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1105 ハルト、報告書を受け取る

 秋が過ぎ、冷たい風が吹くようになった今日この頃。

 そろそろ年末の準備も始めようかという時期ともなれば雪が舞い散ることもある。


 ミズホシティの近隣では積雪に至るほどでもないが。

 それでも冬の到来を感じさせるには充分だ。


 そんな中で、俺はガブローから至急の呼び出しを受けた。


「何があったんだ?」


「ゲールウエザー王国の宰相ダニエル殿からファックスです」


「ほう?」


 どうやら大事な知らせのようだ。


「なんだか大掛かりな捕り物になったようですよ」


 出力された紙束を手渡してきたガブローが苦笑している。


「捕り物?」


 訳が分からず聞いてしまった。

 どうしてダニエルがそんなことを知らせてくるのか謎である。


「詳しくは、そちらを見ていただければ」


 ガブローの言葉に従って渡された紙束に目を落とす。


[以前、御指摘を受けた件について]


 そんなタイトルで始まる長文だった。

 有り体に言ってしまうと報告書の類である。


 それだけで何のことであるのかは理解できた。

 少し前に情報提供したことについて結果を知らせてきたのだろう。


 律儀なことだが問題がある。


『A4コピー紙1枚で収まらんのか』


 詳細が書かれているのだろうけど文句を言いたくなったさ。


[主犯○○を逮捕]


 これで終わってくれれば簡潔でいいのにと思ってしまう。


『……それは、さすがに短すぎるか』


[○○の処分方法は~]


 こんな感じに数行ほど付け加えてあれば充分だろう。

 出動した衛兵の名前や人数など俺には不要だ。


 内通者はいませんでしたと言いたいのかもしれんがね。

 そんなのは向こうの事情である。

 犯罪に加担した奴がいるなら勝手に逮捕して処分してくれと言いたい。


 俺が欲しいと思うような情報ではないからな。

 おまけに無駄な情報はそれだけに留まらないというのが頭の痛いところだ。


『捜査内容とか必要か?』


 そっちでヨロシクしてくれればいいのに。

 俺は犯罪組織の情報をダニエルに提供しただけだ。

 方がついたら知らせるように頼みはしたがな。


 その結果が手元の紙束である。

 ちょっと、ウンザリした。


『結果だけ教えてくれと言っておくべきだった』


 経緯から事細かに知らされても困るのだ。

 ダニエルは俺を余所の国の人間だということを失念していないだろうか。


『こういう報告は自分の国の国王に持って行くべきものじゃないか?』


 まあ、ダニエルのことだから既に報告済みだとは思うが。

 【速読】を使って読んだ限りでは、報告書だけで終わりのようだ。


 紙束を見た時はダメ出しとか求めているのかと思ったけどさ。


『ただの報告書だろ、これ』


 尚のこと俺に読ませようとする意図を量りかねる。

 こんなの普通は外国の王に見せるものじゃないだろうに。


 そんな訳で分解の魔法を使って紙束を消去した。


「よろしいのですか!?」


 ガブローが目を見開いて固まっている。

 空間魔法を使っていないのが分かったからだろう。


「覚えたから問題ない」


「……………」


 ガブローが呆気にとられていましたよ。

 パラパラめくったようにしか見えなかったからだろう。

 読んだことさえ信じられないかもな。


「全部ですか?」


 呆然とした様子で聞いてくる。


「ああ、全部だ。

 無理に信じなくてもいいぞ」


「いえっ」


 滅相もないとばかりにブルブルと頭を振るガブロー。


「さすがは陛下です」


 神妙な表情になった。


「別に俺でなくても不可能なことじゃないさ」


 レベル200台になれば、一度読んだものを覚えるのは苦ではなくなっていく。

 【速読】スキルの補助がないと集中しないといけないが。


 あと、絶対に忘れないという保証もない。

 人によっては一夜漬けみたいなものだからな。


 俺の場合は忘れたとしてもログを見れば解決するんだけど。

 面倒だから、できればそういうことをしたくないがね。


「できないのはガブローの修行が足りないからだぞ」


「うっ」


 ガブローがタジタジになる。

 藪をつついて蛇を出したと言わんばかりの顔だ。


「領主としての仕事優先で学校をサボり気味なのは分かっているんだぞ」


 鑑定すれば一発で分かる。


[ガブロー/人間種・ドワーフ+/男/26才/レベル158]


