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1102 油断をすると酷い目にあう

 皆が驚いているが、俺には何故なのかが分からない。


『どういうこと?』


 困惑していると──


「変だと思うタイミングが変ですよー」


 ダニエラに指摘された。


「その状況だとぉ、呼び出された時点で変だと感じるものじゃないでしょうかー」


 皆もうんうんと頷いている。

 どうやら俺が口下手なせいで誤解されたようだ。


 違和感は最初から感じていたさ。

 今から説明したところで信じてもらえるか怪しいところだし。


 言い訳で片付けられるのがオチだ。

 そんな訳でスルーである。


「あれこれ話している間に生放送に出演すると知ったんだ」


「それで叫んだんですね」


 エリスが楽しそうにクスクスと笑う。


「放送が始まったと思ったらハルト様が叫ばれていたので驚きました」


 カーラが目を丸くしながら、そんなことを言った。

 それだけインパクトがあったのだろう。


 長く記憶に残るのは確定的である。

 俺にとっては地味に深いダメージだ。


「確かにな、予想外もいいところだった」


「私も驚きました」


 追撃を入れてくれるツバキとマリアも興奮気味だ。


「あれは仕方あるまい」


 しみじみした感じで頷くルーリアの方が少数派だった。


 驚くには驚いたようなんだけどね。

 余韻は残していないと言ったら良いだろうか。


 苦笑しているリーシャもルーリアに近い。

 何も語らなかったが、皆のコメントに頷いていた。


 あとはレオーネだろうか。

 リオンが興奮気味に話し掛けるのを静かに受けている。


「凄かったよね、お姉ちゃん」


「そうね」


 他にもあーだこーだとリオンが言ってるが、パターンは同じである。


「「あのー……」」


 そして何故か申し訳なさそうに小さく手を挙げてくるアンネとベリーのABコンビ。


「私も驚きましたー……」


「すみません、私もです……」


 普段が控えめな面々だからこそ、そう言われるだけで羞恥心ダメージも大きい。

 いっそのこと失神したくなるくらい恥ずかしさが積み上がっていた。


『俺のライフは0どころか、もうマイナスよ』



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 初のテレビ放送は好評だった。

 うちの奥さんや守護者組の一部からはクレームをつけられたけど。

 自分も出演したかった、と。


『俺だって急に呼び出されたんだから、どうしようもないだろう』


 既に終わってしまったものをやり直すなんてことはできないんだし。

 次の機会があれば出演交渉すればいいと言ったら引き下がったけどね。


 それは構わないのだが……


「なんですとぉ─────っ!?」


 この絶叫で始まるのがシャレにならん。

 録画したものを見たけど、恥ずかしすぎる。


 皆にイジられるのだけは回避しようと平気な振りをしてるけどね。

 やせ我慢の甲斐あって、最初はイジりにきていた何人かも引いていった。


 1人だけムカついたので報復しておいたけどね。


[ラソル様がまたイタズラしてきたので何とかしてください]


 この文面でベリルママとルディア様にショートメールを送ったのだ。


『色々と忙しいはずなのに人にちょっかい出してくるんだからな』


 脳内スマホにラソル様からメールが入った時は何事かと思ったさ。


[タイトル:特ダネでGO!]


 このタイトルを見た瞬間、ガクッときた。

 ネタの古さに既視感を覚えたからだ。


『これってベリルママのネーミングセンスだよな』


 前にも似たようなタイトルのメールを貰ったから、そう思うのも無理はない。


 あの時は『電車じゃないんだよ、ベリルママ』と心の中でツッコミを入れたくらいだ。

 しかも本文は空というところまで同じ。


 添付ファイルが無ければ、あるいはベリルママからのメールだと思い込んだかもね。

 変だと思って差出人を確認したら……


『ラソル様だったんだよなぁ』


 それを見た途端に俺の頭の中では警報発令。

 変な意識誘導の魔法まで使って最初に差出人を見ないように仕向けるとかしてたし。


 警戒するのは当然と言えた。

 コソコソした手口が姑息に感じたからな。


 とはいえ添付されていたのは画像ファイルなので変な仕掛けはないはず。


『あるとすれば、見ただけでショックを受けるような画像とかだよな』


 メールのタイトルからして特ダネだし。

 秋祭りの時の恥ずかしいシーンでも見せるつもりなのだろう。

 そう読んで腹をくくって添付ファイルを開いた。


 そしたら、またもや意識誘導の魔法で認識をずらされていたのだ。

 添付されていたのは画像ではなく動画ファイル。

 自動で動画再生されたのは言うまでもない。


『なんですとぉ─────っ!?』


 脳内で再生される動画の第一声がこれである。

 そして、音声はこれのみ。

 これだけなら「あっ、そう」で済ませたのだが。


『なんですとぉ─────っ!?

 なんですとぉ─────っ!?

 なんですとぉ─────っ!?

 なんですとぉ─────っ!?

