1101 ズルいのだろうか
続いて俺たちが映っている映像が流れた。
「こうして見ると恥ずかしいね」
「そうかい?」
トモさんは平気そうだ。
『そんなものかもね』
カメラを向けられることにも慣れているだろう。
更に言えば、イベントとかで大勢の前にも出る訳だし。
イベントの雰囲気とかは行ったことないから分かんないけど。
トモさんに誘われたことがあるけど、人に酔うから行けなかったのだ。
こうして振り返ると俺も随分と変わったものである。
生まれ変わってからは選択ぼっちをやめて人前に出るようになったし。
まあ、最初の1年はぼっちのままだったけど。
『眠りっぱなしだったとも言うよな』
あれは黒歴史だ。
ベリルママにも絞られたし。
が、その後に妖精組と出会ってからがターニングポイントなんだろう。
あの頃は皆を引っ張っていこうという意識で目一杯の状態だった。
『役所の窓口業務なんて、ほぼマンツーマンだからな』
付き添いや介助者がいても数人までだし。
だから集団から注目を浴びることに慣れたのは妖精組がいたからこそである。
お陰でドワーフたちの前に出ても、やらかすことなく済んだ。
その後も大勢の前に立つことは、それなりにあった。
『状況は色々と違うけどな』
そう考えると人に酔うのは克服できていることになる。
でも、テレビに映っていると思うとダメっぽい。
何故か意識して気恥ずかしさが湧き上がってくるのだ。
人の視線を浴びない分、想像力を働かせて羞恥心を増幅させてしまうのかもしれない。
それを理解したところで気恥ずかしさは消えてくれないのだけど。
『これは慣れるのに時間がかかりそうだ』
こればっかりはスキルの種のアシストは期待できない。
探せば対応するスキルもあるかもだけど面倒だ。
そこまで切羽詰まってる訳じゃないし。
とりあえずスタッフが配慮して放送の映像を俺たちに見せないのは理解した。
番組終了後に礼のメッセージを送っておこう。
今のタイミングで送るとスタッフの集中を乱しかねないからな。
終わってからなら面と向かって言えば良いことに、この時点の俺は気付いていない。
間抜けにも程があるだろう。
気付いていないんじゃ、どうしようもないんだけど。
俺も結構な天然だと思う。
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テレビの初放送はどうにか終わった。
無事と言えるのかはスタッフの判断に委ねたい。
俺自身の評価はグダグダだったと思う。
皆にフォローされてどうにかって感じだった。
それでも終わったと分かると安堵の溜め息が漏れたりするんだよね。
で、安心しきって城に帰ったら──
「ズルいよ、ハルくん!」
「ホント酷いわよね」
真っ先にミズキとマイカから抗議された。
いや、それだけではない。
「くぅくー!」
プンスカ! って言いながらクレームをつけてくるローズ。
地団駄まで踏んでいる。
何やら悔しくて仕方ないようだ。
が、説明はないので何が言いたいのかは不明である。
「妾も主は酷いと思うのじゃ」
シヅカも同意しているくらいだ。
余程のことなんだとは思うが。
「そうなのぉ?」
「ゴロゴロ?」
マリカやシーダは首を傾げているのだが。
まあ、状況を理解していないだけだろう。
それが分かれば……
『どっちに来る?』
何が原因で糾弾されているのか分からないので何とも言えないところだ。
そもそも俺が何をしたというのか。
もしかしたら知らないうちに何かやらかしていたのかもしれないが。
誰もその何かを教えてくれる気配がない。
「うちもアカンて思たわ」
アニスも呆れた感じで非難してくるだけだし。
「そうよねー」
レイナも同じなんだが……
「酷いわよねー。
ズルいわよねー」
ねちっこくてイラッとさせられた。
それだけ根に持っているということなんだろう。
『どんだけ、やらかしてるんだよぉ……』
凹みそうになって、ふと気付いた。
残りの奥さんたちは糾弾者と化していないのだ。
どちらかというと傍観者って感じに見える。
「いきなりそんなこと言われても困るんだが」
非難してきた面子からはジト目で見られた。
本気で分からないのかと言いたげだ。
「くーっ……」
ジトー……と口で言っちゃってる人もいますがね。
俺は両手を広げて肩をすくめた。
すると、クイクイと服の裾が引かれた。
そちらに視線を向けるとノエルである。
「どした?」
「ハル兄、1人で番組に出演した」
「えっ!?」
ノエルのその言葉に、仰け反りそうになるくらい驚かされた。
これぞ、まさに青天の霹靂である。
『1人でだって!?』
そんな風に言われれば、語られなかった言葉は容易に想像がつく。
「出演したかったのか!?」
驚きの余韻を残したまま聞かずにはいられなかったさ。
ノエルは目立ちたい方ではない。
なのに、そんなことを言い出すなんて!
