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1103 ローズの受難

 結論から言えば、状態異常を無効化させることには成功した。

 光属性の魔法を連発して連発して連発してようやくって感じだったけど。


 消費した魔力量で他の魔法を使ったら、どうなっていたことか。

 治癒魔法なら瀕死の重傷者を何万と回復させていただろう。

 範囲攻撃の魔法であれば、そこそこの山も消し飛ばせるかもしれない。


 ただ、これでようやく動画の連続再生の原因が確認できるようになっただけだ。

 更に同じくらい魔力を費やして動画ファイルにかけられた結界を潰した。

 嫌な予感がしたので、動画ファイルも消去しておく。


 終わった頃にはヘロヘロだった。

 魔力の使いすぎについては回復がすぐなので問題はないのだが。

 何度も何度も魔法を機械のように連発して気力が萎えた。


『こんなのゴブリンの暴走のとき以来だよ』


 まあ、当面はイタズラもされないだろう。

 お仕置き要求メールも受理されたことだし。


 ベリルママもルディア様もすごく怒っていた。

 被害者である俺が逃げ出したくなるくらいだから相当なものだと思う。

 できれば思い出したくないほどの寒気を感じた。


 が、ラソル様に同情はしない。

 自業自得とか思う以前に考える気力が湧かなかったさ。


 そのお陰か、スキルの熟練度がアップしたりしてたみたい。

 確認できたのは後日だったけどな。


「くくぅ、くーくーくぅ!」


 起きろ、起きるのだー! とか言いながらローズが布団をめくってきた。


「んー……」


 怠くて動く気になれないので倉庫から代わりの布団を出して被る。


「くくぅ─────っ!?」


 なにぃ─────っ!? とか言って驚愕してますな。


『うるさいなぁ』


 対応する気力も湧かないので放置する。


「くぅくくぅ!」


 起きろーっ! と叫びながら、新たに被った布団をめくってくるローズ。


「うるさいよー……」


 再び倉庫から布団を出して被る。


「くーっ!!」


 きーっ!! とか唸ってローズはダンダンと地団駄を踏んだ。

 布団を被っている俺は、その動きを見た訳じゃない。

 とにかく寝たいばっかりだからな。


 が、わざわざ見なくても気配で動きは分かる。


「く・くっ・くぅ!」


 O・KI・RO!


 起きていたら芸が細かいと思ったかもだが、そんな気力がない。

 布団がめくられても倉庫から引っ張り出すだけだ。


「く───────────────っ!」


 ローズのヒステリックな叫びが室内に木霊する。


『うるさい……』


 ズダダダダダダダダダダダダダダダダッと超高速の地団駄を踏むローズ。

 某名人の16連打を凌駕するかのような勢いだ。


 ここが西方の宿屋だったら確実に床は抜けている。

 いや、建物が崩壊しているだろう。


 生憎とその程度でどうにかなるような建物はミズホ国内にはないがね。

 振動も伝わってこない。


 ただ、音はどうしようもないけど。


「うるせーっ!」


 一瞬で起き上がった俺は被っていた布団でローズを包んだ。

 有無を言わせる隙も与えなかったさ。

 そんな訳でローズは首から上しか出ていない状態の抱き枕と化した。


「こりゃ寝心地良さそうだ」


 そのまま抱き込んでベッドに倒れ込む。


「おやすみー」


「くぅくうくくぅくーくー!」


 おやすみーじゃないーっ! とか聞こえてきた気がするが気のせいだ。

 モゾモゾ動くという斬新な抱き枕は適度に体が揺すられて眠気を誘ってくれる。


「くっくくー!」


 寝るなーっ! と言われると、余計に寝たくなるんだよ?



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 薄暗い中で目が覚めた。


「おや?」


 昼過ぎくらいまで寝るつもりだったが、寝過ぎたようだ。

 まさか丸1日も寝てしまうことになるとは思わなかった。


「ハッハッハ! 昼ご飯は食べそびれてしまいましたー」


 元より、そのつもりだったけどね。


『……………はて?』


 途中でローズが来たような気がするが、どうだろうか?

 つれない態度を取ってしまったような気がしなくもないのだが。


 布団をめくって起こそうとしてくるんだから塩対応でも仕方あるまい。

 その後のことが、よく思い出せないのは眠気に勝てなかったからだろう。


『その割に目の前にいるのは何故なんだろうな?』


 俺のベッドの中で筒状に丸められた布団に包まれているのだけれど。

 どうしてこうなった状態である。


「くーくくぅくー……」


 笑い事じゃない……だそうです。


 布団から首だけを出したローズがグッタリしていた。

 思った以上にダメージを受けている。


 それ以前に布団で簀巻き状態にされているのが謎だ。

 まさか、ローズが自分でこんな状態になるとは思えないんだが。


『夢遊病じゃないよな?』


 いくら夢属性だからって、そんな状態になる訳がない。

 神霊獣なんだし。

 そんなことより救出だ。


「おいっ、大丈夫かっ?」


 布団を広げてようやく自由の身となったローズ。

 何だかフラフラしている。


「くぅくーくくっ」


 酷い目にあった、とか言ってますよ。


「一体、誰が……?」


「くーくくぅくくっ!!