 レベル的には卒業条件を満たしているものの卒業したという報告はまだである。

 他の条件がクリアできていないのは明白。


 大方、ガンフォールにドヤされるのが嫌でレベルだけはどうにか上げたのだろう。


「ううっ」


 ばつの悪そうな顔になるガブロー。


「ブルースにもレベルを抜かれているな」


「仕事が……」


 小さくなってボソボソと言い訳を口にしようとするが。


「ガンフォールの前でそれを言えるか?」


 この一言に一瞬でガブローは顔面を蒼白にさせた。


 繊細な男である。

 そういう一面は仕事をする上ではプラスに働く。

 細やかさがあって丁寧だからな。


 が、度が過ぎると本人を潰すことになりかねない。


『領主は別の者に任せた方がいいかもしれんな』


 過ぎたるは及ばざるがごとしという言葉を懇々と言って聞かせたくなったさ。

 こういうタイプはガミガミ言うのは逆効果になりやすい。

 畏縮しかねないからだ。


 ガンフォールはそれでも上手く導けるようだがな。

 俺が同じようにしてもガンフォールのようにはできないだろう。


 真似をする必要もないと思う。

 丁寧に言って聞かせれば理解するからね。


 故にここでガブローにかけるべきは──


「心配するな」


 この一言であろう。

 だったらビビらせるなと言われそうだが。


「いちいちガンフォールに告げ口したりはせんよ」


 俺の言葉にガブローは安堵した。

 ガンフォールのしごきを受けると恐れ戦いていたのだろう。


『油断しすぎだ』


「言わなくても、そろそろバレると思うぞ」


「えっ!?」


 ビクッと身を震わせるガブロー。


「どっ、どどどどういうことでしゃうっゲホッ!」


「おいおい、大丈夫か?」


 コクコクと頷くガブローだが、とてもそうは見えない。

 どもって噛んで、挙げ句に咽せ込むくらいだからな。


『動揺しすぎだろ』


 これは少しO・HA・NA・SIが必要かもしれない。


 ただし、相手はガンフォールだ。

 如何に己の孫を鍛えるためとはいえ、トラウマを残すほどやらかすのはダメだろう。


「落ち着けよ。

 ここにガンフォールはいないんだからさ」


「は、はひ……」


 まだ噛んでいる。

 重症なのは間違いないようだ。


「ほら、ガンフォールは元小国群の爺さんたちを鍛えると張り切っていただろう」


 ガブローがサッと顔色を変えた。


「次は自分の番……」


 呆然とした面持ちで呟く。

 それは間違いないだろう。


 ガンフォールは【鑑定】スキル持ちだ。

 ガブローのレベルを確認すれば停滞していることに気付くはず。

 若い者が年寄りに差を詰められて奮起せんのか、なんて言いそうだ。


 ブルースに抜かれているのもアウトだろう。

 後輩に抜かれるとは怠慢がすぎると憤慨するんじゃなかろうか。

 年齢的にはブルースの方が年上なんだけど、そんな理屈は通用するはずもない。


「学校へ行くのをサボっていたツケが回ってきたな」


 古いアニメなんかで見る夏休みの最終日に宿題のことを思い出す小学生っぽい状況だ。


 ただし、迎える結末はあんな生易しいものではない。

 地獄の補修が待っている。


 それはガブローにも予見できたのだろう。

 その証拠に絶望的な表情になっていた。


『今日のガブローは百面相状態だな』


 見ていて憐れになってくる。

 どうにか力になってやりたいものだ。


「なんなら俺が短期集中で鍛えてやろうか」


 3桁レベル到達者のパワーレベリングは久しぶりの気がする。

 ちょっと楽しみだ。


「っ!?」


 俺の提案に頬を引きつらせるガブロー。

 明らかにネガティブな反応である。

 喜んで俺の申し出を受けるとは思えない。


『俺もガンフォールと同じように思われているのかっ!?』


 なんてこったいと頭を抱えたくなったさ。

 ハッキリ言って心当たりはない。


 だが、ビビらせてしまっているのは事実だ。

 受け入れねばなるまい。


「無理にとは言わんが?」


 ガンフォールのように強制ではないことを伝えると、ガブローはホッと嘆息した。


「今からでも真面目に学校に行っておけ」


 俺がそう言うと、ガブローはブンブンと凄い勢いで頷いていた。

 この調子なら少しは真面目に学校に通うようになるだろう。


「間に合いそうになければ、いつでも言ってこい」


 ガンフォールが手隙になるタイミング次第で、そのあたりは変わってくる。


「少なくともガンフォールよりは厳しくないと思うぞ」


「……そうなった時は、よろしくお願いします」


 ガブローは半泣きで頭を下げた。

 そんなに怖いのかと思うと、ちょっとショックなんですけど。


『俺が涙目になりたいよ』


 とにかく、これ以上ダメージを受けるのは勘弁願いたい。

 そんな訳で話を戻すことにする。


「それよりも、このファックスを見た者は何人いる?」


 俺が問いかけるとガブローが我に返った。


「自分だけです」


 その表情が一気に真剣味を増す。

 仕事モードのスイッチが入ったようだ。


「側近も見ておりません」


「そうなのか?」


「はい、たまたまだったのですが」


 そういうことなら問題はないだろう。

 ガブローの口振りからすれば、余人に見せるべきではないことを理解している。

 現に今も側近はいないしな。


『こういう察しのいい人材を探さんとなぁ』


 今のままでは領主の仕事を交代させることも難しい気がする。


読んでくれてありがとう。

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