「オークがゴブリン並みに湧くくらいかな」


「「「「「マジか……」」」」」


「8頭のオークをあっと言う間に倒した時なんか凄かったんだぜ」


「その話、聞かせろよ」


「そうだそうだ」


「後でな」


「なんだよぉ、ケチくせえな」


「そんなの聞いちまうとハラハラするじゃねえか」


「今それどころじゃないだろうが」


「そうだった」


「賢者様と揉めるとはな」


「まだ、そうと決まった訳じゃない」


「決闘になるかな」


「どうかな」


「そうなったら面白そうだが」


 喧嘩でも始まるかと期待されているようだ。

 ビルも雰囲気で感じ取ったらしく、ばつの悪い表情を浮かべていた。


読んでくれてありがとう。

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