 くうくーくくーっくぅくー!

 くくっくぅくっくくうくーくぅくっ」


 なに言ってるのっ!!

 ハルトに決まってるでしょ!

 霊体モードまで封じられたんだから、だって。


「え、俺っ!?」


 慌ててログを確認してみたら事実だった。

 俺が布団で包んで抱き枕にしている映像を確認。


『マジか……

 どんだけ寝ぼけてたんだ』


「いや、すまん。

 寝ぼけていたようだ」


「くぅくくー」


 いいけどさ、と言いつつも御機嫌はよろしくないローズさんである。


「あれから半日も寝るとは思わなかったんだよ」


「くーっ?」


 半日ぃ? などと首を捻るようにして聞いてくる。

 お前は何を言っているんだと言わんばかりの表情である。


「え? ローズが起こしに来てから二度寝して半日だろ」


 起こしに来たのが、たぶん昼前だったはず。

 もう少し早いとしても2時間かそこらだろう。

 半日が1日に延びるような時間ではない。


 もしかすると、俺の合計睡眠時間のことを言いたかったのだろうか。

 そう思って──


「俺はラソル様のイタズラに振り回されたお陰で1日フルに寝てしまったけどさ」


 言ってみたのだけど……


「くぅーっ」


 ローズには盛大に溜め息をつかれてしまった。

 こりゃダメだって感じで両手を広げて肩をすくめられる。

 何が言いたいのかサッパリ分からない。


「くーくぅくくっ」


 時計を見るのだ、だって?

 そう言われて一瞬だけど奇妙な既視感を覚えたさ。


 そして時計を見た。

 ちょうど暗くなっていく時間だ。


「そろそろ晩御飯だな」


「くうっ、くくー……」


 ダメだ、こりゃ……とか言われてしまった。

 またしても肩をすくめられてしまったのだが。


「くっくくぅくーくーくぅーくっ」


 何でもいいから日付を確認しろ、だってさ。


「日付だって?」


 たまらなく嫌な予感がした。

 嫌な汗をかく感触。


『覚えがあるはずだよ……』


 あの時は1年後だった。

 思い出すだけでもゲンナリする。


 だが、確認しない訳にもいかないだろう。

 今度は日付に注目すべく脳内スマホの時計を確認。


「……………」


 何とも言いがたい気分だ。

 二度寝してから2日以上も寝っぱなしだったのだから。


 時間にして60時間くらい。

 もうすぐ夕飯の時間かと思ったら朝でしたとさ。


『なんという天然ボケ』


 そして自分で気付くというプチ黒歴史ぶり。

 穴があったら入りたい心境である。


 だが、そんなのは些細なことだ。

 俺が寝ている間、ローズは首から下の身動きが取れない状態だった訳だからな。


『かなり藻掻いたんだろうなぁ……』


 でも、ガッチリ抱き枕にされていたから脱出不能だったと。

 グッタリする訳だ。


「改めてすまぬ」


 深々と頭を下げた。

 相棒といえど、いや相棒だからこそ弁えるべき部分がある。


「くくっくーくくぅ」


 分かればよろしい、と寛大なローズさん。

 夢属性の神霊獣だから本気か否かは容易く見破ることができるからな。


 上辺だけの謝罪なら、こういう結果にはならなかっただろう。

 それを思うと恐ろしいことである。


『安易に許されたと思ってはいけないな』


 気を引き締めにかかる。

 勝って兜の緒を締めよの心境というと違うというか変というか。

 でも、思い浮かんだのはそれだった。


 とにかく「過ちは繰り返さない」だ。

 気合いを入れたらポンポンと軽く叩かれた。


「くーくくっ」


 気負いすぎ、だって。


「……………」


 ガックリきたが、気を取り直す。

 充分に休んだお陰で気力は充分あるのだ。


「さて、どうしたものか」


 朝ご飯まではそこそこ時間がある。

 今から寝直すのは無理だ。

 眠気など寸毫も感じられないからな。


 かといって、この時間から動き回るのはどうかと思う。

 うちの奥さんたちなら気配で目を覚ましかねないし。


 部屋でゴロゴロするしかなさそうである。

 安易に考えてしまったが、この選択は失敗だった。


 気力が充実している時にゴロゴロするのは苦痛でしかなかったからだ。


読んでくれてありがとう。

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