『それでもテレビは違うというのか!?』
テレビの威力は恐るべしと思っていたら、フルフルと頭を振られてしまったが。
それを見てホッと安堵する。
『だよなぁ』
急にノエルの性格が変わってしまったのかと思ったさ。
要するに俺を非難してきた面々の心境を教えてくれた訳だ。
マイカやローズは確かにそういうので目立ちたがる方だから納得である。
『ただ、ミズキはどうなんだ?』
意外ではあったが、ノエルほどでもない。
たまに予想外な大胆さを見せたりするからな。
再開の時のサプライズが思い起こされる。
『あの時なんて周りの目なんて気にせず状態だったしな』
だとすればミズキのクレームも無いとは言い切れないだろう。
真っ先だったという驚きは未だに残っちゃいるがね。
それからシヅカ。
『ぼっちでいるのを嫌う傾向があるんだよなぁ』
封印されていた間にぼっちは散々味わったからなんだが。
俺の番組出演を見て仲間はずれ的な感覚に陥ったと考えれば……
『酷いと言いたくなるのも頷けるか』
残るはアニスとレイナだが、この2人は考えるまでもない。
面白そうなことには先陣争いをするようなタイプだし。
彼女らであればノエルと違って驚きはない。
「あのなぁ……」
思わず溜め息が漏れた。
「君らは俺が事前にオファーを受けて皆に相談もなく番組出演したと思ってるのか?」
今度は俺がジト目で見る番だ。
「せやで」
「そうそう」
即座に答えたのはアニスとレイナ。
ミズキは俺の問いかけを受けて何かに気付いたような表情で考え込んでいる。
当然、何も言わない。
少し様子は違うがマイカも口をつぐんでいる。
何となく空気を読んでといった感じだ。
待つという選択は同じだが、そこへ至るアプローチは異なる訳だな。
当人たちの性格の違いだと言える。
それでも導き出した結論は同じ。
このあたりは俺との付き合いの長さが影響しているだろう。
「む? 主よ、違うのかえ?」
シヅカが聞いてきた。
「もちろんだ。
番組が始まる直前に呼び出されたんだぞ」
「「あー、それでだったんだぁ」」
傍観組だったメリーとリリーの双子ちゃんたちがパンッと柏手を打った。
他の面子も頷いている。
「それでって、どういうことさ?」
聞きながら腹をくくる。
何かやらかしたから「それでだった」のだということは分かるからな。
「「番組が始まったと思ったら絶叫だったよ」」
「……なんですとぉって叫んだ覚えはあるな」
『あれが放送されたのか』
だとしたらダメージ大きいんですがね。
そうであってくれるなと願うが──
「「うん、それ」」
双子ちゃんたちに、あっさり肯定されてしまった。
俺は心の中で轟沈した。
【千両役者】を使って表面上は平静であるように取り繕ったけどな。
心中は穏やかではない。
黒歴史が決まったんだから当然だろう。
あれが国民たちに見られただけならともかく、動画情報として残るのだ。
『永久保存版ってどういうことさああああああああぁぁぁぁぁぁっ!』
あの時以上の絶叫を心の中でだけ解放した。
傷口を抉られて激痛にのたうち回る心境である。
ライフが0になっても、蘇生させられて無限にアタックされ続けるようなものだ。
それでいて表には出せない。
『そんなことしたらイジられるに決まってる』
今でもキツいのに追加ダメージを自分から貰いにいくバカはいないだろう。
意地でも平気な振りをしなければならないって訳だ。
「何に驚いていたんですか?」
不思議そうに聞いてくるクリス。
皆も興味深げに俺を見てくる。
どうやら話が逸れそうだ。
『ナイスだ、クリス』
本人は俺の意図には気付いちゃいないだろうがな。
「トモさんに呼び出されたんだが──」
まだ喋っている途中だったが、皆は既に納得の表情に転じていた。
「「「「「あー……」」」」」
そんな声が聞こえてきそうな気がしたくらいだ。
が、説明は途中で止まっている。
「スタジオに強制連行されて──」
あり得る話だと言わんばかりに全員から頷かれた。
「撮影が始まるような雰囲気だったから変だと思って──」
「「「「「えっ!?」」」」」
これでもかってくらい目を見開いた状態で見られたさ。
『そんなに驚かれることか?』
読んでくれてありがとう。