 なんですとぉ─────っ!?』


 エンドレスである。

 しかも再生を止めることができない。


『ウィルスメールだったのかよっ!』


 イタズラにしては質が悪い。

 あれこれ試したが止まらないのだ。


 もちろん、魔法を使って止めようともした。

 解呪もしてみたけど効果なし。


 そりゃ、そうだ。

 呪いじゃないからな。


 相手は管理神見習いとも言うべき亜神である。

 普通に考えて呪いなんか使うはずがない。


『俺が罰されるのであれば話は別だろうがな』


 もし、そういうことならベリルママ直々にってことになると思う。

 故に呪いではないと断言できる。


 そう考えると純粋に魔法で色々しているのは確実なようだ。

 俺の魔法を遮断する結界。


 何をされているのか見切れないことから隠蔽の魔法も使われているはず。

 他にもあるかもしれないが、サッパリ見当もつかない。


 対処も行き当たりばったりの当てずっぽうである。

 手強いどころか、手も足も出ないに等しいような状況だ。


 無理もない。

 向こうはベリルママの筆頭亜神という看板を長く背負っていた訳で。

 俺なんかとは経験が違う。


 引き出しが圧倒的に足りない俺では簡単には太刀打ちできるはずもないのだろう。

 ファイルを消してでも突破口を開こうと思って挑んでみたが上手くいかなかった。


『ファイルを選択することさえできないんじゃな』


 手の込んだ結界を使っているようだ。

 それだけの情熱があるなら仕事に打ち込んでほしいものである。


 余計なことをしてくれたお陰で自分の声を延々と聞かされることになるのがツラい。

 脳内に響く音声は爆音ではなかったものの地味にウザかった。

 ならば聞こえなくすればいいと考えたが……


『ダメか』


 消音はもちろん、ボリュームを下げるのも不可能だった。

 とにかく同じ音量で延々と自分の声を聞かされ続けるのだ。


 しかも動画だから黒歴史のシーンを嫌でも見ることになる。

 これだけで3日は寝込みたくなった。


 まあ、寝込んだからといって動画再生は止まらないんだけど。

 病気じゃないんだし、安静にしていればいいというものでもない。


『なんですとぉ─────っ!?』


 これが頭の中で響いているからな。

 むしろ逆にダメージが増すばかりである。


『あーっ、もうっ!

 イライラするなぁっ!!』


 これではダメだ。

 今の俺に求められているのは平常心である。


『色即是空、空即是色』


 そんな風に唱えたくらいで落ち着ける訳はないんだがな。


『なんですとぉ─────っ!?』


 精神攻撃は続いているんだし。

 まあ、ノリというか気分の問題だ。

 仮にお経を最初から最後まで唱えて平常心が得られるなら喜んでそうするだろう。


 え? お経なんて読めるのかって?

 読めるんだな、これが。


 祖父母に育てられた元日本人を舐めてもらっては困るよ。

 般若心経くらいは、たしなみというものだ。

 まあ、何の自慢にもならんがね。


『なんですとぉ─────っ!?』


 そんなことより、いい加減にこれを何とかしたい。

 解呪が何の効果もないのは分かっている。


 ならば魔法の破壊はどうだろうか。

 ただ、闇雲に魔法を放ってもダメな気がする。


 まずは認識の阻害をどうにかすべきだろう。

 的外れな方を向いていたんじゃ、破壊できるものも破壊できないからな。


『そうそう何度も書き割り方式を使ってくるはずもないし』


 【多重思考】でもう1人の俺を何人も呼び出して確認してもらったが。


『報告、書き割りなし』


『報告、妙なブツもなし』


『報告、怪しい痕跡は発見できず』


『報告、魔力反応も普通』


『報告、メールにウィルスが混入した形跡なし』


 次々と報告されるが、書き割りどころか小さな痕跡さえ何も出てこない。


『報告、動画がうるさい』


 中にはどうでもいいようなことを言ってくるのもいた。


『『『『『おいっ』』』』』


 すかさずツッコミを入れるもう1人の俺たち。


『人海戦術で対応してもダメだったと言いたいだけだ』


『『『『『だったら普通に報告しろっ』』』』』


『それもそうだな、すまぬ。

 動画が鬱陶しくてカッとなった。

 今は少しだけ反省している』


『『『『『少しだけかよっ』』』』』


『気持ちは分かるが落ち着け。

 向こうは、この状況を楽しんでいるはずだ』


 それは否定しないどころか大いに肯定する点だ。


『俺たちの足掻きっぷりを見て腹を抱えて笑っているに違いない』


 要するに煽られても動じるなってことか。

 そういうことはストレートに言えと思ったが、ツッコミ厳禁である。

 おちゃらけ亜神を楽しませるなど論外だ。


『そうは言うが、手の打ちようがないぞ』


 別のもう1人の俺が言った。


『面倒だから俺に状態異常を無効化させる魔法を使えばいいんじゃね?』


『『『『『それだっ!』』』』』


 一斉に俺たちが叫んでいた。


読んでくれてありがとう。

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